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第05話 結婚反対デモ騒動
09.収束したけど……
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***
────帰って妻とイチャイチャしたい。ヴァン[デモ]の頭の中はその願望でいっぱいだった。自分の役目はキツ過ぎる。
「くそー変態め! いい加減諦めろ!」
「ジワジワ攻めてきやがって……! 気味が悪い!」
ヴァンの変態的な宣言によってデモ隊と妨害隊はタッグを組んで逃げていた。人だかりの中央にビースティアの女性を集め、その周囲に人の壁を作っている。結婚に反対するデモを利用して嫁探しをされてはたまったものではないだろう。
ヴァンはあえてテレポートも飛行魔法も使わずに徒歩で集団を追いかけていた。これだけの大人数がパニックになれば将棋倒しになってしまうかもしれない。プレッシャーは与えつつも追い詰めはしない距離感で彼らをコントロールしていた。
「怖くないですよー! 僕は愛妻家ですから! 分身を使って全員を大切にしますよー!」
満面の笑み。自分で自分に引く。これは確かに怖い。
「わ、私夫がいるんです! ど、どうしよう! 攫われちゃう!」
「何とか逃げるんだ! 捕まったら最後だ。世界中の戦力を集めてもアイツからは助け出せない……!」
「もうイヤ……!」
民衆はヴァンの性癖と振る舞いに怯え、呆れ切っていた。しかし、良い傾向かもしれない。ヴァンの結婚反対派の人々にいかにヴァンが更生不可能な変態であるかを見せつけている。彼らもいい加減諦めがつくのではあるまいか。
デモを暴力で止めたとなればヴァンは激しく非難され選挙に悪影響を及ぼすだろう。しかし性癖で嫌われているのは元々だ。この作戦ならそこが強調されるだけで済む。
安全対策も万全だ。総勢二千名にも及ぶであろうこの群衆を急いで移動させるのは危険なため、ヴァンは少数ずつ脇道にあえて逃している。分身を使って道を塞いだり開けたりしながら流動人数を調整。大体十人前後のグループを作らせて街中に紛れさせた。デモのルート外の道が混雑するようなら妨害隊をテレポートで運んできたであろう軍の人たちが何とかしてくれるはずだ。
ヴァンの作戦は完璧だった。────ヴァンが凹む以外は。
「猫耳と尻尾さえあれば誰でもいいです! 本当に誰でもいいんです!」
思ってもいないことを叫び、心の中で泣いていた。そこまでの変態ではない。誰でもいいはずがない。妻たちとは、それぞれ理解し合い惹かれ合って、お互い望んで結婚したのだ。
こんな厄介な条件の男の隣に来てくれる女性などそうそう居ない。他にも妻がいるという状況を受け入れてなおヴァンを大切にしてくれる人なんて稀有な存在。そんな彼女たちだからこそヴァンは愛しているのだ。彼女たちはいがみ合うどころかヴァンのために協力し、時には仲良くお出かけだってするのだ。
(緊急連絡。ジルとティアがアラムに居る)
他の分身から交信が届き、ヴァンの額に一瞬で汗が滲む。
(ミオとシュリも居る可能性あり。現在調査中)
大変だ。このデモのことやヴァンが変態的な手段で対処したことはいずれ報道され妻にも知られてしまうとは思う。しかし、現場を見られるのは流石に勘弁してほしい。いっそ笑いでも取れればいいが、多分深刻に憐れまれる。
(急いで家に連れ帰ってくれ……! こちらも早急にデモ隊を解散させる!)
ヴァンは他の分身に懇願し、自分の任務に集中する。デモ自体はすでに形を成していない。しかし彼らはプランなく逃げ惑うだけで、まだ中止や解散の判断をしてくれない。台本上敵対関係にあるはずのデモ隊と妨害隊が混ざり合ってしまったこの状況では、表立って全員を指揮できる人間がいないのかもしれない。
「皆さん! 僕はどこまでも追いかけますよ! このままでは埒があきません! 誰か僕と話し合ってくれませんか?」
ヴァンは群衆に語りかける。
「お、お前と話すことなんてない!」
「そうですか! ではお気をつけて! 僕は今はまだ何とか理性を保っていますが、いつまで自分を抑えられるか分かりませんよ! その前に話し合いで解決しませんか!」
悲鳴。怒号。絶望感漂う大通り。ヴァンは適当に一人見繕ってテレポートで攫う。
「ヒィ⁉︎ な、なんだ⁉︎」
「あなたを代表者としましょう。さあ、対話を」
「は、話すって何をです?」
「僕の要求を聞いてください。……そうですね、六十人で勘弁してあげましょう。活きの良いビースティアの女性を選抜してください。三分以内に」
ヴァンはまるで生贄に生娘を要求するヤバい山の神のように告げる。我ながら無茶苦茶な要求である。しかし無茶なら無茶なほど良い。
「それができないなら早く解散して僕の視界から居なくなってください。このままでは暴走して何をするか分かりませんよ」
「くっ! ……全員注目! 即座に解散だ!」
代表者は号令を上げる。民衆は散り散りになり、街の中へと消えていった。これにてヴァンの作戦は無事終了だ。
「あなたは本当に……おかしくなってしまったんですね……昔のあなたは……」
散り際に代表者が残した言葉が、いつまでもヴァンの頭の中にまとわりついていた。それを振り払うように首を横に振りながら、大きな大きなため息をつく。
ヴァンが心に傷を負っただけではなく、道にはデモ隊が落としたプラカードや飲み物のペットボトルが散乱し、物理的にも嫌な爪痕を残していた。
