ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第07話 如何に愚かな喧嘩を売ったのか(過去編)

04.悲痛な事件

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 ***

 一ヶ月ぶりの我が家。

「ただいま!」
「おかえり、ジル」
「ハハ、ヴァンもおかえり」
「ただいま」

 二人は不思議な挨拶を済ませ、荷物をどさっと床に置く。身体を鍛え上げたヴァンでも疲れ切っていた。ジルーナはより一層だろう。彼女はすぐさまソファーにダイブした。

「はぁ~……、言っちゃうもんだね。『やっぱりお家が一番』って」
「確かにな」

 ヴァンも隣に腰掛けると、ジルーナはコテッと首を傾げてヴァンの肩に乗せた。一ヶ月間ずっとこうしてくっついていた気がする。

「というか……実際すごい家だよね。色んなホテル見たけど全然負けてないもん」
「なんか新鮮に見えてくるな……」

 日常のありがたみを再確認させてくれるのも旅行の醍醐味なのだろう。一ヶ月も離れるとそこらに埃が溜まるもので、いつもジルーナが掃除をしてくれていたのだなとヴァンは感謝の気持ちを抱く。「掃除をしなければ」と思い出させてしまいそうなので口にするのは明日に取っておくことにした。

「どうしてたかねぇ、こっちの人たちは」

 ジルーナはおばあちゃんのような口ぶりでテレビのリモコンを手に取った。

 ────画面に現れたニュースを見て、二人の表情は青ざめていく。

『ビースティアの女性への暴行未遂事件についての続報です』

 キャスターが平坦な声で原稿を読む。

『一昨日の夜、首都アラムにある飲食店内で暴行未遂事件が起こりました。女性は店内に居合わせた男にヴァン・スナキア様の夫人ではないかという疑いをかけられ口論に発展。男はビール瓶を手に取って振りかざした際に店員や他の客に取り押さえられましたが、テレポートを利用して逃走しました。現在警察が行方を追っています』

 二人にとってこれほどショッキングな事件はなかった。自分たちの結婚がきっかけで無関係のビースティアの女性が被害にあった。未遂とはいえ相当怖い思いをしたに違いない。犯人がまだ捕まっていないことも恐ろしくて仕方がないだろう。

「何だよ……これ……!」
「ヴァン……」

 ジルーナは消え入りそうな声でヴァンの袖を握った。────かける言葉が見つからない。

『本日になって警察は目撃者の証言から犯人をラルド・シーカーと特定したと発表しました。過激派組織・ルーダシアンの幹部であり、魔法による器物損壊や脅迫などですでに指名手配済みだったとのことです』

 ルーダシアン。ファクターは崇高な存在であると主張するファクター原理主義者によって構成された危険な組織だ。ファクターの祖であるルーダス・スナキアを神のように崇め、プレーンやビースティアを下等種族と見下している。彼らにとってルーダスの直系の子孫であるヴァンは神の御子のような存在で、それ故にビースティアとの結婚に最も反発しているだろう。

『やはり先月の総理による国家反逆罪発言の影響があるのでしょうか?』

 キャスターは隣に座るコメンテイターに尋ねる。

『あそこまで踏み込んだ発言に対してヴァン様が保護法を適用しなかったことで、ヴァン様への敵対意識を表明することがトレンドのようになっていますね』
『安穏党議員を中心にヴァン様を批判する声が相次いでいます』
『ただ、暴行未遂というのは一線を超えていると私は思います。いかなる事情があっても許されることではありませんよ』

 キャスターは無言で頷いて同意を示す。幸いにも多くの国民にとってもこの事件は痛ましいもので、あってはならないことという認識らしい。ごく一部の心ない人間による犯行だ。

 ヴァンが総理を逮捕しなかったことが原因の一旦、と見られているようだ。だが、政敵とはいえ自分を批判しただけの人を牢獄に追い込むなんて間違っていると今でも思う。では一体どうすれば良かったのか……?

「私たちのせいで……そんな……ひどいよ……」

 ジルーナは痛烈なショックを受け、顔を哀しみと恐怖で染めていた。見ず知らずの誰かを巻き込んでしまったことに加え、ヴァンが競売事件であれだけ脅したにも関わらずヴァンの妻に危害を加えようとする輩が居るという事実ものしかかる。やはりジルーナの情報は徹底的に隠さなければならないものだ。

「……ジル、悪いのは犯人だ」
「でも……」

 彼女に言い聞かせながらも、ヴァンもきっかけは自分たちが与えたという考えを拭えずにいた。この罪は自分が背負うべきもの。いや、しかし、ジルーナと結婚したことが罪だなんて思いたくない。自分は、自分たちは、ただ愛する人と結ばれただけだ。

 犯人を捕まえ、二度とこんな悲劇が起こらないように対策を取る以外にない。警察には任せていられない。今すぐヴァンも捜索に取り掛かり────。

「!」

 突如、ヴァンの緊急用携帯が鳴る。こんな状況で何をと苛立ちつつもヴァンは電話を取る。表示されていた番号に見覚えはなかった。

「……もしもし」
『ヴァン・スナキアか? 番号は色々伝って聞かせてもらったぜ』

 重厚感のある壮年の男性の声。聞き覚えはない。

「ええ。そちらは?」
『スカルチュアのボスと言えば分かるか?』
「……! スカルチュア……」

 不思議そうに見つめるジルーナに説明するため、ヴァンは分身・ヴァン[説明]を生み出す。ヴァン[電話]とリアルタイムで情報を共有しながら彼女に伝えていく。

「スカルチュアって……?」
「ビースティアの人権保護団体、と表向きには銘打ってる。実態は、まあ、マフィアに近いな」

 犯人が所属するルーダシアンとは対比的な存在だ。ビースティアを守るために存在し、時にはルーダシアンと戦うこともあると聞いている。ヴァンは彼らなら犯人について何か知っているのかもしれないという期待を抱いた。

『例の事件、お前はどう対処するつもりだ?』

 ボスとやらの声には猛烈な怒気が込められていた。同胞が傷つけられたのだ。この状況では矛先をヴァンに向けるのも無理はないだろう。

「検討中です。犯人は必ず捕まえますし、再発防止策も用意します」
『……離婚する気はねえんだな?』
「ええ。ありません」

 ヴァンがビースティアとの結婚を取り消すのが最も手っ取り早いと考えているらしい。だが、それだけは絶対に受け入れられない。ヴァンの明確な拒否を受けて、ボスは大っぴらに嘆息した。

『今すぐ俺のアジトに顔出せ。分身できるんだろ? 一匹寄越せ』
「……何の御用で?」
『お前には言いてえことが山ほどある。ついでに犯人について俺たちが知ってることを教えてやるよ』

 是非もない。相手がどんな組織だろうがヴァンには身の危険などない。有益な情報ならどこにでも取りに行こう。ヴァン[電話]はヴァン[説明]にアイコンタクトを送り、ジルーナの護衛とフォローを任せる。自分は指定された場所に即座にテレポートした。
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