紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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アークフリードは、エリザベスの紫の髪を触りながら…ポツリと言った。

「13年前、この場所はエリザベス…君と別れた場所だろうか?」


エリザベスは、アークフリードが覚えていたことに驚いた。




この部屋は一見、神殿のような感じで建てられていたが、ここは王一族が何らかの事情で、王宮を秘密裏に出るためにエリザベスの6代前の王の時代に作られた部屋だったが、今までにここから外へと脱出した王はいなかった為か、この部屋の本当の意味での役割を知る者はほとんどいなかった。

だからマールバラ王は、コンウォール男爵にいざと言うときには、この部屋でリリスとエリザベス、そしてアークを王宮からの脱出を頼んでいたのだが…。マールバラ王の願いは叶わなかった。

マールバラ王とリリス、アークの異変を感じたエリザベスは、コンウォールをこの部屋に残して飛んだのだ。
だが、両親の気配は消え、そしてアークはせっかくマールバラ王が塞いでくれた傷が開き、ぐったりとしていた。13年前、エリザベスはそんなアークフリードにもう一度治癒魔法をかけ、コンウォールにアークを助け出す手配を頼む為に、この部屋に魔法で移動したのだった。





本来の紫の髪と瞳でもなく、対外的に見せていたブロンドの髪と青い瞳でもない、赤い髪と緑の瞳で現れたエリザベスを見て、あの時コンウォール男爵はエリザベスが何をしたいのかすべてわかったようだった。

『アークフリード様とご一緒には行かれないのですね。わかりました。アークフリード様は、私の命に代えましても、必ず…ノーフォーク王国にお連れ致します。』

ー 私は、あの時…マールバラ王国のエリザベスは行方不明…いや死んだと思われたかった。


そうなるとアークフリードとは一緒にいられない。


アークフリードの顔を両手で挟み、

『アーク…我儘ばかり言って困らせてばかりの私を、いつも笑って許してくれてたわね。でも今度ばかりは、叔母様を嵌めるために《王華》をあなたの中に残し、囮にした事を…あなたは許してはくれるはずは…ないわね…きっと。でもアーク。 あなたにひどい事をする私だけど、本当に、本当に、あなたが大好きだった。』



エリザベスは、アークフリードの唇に始めて触れた。ファーストキスだった。



アークフリードが覚えているのは…。
エリザベスの最後の言葉…大好きだったと言う涙声と拙いキス。
そして、あの女神像の中に、消えていく赤い髪のエリザベスの姿だった。

ずっと、夢だと思っていた。だがコンウォール男爵からの知らせで、この隠し部屋の存在を知り進入し…この女神像を見て夢でなかったことを知った。







アークフリードの言葉に紫色の瞳を揺らしながら、エリザベスはアークフリードに言った。

「あの時、意識は戻っていたの…?」

「半分ぐらいは朦朧としていたよ。でも君が大好きと言って熱烈なキスをしてくれたところは、はっきり覚えている」と青い瞳が悪戯ぽく輝いた。

「ぁ、アーク!!!熱烈じゃないわ。ちょっと触れただけよ。だって初めてだったのよ。ファーストキスだったんだもん、そんな…熱烈なんてできないわ。」


エリザベスのその言葉に…アークフリードはバツが悪そうに、「…ファーストキスじゃない…」とボソッと呟くように言った。


「えっ?」

「君が!君が5歳の誕生日の時に、そのペンダントをプレゼントしたときだ。はしゃぎすぎて、眠ってしまった君に…」

「眠った私に?」

「…俺はキスをしたんだ……だからファーストキスじゃない。」

「えっ?!ええええっ~!!!」」




扉の外までも聞こえるふたりの会話に、聞いてられないと真っ赤な顔でライドはため息をついた。

ーこんな非常時になにやってんだよ!!これはもう止めないと、真っ赤な顔の両頬を叩き部屋に入ろうとしたときだ。 体が突然震えた…これは尋常じゃない殺気だと感じ…ゆっくりを剣に手を伸ばせば…。

「アーガイル伯爵。その手を剣から遠ざけては貰えなかなぁ。」

背後から聞こえた声は、やっぱり…あの人か…「バクルー王…。」搾り出すような声でライド言った。


「おや、私を声だけだわかってもらえるとは…。」

ライドは背中に固い剣先を感じ、額から汗が流れるのを感じた。


「どうしてここが…」

「この王宮を再建した折になぁ、この部屋を見つけた。そして、この男…」と言って蹴り上げた。

男の呻く声が聞こえた…バクルー王が蹴った男は両腕を縛られ、足に怪我を負ったフリールだった。

「この男が教えてくれた。そこの馬鹿なレジスタンス活動家が、エリザベスを連れて王宮の奥に行ったと。」


そう言って、今度は腰を抜かし…ヒィヒィと泣くジェラルトを蹴った。

「…嫌だと言ったら」

「困ったなぁ、おまえを切ればまたエリザベスに恨まれるだろうなぁ、う~ん…じゃぁこの男を憂さ晴らしに切る。」と言って躊躇なくジェイドの顔を切った。


うぎゃぁ!!と叫び声を上げ、ジェイドが顔を抑えた。どうやら…眼までやられたのだろう…。狂ったように、床を転げまわっている。


ライドは、こんな男を助ける気はなかったが、目の前で狂ったように、床を転げまわる姿は居た堪れなかった。ライドは、アークフリードがペンダントをエリザベス様に渡したことは、外に聞こえる会話でわかっていた。どうする?アークフリードを、エリザベス様を信じるしかないのか…それでも迷った。


いや、ダメだ!開けたらダメだ。エリザベス様が、もう一つの《王華》を身に纏ったか確認していない以上、開けてはいけない。切り札のエリザベス様をここで失うわけにはいかない。ライドの決意が、バクルー王にもわかったのだろう、彼の目が忌々しげに歪んだ。ライドは…覚悟を決めた…だが…パタンと言う音が聞こえ、眼の前の扉が開いた…。


謁見の間で見たエリザベスの紫の髪や瞳より、鮮やかな紫にバクルー王は声が出なかった。


あの時はお腹の子に魔力を取られていたこともあったが、エリザベスは魔力を全部解放していなかったのだ、だからライラックのような柔らかい紫だったが、今、目の前にいるエリザベスは…自分の中の《王華》とマールバラ王が代々受け継いできた《王華》の力で、魔力がすべて解放され、その威力も増大した…ヴィオレと呼ばれる鮮やかな紫を纏った姿エリザベスだった。


鮮やかな紫の瞳でバクルー王を見つめ

「バクルー王…決着をつけましょう。」


「その姿が本当の姿か…だが…まだだ。」そう言うとバクルー王は、にやりと笑うと「パメラ!」と叫んだ。



そこにコンウォール夫人を連れたパメラが、一陣の風と共に現れた。

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