21 / 23
第21話 ……パパ、つらい(涙)
しおりを挟むどこだ。どこにいる!?
気配、物音、匂い、神経を集中して違和感を探る。
「救護三班! どこだ! いたら返事をしろ!!」
俺は地図を思い出しながら地点を予測する。
救護三班が本部を出たのは二時間前。
もし戦闘していたらすぐに気づく。そうでないなら、トラブルに巻き込まれて動けなくなっている可能性がある。ならば身を隠せる場所は……。
俺は岩場や崖のくぼみなど、隠れられる場所を重点的に探し回った。
そうしていると、少しして大木の根元のくぼみから話し声が聞こえてくる。
「最悪! どうしてよりにもよってあんた達と!」
「お嬢様はお嬢様らしく家に閉じこもってればいいのよ!」
聞こえてきた声には覚えがあった。
新人騎士のナタリアとミランシャだ。
「……マジか」
ただでさえオデットとシャロットは新人騎士たちに遠巻きにされている。
その中でも特にナタリアとミランシャはオデットとシャロットを毛嫌いしていて、初日の演習訓練でのダメ出しで決定的な亀裂が入ったのだ。
しかし今はのん気に立ち聞きしている暇はない。
俺は救護班が隠れている場所に姿をみせた。
「見つけたぞ! みんな無事か!?」
「団長!」
「団長だっ、救助がきたんだ……!」
隠れていた騎士たちがハッとした顔で俺を振り返る。
オデットとシャロットは無事だった。今すぐ抱きしめたい。でもぐっと堪えて騎士団長の顔をする。
くぼみに隠れていたのは救護三班の六名と、要救助者になっていた騎士二名。計八名だった。
隠れていた騎士たちは俺を見ると安堵の表情になったが、俺は瞬時に極めて悪い状況だと判断する。
負傷者は要救助者を含めて四名。外傷が酷くて動かすのは困難な状態だ。
動けるのは新人騎士のオデットとシャロットとナタリアとミランシャ。しかしオデットとシャロットは消耗がひどく、ナタリアとミランシャは負傷して歩行するのがやっとの状態だ。
「なにがあった? 報告しろ」
俺の命令にオデットが答える。
「はっ、救護三班、要救助者を二名発見して救助したものの、潜んでいたダークドラゴンと戦闘になりました。ダークドラゴンは討伐しましたが、要救助者が四名となりました。帰還を試みたものの、近辺には他のダークドラゴンが潜んでいるので帰還はできず、ここで救助を待っていました」
「そうか、正しい判断だ。よく救助を待っていた」
無理に帰還すれば全滅も考えられた。最悪の事態を避けた判断だ。
だが、いつまでもここに隠れていることは出来ない。残りのダークドラゴンは四体になっている。もしその四体にここを襲われれば全滅だ。
「俺が四人担ぐ。オデットとシャロットは一人ずつ担げ。ナタリアとミランシャはしっかりついてこい。必ず全員で帰るぞ」
俺の命令にオデットとシャロットがそれぞれ要救助者を背負った。
俺は両肩に二人ずつ担ぐ。
四人を軽々と担いでみせた俺にナタリアとミランシャは「す、すごい……」と顔を赤らめていた。
オデットとシャロットは俺の日頃の鍛錬を知っているので特に驚いた様子はない。
こうして俺たちは司令本部を目指して進みだした。
「気配を消せ。物音をたてるなよ?」
俺は周囲を警戒しながら歩く。
負傷したナタリアとミランシャは戦えないのでダークドラゴンと遭遇したら全員帰還が一気に困難になってしまう。
俺たちは息を殺して慎重に進んでいた。
だが、劣勢のダークドラゴンもまた気配に過敏になっている。こういう時に限って……。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「全員避けろ!!」
ダークドラゴンの雄叫び、同時に強烈な波動砲が放たれた。
俺たちは咄嗟に避けたものの最悪な状況を悟る。
四体のダークドラゴンに囲まれていたのだ。
「そ、そんな……、いつの間に……」
「囲まれてる……っ」
ナタリアとミランシャが青褪《あおざ》めた。
絶体絶命の危機。
どうする。どうすれば全員帰還させられる?
俺は即座に状況を判断する。ここで戦えるのは俺とオデットとシャロットだけ。
しかしこのまま戦えば要救助者とナタリアとミランシャが巻き込まれるだろう。それは最悪の事態を意味する。
ならば方法は一つ、囮だ。
ここに囮を残し、要救助者を優先的に逃がす方法しかない。しかし要救助者を一度に担いで運べるのは俺だけ。
俺が囮として残れないなら、その役目は……。
「っ……」
……命令したくない! どこの世界に娘たちを囮にする親がいる!?
