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第05話 結婚反対デモ騒動
07.なんでそんなに焦ってるの?
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ジルーナとキティアは大きい本屋さんに行くために首都アラムまで赴いていた。スナキア邸までは電車で四駅だ。遠くはないが地味に面倒。夫のテレポートという、一瞬で帰れる方法があるならぜひ使わせていただきたいところだ。
「でもヴァン仕事中だよ?」
「分身すればいいんです」
「でも……」
ジルーナは気が進まないようだった。キティアは説得にかかる。
「ジルさんってヴァンさんに頼られたら嬉しいですよね?」
「そう……だね」
「ヴァンさんも同じです。ジルさんに頼られたら嬉しいんです。というかあの人の性格を考えるとジルさんの百倍は喜ぶ可能性が高いです」
相手はあのイカれた愛妻家だ。「本当にやらせていただけるんですか? ありがとうございます!」の顔ですっ飛んでくるのは目に見えている。
「それに、ほら。今日は人混みすごいみたいですし。この分だと電車も混んでますよ。すんなり乗れないくらいかも」
「あー……確かに」
二人は窓の外を観察する。ビースティアの女性を囲って移動する謎の集団がいくつも街を練り歩いていた。
「じゃあ、やってみるよ……!」
ジルーナは決意を固めたようだ。
「やったことあります?」
「うーん、『タクシー』とは呼んでなかったけど、昔はいつも送り迎えだったよ。ミオとママが秘密通路作ってくれる前は」
「そっか……大変でしたね」
結婚最初期は大炎上だった。外出するだけでも一苦労だっただろう。妻の中でジルーナが最も長く苦しい体験をしているはずなのだ。テレポートでサクッと帰れるくらいの得はぜひしてもらいたい。
「コツを教えます。申し訳なさそうにするとか、甘えてお願いするとかそういうのはなしです」
「な、なんで?」
「あえて『タクシーが来ないの』とだけ言って空気を読ませるんです。そうしておけば後で恩着せがましく見返りを要求されても『勝手にやったんでしょ』と返せますから」
「お、奥が深い……。できるかな……」
ジルーナは緊張で顔をこわばらせながら携帯を手に取る。夫は一コール目で出た。その必死さにジルーナは驚いたようで、一言目は声が裏返った。
「もしもし、ヴァン?」
『どうした?』
「あの、し、仕事中にごめんね。ちょっとお願いが」
キティアは首を横に振る。その言い方ではダメだ。もっと、どちらが上か分からせるように喋らなければ。キティアがジロっと目で訴えると、ジルーナは意を決したように例の言葉を発す。
「えっと……、た、タクシーが来ないの」
不安そうなジルーナをよそに、キティアはガッツポーズ。
『………………………どこにいる?』
ジルーナは携帯のマイクを手で押さえてキティアに助けを求める。
「間があったよ⁉︎」
「いいんです! 折れないで!」
ジルーナは胸に手を当て、仕切り直すように深呼吸をする。
「えっと、アラムにあるカフェに居るんだけど」
『アラムにいるのか⁉︎』
「え? う、うん。大きい本屋さんがよかったから」
『すぐ行く! どうにか人気のないところを探してくれ!』
ジルーナは窓の外を見つめる。
「どこがいいのかな? なんか人がいっぱいいるんだよ。お祭りでもやってるのかな」
『近くにいる先生に習ってくれ! ちょうどいい場所を見つけてくれるはずだ!』
どうやらキティアの差し金であることは夫も予想がついたらしい。キティアは任せてくださいとばかりにサムアップを見せる。ジルーナはお別れの挨拶と共に通話を切断した。
「……何か様子がおかしかったね。妙に焦ってたような……」
「きっとテンション上がりすぎて変になったんですよ。さ、行きましょ? このビルのエレベーターの中で待ってるのがいいと思います」
「な、なるほど」
二人は同時に立ち上がり、会計を済ませた。エレベーターで待つ旨をヴァンに連絡する。個室で人目につかない状況ならテレポートで突然消えても誰も驚かない。監視カメラくらいはあるだろうが、何か事件でも起こらない限り録画は確認しないらしい。夫は透明になれるので映る心配もなし。
二人はエレベーターに乗り込む。他の乗客がいたのでいなくなるまで乗り続けることにした。夫には透明な状態でこの中で空でも飛んでもらい、人が居なくなった瞬間にテレポートさせて貰えばいい。
「な、何か罪悪感だよ」
「平気ですよ。その分ご褒美をあげれば。内容はお任せしますけど、まあ、エロいのが喜びます」
「ハァ~……、バカな旦那だよ」
雑談をしていると他の人は皆降りて行き、二人きりになった。その数秒後に夫がテレポートで現れて二人の肩に手を乗せる。
「来たぞ。家でいいな?」
「あ、ヴァンさんお疲れで~す」
「ヴァン、あ、ありがとね」
「いいんだ。い、急ぐぞ!」
ヴァンに連れられ、二人はスナキア邸一階の共用リビングに飛ばされる。帰宅完了。やはりウチの夫は便利だ。早速ご褒美といきたいところだが、エロいこととなるとこの場でしてあげるわけにもいかない。夜までおあずけだ。
────キティアの体が硬直する。そういえば、先日のミカデルハでの災害救助の一件では、一晩おあずけさせた結果翌朝大変な目に遭わされたのだ。「もうあんな我慢はしない」と今すぐベッドに攫われる可能性がある。まだ真っ昼間なのに……。
「じゃあ俺行くな。やることができた……!」
夫はそう言い残して消えていった。あっという間の出来事だった。
