66 / 78
65
しおりを挟む
バクルー王は、左の頬にできた新しい傷を触りながら、先程のエリザベスを思い出していた。
ー確かにあのジェラルドを挑発したが、それは俺のほうにその刃を向かわせるようにする為だった。
そこでほんの少し怪我をして、ジェラルドは一国の王を殺そうとしたという事で、死罪に持っていき、エリザベスにマールバラ王家の秘中、治癒魔法を俺に使わせる事で、内外にマールバラのエリザベスだと認めさせる計画だったが、まさかコンウォール夫妻に暴挙を働くとは…思っていなかった。
エリザベスにとってコンウォール夫妻は泣き所だとは思っていたが、まさかあれほど荒ぶるとは…。
しかし、運が良かった。
あの時エリザベスが倒れなければ、俺はこの左の頬の傷どころか、首を刎ねられていたかも知れん。
それにしても倒れるとは…思わなかった。いくらしっかりしていてもまだガキだから、精神的にも肉体的にも参っていたんだろうか?だがなぁ…そんなか弱い女には見えないが…。
まぁいい、とりあえずマールバラのエリザベスだと連中は認めただろうし…。
だがジェラルドは混乱に紛れて逃げられ、エリザベスに本気で怨まれる事になったのは誤算だった。
「…しょうがない。今後の事もあるし…エリザベスのご機嫌でも取りに行くか。」
バクルー王は、エリザベスの眠る部屋へ赴く為に、扉に手をかけた時だった。
突然、自分以外誰もいないはずの部屋なのに後ろから声をかけられた。
「エリザベスの所には、行かないほうがいいわよ。」
「パメラ…」
「今近づいたら、コンウォールに殺されるわ。」
そう言って、淡い青色のソファに座り、呆れたように
「リリスのお気に入りの青いソファまで再現しているの?バクルー王はロマンチストなのね。」
そう言って笑うと、ソファを撫で
「ねぇ、バクルー王。あなたは前王妃の一人息子となっているけど、本当の母親はノーフォーク国の農家の娘だなのよね。前王が旅先で見初め、生ませた子供があなた。王妃との間どころか、手を出した女達、誰ひとり子供ができなかったから…。あなたは引き取られ、王妃の息子として育てられた。
でも王妃はひどい母親だったらしいわね。その頬の傷は戦でできた傷ではないのでしょう。あの王妃に付けられた傷。あなたも私と同じ…愛情を知らない。だから、その傷を優しく労わったリリスが忘れられない。初恋だったのかしら…。」
バクルー王はパメラの言葉に笑い出した。
「突然なにを言うかと思えば、確かに俺の素性はそうだ。だが実の母親の祖国が欲しいとか、リリスが忘れられないとか、そんな青臭いことを考えちゃいない。初恋?そうだったかもしれんが、だからと言ってキース王から奪い取るとか思ってもいなかった。この王宮で死んでいるのを見て、哀れだと思ったが別に仇をとろうとも思わなかった。ノーフォークが欲しいのは海があるからだ。」
そう言ってバクルー王はまた笑い、パメラはバクルー王を見つめた。
お互いの腹の探りあいは、短い時間だった。
パメラは口元を緩め、ひとこと「そう…ならいいわ。」と言って姿を消した。
パメラが現れたのは、あの地下牢だった。
「まさかここも再現していたとは…」と言って笑うと、「ここが一番落ち着くなんて…バクルー王を笑えない。私も相当壊れているわ。」
跡継ぎとしてバクルー国に連れてこられた子供に、王宮での居場所なんてなかっただろう。私と同じだ。
初恋の相手をずっと引きずっていることも…私と同じ。いや、それに気づいていないバクルー王は、私より哀れかもしれない。真実の愛を、自分を愛してくれる人をずっと求めているのだろう。
私は…愛と言うのは、男と女の間にしか生まれないものだと思っていた。
だから、この愛しいと思う気持ちが、恋愛だと思っていた…肉親への愛があるなんて知らなかった。
バクルー王…あなたがエリザベスが気になるのは、リリスへの思いだと気がついたほうが良い。
エリザベスへの執着は、私と同じ不幸を招く。
バクルー王には、パメラの言っている事がわからなかった。
