紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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アークフリードは、エリザベスの部屋の前に来たが、彼女の泣く声に、扉を挟んで動けなかった。


あの清らで勇ましい彼女が、子供のような泣いていたのだ。
アークフリードは、自分のやったことが……そして言ったことが…どんなに残酷だったか思い知らされた。どれぐらい時間がたっただろうか…扉の向こうの鳴き声は、聞こえなくなった。アークフリードは扉に、頭と、両手をついて、


「ミーナ」と呼んだ。それは小さな声だったが、扉の向こうにいるミーナにも聞こえていた。


「酷いことをしてしまった…すまない。バクルー王に口づけされる君を見て、頭に血が上った。」



そう言うと、アークフリードは…大きく息を吸って

「嫉妬だ。愛する人が他の男に抱かれる様を見て狂ってしまった。ミーナ…、俺は君を「カタン…」…」

と話している途中で、扉が開いた。



エリザベスが立っていた、両眼は泣いたせいで、赤くなっていたが、しっかりとアークフリードを見ていた。「ミーナ…」とアークフリードの口が開いた途端、その唇はエリザベスの唇に覆われていた。



エリザベスは自分の両腕をアークフリードの首に廻し、体を密着させより深く口づけをせがむように、アークフリードの唇を、そっと舌で触ってきた。アークフリードは驚いて動けなかった…そして、エリザベスの唇は、アークフリードの唇から、耳元へと…啄み、その唇をそっと寄せ



「たかが口づけです。」と言ったのだった。



 呆然とするアークフリードに、エリザベスはまた言った。



「たかが口づけぐらいで、先程は、動揺して申し訳ありません。さすがにバクルー王に身を任す気はありませんが、口づけひとつで国が守れるなら…安いものです。」



と言い切った。その顔には表情がなかった。淡々と話すエリザベスに…アークフリードは何も言えなかった。扉の向こうで子供のように泣く声を聴かなければ…その泣きはらした眼を見なければ…



今の彼女の本心は解からなかっただろう。




彼女はこのまま、騙されてくれ…何もなかったことにしてくれと言っているのだと思った。彼女は、まだ俺に言えないことがあるんだと思った。



俺には何も言えなかった。



なにを隠しているんだ。



それほどまでに俺に知れれたくないことなのか…



ふたりの間に沈黙が流れた。



先に動いたのは、エリザベスだった、アークフリードの口元の傷に、気がついたようで微かに震える右手をそっと伸ばして、アークフリードの口元に触れ、痛ましそうに眉を顰め、無表情だったエリザベスの顔が…心配そうに緑の瞳が揺れ動いた…アークフリードの胸が、ドクンとひとつなった…そしてその優しさがこもった指先に、また胸がなった。



優しさがこもった指先を信じよう。だから…今は…今は…待とう。

彼女が今話すべきことではないと判断したのなら…待とう。



だが…



エリザベスの手を優しくとり…手のひらに口づけを落とした。

懇願の口づけ…どうか俺を愛してくれと、そして手首に口づけた…欲望の口づけ…君が欲しいとアークフリードは、そっとエリザベスを自分に引き寄せ



「たかが口づけだとしても。それで国を守れるとしても。もう俺は、他の男に抱かれる君の姿はもう二度と見たくない。もう二度とだ!」



そう言って、エリザベスを見つめ「君を愛してる。」と言った。



エリザベスは、大きく眼を見開いて、何か言おうと口を開いたが、その唇をアークフリードは塞いだ。
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