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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)
11.覚醒
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二人は遠からず十六歳になる。ウィルクトリアでは結婚が認められる歳だ。────彼女と結ばれることができたらどれだけ良いか。そう思わない日はない。
だが現状、二人が結婚することは許されない。ヴァンはファクターで、ジルーナはビースティア。二人は種族が違い、子どもを授かれない。
そんな結婚をウィルクトリアが認めるはずがなく、ヴァンは守護者の責務を放棄したと見做されかねない。そうなれば総理は、殲滅戦争というカードを切る。
だがもし、この国がまともになれば。
他国との関係を改善し、スナキア家が不要になれば、もう後継なんて必要ない。その日が来ればヴァンは、────自由に結婚できる。
今やこの想いがヴァンを国家改革へと突き動かす一番の原動力になっていた。絶対に成し遂げてみせる。世界の平和のためだけではなく、自分自身のために。
……一人であれこれ考え込んでいると、太ももをチョンチョンと突かれる感触がした。目を向けると、────ジルーナが尻尾で俺を突いていた。
「……っっっ!!!」
ヴァンは飛び上がるようにガーデンチェアから立ち上がった。今のが……尻尾の感触……!
「ど、どうしたのヴァン⁉︎ ごめんそんなにびっくりさせちゃった⁉︎」
「あ、いや! 何でもない!」
奇異の視線を浴びながら再び着席する。しかし未だ心臓がバクバク鳴っていた。……やはり重症だ。重度のビースティアフェチになりつつある。
ジルーナはまさか横に変態が居るとは知らず、呑気に尻尾を揺らしている。体育座りに体勢を変え、小首を傾げて尋ねた。
「ねぇ、ヴァンが今頑張ってること教えて?」
甘えるようなトーンが耳をくすぐる。ジルーナはいつもこうして俺が取り組んでいることを聞きたがる。そしてまるで自分のことのような誇らしげな表情で俺を見守ってくれるのだ。
ヴァンはこの時間が好きだった。
「銀行を作ろうとしてる」
「えぇ⁉︎ 銀行ってあの銀行⁉︎」
できるだけびっくりさせるような話をストックしておくのがヴァンの密かな日々の楽しみだ。
「実はスナキア家って世界の財産の一割を持ってるんだ」
「ま、待って。ボンボンどころの話じゃないじゃん……!」
「富を独占しているのは健全じゃないし、せっかくなら資産を国家改革のために使いたいから、協力してくれる人や企業に融資する組織を作りたいんだよ」
ヴァンは細々とした理屈を補足する。起業を志す人や、数少ない国内企業を育てるため、ほとんど無利子で莫大な金額を貸す。経営が軌道に乗って雇用を産めば返済自体を免除する。そんな仕組みだ。
「ひ、一人でそんなとんでもないことしてるの? え? できたら窓口にヴァンが立つの?」
「ハハ、ちゃんと協力者はいるよ。世界中の大学でコネを作って、金融の専門家や業務経験がある人たちを集めた。俺はほとんどお金を出すだけになりそうだ」
ウィルクトリアが経済発展を果たせば他国にとっては都合がよいらしい。かなり前のめりで力を貸してくれているので、遠からず実現できる。
「難しそうな経済の本とか読んでたもんね。ヴァンはすごいなぁ……」
「それだけじゃないぞ。法律も勉強してるから総理に邪魔されない論理武装も整えてあるんだ」
世界中の法律を学び、ウィルクトリアは銀行法がガバガバだと知った。特に融資周りは必要がなかったのか穴だらけだ。隙をついて投資しまくり、この国を経済発展させてやる。
ジルーナはもはやポカンとしていた。ヴァンは彼女の反応を見てワクワクしてきた。
「……もうすぐ、全部発表できる」
数ヶ月後にヴァンの大学院卒業を祝した祭典が行われる。それはスナキア家当主が一人前になったお披露目という性質も帯びており、世界中が注目する行事になる。
ヴァンはその壇上でついに動き出す。この国を作り変え、和平を目指すと宣言するのだ。
「この三年で色々身についたし、コネもたくさん作れた。実現性の高い計画を発表できると思う」
「本当に頑張ったよねヴァン……。私心の底から尊敬してる」
「俺は分身が使えるからどうにでもなるんだよ。本当にすごいのはジルだ」
ヴァンこそ、心の底からそう思う。ヴァンは所詮分身それぞれが一人分の努力をしただけだ。彼女は一人で何十人分も走り回ってくれた。
「ありがとう、ジル。君の支えがあったから俺はいつでも前を向けた」
「ヴァン……」
二人は目を合わせ、そのまま口を噤んだ。風と波の音だけが周囲を包む。
ジルーナの透き通った瞳と、少し紅潮した頬。
そして、艶やかな唇。
どちらからでもない。二人はただ導かれるように顔を近づけていき────、
「「……っ!」」
同じタイミングで慌てて顔を背けた。全身が熱い。心臓が吠えるように暴れている。……何をやっているんだ俺は! キスなんてしていい立場か⁉︎
「そ、そろそろ帰ろっ?」
「あ、ああ! そうだな!」
二人は二人がしでかしそうだったことには全く触れず、取り繕うようにいそいそと立ち上がった。
気づけば空は深い青に移り変わり、星々がうっすらと輝き始めていた。冷えてきたし、母国はもう人が眠る時間だ。何よりこんな綺麗な場所に二人で居続けたら、きっと間違いを犯してしまう。
ヴァンは彼女の手を取って家にエスコートした。その小さな手の温もりは鼓動をさらに加速させるに充分な刺激だったが、今はまだ溺れてはいけないと自分に強く言い聞かせた。
しかし、ヴァンの中で日に日に膨れ上がるジルへの気持ちと異常な性癖は、もうすでに大問題を引き起こしていた。
────最悪の場合、世界が滅ぶかもしれない。
だが現状、二人が結婚することは許されない。ヴァンはファクターで、ジルーナはビースティア。二人は種族が違い、子どもを授かれない。
そんな結婚をウィルクトリアが認めるはずがなく、ヴァンは守護者の責務を放棄したと見做されかねない。そうなれば総理は、殲滅戦争というカードを切る。
だがもし、この国がまともになれば。
他国との関係を改善し、スナキア家が不要になれば、もう後継なんて必要ない。その日が来ればヴァンは、────自由に結婚できる。
今やこの想いがヴァンを国家改革へと突き動かす一番の原動力になっていた。絶対に成し遂げてみせる。世界の平和のためだけではなく、自分自身のために。
……一人であれこれ考え込んでいると、太ももをチョンチョンと突かれる感触がした。目を向けると、────ジルーナが尻尾で俺を突いていた。
「……っっっ!!!」
ヴァンは飛び上がるようにガーデンチェアから立ち上がった。今のが……尻尾の感触……!