だが、今はやることがあると、パメラの言葉を頭から出すように、頭を思い切り横に振った。エリザベスの存在を確かめたジェイドを逃したことで、計画を大幅に変えなくてはならない。おそらくサーザーランド国が動く。体調を崩したエリザベスなら攫うことも出来るからだ。そして、コンウォール夫妻へのエリザベスの思いは…今回の事でよくわかったろうから…。エリザベスを思い通りに動かす為に、コンウォール夫人も一緒に攫う。
…そうやって考えると、俺も同じ事をやっているんだなぁ。
通りで俺はエリザベスに嫌われるわけだ。そう言ってバクルー王は自嘲気味に笑った。
アークフリードとライドは、今まで、携帯食で腹を満たしていたが、予定より早くマールバラに着きそうだという安堵から、次の町で馬の交換の時に食堂に入った。
「今夜到着は厳しいかもしれんが、明朝には確実だ。いよいよだなぁ、アークフリード。」
「あぁ、ようやくだ。」とアークフリードの疲れた顔にも、笑みが浮かんだ。
ーここに来るまで、何度、このブロードソードを抜いたことか…。だが、これからだ、これからが本番だ。
その時、店のなかに入ってきた商人たちが騒いでいた。
「おい、聞いたか?マールバラの王宮に、サザーランド国が突入と言う噂を…。」
「おうよ。どうやら本当らしいぜ。この先の街道筋にある町、確かミンスター子爵領内にサザーランド国の兵士が集まっているらしい。なんかよ、”王女様をわれらの手に”って叫んでるらしいが、王女様って誰のことをいってんだろうな。」
アークフリードとライドは、眼を合わせ立ち上がった。
サザーランド国は、昔からマールバラ王家を欲していた。
まさかと思うが、王女様というのはエリザベスの事か?エリザベスを攫いに?いや魔法を持つエリザベスを攫うことは困難だ…なにがあった?
エリザベスを攫うことが出来ると判断したのは、どういう理由からだ?。
何かがあったのだ、エリザベスの身に…
ライドとの間に言葉はなかった、ただマールバラへと馬を走らせた。
ー確かにあのジェラルドを挑発したが、それは俺のほうにその刃を向かわせるようにする為だった。
そこでほんの少し怪我をして、ジェラルドは一国の王を殺そうとしたという事で、死罪に持っていき、エリザベスにマールバラ王家の秘中、治癒魔法を俺に使わせる事で、内外にマールバラのエリザベスだと認めさせる計画だったが、まさかコンウォール夫妻に暴挙を働くとは…思っていなかった。
エリザベスにとってコンウォール夫妻は泣き所だとは思っていたが、まさかあれほど荒ぶるとは…。
しかし、運が良かった。
あの時エリザベスが倒れなければ、俺はこの左の頬の傷どころか、首を刎ねられていたかも知れん。
それにしても倒れるとは…思わなかった。いくらしっかりしていてもまだガキだから、精神的にも肉体的にも参っていたんだろうか?だがなぁ…そんなか弱い女には見えないが…。
まぁいい、とりあえずマールバラのエリザベスだと連中は認めただろうし…。
だがジェラルドは混乱に紛れて逃げられ、エリザベスに本気で怨まれる事になったのは誤算だった。
「…しょうがない。今後の事もあるし…エリザベスのご機嫌でも取りに行くか。」
バクルー王は、エリザベスの眠る部屋へ赴く為に、扉に手をかけた時だった。
突然、自分以外誰もいないはずの部屋なのに後ろから声をかけられた。
「エリザベスの所には、行かないほうがいいわよ。」
「パメラ…」
「今近づいたら、コンウォールに殺されるわ。」
そう言って、淡い青色のソファに座り、呆れたように
「リリスのお気に入りの青いソファまで再現しているの?バクルー王はロマンチストなのね。」
そう言って笑うと、ソファを撫で
「ねぇ、バクルー王。あなたは前王妃の一人息子となっているけど、本当の母親はノーフォーク国の農家の娘だなのよね。前王が旅先で見初め、生ませた子供があなた。王妃との間どころか、手を出した女達、誰ひとり子供ができなかったから…。あなたは引き取られ、王妃の息子として育てられた。
でも王妃はひどい母親だったらしいわね。その頬の傷は戦でできた傷ではないのでしょう。あの王妃に付けられた傷。あなたも私と同じ…愛情を知らない。だから、その傷を優しく労わったリリスが忘れられない。初恋だったのかしら…。」
バクルー王はパメラの言葉に笑い出した。
