23 / 75
いよいよ鬼神討伐です。でも幼い紫紺も一緒なので、もう心配で心配で……
しおりを挟む一カ月後。
とうとう鬼神討伐の日を迎えました。
今、黒緋と紫紺と私の三人は獣道のような山道を登っていました。
目的はもちろん鬼神討伐。黒緋の命令で離寛が鬼神の居場所を突き止めてくれました。この山にある祠に鬼神がいるというのです。
「紫紺、いいですか? 山は危険な場所なんです。不用意にうろうろしないこと。いいですね」
山道を登りながら私は後ろを歩いている紫紺に言い聞かせていました。
山登りを始めてからずっと続けています。
鍛錬が嫌で物置部屋に閉じこもった紫紺でしたが、あれから積極的に鍛錬をするようになりました。元々利発で聡明な子なので体術、刀術、槍術、弓術、神気の制御などみるみる才覚を開花させました。今では離寛と手合わせしても劣ることはありません。
当初は紫紺を鬼神討伐に連れていくことに反対していた私ですが、紫紺が鍛錬中に熊や猪を討伐できるほどに強くなっていて強く反対することができなくなりました。だって今では私の方が足手まといなのです。
紫紺の背中には刀と弓が括り付けてあって、私は複雑な気持ちでそれを見つめてしまう。
三歳にしてその成長は頼もしいけれど、少しだけ寂しいのもほんとう。
それにね、どれだけ強くなろうと私の子どもであることに変わりはありません。大丈夫と分かっていても心配するのが親というものですよね。
「山を舐めてはいけませんよ。足元には気を付けてください。いつ獰猛な動物が現われるか分かりませんから警戒を怠ってはいけないのです」
「……ははうえ、さっきからおなじことばっかだ。もうきいた。それにオレはいつもやまでたんれんしてるから、やまはだいじょうぶなんだ」
「いいえ、この山は初めてですよね。ならば油断してはいけません。山は少しでも道を間違えると簡単に迷子になってしまうんです。似たような景色が続きますから錯覚を起こして、今自分がどこにいるか分からなくなるんです」
「うう、ははうえ……」
紫紺がうんざりした顔になってしまいました。
私がくどくどしつこいと言いたいのですね。
最近強くなってきたと自覚したからか、ちょっと生意気なところが出てきましたね。少し前までは『ははうえ、だっこだ! だっこがいい!』と抱っこをせがんで甘えてきたのに。
そんな私と紫紺のやり取りに前を歩いていた黒緋が楽しそうに笑いました。
「ハハハッ、鶯。紫紺なら大丈夫だ。山の歩き方も教えている」
「そういう問題ではありません。そもそもその油断が迷子を招くのです」
「鶯は心配しすぎだ。それとも山で迷ったことがあるのか?」
「ぅっ、それは……」
私は目を泳がせてしまう。
残念ながら……あるのです。伊勢の山で育った私は子どもの時に何度か山で迷ったことがありました。幸運にも無事に帰ってくることができましたが、一歩間違えればどこかで野垂れ死んでいたことでしょう。思い出すだけでも恐ろしい……。
しかし黙ってしまった私に黒緋はニヤニヤし、紫紺は「そうなのか?」と見つめてきます。
「わ、私のことはどうでもいいでしょうっ」
声を上げて切り上げました。
この話しは終わりです。これ以上しません。
「とにかく、二人とも気を付けてくださいっ。ちゃんと前を見て歩くんですよ?」
そう言って私は歩きましたが、バキッ!
踏み出した足でなにかを踏みました。
私はハッとして足元を確かめると、木札がわれていました。踏んづけてわってしまったのです。
「これは何でしょうか。なにか書いてあります」
木札の文字を読もうとしたその時、ぐにゃり。視界が歪む。
「鶯!」
咄嗟に黒緋の声がして手を掴まれたかと思うと、急激に視界が暗転したのでした。
「うっ、ここは……」
暗転した視界が戻るとそこは今までいた山と同じ場所でした。
でもすぐに違和感を覚えます。
音がないのです。山鳥のさえずりや動物の鳴き声、風で木の葉がこすれあう音さえありません。
不気味な静けさに背筋が冷たくなりましたが、ふと背後から声がかけられました。
「鶯、無事だったか」
「黒緋様!」
振り向くと黒緋がいました。
安堵して駆け寄ります。
「黒緋様、ご無事でよかったです。でもここはどこなんです? それに紫紺の姿がありません」
「おそらく紫紺とは引き離されたようだ。ここは結界の中のようだからな」
「ええっ、結界? まさかっ」
「ああ、鬼神の結界だ」
黒緋はそう言うと「行こう」と先に歩きだします。
私もついていきますが、鬼神の結界という言葉に不安でいっぱいになってしまう。
「黒緋様、紫紺は大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だ。紫紺は強いし、頭のいい子だ。お前も知ってるだろ」
「はい……」
私は返事をしながらも紫紺のことで頭がいっぱいになります。
こんな山奥で紫紺は一人きりでいるのです。きっと不安がっています。泣いているかもしれません。早く見つけてあげないと……。
そんな私の様子に黒緋は呆れたようなため息をつきました。
「鶯、今は鬼神に集中しろ。斎王を狙っている鬼神は元々この山に封印されていた鬼神だ。どうやら鬼神は何者かの手によって封印を解かれ、斎王を殺すために伊勢に行っていたようだ」
「え、ではあの鬼神は誰かが封印を解いたということですか?」
作為的なそれに血の気が引きました。
鬼神は最初から斎王を狙っていたというのです。
「誰が封印を解いたのかは分からない。だが、強い力を持った呪術師であることは間違いない。お前が踏んだ木札はおそらく呪術師が張った罠だ」
「ではあの鬼神は呪術師に使役されていたということですか? あんなに強い鬼神を使役するなんてっ……」
「驚くことじゃない。鬼神といえどそれを上回る力を持った呪術師なら使役は可能だ」
黒緋はそう言いながら先へ進んでいきます。
しばらく歩いているうちにぽっかり空いた空間に出ました。
そこには小さな泉があり、その先には小さな祠が立っていました。
「あの祠を壊せば元の場所に戻れるぞ」
「早く壊しましょう! 早く紫紺のところに戻らないと!」
私は祠に駆け寄ろうとしましたが、ふと泉の水面を見て目を見開きました。
「紫紺!?」
水面には紫紺が映っていました。しかも巨大な鬼神と戦う紫紺が!
「紫紺! 紫紺が鬼神と戦っています!」
「どうやら俺たちと別行動になってから鬼神と遭遇したようだな」
紫紺が刀で応戦しています。
小さな体の機動力を活かし、鬼神を翻弄しながら刀で攻撃を仕掛けていました。それは鬼神に引けを取らないものでしたが、だからといって安心していられるものではありません。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。
専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる