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ミーナはアークフリードの抱擁に唇を噛みしめ、泣き叫ぶ心をうまく隠した。
―離れたくない。この腕を離したくない…。…でも…。
抱かれたアークフリードの胸元で小さくなにか言うと、アークフリードの青い瞳をミーナは見つめ
「私もです。アークフリード様…」と震えながら言った。
先程の青褪めた顔を見ていたらその言葉が悲しく聞こえただろうが、それがわからなかったアークフリードはもう一度「ミーナ」というと、強く抱きしめた。
お互いが本当の気持ちを言っていたのに、偽りだと思う愛の言葉はミーナの心を凍らせていった。
その夜、王宮から戻ったパメラはアークフリードから、時間がありますかとの伝言をもらいご機嫌だった。
「運が向いてきたのかしら…バクルー王が用意するあれも準備が整ったらしいし…でもアークフリードが私の手の中に落ちてくるなら必要ないわね。あれは…趣味が悪すぎる。」
そう言うと先程のご機嫌な顔は少し歪み
「あんなものを用意するなんて、確かにいい案だったけど…。私が勧める結婚にアークフリードが承諾する気になったのならもう必要はないわ。ようやく私の言うことを聞くしかないってわかったよね。アークフリードにはもう手はないもの。バクルー王がアークフリードを動けないように雁字搦めにして欲しいと言っていたけど、アークフリードなんてどこが怖いの?剣の腕?アークフリードは《王華》を体に入れているけど、マールバラの王族の血を引き継ぐものにしか魔法は使えない、普通の男。ただ…アークフリードには魔法が効かないだけ。アークフリードの中の《王華》が私の魔法を弾いてしまうだけじゃない。」
そう言いながら、パメラは結い上げていた髪を下ろした、銀色に輝く髪がパメラの背に零れ落ちてきた。
銀色の髪を手に取ったパメラはうっすらと笑うと
「マールバラ王一族はブロンドの髪と青い瞳を持ち、《王華》を身に宿せば紫の髪と紫の瞳の王の色になる。ふっふふふ…。じゃぁ、私のこの銀色の髪と赤い瞳は中途半端に《王華》を取り入れた罪の色ってことかしら。」
「罪の色…」パメラは窓に映る自分の姿を見つめ、もう一度口にした。
ーじゃぁ…どうすればよかったの。兄さま以外に私を見てくれる人なんていなかったのよ。だから兄さまが手に入らないなら、《王華》が…兄さまの身に宿る《王華》が欲しいと思ったの。
でもあの日、13年前のあの日…兄さまは…
『《王華》は呪いと同じだ。心が強くなくては《王華》に飲み込まれ、化け物になってしまう。だからおまえには《王華》を使いこなすことは無理だ。』
そう言って私の肩を押され、私から離れると…。
『おまえのやったことは許すことはできない。だが…私にはおまえを殺せない。幼いおまえが薄暗い地下牢で泣いていた姿を知っているから…殺せない。だがわずかとはいえ、《王華》を取り入れたおまえが…もしその力を使うことがあったら…』
そう言って私を見る紫の瞳には怒りしか見えない。
ー今度は殺す…と言いたかったのだろうか。
兄さまの怒りを浴び、後ずさりする兵士のひとりに
『連れて行け…。』と私を見て言うと…アークフリードの元へ歩いて行かれた。
兵士に引っ張られるように歩いたところまでは覚えているが…その後は覚えていない。
だが感じた。兄が《王華》を誰かに渡しだことを…そして…命が消えたことを。
トントン…
「義母上、アークフリードです。よろしいでしょうか?」と声が聞こえた。
パメラは赤い目に浮かんだものを拭うと
「もう戻れない。なら…進むだけ」というと、もう一度窓ガラスに映る自分の顔を見つめ笑った。
「お入りなさい。」と言いながら、自ら扉を開けたパメラを見て、アークフリードは訝しな表情を浮かべたが、また無表情に戻り
「いいえ、ここでかまいません…。先日の結婚のお話の件ですが、遅くなりましたが、お断り致します。 愛する人がいるのです、その女性と結婚いたします。」
「えっ?」
呆然とするパメラにアークフリードは止めを刺すかのように
「明後日、わが邸で晩餐会を催し、その折に婚約を発表したいと思っております。」
「どういうこと…明後日に晩餐会なんてできるわけないじゃない!…招待状とか…料理とか…じゅ…準備が…ぁ…まさか前から準備をしていたの?!そ、そんなの認めないわ!!フランシスはどうするの?!お金は?お金は必要でしょう?!」
「義母上!あなたに指図される覚えは無い!この家の…公爵家の当主はこの私です!」
パメラは…扉に寄りかかるようにして、ずるずると座り込んだ。
その様子をアークフリードは、黙って見つめ、「では、明後日に…」と言って、踵を返した。
アークフリードの足音が、ゆっくりと去っていくのを聞いてはいたが、パメラはまだ呆然としていた。
「そ、そんな…」
ようやく発した言葉だったが、その言葉と同時に体が震えだし、その震えを、いや不安を抑えようと体を抱きしめながら
「…バクルー王に、そうバクルー王に、言わないと…早く…」と慌てふためきながら、パメラの姿は霞のように消えていった。
アークフリードは、あれから、自分の書斎へ向かっていたが、その途中の客間の前で立ち止まった。
「ミーナ……」とアークフリードの口から零れた。
ーようやく自覚した思いは、片思いだとわかっている。 だから義母達の陰謀を潰した後には、今度こそ彼女に下手な計算などせず…愛していると伝える。
アークフリードは扉の向こうにいる彼女を思い浮かべ、その名をまた口にした。
