紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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ここはノーフォーク王国の王都リーフ、宝石店や夜会服を仕立てる店などがある大きな通りから一歩入ったところに、昔からあったと思われる小さな酒場が立ち並んでいた、だがこの辺一帯は、まぁ綺麗とは言いがたかったが、家庭的で安くて、そしてうまいと評判の店が多く、その中でもかなりくたびれた店が、王都の中でここを知らない人はいないといわれている店で【銀の匙】という名の店であった。



そんな店の雰囲気の中に、いささか、いやかなり不釣合い男がいた。だがその姿はこの酒場【銀の匙】では良く見かける姿で、20歳をいくつばかりか超えた若い男なのに、何とも不思議な色気を持った男が今日もいた。

友人らしき男と一緒に飲んでいるときは、少年のような屈託のない笑顔を見せ、今のように一人で飲んでいるときは、吸い込まれそうな青い瞳を物憂げに揺し、左手に持ったグラスを見ている様は、遊びなれた女達でさえ、頬を赤く染めるほど色気がある。



その男の名は、アークフリード・フェリックス・ブランドンという。



アークフリード・フェリックス・ブランドンはノーフォーク国の筆頭公爵で第一師団の団長でもあり、その身分を考えると本来なら町の酒場に足を運ぶことなど考えられない立場ではあったが、アークフリードはそんなことなど気にもしない男だった。それはアークフリードが、ブランドン公爵の爵位をすでに持っていたにも関わらず、一兵士と言う立場からここまでのし上がってきた事からも頷ける。



そこまでして、騎士団に入った理由は、それはすべて13年前のマールバラ王国で起きた内乱が、アークフリードの気持ちを駆り立て、強くならねばすべてを失ってしまうという悲壮な思いから、己に課した命題でもあった。悲壮な思いで入った騎士団だったが居心地はよかった。居心地の良さは今待ち合わせている友人のおかげでもあった。同じように、伯爵家の嫡男で有りながら騎士団に一兵士からのし上った男だったからだろう。いつもならその友人でもあり、部下でもある男と一緒に入る酒場だったのだが、今日はその男ライドは遅れていた。待ちくたびれて続けざまに何杯かのバーボンを飲んだアークフリードにも、酔いが回ってきているのだろう、グラスの氷を揺らしながら……心が13年前へと飛んでいた。
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