紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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夜が明けた…。
ベットから抜け出したエリザベスは、テラスの階段に腰を下ろし、足元の小さな花を見ていた。



恐い夢を見た…恐くて叫んで眼が覚め、そのまま一夜を過ごしてしまった。
13年振りに国に戻る…それが…恐い夢を連れてきたのだろう。
恐い夢…いや、13年前にあったことを思い出したのだ、
お父様…お母様…の遺体と、お気に入りだった赤い絨毯がどす黒く変わっていた。


そして…血だらけのアークを見た。



お父様、お母様を失い、アークまで失うことは…それはもう私自身が…心が…死ぬことだった。
あの時の私は、心が死に掛けていたのかもしれない。恐怖と怒りが押さえ切れず、気がついたら、アークに群がる兵士を…王宮を壊した。


アークに何かあったら、私はまたやってしまうだろう。



足元の花に、蝶がとまった。

私は幼い頃から、まだ王位を継いでもいなかったのに賢王だと言われていたが…私は危うい。
大事な人たちを守る為なら…躊躇なくまたやるだろう。
もし…バクルー王を殺さなくては…大事な人を守れないなら、私はきっとやる。



風が吹いた…。
ナイトドレスの裾が足元の花にあたり、とまっていた蝶が驚いたように飛んでいってしまった。


エリザベスは、蝶を眼で追いながら…アークを思った。
今頃、アークは港町オクトに着いただろうか。


マールがオクトにいることは感じている。


だが、海神祭で多くの人出だ、その中でアークはマールを見つけることができるだろうか…。

果たしてペンダントを取り戻せるだろうか。




悪いことを考えれば切りがない、今はアークを信じるだけ。
エリザベスは、手を握り締めた、この手の中に必ず幸せを掴む。



私は負けない。今度は13年前とは違う。











マールバラへはバクルー王、パメラが乗った馬車、コンウォール男爵夫妻、エリザベスが乗った馬車の2台で昼少し前に出立した。バクルー王とエリザベスの婚約を祝う華やかに式典の中、優雅に走り出した2台の馬車だったが…2台の馬車どちらとも、華やかな式典とは裏腹に、 馬車の中は重く暗いものだった。


先頭を走る馬車の中…。

パメラは斜め前に座ったバクルー王には、眼も遣らずぼんやりと外の景色を見て、バクルー王は訝しげな顔でそんなパメラを見ていた。


ーこの女…、いったいなにを考えている、俺に体だけじゃなく、心まで抱いてくれる愛を求めたと思えば、今はまったく関心のない顔で、ぼんやりしている。
おしゃべりな女ではないがこのところのパメラはおかしい、心ここにあらずという感じだ。《王華》のこともだ。
《王華》を持っているアークフリードが消えたと言うのに、慌ててもいない。

それどころか、マールバラに行きたいと言う。あれほど祖国マールバラを毛嫌いしていたのに…なにを考えているこの女。 裏切るつもりか?…いや、まさか…まさかエリザベスにつくとは思えない。



バクルー王は、なにを考えているのか読めないパメラに、 不安と苛立ちを抱えて、パメラを睨むように見ていた。







エリザベスとコンウォール準男爵夫妻が乗った馬車も、重い空気の中だった。


アークから、今だ連絡はなかったが、間違いなくペンダントはオクトにある、見つけてくれると信じている…だが、私はマールバラへと向かっている。

私達が着くのは、おそらく今夜。
私がマールバラの女王エリザベスと、公に公表するのは…明日だろう。そしてアークがペンダントを取り返してくれても、マールバラに着くのは…明後日。


今日と明日の2日間を乗り切れば…勝算はある。エリザベスは、コンウォール夫妻を見た、実の親よりも長く父と呼んだ、母と呼んだ人達だ、必ず守る。
例え、私がどうなってもだ。そうだ《王華》は一つだけではない。私自身が持つ《王華》がある。
この力はふたりの為に使う。実の父と母のようなことにはさせない。


必ず守り抜く。







コンウォールは王の魔法がない今、エリザベスに無駄は魔法は使って欲しくなかった。エリザベスが自分達を守る為に、魔法を使おうとする前には、自害するつもりだ。コンウォールは、隣に座る妻を見た…彼女は置いていくつもりだった。妻を道連れにはするつもりはなかった。妻を守る為にあらゆる手段を整えていた、そして、私にもしものことがあれば、 妻の身の振り方も…整えていた。だが…妻は…この話を切り出す前に私に言った。


「あなたの覚悟は、わかっております、ですが…私は、あなたのお側を離れるつもりはありません。冥府の国へのお供は、どうか私にお任せくださいませ。それに娘の婚約式に行かぬ、母親はおりません。」と言って微笑んだ。



だが、コンウォールは妻の覚悟を聞いた今でも…彼女を連れて死に赴くことを躊躇していた…。






バクルー王、パメラ、コンウォール準男爵夫妻、そしてエリザベスは、それぞれの思いに心を重くしていた。



だが運命は待ってはくれない。

彼らが望む幸せは違う、それは数日後には、不幸に落ちた誰かがいるのだ。 

誰かが、幸せの輪から外れる。





その頃、幸せを掴む鍵とになる、アークフリードがマールバラへと馬を走らせていた。



間に合えば…エリザベスたちが…


間に合わなければ…バクルー王が…


時間が迫りつつあった、



誰かの破滅へと…



そして誰かの幸せへと…





運命の女神は誰に微笑むのだろうか。



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