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第9話 だからパパ、ほんとに怒ってないってば
しおりを挟むその日の夜。
俺はいつもどおり定時で帰る。
もちろん部下たちも今日の仕事が終われば定時帰りだ。明日できる仕事は明日すればいいのだ。
馬車で家に到着すると、アイリーンに出迎えられた。他にも 侍従やメイドが俺を出迎える。
「あなた、おかえりなさい」
「ご主人様、おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
俺はそう挨拶を返しつつも……。
あれ? いつもならここに二人の娘の姿もあるはずなのである。俺が帰宅すると必ず出迎えてくれるのだから。
「オデットとシャロットはどうした? もう帰宅してると思うんだが」
俺の騎士団は新人だからといって特別に居残りなんてさせない。
二人は俺よりも早く帰宅しているはずだった。
「それがですね、帰ってから二人で部屋に閉じこもってしまって。今日なにかありました?」
「ちょっとな、新人の 洗礼みたいなもんだ」
俺は苦笑した。
エリート集団の新人騎士なら誰もが通る道だ。
俺の騎士団は子どもの頃から優秀だと評価を受けてきた者たちの集まりである。そんな連中が難関試験を突破して一つの場所に集まれば、最初は同期の競い合いが始まって当然だ。自分よりも実力がある者に対して嫉妬くらいするものだ。
ましてやオデットとシャロットは俺の娘なのだ。よけいに妬まれるというものだろう。
「 洗礼……。朝はやっと騎士になれたんだって、あんなに嬉しそうだったのに」
アイリーンが心配そうに呟く。
俺はアイリーンの肩に手を置いて慰める。
「心配するな。オデットとシャロットなら大丈夫だ。そりゃ俺の娘ってことでいろいろあるが、それだってあいつらなら大丈夫だろ」
実際、二人は他の新人騎士相手にダメだししていたくらいだ。
それに実力があればいずれ黙らせることができる。
「オデットとシャロットの強さは本物だ。それを証明し続ければいい」
「あなたがそうおっしゃるなら……」
アイリーンは不安そうにしながらも頷いてくれた。
そして俺の腕に手をかけて居間へと歩く。
「お疲れでしょう? 今夜はゆっくりお 寛ぎくださいね」
「ああ、ありがとう」
俺は夕食まで居間で 寛ぐことにする。
王都日報、いわゆる新聞を広げた。たまに俺の騎士団が一面を飾ることもあるが、今日は 急遽国王のもとに他国の大使が訪れたとか、広場では騎士団合格者発表が行なわれたとか、いたって普通のニュースが掲載されていた。
それをなんの気なしに読んでいたが、…………視線を感じる。めちゃくちゃ見てる。
オデットとシャロットだ。
二人が扉の隙間からじーっとこちらを見ている。
俺はため息をつくと王都日報から顔をあげた。
「なにしてるんだ、入ってこればいいだろ」
呼んでみたが入ってこない。
それどころか瞳をうるませて俺を見て、おずおずと口を開く。
「…………パパ、シャロットたちに怒ってる?」
「パパ……」
「お前ら……」
俺は王都日報を畳むと二人を手招きする。
「こっちへ来なさい」
オデットとシャロットが顔を見合わせた。
俺の顔をうかがうような二人に苦笑する。
「パパ、怒ってないから」
そう言うと二人がおろおろしながらも居間に入ってきた。
ソファに座っている俺の前に二人がちょこんと座る。
「こっちに座ればいいだろ」
ぽんぽんっと隣を叩くと二人はゆるゆると首を横に振った。
「パパ、シャロットたちに怒ってたから……。うまく討伐できなかったし」
「私の采配ミスです。もう少し味方の状況や機動力を見極めるべきでした」
二人はまだ演習訓練のときのことを引きずっているようだった。
……新人なら当然か。騎士として初めて戦ったのだから。