「ど、どうしたのヴァン⁉︎ ごめんそんなにびっくりさせちゃった⁉︎」
「あ、いや! 何でもない!」
奇異の視線を浴びながら再び着席する。しかし未だ心臓がバクバク鳴っていた。……やはり重症だ。重度のビースティアフェチになりつつある。
ジルーナはまさか横に変態が居るとは知らず、呑気に尻尾を揺らしている。体育座りに体勢を変え、小首を傾げて尋ねた。
「ねぇ、ヴァンが今頑張ってること教えて?」
甘えるようなトーンが耳をくすぐる。ジルーナはいつもこうして俺が取り組んでいることを聞きたがる。そしてまるで自分のことのような誇らしげな表情で俺を見守ってくれるのだ。
ヴァンはこの時間が好きだった。
「銀行を作ろうとしてる」
「えぇ⁉︎ 銀行ってあの銀行⁉︎」
できるだけびっくりさせるような話をストックしておくのがヴァンの密かな日々の楽しみだ。
「実はスナキア家って世界の財産の一割を持ってるんだ」
「ま、待って。ボンボンどころの話じゃないじゃん……!」
「富を独占しているのは健全じゃないし、せっかくなら資産を国家改革のために使いたいから、協力してくれる人や企業に融資する組織を作りたいんだよ」
ヴァンは細々とした理屈を補足する。起業を志す人や、数少ない国内企業を育てるため、ほとんど無利子で莫大な金額を貸す。経営が軌道に乗って雇用を産めば返済自体を免除する。そんな仕組みだ。
「ひ、一人でそんなとんでもないことしてるの? え? できたら窓口にヴァンが立つの?」
「ハハ、ちゃんと協力者はいるよ。世界中の大学でコネを作って、金融の専門家や業務経験がある人たちを集めた。俺はほとんどお金を出すだけになりそうだ」
ウィルクトリアが経済発展を果たせば他国にとっては都合がよいらしい。かなり前のめりで力を貸してくれているので、遠からず実現できる。
「難しそうな経済の本とか読んでたもんね。ヴァンはすごいなぁ……」
「それだけじゃないぞ。法律も勉強してるから総理に邪魔されない論理武装も整えてあるんだ」
世界中の法律を学び、ウィルクトリアは銀行法がガバガバだと知った。特に融資周りは必要がなかったのか穴だらけだ。隙をついて投資しまくり、この国を経済発展させてやる。
ジルーナはもはやポカンとしていた。ヴァンは彼女の反応を見てワクワクしてきた。
「……もうすぐ、全部発表できる」
数ヶ月後にヴァンの大学院卒業を祝した祭典が行われる。それはスナキア家当主が一人前になったお披露目という性質も帯びており、世界中が注目する行事になる。
ヴァンはその壇上でついに動き出す。この国を作り変え、和平を目指すと宣言するのだ。
「この三年で色々身についたし、コネもたくさん作れた。実現性の高い計画を発表できると思う」
「本当に頑張ったよねヴァン……。私心の底から尊敬してる」
「俺は分身が使えるからどうにでもなるんだよ。本当にすごいのはジルだ」
ヴァンこそ、心の底からそう思う。ヴァンは所詮分身それぞれが一人分の努力をしただけだ。彼女は一人で何十人分も走り回ってくれた。
「ありがとう、ジル。君の支えがあったから俺はいつでも前を向けた」
「ヴァン……」
二人は目を合わせ、そのまま口を噤んだ。風と波の音だけが周囲を包む。
ジルーナの透き通った瞳と、少し紅潮した頬。
そして、艶やかな唇。
どちらからでもない。二人はただ導かれるように顔を近づけていき────、
「「……っ!」」
同じタイミングで慌てて顔を背けた。全身が熱い。心臓が吠えるように暴れている。……何をやっているんだ俺は! キスなんてしていい立場か⁉︎
「そ、そろそろ帰ろっ?」
「あ、ああ! そうだな!」
二人は二人がしでかしそうだったことには全く触れず、取り繕うようにいそいそと立ち上がった。
気づけば空は深い青に移り変わり、星々がうっすらと輝き始めていた。冷えてきたし、母国はもう人が眠る時間だ。何よりこんな綺麗な場所に二人で居続けたら、きっと間違いを犯してしまう。
ヴァンは彼女の手を取って家にエスコートした。その小さな手の温もりは鼓動をさらに加速させるに充分な刺激だったが、今はまだ溺れてはいけないと自分に強く言い聞かせた。
しかし、ヴァンの中で日に日に膨れ上がるジルへの気持ちと異常な性癖は、もうすでに大問題を引き起こしていた。
────最悪の場合、世界が滅ぶかもしれない。
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