紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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マールバラで迎えた13年ぶりの朝は、気分が重かった。


いったい誰の前で、魔法を見せろと言うのだろうか。そして、誰に私をエリザベスだと認めさせたいのだろか…。
考えられるのは…マールバラの上位貴族、いや彼らは、もともと内乱を企てた輩だ。
ならば…コンウォールの父が言っていた…市民の代表。レジスタンス活動家?


バクルー王への抗議から始まったと言うレジスタンス運動だが、決して13年前の王政を望んでいるという話は聞かない。だから、私がエリザベスと証明しても意味が無いと思うのだが…。


まぁ建前なのだろう。

マールバラの王女が戻ってきたという建前。




コンコン




「エリザベス様。」そう言って入ってきたのは、コンウォール夫人だった。

「そろそろ、お時間だそうです。」と平静を装っていたが、コンウォール夫人のその顔は青褪め、眼は真っ赤だった。

「わかりました。」とエリザベスはにっこり微笑んだ。

コンウォール夫人は、昨夜バクルー王が部屋を出た後、エリザベスが泣いていたのを知っていたが、夫に今、私達がやることは一緒になって泣くことではない、今やることは、一緒に戦うことだと止められ、なにも出来ずに、ただ扉の前で一緒に泣くことしかできなかった。




そしてエリザベスは、コンウォール夫人が昨夜、扉の前で泣いていたことに気づいていた。
ーあれから、眠ってなかったのね。

エリザベスはゆっくりとコンウォール夫人に近づくと、腕をコンウォール夫人の首にまわし、幼い子供が母に甘えるように、顔をコンウォール夫人の首筋につけ


「私は本当に幸せです。ふたりの父と、ふたりの母がいて、私を愛してくださる。だからまだ頑張れます。大丈夫です。」と言った。


己を鼓舞する為に、主従関係に戻ったのに、夫ほど心にけじめをつけ切れなかったコンウォール夫人は、久しぶりに母と呼ばれたことに涙した。







謁見の間…。ここは……お母様が13年前自害された場所だ。
ほんの数分前に、コンウォールの母に大丈夫と笑ったのに、心が折れそうになってしまいそうだった。
だが、大きく深呼吸をすると、衛兵に扉を開けるように言った。

重々しく開けられた扉の向こうには、マールバラとバクルーの上位貴族10人前後、コンウォール男爵夫妻、そして男女合わせて5人の年齢も10代~20代と思われる人々がいた。



その中のリーダー的な若者が、眉を顰め、謁見の間に入ってきたエリザベスを睨みながら
「なんだ~!この女がエリザベス元王女だというのか?」と大きな声で怒鳴った男が、エリザベスの眼の端に入ってきた。

だがエリザベスの眼に入ってきたのはそれは…色としてだった。それは黒と青…アークフリードの色だった。

エリザベスは、その男……ジェラルドに眼をやり…あぁ…違う…と口にした。

ー黒い髪に…瞳の色は青だが…アークのほうがもっと濃い青だ。
でも、同じ色合いを持っているのに…なんだが残念な男。

そう思ってハッとした、こんな時に私ったらと…。さっきまで心が折れそうなくらい緊張していたのに、なんだか可笑しくて堪らなくなった。



ー上位貴族達も大きな声ではなかったが、こそこそと言っているのがわかった。
どうやら、歓迎はされていないらしい。やっぱり13年前の王政に戻りたいわけではないんだ。


なにも言わないエリザベスに、その若い男は、今度はバクルー王に向かって、噛み付いた。
「バクルー王。どういうおつもりですか。我々は、エリザベス王女が戻られたと言う話で、ここに来たのであって、茶番劇を見に来たのではありません。 髪の色も瞳の色も違う女をエリザベス王女と言って、よく連れてこられましたね。」

バクルー王は、にやりと笑った。


エリザベスは、コンウォール男爵からの情報を思い出していた。




ーレジスタンス…。

外国による侵略や専制などに対し、自由と解放を求める政治的抵抗、確かに多くの国民は、バクルー国がパメラ叔母様と上位貴族による内乱に託けて、マールバラを占領したことに対する、不安や恐れから、レジスタンス運動へといったのだろうが…。
このリーダー的存在の若い男、確かミンスター子爵の三男ジェラルド。コンウォールの父の調べでわかったが、どうやらこの男は、海の向こうの大陸サザーランド国の息が掛かっているらしい。サザーランド国は昔からマールバラ王家との縁戚を望んでいた。つまりマールバラの王に、うちの息子なり、娘を貰ってくれ、そしてノーフォークのように結界を張って国を守ってくれと言うことだ。
だが、マールバラ王国は滅亡した、新たに考えたのがマールバラを足がかりに、この大陸での力を増すことだったのだろうが、バクルー国が簡単にサザーランド国をこの大陸に入れるはずはない。まぁ…サザーランド国も様子見だったのだろう、マールバラを手に入れる方法を探るつもりで、このミンスター子爵の三男ジェラルドを利用していたところに…王女が生きていた、そしてマールバラに戻ってきた。

緊張して、敵地と言ってもいいマールバラの王宮に、それもバクルー王もいる中やってきたら、扉の向こうから現れた女は赤い髪に緑の瞳の女。やる気満々だったのに…そりゃ、怒鳴りたくもなるわよね。


なにも言わずにやにやと馬鹿にしたように笑うバクルー王に、またエリザベスの落ち着き払っている姿に、ジェラルドは頭に血が上っていった。



「あぁ、そういうことか…我々のようなマールバラの上位貴族は知っている事ですが。田舎の王であるあなたは、我が国の民と同様にご存じなかったということですね。いいですか。エリザベス王女は生まれながらに《王華》をもっていらっしゃるのです、つまり紫の髪と瞳を持っていらっしゃるのです。……失敗ですね、バクルー王。」

バクルー王は「はぁ~」とわざとらしいため息を吐くと

「ジェラルド殿は少し勉強されたほうが良いなぁ。13年の間、誰にも見つからなかったのは髪の色と瞳の色を変えていたとは思わないのかなぁ。」



ジェラルドの顔が赤く歪み

「では!!……では魔法を見せていただこう!!」とバクルー王を睨み、そしてその視線をエリザベスに向けた。


エリザベスは、バクルー王がジェラルドを挑発することに眉を顰めた。

ーこういう男は、あまり挑発して欲しくない。切れたら何をするかわからないのに…。


「なぁ、エリザベス。ひとつ魔法を見せてやってくれ。」とバクルー王は、エリザベスに向かって笑いながら言った。エリザベスはまさしく大道芸人だ…。と心の中で呟いてはいたが、顔は微笑み

「バクルー王、なにを致しましょうか。」とやわらかい声で言ったら、バクルー王は、いつもと違うエリザベスに、大きな声で笑った。


その様子がジェラルドには、また自分が馬鹿にされたように感じたのだろう。顔がどす黒く なっていった。


「まぁ、そこの椅子でも、消してくれ。」とバクルー王が言ったと同時に、エリザベスの髪と瞳がライラックのような柔らかい紫に変わりに、みんなが呆然とする中、微笑んだエリザベスが指を鳴らし…椅子が消えた。



謁見の間にいた、マールバラとバクルーの上位貴族、そして市民の代表として来ていた4人から、おぉっ~と声が出た。だが…ひとり…ジェラルドだけは、鼻で笑いながら、エリザベスのほうに近づいてきた…。不審な動きに、エリザベスの側にいた コンウォール男爵夫妻は、エリザベスに前に出た…その時だ。



「やはりこれだろう!!治癒魔法を見せてもらおう!!」と叫び、 ジェラルドは隠し持っていた短剣で、コンウォール夫人の胸を刺し、そして夫人を助けようとしたコンウォール男爵の腹を刺した。



ふたりは重なるように赤い絨毯の上に倒れて行った。



その光景は…13年前のキース王とリリス王妃の姿と重なった。



心が13年前に飛んだ…あの時、この謁見の間に辿りついたときには、すでにお父様とお母様は…。



ー嫌…だ、もう…あんな思いは…嫌…

コンウォールが苦しい息の下から、「魔法を…使っては…なりません…」と言う声に…エリザベスは「いや~!!!こんなの絶対に嫌!」と叫び、ふたりに治癒魔法を使った、それと同時にエリザベスの周りにつむじ風が起こり、その風はジェラルドを壁に叩きつけ、そしてバクルー王の左眼から唇にかけてあった傷跡に、新しい傷を作った。

部屋にいた者は、コンウォール夫妻とエリザベスを除いて、体のどこかを切り裂かれていた。

エリザベスの緑の瞳は鋭く光り
「バクルー王!わざと…わざと!この男が切れるようにしたのでしょう!あなたがこの男のやりそうなことを読めないはずはない!…許さない。絶対に許さない!!」



そう言ったが、体は限界だった。両膝が床についた…く…悔しい、



もう、もう力が入らない。 アーク、アーク…。エリザベスの意識は途切れていった。

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