紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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パメラは混乱していた。
うっとおしいと払いのけられた手を、またバクルー王の首に廻し縋りついたのだ。
それは…バクルー王に抱いてと懇願したということだ。


ー私は…なにをしているのだろう…

兄様、助けて、兄様…兄様…。

そうだ。兄様の《王華》を…この身に入れればきっとこの不安や戸惑いはなくなる。

昔みたいに、兄様が守ってくださる。

アークフリードから取り戻さなくては、早く、早くしなくては…。



魔法は感じるもの。《王華》もしかり、マールバラ王一族なら望めば《王華》がどこにあるのか感じるのだ。だが、パメラは心の奥底では、もう望んでいなかったのだろう、望んでいたのなら、エリザベスがアークフリードから、《王華》を取り出した時点でわかったはずだ。だが、パメラはわからなかった。

それは《王華》より、望んだものがあったということだった。



それさえもわからないパメラだった。











王宮から屋敷に戻ったアークフリードは、書斎でエリザベスの考えを自分なりに見直してみた…だが、考えはどうしても壁に突き当たる。

なぜ?彼女は自分を犠牲にしようとするのか、またそれを親であるコンウォール男爵が止めないのか。
あのコンウォール男爵がだ。あの策略家が、そんな計画を進めるのがどうしてもわからなかった。



ー考えられるのは…何かを守るために…?


なにを?…自分を犠牲にしてまで、守るものとはなんなのだ…


アークフリードの思考はここで毎回止まり、また始めに戻ってしまう…堂々巡りだった。溜息をつき、机の上に置いた酒の瓶に手を伸ばそうとした…。


それは突然だった…。



アークフリードの体の上に、パメラが現れアークフリードを押し倒したのだ。
今までも、パメラがアークフリードの寝室に現れ、誘惑することはあったが、まさか、アークフリードひとりとは、限らない書斎に、襲い掛かるなどとは…さすがのアークフリードも思わなかった。



パメラは「兄様を返して、返して」と繰り返し、言ってアークフリードの白いシャツを引き裂こうとした。



アークフリードは、パメラの狂気じみた行動に、一瞬行動が遅れたが、 白いシャツに手を掛けたその手を掴み、彼女の下から起き上がった。

「義母上!」アークフリードが怒りを滲ませ、大きな声で言った。

その声にパメラは呆然として、「ここは…しょ、書斎。」

「どういう意味ですか?兄様を返してとは…」

アークフリードには、解せなかった。

ー兄様を…キース王を、返せとは…俺が何をしたというんだ。



パメラは「私は、もう…」そう言って、魂が抜けように…座りこんだ。





パメラとアークフリードの声で、執事エパードが駆けつけ、いったい、何が…」と言って真っ青な顔で、立ち尽くしていた。 髪を振り乱し大きくめくれ上がったドレスで、座りこんだパメラの足は晒され、かたやアークフリードは、倒れた拍子に酒瓶が割れ、彼の左手を傷つけ白いシャツの袖口が、肘まで赤い血に染まっていた。



だが、アークフリードは、傷ついた手から、流れる血を気にすることなく、パメラを見てもう一度言った。

「どういう意味ですか?」

パメラは、混乱した頭で、問われるまま口にした。

「だってあなたに、兄様の《王華》があるのよ!兄さまがあなたに移したの…。 早くしないとエリザベスが《王華》を取りにくるわ。バクルー王が帰国する前には、必ず!取りに来るわ。返して…《王華》を!兄様を返して!」



俺の中に《王華》があるのか?

あの…《王華》が俺の中に…。《王華》を俺に移した?


あの内乱の時か…!



そう思った瞬間、マールバラ王の声が聞こえた。

「アーク…君に大きな試練を背負わせることになってしまった。許してくれ。」
「アーク…泣くな。お前に…重い十字架を背負わす男の為に…泣いてくれるな。」

そして…

大きな背中とブロンドの髪のマールバラ王が燃え盛る炎の中に向かって歩いてゆくのが見えた。


…髪が…紫ではなかった。

《王華》をその身から外された姿だった。でもその前に治癒魔法を俺に…。

…そうか…そうだったのか。義母上が俺に執着したのはそういう理由…。




でもバクルー王が帰国する前までに、エリザベスが取りに来る?というのはどういうことだ?

何故、バクルー王が帰国する前までなんだ?


(迫力が、王女の風格が、マール嬢には感じられない。むしろミーナのほうが、時としては恐ろしいほどの迫力を感じさせる。マール嬢よりミーナのほうが……。)

ほんの数刻前に思った、言葉が浮かんだ


そうだ…マール嬢よりミーナのほうがエリザベスみたいだ。






アークフリードは白いシャツの袖を破り、その破った袖で怪我をした手をきつく縛りながら、エパードに言った。

「悪いが、馬の用意を頼む。」

「旦那様、でも、でもそのお手では…」

「一刻も早く確かめたいことがある。エパード!用意を!」



日頃とは違う、厳しい顔を見せる主人に、エパードは息をのんだが、「かしこまりました。」と言って頭を下げ走った。まだ、ぼんやりしているパメラを見て、何か言おうとしたアークフリードだったが、パメラの哀れな姿に、痛ましい目を向け、書斎を出た…。



書斎から玄関ホールに出たときだった。

「アークフリード様」とか細い声が、アークフリードの足を止めた。


そしてその声のする方向にいる、女性に向かって言った。

「マール嬢、お聞きしたいことがあります。」低い声がホールに響いた。

「な、なにを」

アークフリードの尋常ならぬ声に、マールは震えた。


「マール嬢、記憶のないあなたに、私のことを教えたのは、バクルー王ですか?」

「い、いいえ、私は…」とマールは言葉に詰まり、傍らの侍女の手を握り、首を小刻みに振った。



その様子を見て、アークフリードはやはり彼女ではない。と確信した。







 会いに行こう。ミーナに…。いやエリザベス王女に…。




すべてを聞きたい。

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