別の方法をっ、別の方法を考えろ! すぐに! はやく!
それなのに。
「団長、提案があります。団長はナタリアとミランシャとともに要救助者を連れて司令本部に帰還してください。私とシャロットがここに残ってダークドラゴンを食い止めます」
オデットがまっすぐな面差しで言い放った。
シャロットも「シャロットは強いので大丈夫です」とオデットの提案に同意する。
俺は愕然と二人を見た。
……そ、それは駄目だ。駄目なんだ。
待ってなさい。パパがすぐにいい方法を考えてあげるから、だから待ってなさい……っ。
しかしオデットの意思は変わらない。
「これしか方法はありません。団長、許可を」
オデットは俺に迫った。
娘ではなく、騎士の顔で。
俺は目を閉じ、ゆっくりと開く。
「……わかった。許可する」
胸が引き裂かれそうだった。
俺は今から娘たちを囮にするのだ。こんなひどい父親は世界中を探したっていない……。
そんな俺たちのやりとりにナタリアとミランシャが驚愕する。
「ま、待ちなさいよ! なんなのよ! 調子に乗ってんじゃないわよ……!」
ナタリアがオデットとシャロットに向かって怒鳴った。
怒りながらも混乱しているようだった。
「囮ってどういうことよ! あんた達は団長の娘でしょ!? 私とミランシャを置いてけばいいじゃない!! 偽善者ぶってるんじゃないわよ!!」
声を荒げたナタリアをオデットとシャロットが不思議そうに見つめ返す。
「なにを怒っているんですか? 騎士団は全員生還が不文律。そこに団長の娘とか関係ありません。それに、私とシャロットは新人騎士のなかで一番強いです。首席です。舐めてるんですか?」
「シャロットも首席!」
淡々と言ったオデットの隣でシャロットも自信満々に胸を張った。
……おいおいおいおい、オデット? シャロット? 今それなのか?
ナタリアとミランシャだって目を見開いて固まってるだろ。
思わぬ事態に俺は内心ハラハラしたが、オデットは続けてしまう。
「私はオデット・エインズワース。騎士団に首席合格しました。剣術と魔力には自信があります。作戦立案と作戦指揮も得意です。真面目な性格は長所だと思いますが、ときに短所になることもあるようです。次、シャロット」
「はい! シャロット・エインズワースです! 騎士団に首席合格しました。格闘と攻撃魔法には自信があります! オデットみたいな頭を使うのは苦手だけど、体を動かすのは得意です!」
……なぜか始まった自己紹介。
ナタリアとミランシャは意味がわからず呆然となる。わかるぞ、俺もなにがなんだか……。
しかしオデットとシャロットも不思議そうにナタリアとミランシャを見た。
「おかしいですね、自分を知ってもらえば仲良くなれるとママが言っていたのに……」
「うん、ママ言ってた。知らないから仲良く出来ないんだって。でも知ってもらえば仲良くできるって」
「バ、バカにしないで……!」
ナタリアが声をあげた。
でもオデットとシャロットは不思議そうだ。
「バカにしていません。私は私を知ってもらいたかっただけです」
「シャロットも。そうすれば仲良くできるんだよね」
「こんな時にっ……」
ナタリアとミランシャが顔を赤くして唇を噛みしめた。言葉が見つからないのだ。
だが、いつまでもおしゃべりしている時間はない。
「オデット、シャロット、騎士団長として命じる。要救助者の退避完了までダークドラゴンを食い止めろ。だが無理はするな。必ず生きていろ。騎士団は死ぬことを許さない、全員生還だ」
「「はっ」」
「よし」
俺は頷いてナタリアとミランシャを振り返る。
「オデットとシャロットが食い止めているうちに行くぞ! お前たちは俺が必ず司令本部へ連れ帰る! 急げ!」
「は、はいっ……」
俺は要救助者を両腕に六人担いで走りだす。これくらい問題ない。
ナタリアとミランシャもなんとか俺の後をついてくる。その場に残したオデットとシャロットを時おり振り返りながら。
「振り返るな。今は帰還することだけ考えろ」
「でも……」
「振り返るな」
背後で娘たちとダークドラゴンの戦闘が始まった。
でも俺は振り返らない。少しでも早く帰還を目指す。二人の娘がつくった最善の方法を無駄にしたくなかったからだ。
187
あなたにおすすめの小説
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる