紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
26 / 78

25

しおりを挟む
ミーナはアークフリードの抱擁に唇を噛みしめ、泣き叫ぶ心をうまく隠した。


―離れたくない。この腕を離したくない…。…でも…。


抱かれたアークフリードの胸元で小さくなにか言うと、アークフリードの青い瞳をミーナは見つめ
「私もです。アークフリード様…」と震えながら言った。



先程の青褪めた顔を見ていたらその言葉が悲しく聞こえただろうが、それがわからなかったアークフリードはもう一度「ミーナ」というと、強く抱きしめた。


お互いが本当の気持ちを言っていたのに、偽りだと思う愛の言葉はミーナの心を凍らせていった。




その夜、王宮から戻ったパメラはアークフリードから、時間がありますかとの伝言をもらいご機嫌だった。
「運が向いてきたのかしら…バクルー王が用意するあれも準備が整ったらしいし…でもアークフリードが私の手の中に落ちてくるなら必要ないわね。あれは…趣味が悪すぎる。」

そう言うと先程のご機嫌な顔は少し歪み


「あんなものを用意するなんて、確かにいい案だったけど…。私が勧める結婚にアークフリードが承諾する気になったのならもう必要はないわ。ようやく私の言うことを聞くしかないってわかったよね。アークフリードにはもう手はないもの。バクルー王がアークフリードを動けないように雁字搦めにして欲しいと言っていたけど、アークフリードなんてどこが怖いの?剣の腕?アークフリードは《王華》を体に入れているけど、マールバラの王族の血を引き継ぐものにしか魔法は使えない、普通の男。ただ…アークフリードには魔法が効かないだけ。アークフリードの中の《王華》が私の魔法を弾いてしまうだけじゃない。」


そう言いながら、パメラは結い上げていた髪を下ろした、銀色に輝く髪がパメラの背に零れ落ちてきた。


銀色の髪を手に取ったパメラはうっすらと笑うと
《王華》宿ふっふふふ…。じゃぁ、私のこの銀色の髪と赤い瞳は中途半端に《王華》を取り入れた罪の色ってことかしら。」


「罪の色…」パメラは窓に映る自分の姿を見つめ、もう一度口にした。


ーじゃぁ…どうすればよかったの。兄さま以外に私を見てくれる人なんていなかったのよ。だから兄さまが手に入らないなら、《王華》が…兄さまの身に宿る《王華》が欲しいと思ったの。


でもあの日、13年前のあの日…兄さまは…

『《王華》は呪いと同じだ。心が強くなくては《王華》に飲み込まれ、化け物になってしまう。だからおまえには《王華》を使いこなすことは無理だ。』


そう言って私の肩を押され、私から離れると…。

『おまえのやったことは許すことはできない。だが…私にはおまえを殺せない。幼いおまえが薄暗い地下牢で泣いていた姿を知っているから…殺せない。だがわずかとはいえ、《王華》を取り入れたおまえが…もしその力を使うことがあったら…』

そう言って私を見る紫の瞳には怒りしか見えない。

ー今度は殺す…と言いたかったのだろうか。


兄さまの怒りを浴び、後ずさりする兵士のひとりに
『連れて行け…。』と私を見て言うと…アークフリードの元へ歩いて行かれた。
兵士に引っ張られるように歩いたところまでは覚えているが…その後は覚えていない。
だが感じた。兄が《王華》を誰かに渡しだことを…そして…命が消えたことを。




     トントン…





「義母上、アークフリードです。よろしいでしょうか?」と声が聞こえた。

パメラは赤い目に浮かんだものを拭うと
「もう戻れない。なら…進むだけ」というと、もう一度窓ガラスに映る自分の顔を見つめ笑った。


「お入りなさい。」と言いながら、自ら扉を開けたパメラを見て、アークフリードは訝しな表情を浮かべたが、また無表情に戻り

「いいえ、ここでかまいません…。先日の結婚のお話の件ですが、遅くなりましたが、お断り致します。 愛する人がいるのです、その女性と結婚いたします。」

「えっ?」

呆然とするパメラにアークフリードは止めを刺すかのように

「明後日、わが邸で晩餐会を催し、その折に婚約を発表したいと思っております。」

「どういうこと…明後日に晩餐会なんてできるわけないじゃない!…招待状とか…料理とか…じゅ…準備が…ぁ…まさか前から準備をしていたの?!そ、そんなの認めないわ!!フランシスはどうするの?!お金は?お金は必要でしょう?!」

「義母上!あなたに指図される覚えは無い!この家の…公爵家の当主はこの私です!」

パメラは…扉に寄りかかるようにして、ずるずると座り込んだ。


その様子をアークフリードは、黙って見つめ、「では、明後日に…」と言って、踵を返した。



アークフリードの足音が、ゆっくりと去っていくのを聞いてはいたが、パメラはまだ呆然としていた。



「そ、そんな…」

ようやく発した言葉だったが、その言葉と同時に体が震えだし、その震えを、いや不安を抑えようと体を抱きしめながら

「…バクルー王に、そうバクルー王に、言わないと…早く…」と慌てふためきながら、パメラの姿は霞のように消えていった。





アークフリードは、あれから、自分の書斎へ向かっていたが、その途中の客間の前で立ち止まった。

「ミーナ……」とアークフリードの口から零れた。



ーようやく自覚した思いは、片思いだとわかっている。 だから義母達の陰謀を潰した後には、今度こそ彼女に下手な計算などせず…愛していると伝える。



アークフリードは扉の向こうにいる彼女を思い浮かべ、その名をまた口にした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。 衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得! だけど……? ※過去作の改稿・完全版です。 内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。

見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

走馬灯に君はいない

優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

処理中です...