落ち込んでいる二人に俺はふっと笑ってみせた。
「こらこら、公私混同するな。ここは家だぞ。お前たちの前にいるのは団長じゃなくて、今はパパだ」
「っ、パパ~!」
「パパっ……!」
二人の顔がパァ~っと輝いた。
と思ったら、ガバリッ! 力いっぱい抱きついてくる。
「わっ、いきなり抱きつくなって」
「だって~」
「ただいま。おかえりは?」
「パパ、おかえりなさい!」
「パパ、おかえりなさい。ご挨拶、遅くなってごめんなさい」
「いつもの出迎えがないから心配したぞ」
ニヤリと笑って言うと、二人は少し恥ずかしそうに肩を 竦めた。
入団式や演習訓練では騎士らしい姿を見せてくれたが、こうしているとまだまだ十四歳の子どもだ。
二人は俺の両隣にそれぞれ座ると、我慢できないとばかりに今日の出来事を話しだす。
合格者リストに名前を見つけて嬉しかったこと。入団式は少し緊張したこと。俺の壇上での挨拶がかっこよかったと嬉しそうに話してくれたときは少し照れくさかった。
演習訓練で魔獣を討伐したことも話してくれたが、……やはり俺の娘だと妬まれたことは話してくれなかった。
二人は俺に相談しないと決めたようだ。
悩んでいないはずはないので話してほしい気もするが、二人が話さないと決めたならそれを尊重したい。
こうして娘たちと話していると、ふとアイリーンが姿を見せた。
「あなた、補佐官の方がいらっしゃいました。城に呼ばれているみたいで……」
「え、城に?」
せっかく仕事が終わって帰宅したのに?
あからさまに面倒くさそうな顔をした俺にアイリーンが苦笑する。
アイリーンは俺の側までくるとそっと耳打ちした。
「国王陛下があなたを呼んでいるみたい。内密に訪問してほしいみたいです」
「…………わかった」
相手が国王なら仕方ない……。
俺は渋々ながらも立ち上がった。
「パパ、どこ行くの?」
「今日の騎士団のお仕事は終わりましたよね?」
シャロットとオデットが不思議そうに聞いてきた。
しかし国王に内密に呼ばれたなんてさすがに話せない。
どうしたものかと困ったが、アイリーンが二人を宥めてくれる。
「パパはお仕事です。騎士団の団長なんだから、急な呼び出しだってあるものよ」
「そうかもしれないけど~。……パパ、いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
「パパ、いってらっしゃい」
二人が残念そうに見送ってくれる。
パパだって行きたくない。できるなら今夜は家でゆっくりしたい。
「ごめんな、すぐ帰ってくるから」
二人を宥めるように言うと俺は居間を出た。
アイリーンは見送りのために玄関までついてくる。
「二人とも残念そうでしたね。あなたも」
「ああ、残念だ……。面倒くさいし」
「あなた、顔にでていますよ」
「大丈夫だ、城ではキリッとする」
「ふふふ、頼みますからね」
アイリーンはクスクス笑っていたが、「そうだ」となにか思いつく。
「あなた、今度の休みに家族で山へ薬草を採りに行きませんか? ちょうどいい季節なんです。それに、あの子たちにもいい息抜きになりますから」
「今度の休みか。いいぞ、ぜひそうしよう」
「まあ嬉しい。楽しみが増えました」
「いつでも言えよ。すぐに休暇申請だすから」
「ありがとうございます」
俺とアイリーンはなにげない会話をしながら玄関まで歩く。
馬車の前には補佐官がいた。
「夜分に申し訳ありません。城で国王陛下がお待ちです」
「わかった。アイリーン、あとは頼む」
「はい、いってらっしゃい」
俺はアイリーンに見送られ、馬車に乗り込む。
せっかく家に帰ったのにまた仕事とか最悪だ。これからが 憩いの時間だったというのに……。
俺は車窓から夜の王都をながめ、小さくため息をついたのだった。
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