―離れたくない。この腕を離したくない…。…でも…。
抱かれたアークフリードの胸元で小さくなにか言うと、アークフリードの青い瞳をミーナは見つめ
「私もです。アークフリード様…」と震えながら言った。
先程の青褪めた顔を見ていたらその言葉が悲しく聞こえただろうが、それがわからなかったアークフリードはもう一度「ミーナ」というと、強く抱きしめた。
お互いが本当の気持ちを言っていたのに、偽りだと思う愛の言葉はミーナの心を凍らせていった。
その夜、王宮から戻ったパメラはアークフリードから、時間がありますかとの伝言をもらいご機嫌だった。
「運が向いてきたのかしら…バクルー王が用意するあれも準備が整ったらしいし…でもアークフリードが私の手の中に落ちてくるなら必要ないわね。あれは…趣味が悪すぎる。」
そう言うと先程のご機嫌な顔は少し歪み
「あんなものを用意するなんて、確かにいい案だったけど…。私が勧める結婚にアークフリードが承諾する気になったのならもう必要はないわ。ようやく私の言うことを聞くしかないってわかったよね。アークフリードにはもう手はないもの。バクルー王がアークフリードを動けないように雁字搦めにして欲しいと言っていたけど、アークフリードなんてどこが怖いの?剣の腕?アークフリードは《王華》を体に入れているけど、マールバラの王族の血を引き継ぐものにしか魔法は使えない、普通の男。ただ…アークフリードには魔法が効かないだけ。アークフリードの中の《王華》が私の魔法を弾いてしまうだけじゃない。」
そう言いながら、パメラは結い上げていた髪を下ろした、銀色に輝く髪がパメラの背に零れ落ちてきた。
銀色の髪を手に取ったパメラはうっすらと笑うと
「マールバラ王一族はブロンドの髪と青い瞳を持ち、《王華》を身に宿せば紫の髪と紫の瞳の王の色になる。ふっふふふ…。じゃぁ、私のこの銀色の髪と赤い瞳は中途半端に《王華》を取り入れた罪の色ってことかしら。」
「罪の色…」パメラは窓に映る自分の姿を見つめ、もう一度口にした。
ーじゃぁ…どうすればよかったの。兄さま以外に私を見てくれる人なんていなかったのよ。だから兄さまが手に入らないなら、《王華》が…兄さまの身に宿る《王華》が欲しいと思ったの。
でもあの日、13年前のあの日…兄さまは…
『《王華》は呪いと同じだ。心が強くなくては《王華》に飲み込まれ、化け物になってしまう。だからおまえには《王華》を使いこなすことは無理だ。』
そう言って私の肩を押され、私から離れると…。
『おまえのやったことは許すことはできない。だが…私にはおまえを殺せない。幼いおまえが薄暗い地下牢で泣いていた姿を知っているから…殺せない。だがわずかとはいえ、《王華》を取り入れたおまえが…もしその力を使うことがあったら…』
そう言って私を見る紫の瞳には怒りしか見えない。
ー今度は殺す…と言いたかったのだろうか。
兄さまの怒りを浴び、後ずさりする兵士のひとりに
『連れて行け…。』と私を見て言うと…アークフリードの元へ歩いて行かれた。
兵士に引っ張られるように歩いたところまでは覚えているが…その後は覚えていない。
だが感じた。兄が《王華》を誰かに渡しだことを…そして…命が消えたことを。
トントン…
「義母上、アークフリードです。よろしいでしょうか?」と声が聞こえた。
パメラは赤い目に浮かんだものを拭うと
「もう戻れない。なら…進むだけ」というと、もう一度窓ガラスに映る自分の顔を見つめ笑った。
「お入りなさい。」と言いながら、自ら扉を開けたパメラを見て、アークフリードは訝しな表情を浮かべたが、また無表情に戻り
「いいえ、ここでかまいません…。先日の結婚のお話の件ですが、遅くなりましたが、お断り致します。 愛する人がいるのです、その女性と結婚いたします。」
「えっ?」
呆然とするパメラにアークフリードは止めを刺すかのように
「明後日、わが邸で晩餐会を催し、その折に婚約を発表したいと思っております。」
「どういうこと…明後日に晩餐会なんてできるわけないじゃない!…招待状とか…料理とか…じゅ…準備が…ぁ…まさか前から準備をしていたの?!そ、そんなの認めないわ!!フランシスはどうするの?!お金は?お金は必要でしょう?!」
「義母上!あなたに指図される覚えは無い!この家の…公爵家の当主はこの私です!」
パメラは…扉に寄りかかるようにして、ずるずると座り込んだ。
その様子をアークフリードは、黙って見つめ、「では、明後日に…」と言って、踵を返した。
アークフリードの足音が、ゆっくりと去っていくのを聞いてはいたが、パメラはまだ呆然としていた。
「そ、そんな…」
ようやく発した言葉だったが、その言葉と同時に体が震えだし、その震えを、いや不安を抑えようと体を抱きしめながら
「…バクルー王に、そうバクルー王に、言わないと…早く…」と慌てふためきながら、パメラの姿は霞のように消えていった。
アークフリードは、あれから、自分の書斎へ向かっていたが、その途中の客間の前で立ち止まった。
「ミーナ……」とアークフリードの口から零れた。
ーようやく自覚した思いは、片思いだとわかっている。 だから義母達の陰謀を潰した後には、今度こそ彼女に下手な計算などせず…愛していると伝える。
アークフリードは扉の向こうにいる彼女を思い浮かべ、その名をまた口にした。
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