「総理め……!」
苦々しく呟く。どうにか反撃の手立てを見つけられないだろうか。
────帰って妻とイチャイチャしたい。ヴァン[デモ]の頭の中はその願望でいっぱいだった。自分の役目はキツ過ぎる。
「くそー変態め! いい加減諦めろ!」
「ジワジワ攻めてきやがって……! 気味が悪い!」
ヴァンの変態的な宣言によってデモ隊と妨害隊はタッグを組んで逃げていた。人だかりの中央にビースティアの女性を集め、その周囲に人の壁を作っている。結婚に反対するデモを利用して嫁探しをされてはたまったものではないだろう。
ヴァンはあえてテレポートも飛行魔法も使わずに徒歩で集団を追いかけていた。これだけの大人数がパニックになれば将棋倒しになってしまうかもしれない。プレッシャーは与えつつも追い詰めはしない距離感で彼らをコントロールしていた。
「怖くないですよー! 僕は愛妻家ですから! 分身を使って全員を大切にしますよー!」
満面の笑み。自分で自分に引く。これは確かに怖い。
「わ、私夫がいるんです! ど、どうしよう! 攫われちゃう!」
「何とか逃げるんだ! 捕まったら最後だ。世界中の戦力を集めてもアイツからは助け出せない……!」
「もうイヤ……!」
民衆はヴァンの性癖と振る舞いに怯え、呆れ切っていた。しかし、良い傾向かもしれない。ヴァンの結婚反対派の人々にいかにヴァンが更生不可能な変態であるかを見せつけている。彼らもいい加減諦めがつくのではあるまいか。
デモを暴力で止めたとなればヴァンは激しく非難され選挙に悪影響を及ぼすだろう。しかし性癖で嫌われているのは元々だ。この作戦ならそこが強調されるだけで済む。
安全対策も万全だ。総勢二千名にも及ぶであろうこの群衆を急いで移動させるのは危険なため、ヴァンは少数ずつ脇道にあえて逃している。分身を使って道を塞いだり開けたりしながら流動人数を調整。大体十人前後のグループを作らせて街中に紛れさせた。デモのルート外の道が混雑するようなら妨害隊をテレポートで運んできたであろう軍の人たちが何とかしてくれるはずだ。
ヴァンの作戦は完璧だった。────ヴァンが凹む以外は。
「猫耳と尻尾さえあれば誰でもいいです! 本当に誰でもいいんです!」
思ってもいないことを叫び、心の中で泣いていた。そこまでの変態ではない。誰でもいいはずがない。妻たちとは、それぞれ理解し合い惹かれ合って、お互い望んで結婚したのだ。
こんな厄介な条件の男の隣に来てくれる女性などそうそう居ない。他にも妻がいるという状況を受け入れてなおヴァンを大切にしてくれる人なんて稀有な存在。そんな彼女たちだからこそヴァンは愛しているのだ。彼女たちはいがみ合うどころかヴァンのために協力し、時には仲良くお出かけだってするのだ。
(緊急連絡。ジルとティアがアラムに居る)
他の分身から交信が届き、ヴァンの額に一瞬で汗が滲む。
(ミオとシュリも居る可能性あり。現在調査中)
大変だ。このデモのことやヴァンが変態的な手段で対処したことはいずれ報道され妻にも知られてしまうとは思う。しかし、現場を見られるのは流石に勘弁してほしい。いっそ笑いでも取れればいいが、多分深刻に憐れまれる。
(急いで家に連れ帰ってくれ……! こちらも早急にデモ隊を解散させる!)
ヴァンは他の分身に懇願し、自分の任務に集中する。デモ自体はすでに形を成していない。しかし彼らはプランなく逃げ惑うだけで、まだ中止や解散の判断をしてくれない。台本上敵対関係にあるはずのデモ隊と妨害隊が混ざり合ってしまったこの状況では、表立って全員を指揮できる人間がいないのかもしれない。
「皆さん! 僕はどこまでも追いかけますよ! このままでは埒があきません! 誰か僕と話し合ってくれませんか?」
ヴァンは群衆に語りかける。
「お、お前と話すことなんてない!」
「そうですか! ではお気をつけて! 僕は今はまだ何とか理性を保っていますが、いつまで自分を抑えられるか分かりませんよ! その前に話し合いで解決しませんか!」
悲鳴。怒号。絶望感漂う大通り。ヴァンは適当に一人見繕ってテレポートで攫う。
「ヒィ⁉︎ な、なんだ⁉︎」
「あなたを代表者としましょう。さあ、対話を」
「は、話すって何をです?」
「僕の要求を聞いてください。……そうですね、六十人で勘弁してあげましょう。活きの良いビースティアの女性を選抜してください。三分以内に」
ヴァンはまるで生贄に生娘を要求するヤバい山の神のように告げる。我ながら無茶苦茶な要求である。しかし無茶なら無茶なほど良い。
「それができないなら早く解散して僕の視界から居なくなってください。このままでは暴走して何をするか分かりませんよ」
「くっ! ……全員注目! 即座に解散だ!」
代表者は号令を上げる。民衆は散り散りになり、街の中へと消えていった。これにてヴァンの作戦は無事終了だ。
「あなたは本当に……おかしくなってしまったんですね……昔のあなたは……」
散り際に代表者が残した言葉が、いつまでもヴァンの頭の中にまとわりついていた。それを振り払うように首を横に振りながら、大きな大きなため息をつく。
ヴァンが心に傷を負っただけではなく、道にはデモ隊が落としたプラカードや飲み物のペットボトルが散乱し、物理的にも嫌な爪痕を残していた。
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