「あれ……?」
予想外。別に襲う襲わないを抜きにしても、もう少し雑談くらいはすると思っていたのに。キティアとジルーナは不思議そうに目を合わせた。
「忙しかったのかな……?」
「でもヴァン仕事中だよ?」
「分身すればいいんです」
「でも……」
ジルーナは気が進まないようだった。キティアは説得にかかる。
「ジルさんってヴァンさんに頼られたら嬉しいですよね?」
「そう……だね」
「ヴァンさんも同じです。ジルさんに頼られたら嬉しいんです。というかあの人の性格を考えるとジルさんの百倍は喜ぶ可能性が高いです」
相手はあのイカれた愛妻家だ。「本当にやらせていただけるんですか? ありがとうございます!」の顔ですっ飛んでくるのは目に見えている。
「それに、ほら。今日は人混みすごいみたいですし。この分だと電車も混んでますよ。すんなり乗れないくらいかも」
「あー……確かに」
二人は窓の外を観察する。ビースティアの女性を囲って移動する謎の集団がいくつも街を練り歩いていた。
「じゃあ、やってみるよ……!」
ジルーナは決意を固めたようだ。
「やったことあります?」
「うーん、『タクシー』とは呼んでなかったけど、昔はいつも送り迎えだったよ。ミオとママが秘密通路作ってくれる前は」
「そっか……大変でしたね」
結婚最初期は大炎上だった。外出するだけでも一苦労だっただろう。妻の中でジルーナが最も長く苦しい体験をしているはずなのだ。テレポートでサクッと帰れるくらいの得はぜひしてもらいたい。
「コツを教えます。申し訳なさそうにするとか、甘えてお願いするとかそういうのはなしです」
「な、なんで?」
「あえて『タクシーが来ないの』とだけ言って空気を読ませるんです。そうしておけば後で恩着せがましく見返りを要求されても『勝手にやったんでしょ』と返せますから」
「お、奥が深い……。できるかな……」
ジルーナは緊張で顔をこわばらせながら携帯を手に取る。夫は一コール目で出た。その必死さにジルーナは驚いたようで、一言目は声が裏返った。
「もしもし、ヴァン?」
『どうした?』
「あの、し、仕事中にごめんね。ちょっとお願いが」
キティアは首を横に振る。その言い方ではダメだ。もっと、どちらが上か分からせるように喋らなければ。キティアがジロっと目で訴えると、ジルーナは意を決したように例の言葉を発す。
「えっと……、た、タクシーが来ないの」
不安そうなジルーナをよそに、キティアはガッツポーズ。
『………………………どこにいる?』
ジルーナは携帯のマイクを手で押さえてキティアに助けを求める。
「間があったよ⁉︎」
「いいんです! 折れないで!」
ジルーナは胸に手を当て、仕切り直すように深呼吸をする。
「えっと、アラムにあるカフェに居るんだけど」
『アラムにいるのか⁉︎』
「え? う、うん。大きい本屋さんがよかったから」
『すぐ行く! どうにか人気のないところを探してくれ!』
ジルーナは窓の外を見つめる。
「どこがいいのかな? なんか人がいっぱいいるんだよ。お祭りでもやってるのかな」
『近くにいる先生に習ってくれ! ちょうどいい場所を見つけてくれるはずだ!』
どうやらキティアの差し金であることは夫も予想がついたらしい。キティアは任せてくださいとばかりにサムアップを見せる。ジルーナはお別れの挨拶と共に通話を切断した。
「……何か様子がおかしかったね。妙に焦ってたような……」
「きっとテンション上がりすぎて変になったんですよ。さ、行きましょ? このビルのエレベーターの中で待ってるのがいいと思います」
「な、なるほど」
二人は同時に立ち上がり、会計を済ませた。エレベーターで待つ旨をヴァンに連絡する。個室で人目につかない状況ならテレポートで突然消えても誰も驚かない。監視カメラくらいはあるだろうが、何か事件でも起こらない限り録画は確認しないらしい。夫は透明になれるので映る心配もなし。
二人はエレベーターに乗り込む。他の乗客がいたのでいなくなるまで乗り続けることにした。夫には透明な状態でこの中で空でも飛んでもらい、人が居なくなった瞬間にテレポートさせて貰えばいい。
「な、何か罪悪感だよ」
「平気ですよ。その分ご褒美をあげれば。内容はお任せしますけど、まあ、エロいのが喜びます」
「ハァ~……、バカな旦那だよ」
雑談をしていると他の人は皆降りて行き、二人きりになった。その数秒後に夫がテレポートで現れて二人の肩に手を乗せる。
「来たぞ。家でいいな?」
「あ、ヴァンさんお疲れで~す」
「ヴァン、あ、ありがとね」
「いいんだ。い、急ぐぞ!」
ヴァンに連れられ、二人はスナキア邸一階の共用リビングに飛ばされる。帰宅完了。やはりウチの夫は便利だ。早速ご褒美といきたいところだが、エロいこととなるとこの場でしてあげるわけにもいかない。夜までおあずけだ。
────キティアの体が硬直する。そういえば、先日のミカデルハでの災害救助の一件では、一晩おあずけさせた結果翌朝大変な目に遭わされたのだ。「もうあんな我慢はしない」と今すぐベッドに攫われる可能性がある。まだ真っ昼間なのに……。
「じゃあ俺行くな。やることができた……!」
夫はそう言い残して消えていった。あっという間の出来事だった。
「あれ……?」
予想外。別に襲う襲わないを抜きにしても、もう少し雑談くらいはすると思っていたのに。キティアとジルーナは不思議そうに目を合わせた。
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