紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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エリザベスの赤い髪が、白いシーツに広がった。


アークフリードは、エリザベスを横たわらせたベットの端に座り、その左手をとり、袖口の胡桃ボタンを外そうとした。その様子にエリザベスは、自分が晩餐会でのドレスのままだということに気づき、慌てて起き上がり「じ、自分で…」と言って、袖口の胡桃ボタンを外そうとした、 左手は外れたものの、右手の袖口の胡桃ボタンは手が震え…外せない…。


(このドレスは後ろも胡桃ボタンだ…それにコルセットも…あぁぁ)



そんなエリザベスの手をアークフリードが握り、首を横に振るとゆっくりとその手を自分の口元に持っていった。



アークフリードの唇が、白い指を食み、赤い舌が指の間を通った。
エリザベスの口から、小さなあえぎ声が零れた。アークフリードはエリザベスの耳元に唇を寄せ

「あとは、俺にやらせて…」と言って今度は耳を食んだ。



袖口のボタンは外された。自分の胸にエリザベスを囲い込み背中の胡桃ボタンに手をやった。







エリザベスの顔は、アークフリードの肩口に押し当てられていた。
逞しい素肌に触れ、エリザベスは思わず、小さな声だったが、
「いつの間に…アークは服を?」と口にしていた。


その小さな声が聞こえたのか、アークフリードは笑い…何か囁くとエリザベスは真っ赤になり、エリザベスはアークフリードの肩口に顔を押し当てたまま、「いじわる」と言ってアークフリードの胸を軽く叩いた…だが…叩いた手は震え、戸惑うように指先でそっとアークフリードの胸を触った。



それは………古い傷跡だった。



胸から腹へと薄っすらと残る傷は、13年前のあの時のだ。
あの時のパメラ叔母様に僅かとはいえ奪われた《王華》では、お父様の魔法は傷口を塞ぐので精一杯だったのだろう。


血の海の中に崩れ落ちていたアーク…恐かった。もうあんなことは嫌。

今度は必ずアークを守る。そのためなら私は…この命もいらない。





青白い月の光でうっすらと残る傷が白っぽく見えた。エリザベスはその傷に唇を寄せ、アークがここにいることの喜びに涙が溢れた。




海の中のような、青い月の光が輝く中、
そのまま、ゆっくりとベットの中に二人は沈んでいった。



白いシーツに広がる赤い髪は、シーツの海で波打ち、アークフリードの熱い唇で、何度も食まれた淡い色の蕾は、 赤く染まり白い肌の上で震えていた。白と赤のコントラストは…月の光の中、それは幻想的でもあった。


アークフリードは手をエリザベスの頬に伸ばし、やさしく頬を撫で「君を愛してる…。」と言った。
その言葉を嚙みしめるように、エリザベスは眼を瞑りアークフリードの耳元で


「どうか…あなたのものにしてください…。」と言って口づければ

「…そそり過ぎだ」と低い声で言って、指を絡めてきた。



アークはエリザベスの額に自分の額をつけて…

「やさしくするつもりだが、恐かったら、俺に縋りつけ。悪い…もうやめられない。」

と言って手が放され、アークフリードは、エリザベスの手を自分の首にまわさせた。





触れ合う肌の熱さに思わず目を瞑れば、初めて会った10歳の彼が…。血の海の中で倒れた13歳の彼が…。そして13年ぶりに銀の匙で会った彼が浮かぶ。


それぞれのアークに、エリザベスは言った、ずっと、好きだったの…と。




頬に触れる、大きな手に気がつき、そっと眼を開けた。
黒い髪に青い瞳…心配そうな顔をしたアークがいた…エリザベスも手を伸ばしアークフリードの頬に触れた。



―私の心の中にいるのは、いつもこの人だけだった。そう思うと、この場面では似合わないかもしれない満面の笑顔が出た。私はこの人が…アークが…その思いが口にでた。




「……アーク、大好き。」


幼い子供のような告白に、アークフリードは、苦笑気味に口元を緩め、同じように少年のような言葉で答えた。

「俺も大好き。」





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