紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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政略結婚は、王家では当たり前の話だ。
ましてや、いくらマールバラの国民が、エリザベスを女王としてまた迎えても後ろ盾は必要だろう。


エリザベスは賢王に成りえる資質を持っているが、今の不安定なマールバラを治めていくのには、なにもかも彼女一人では大変だ。同じことがバクルー王にも言えた、あちらこちらに子と妾妃はいるが、誰をも納得させ王妃になり得る女性はいなかった、もし、エリザベスが王妃になれば、あの魔法の国の女王がなるのだから、誰も反対はできないだろ。どちらの国にしても、損はなかった。


だが…なぜ?



アークフリードは、その手紙を握り締め、もう一度繰り返し言った。
そう…だがなぜ、偽名を使ってまでバクルー王は、こんなことを言ってきたのだろう?まるで、おまえはどう動く?いや動いてみろ!と言われているように感じるのは、気の迷いだけではないと俺は思う。バクルー王がわざわざ俺に、宣言してくるのには必ず意味があるはずだ…。


そして、コンウォール男爵、あの隠し部屋にコンウォール夫人が捕らえれていたと言う事はコンウォール男爵も、エリザベスと繋がりがあるのではないだろうか…。



今夜、この大雨の中、来る理由はひとつだ。エリザベスだ。
だが…あの赤い髪と緑の瞳の女性の正体を確かめなくては、俺は…前には進めない。

コンコン……扉を叩く音で、アークフリードは震えた。



「お兄様、フランシスです…よろしいですか?」という声に、大きく息を吐いた。

息を吐きながら、自分にもこんなに気が弱いところがあったことに、苦笑した…情けない。扉が開く音で、振り返ったアークフリードは、今度は息が詰まった。


「フ…ラン…シス…、おまえ…歩いているのか!!」

フランシスの右手には、まだ杖があったが一人でアークフリードの部屋まで歩いてきたのだった。

「もちろんです。お兄様」とにっこり笑う、フランシスの横からライドが顔をだした。

「ライド…」

「俺は、歩く練習の手伝いさ…。」

そう言って、ライドはフランスと腕を組んで書斎に入ってきた。

「フランシス、おまえ…歩こうと思ってくれたんだなぁ…」とアークフリードは言って、今度はライドのほうに顔を向けて

「ライド、ありがとう。フランシスを…歩けないことが母への償いだと信じていたフランシスの気持ちを前向きにさせてくれて…」

ライドは首を振った。そしてフランシスを見て、ライドは言った。

「フランシス嬢を歩く切っ掛けを作ってくれたのは…ミーナ嬢だ。いや…エリザベス様か…」

アークフリードの瞳が揺れ、「ミ…ナ?」と唇がかすかに…動いた。

フランシスは、零れ落ちる涙を抑えながら

「私がお母様への償いどころか、お兄様に迷惑をかけていていたことに、気づかせてくださったのはそれは……「すみません、フランシス様…そこから先は…私に…」」と声が重なった。



それは執事のエパードに案内されたコンウォール男爵だった。

コンウォールは、アークフリードをじっと見て…下を向き、「やはり、まだなのですね。まだ記憶が…」と寂しそうに言った。



だが、気を取り直したように、にっこり笑い、「では、参りましょう。」と言ったのだった。

「だなぁ…雨も止んだことだし、そろそろ…」とライドまで言い出した。

フランシスは、先程の涙がまだ頬に残っていたが、口元に笑みがあった。

「そうですわ…早く」そう言って、ライドの顔を見つめ、そしてコンウォール男爵を見て「おねがいします。」とふたりに頭を下げた。


アークフリードは、エパードに引っ張られるように、部屋から連れ出された。

「な、なにが…あるんだ。」

アークフリードは、そう言って後ろのライドとコンウォールを見て、「悪いが…俺は…」とアークフリードの言葉を止めたのは、ライドだった。

「わかってるさ。外に行く気分ではないのだろう…、だが今夜は付き合ってもらう。なぁコンウォール殿」

「ええ、付き合って戴きます。」







どれくらい走っただろうか…。


止んだとはいえ豪雨でぬかるんだ道を馬車で、走りようやく目的地についた頃は、もう真夜中だった。











その頃、マールバラでは、エリザベスがコンウォール夫人と一緒に、夕食後お茶を頂いていた。コンウォール夫人は、あの後、マールバラに滞在していた、それはエリザベスを喜ばせていた。

なぜなら毎日のように、陳情に来る貴族たちに、辟易していたからだ、今夜もコンウォール夫人との食事の後のお茶は、エリザベスがようやく一息できる時間だった。いつもはそのことをわかっているコンウォール婦人はエリザベスにゆっくりしてもらう為に、雰囲気をとても大事にしていてくれた。だが今日のコンウォール夫人は浮かない顔で、時折、溜め息を吐いて、ぼんやりとエリザベスを見ては、また溜め息を…ついていた。

「どうしたの?浮かない顔で…」

「エリザベス様、実は…」と言ったが、エリザベスの顔を見ると口を閉ざし、その表情は固かった。

「何か、悩みが?私に出来ることなら…」とエリザベスが言った途端、その言葉を待っていたかのように、コンウォール夫人は一気に話し出した。

「エリザベス様!…実は…、アークフリード様に縁談が…ライド様の…従姉妹に当たる方で…」

エリザベスは呆然とした…忙しくてアークフリードとの間は相変わらずだが…でも まだ半月足らず……それなのに…縁談だなんて

「今夜、【銀の匙】で、お会いになるそうなんです。」

「銀の匙?まさか…コンウォールの父様も…このお話に乗り気なの?」


コンウォール夫人の顔色は青くなって下を向き
「で…でも、まだご紹介という段階です…」と言った、だがエリザベスの顔を見ず、下を向いたままだった。

エリザベスは、立ち上がり…
「コンウォールの母様、中座することを許してください。」と言うと…小さな風を残して消え行ってしまった。

コンウォール夫人は 「旦那様…こんな役を押し付けられたこと、お恨みします。」と言って、侍女たちがせっかく入れた…バラのような香りと心地よい渋みが特徴の銘茶、ウバを一気に飲んだ。





そして、もうひとり…



エリザベスに、サザーランド国との戦闘で負傷したために、もう魔法は使えなくなったと宣言させて、ようやくマールバラ国民に、エリザベスではなく、自分を選ばせたことで、急ぎ国に戻ろうと馬車に乗り込む寸前のバクルー王がいた。



だが…急いでいたはずのバクルー王が突然…なにかを感じたように空を見上げ立ち止まり




ーいい加減…決めろよ…若造…。

と、ひとこと呟くと、ニヤリとくせのある笑みを浮かべ、馬車に乗り込んだ。

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