第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵

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第6話 総隊長、謁見

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 さっきまでの凛々しい表情はどこへやら。艶めかしく熱っぽい、汗ばんだてかった肌と熱気が混じる息で、文字通り雌の顔をしている。
 え……っと……マジ? その、本気で……俺を誘ってる……?
 心臓が早鐘を打つ。女山賊たちに襲われた時とは違う。あの時は突然のことで逃げるのに精一杯だったけど……今は事情を全部知っている。つまり、逃げる必要が無いってことだ。
 ジリジリと近付いてくるミューレンさん。少し手を伸ばせば届く距離で、立ち止まった。濃すぎるくらい濃縮した女の匂いと熱が、全身から迸っている。
 下から見上げると……本当に、でっかい。神絵師の描く爆乳イラストかってくらい。
 喉を鳴らし、口に溜まった唾液を飲み込む。
 緊張と興奮で硬直した手を何度か握って開き、ゆっくり震える口を開いた。


「で、でも、ここでしちゃったら……ゆ、揺れとか声で、外にいる人にバレるんじゃ……?」
「揺れは問題ありません。馬車を浮かばせている魔法は、自動で揺れを抑える力があります。声は……が、頑張って、我慢します」


 そこは努力目標なのね。
 でも……そ、そういう、ことなら……頂きます。
 親父殿、お袋殿。俺……異世界で大人になります。
 ゆっくり、ミューレンさんの体に手を伸ばしていく。
 汗で透けそうになっている胸が、あと10センチ……5センチ……ああ、触れ──





「隊長、到着しました」
「「ッ!?」」





 外から、くぐもったクレンさんの声が聞こえてきた。い、いつの間に、そんな時間が経ってたのか。


「わ、わかった。全体、そのまま待機せよ。すぐ、イブキ様を連れて出る」
「はっ」


 ほ……良かった、開けられなくて。こんなところ見られたら、本当に大事だ。
 ……まあ、残念ではあるが。ちくしょう、もう少しだったのに。
 鎧を着け直しているミューレンさんを尻目に、小さくため息をつく。と、それを見られていたのか、ミューレンさんが俺に微笑みを向けた。


「イブキ様、時間はたっぷりあります。いずれ、また」
「っ……は、はい」


 ぐぬぬ……大人の余裕を見せつけられた気分。この人だって、初めてだったろうに。
 身だしなみを整えたミューレンさんが先に馬車を降りると、こっちに手を差し出してきた。


「さあ、イブキ様。どうぞこちらへ。皆、貴方様のことを心待ちにしておりますよ」
「あ、ありがとうございます」


 ミューレンさんの手を取り、外へ顔を出す。まるでお姫様気分。
 っ……眩しい。さっきまで薄暗い密閉されたところにいたから、余計に……。
 少しずつ目が光に慣れ、薄目を開けて周りを見渡すと……数百人の女性が、一斉に俺を見ていた。


「ほ、本当に男だ!」
「野良の男なんて、まだいたのね」
「男はみんな、都市部から出られないって聞いていたのに」
「あれが男……」
「かっこいいわぁ」
「やばっ。体洗ってこないと……!」
「アタシ、ムダ毛剃ってくる!」


 キャーキャー、ワーワーと騒がしい。まるで女子校に来たアイドルの気分だ。
 俺のいる広場には、鎧を着た美女たちが。広場を取り囲むようにして建っている建物には、私服や下着(薄布)姿のお姉様方がいる。
 しかも……人間だけじゃない。耳の長い人。動物の耳や尻尾が生えてる人。ケモナー歓喜であろう、動物にしか見えない二足歩行の人。頭に角が生えている人。肌が青い人、赤い人もいる。黒人以上に真っ黒な肌の人まで。
 明らかに人間じゃない。いわゆる、亜人と呼ばれる人なんだろうか……多種多様な美女が超薄着でいるから、目のやり場に困りますマジで。


「総隊長はいるか?」
「はい。既に総隊長室でお待ちです」
「わかった。我が隊の隊員は、しばし休憩。馬にもたっぷり水をやるように」


 総隊長? ミューレンさんが、この人達のトップって訳じゃないのか。
 クレンさんが先を行き、俺とミューレンさんが並んで歩く。この人がいてくれるからか、皆さん群がるような真似はせず、遠巻きで見ているだけだ。


「驚きましたか?」
「あ、はい。まあ……」
「申し訳ありません。早馬を走らせ、男を保護したと総隊長に報告はしたのですが……こんなにも、全員に話が行き渡るとは思いませんでした」


 人の口に戸は立てられぬ、とはよく言ったもんだ。それに、女性の噂好きは異世界関係なく共通みたいだな。
 広場の奥にある巨大な建物に入る。扉も、廊下も、装飾品も、全部がでかい。天井までいれたら、5から6メートルはありそうだ。
 建物の中にも、美女だらけ。しかもみんな、熱っぽい視線を向けてくるし……なんだか異世界というより、娼館に迷い込んだ感じだ。いや入ったことはないんたけど、アニメで見た気がする。
 そのまま長い廊下を進むと、1番奥に巨大で重厚な扉が現れた。クレンさんが横に控え、代わってミューレンさんが扉をノックする。


「総隊長。ミューレン・バルドレット、ただいま帰還しました」
「──入れ」


 っ……な、なんだ……? 扉越しの声なのに、圧が体を叩いたような……?
 左右に控えていた女騎士が、巨大な扉を開く。すげぇ怪力だ。俺、多分動かせないよ、これ。
 音を響かせて扉が開き、部屋の内部が明らかになる。ここもやっぱり、全部がでかい、左右に並べられた6つの椅子も、奥にある椅子も、全てが巨大だ。
 けど……その理由も、一目でわかった。


「総隊長。例の男を保護して参りました」
「うむ、ご苦労であったな、三番隊隊長」


 …………え、っと……。


「ミューレンさん、あの人が総隊長……ですか?」
「はい。東レオデルト大陸六華隊総隊長、半巨人族・・・・のオメガ・ギガノウス様だ」


 は、半……巨人族……!?
 座ってるだけなのに、2メートル以上ありそうな座高。傷だらけで筋肉の目立つ褐色の体。そして……タオルを肩に掛けているだけの、全裸。
 そう、全裸だ。大事な事だから2回言いました。


「なんで全裸なんですか!?」
「巨人族には、服を着るという文化がないんです。大丈夫、腰布は巻いていますよ」


 腰布だって超短いじゃん! 胸の先もタオルでギリ隠れてるくらいだし!


「ガハハハハ! アタイも男ってのは初めて見るが、アタイなんかの裸で顔を赤くするたァ、余っ程のウブだなァ!」


 なんかってなんだ。十分……いや、十分以上の美人のくせに……! この世界の女性、みんな自分の容姿が魅力的だって自覚ないの……!?
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