「突然なにを言うかと思えば、確かに俺の素性はそうだ。だが実の母親の祖国が欲しいとか、リリスが忘れられないとか、そんな青臭いことを考えちゃいない。初恋?そうだったかもしれんが、だからと言ってキース王から奪い取るとか思ってもいなかった。この王宮で死んでいるのを見て、哀れだと思ったが別に仇をとろうとも思わなかった。ノーフォークが欲しいのは海があるからだ。」
そう言ってバクルー王はまた笑い、パメラはバクルー王を見つめた。
お互いの腹の探りあいは、短い時間だった。
パメラは口元を緩め、ひとこと「そう…ならいいわ。」と言って姿を消した。
パメラが現れたのは、あの地下牢だった。
「まさかここも再現していたとは…」と言って笑うと、「ここが一番落ち着くなんて…バクルー王を笑えない。私も相当壊れているわ。」
跡継ぎとしてバクルー国に連れてこられた子供に、王宮での居場所なんてなかっただろう。私と同じだ。
初恋の相手をずっと引きずっていることも…私と同じ。いや、それに気づいていないバクルー王は、私より哀れかもしれない。真実の愛を、自分を愛してくれる人をずっと求めているのだろう。
私は…愛と言うのは、男と女の間にしか生まれないものだと思っていた。
だから、この愛しいと思う気持ちが、恋愛だと思っていた…肉親への愛があるなんて知らなかった。
バクルー王…あなたがエリザベスが気になるのは、リリスへの思いだと気がついたほうが良い。
エリザベスへの執着は、私と同じ不幸を招く。
バクルー王には、パメラの言っている事がわからなかった。
だが、今はやることがあると、パメラの言葉を頭から出すように、頭を思い切り横に振った。エリザベスの存在を確かめたジェイドを逃したことで、計画を大幅に変えなくてはならない。おそらくサーザーランド国が動く。体調を崩したエリザベスなら攫うことも出来るからだ。そして、コンウォール夫妻へのエリザベスの思いは…今回の事でよくわかったろうから…。エリザベスを思い通りに動かす為に、コンウォール夫人も一緒に攫う。
…そうやって考えると、俺も同じ事をやっているんだなぁ。
通りで俺はエリザベスに嫌われるわけだ。そう言ってバクルー王は自嘲気味に笑った。
アークフリードとライドは、今まで、携帯食で腹を満たしていたが、予定より早くマールバラに着きそうだという安堵から、次の町で馬の交換の時に食堂に入った。
「今夜到着は厳しいかもしれんが、明朝には確実だ。いよいよだなぁ、アークフリード。」
「あぁ、ようやくだ。」とアークフリードの疲れた顔にも、笑みが浮かんだ。
ーここに来るまで、何度、このブロードソードを抜いたことか…。だが、これからだ、これからが本番だ。
その時、店のなかに入ってきた商人たちが騒いでいた。
「おい、聞いたか?マールバラの王宮に、サザーランド国が突入と言う噂を…。」
「おうよ。どうやら本当らしいぜ。この先の街道筋にある町、確かミンスター子爵領内にサザーランド国の兵士が集まっているらしい。なんかよ、”王女様をわれらの手に”って叫んでるらしいが、王女様って誰のことをいってんだろうな。」
アークフリードとライドは、眼を合わせ立ち上がった。
サザーランド国は、昔からマールバラ王家を欲していた。
まさかと思うが、王女様というのはエリザベスの事か?エリザベスを攫いに?いや魔法を持つエリザベスを攫うことは困難だ…なにがあった?
エリザベスを攫うことが出来ると判断したのは、どういう理由からだ?。
何かがあったのだ、エリザベスの身に…
ライドとの間に言葉はなかった、ただマールバラへと馬を走らせた。
0
あなたにおすすめの小説
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語
まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
恋は、やさしく
美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。
性描写の入る章には*マークをつけています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる