紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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今日の舞踏会は前々から、決まっていたものではあったが、バクルー王が急遽ノーフォークに訪問した為、バクルー王の歓迎会のようなものになっていた。


娘の懐妊の祝いをしたいと、一ヶ月後に来訪の予定が、「もう待ちきれなくて…あはは」と笑って暴君振りを発揮させ、内外にノーフォーク国がバクルー国の属国になった印象を与えることも、計算のひとつだったんだろうと、エリザベスは、侮れないバクルー王に臍を噛んだ。


そして、今舞踏会が始まろうかというときに、ノーフォーク王とバクルー王が、王座に並んで座る姿に、やっぱりか…とバクルー王を睨みつけた。


一曲目のカドリールがスタートすると、招待客のなかで最も地位が高い男性と、女主人(あるいは娘)が踊る。この場合、ノーフォーク王妃とバクルー王が踊ることが通例だろうが、王妃が出てくるわけがない。

あれは、パメラ叔母様の形代…

バクルー王の相手は私だ…。婚約者だとノーフォーク王に爆弾発言をしたのだから当然だろう。アークの前で、この男に腰を抱かれ踊るのかと思うと、気分が悪くなりそうだった。



だが…、逃げない。もう、サイは振られた。

ゆっくりと、バクルー王が近づき、私の手をとり、甲に口づけた。

バクルー王の爆弾発言の、真意を見た大勢の招待客のざわめきが聞こえる。



「注目だなぁ…婚約者殿」


「私はまだお返事をしておりませんでしたのに、気の早いこと…。」


バクルー王は、にやりと笑うとエリザベスの腰を引いて、踊りだした。

「あそこに、睨みつける侯爵殿がいるぞ。」


ステップが乱れた…それを可笑しそうに見ながら、

「あいつには、他の女を用意している、昨日、話したブロンドの髪の女だ。まぁ、長く騙せなくていい。いや、婚姻するまでの短い時間のほうがむしろいい。婚姻後、おまえの正体を公表しなくてはならないからなぁ。その時…公爵の顔は見物みものだろうなぁ。」


エリザベスの…顔が歪むのを期待したバクルー王だったが、エリザベスは平然と、

「王妃といい…また紛い物をこの王宮に持ち込まれたのですか?ご趣味の悪いことですこと」


そう返され、反対に自分が顔を歪める事となり、バクルー王は面白くなさそうに、

「パメラといい、おまえといい、マールバラ王国の王家は口が悪いなぁ。だが…」

そう言って、人の悪い笑みを浮かべ…

「俺が連れてきた、エリザベスは可憐だぜ。マールバラ王国の内乱で、孤児になり、農家の老夫婦に育てられていたのを見つけた。あいつは記憶がないから年齢はよくわからんが、おそらく当時5歳前後だったんだろう。 ブロンドの髪と…言っているが、正直、ブロンドっていうより…どちらかというとプラチナブロンドという感じだ、だが13年も会っていないんだ、髪の色は多少薄くてもどうにかごまかせると踏んでクリアした。 瞳の色は、内乱の時に頭を、いや眼を痛めた、片方の眼は完全に瞑れ、もう片方の青い瞳は…外傷のため、うっすらとはいえ今は見えているようだが…時間の問題だろう。

そして中身をエリザベスにする事、これが一番大変だろうと思っていた。だが、あいつはその外傷のせいで、記憶がないんだ。だから新しい記憶を植えつける事でどうにかなった。吸い込みが良かったぜ。まぁちょっと時間が足りなくて不安だが…長いことアークフリードを騙せるも思っていないし、おまえとの婚姻までの間だけで…」


パンと小気味良い音が広間に響いた。


「下種の極みだわ。」バクルー王の腕から逃れ、叩いた手を握り締めバクルー王を睨んだ。


バクルー王も一瞬、眼に殺意を感じるほどの鋭さをみせたが、叩かれた頬を撫でながら大きな声で

「あぁぁ、可愛いミーナ、私が悪かった。どうか機嫌を治しておくれ。」

と猫なで声をだしてエリザベスの手を取ろうとした、だが…


「バクルー王、婚約者殿とのダンスをお許し頂きたい。」といってバクルー王より、先にエリザベスの手を とったアークフリードがいた。


三人が、ホールの真ん中で立つ中、バクルー王は嫌な笑いを見せ、

「今、わが婚約者殿は少し機嫌が悪くてなぁ…まぁ、俺がどんな男か、彼女ならわかっているだろうから、機嫌もすぐに良くなると思うが、ここは、まぁブランドン公爵にお譲りしよう。」


アークフリードは、エリザベスを自分の所有物のように言ったバクルー王に少し眉を顰め。

エリザベスは、俺がどんな男か彼女ならわかっているだろうから…と意味ありげ言ったバクルー王言葉の裏にある本意が、アークに助けを求めるのなら、アークひとりを兵士達に狙えと命令するぞと言っているのかと思うと、本当に嫌な奴だと令嬢らしからぬ舌打ちをした。

アークフリードには、エリザベスの舌打ちが聞こえたのだろう。
眼を一瞬大きくしたが笑いをかみ殺し、その様子にバクルー王は、チラリとエリザベスを見たが、黙ってその場を離れていった。


ホールに優雅なワルツが流れ始めると、アークフリードは、そっと手を取りエリザベスの腰に手を当てた。エリザベスは当てられた手に昨夜のような熱を感じ、ハッとして下を向いていた顔をあげ、背の高いアークフリードを見上げた。

「…私のことを…怒っていらっしゃらないの?」その声は、先ほどバクルー王に相対していたときとは違い、その声はか細く震えていた。

「さっきの舌打ちで、君がバクルー王に恋をしていないと確信した。」


そう言って笑い、エリザベスの腰にやる手に力をこめた。



エリザベスはさっきの舌打ちを聞かれていた事に、あゎゎと口をパクパクさせ、真っ赤になり、ステップが止まってしまったが、アークフリードが、やさしくエリザベスをリードして、また、ワルツの調べに乗り そして優雅に舞いながら…

「だが、怒っているよ。何も言わずいなくなるなんて。」


そう言って、エリザベスの耳元に唇を寄せ


「ベットで一人残されたはショックだったよ。」と囁けば

「ぁ、アーク」オロオロするエリザベスを見て、アークフリードは、男爵夫人に感謝した。




 =娘は、心からあなた様をお慕いしております。=




その言葉を信じ、バクルー王と踊る彼女に近づいた。
ふたりの間に、男と女の情は感じられず安心したが、彼女がなにをするのか心配だった。

ー打ち明けて欲しい。このノーフォークの為、いや俺のためなら尚更だ。



俺は彼女に守ってもらうのではなく、守りたいのだからとその思いをこめ、彼女の腰を強く自分に引きつけた。
アークフリードの手が問いかけているのを感じ、エリザベスは迷った…。


アークを囮にして叔母様とバクルー王を待っていたと言ったら…アークはどう思うか…嫌われるかも…それは嫌だ。
国の為ならどんなこともできるバクルー王は、私は似ているところがあるのだと思う。その顔を…冷酷非情な王女の顔を見せたくない。


短い間でも、私を愛してくれたこの腕を離したくない自分がいる。

だが、このままでは…偽者のエリザベスに時間を取られ、その間にノーフォーク王国が取られることになるかも…いや違う。嘘だ。本当は、アークが他の女性に心を奪われるかもしれないと不安だからだ。

バクルー王が用意した女性が、私にどれほど似ているかわからないが、あの時に、アークを助ける為に紫の瞳を…《王華》を失ったと聞いたら、アークなら…アークならきっと見捨てることはできないだろう。


でも、私がすべてを話したら、それをバクルー王に知られたら、100人,いや1000人の兵士達が、アーク一人狙うことになる。



魔法で、防げるかもしれない。
だが、万が一、一本の矢が、一振りの剣が、アークの急所を突いたら……。



死んだ人を生き返せることはできない。
恐い、私は…アークを見つめた。


失いたくない、嫌われてもいい。彼を死なせたくない。


アークフリードは、真っ青な顔で考えをまとめているエリザベスの肩をそっと抱いて、広間からテラスへとエリザベスを誘った…その時…。


「まぁ!エリザベス様じゃございませんか。ご無事でしたのね。」と叫ぶ、パメラがいた。


その声はアークと一緒のエリザベスではなく、テラスにひとり腰をかけているブロンドの髪の少女に向けられていた。エリザベスは隣のアークを慌ててみた。


その顔は呆然として「エ…リザ…ベ ス?」と小さく呟き立ちすくんでいた。



エリザベスは絶望で顔が歪んでいった。
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