紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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⁂男の勲章

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衣擦れの音でうっすらと目を開けると、月の光が肩甲骨から腰にかけて、逞しいフォルムの造形を私に見せた。


あっ?…


まるで一流の彫刻家が作り上げた作品のような背中に、赤い蚯蚓腫れのような線が見え、そっと手を伸ばし、指先でその傷に触れると、振り返った人はクスリを笑みを浮かべ

「エリザベス…。」と言って覆いかぶさり、私の額にキスを落とすと耳元に唇を寄せ

「まだ俺の愛情が足りない?」

「ぁ……アーク!」

真っ赤になっているだろう私の顔を見て、またクスクスとアークの唇は笑うと、ゆっくりと私の胸の蕾を軽く食み…私を上目遣いで見て

「エリザベスのお誘いを断るつもりはないから…。」

いつも…ア、アークが強引で、私は振り回されてばかりなのに…

恨めしそうに口を尖らせ

「さ、誘うとかじゃなくて、あ、あの…アークの背中がとても綺麗なのに…傷が、蚯蚓腫れのような傷が見えて、だから…勝手に手がアークにいっちゃって…だから…誘ってなんかいないもん。」

アークは少し意地悪な顔で、私を見ると…

「誘ってくれたんじゃないのか?じゃぁ…止める?」

くすぶっていた種火が、アークの言葉で再炎した。

「…意地悪。」

アークは私の頬に両手をおき

「続きをご所望ですか?姫。」

でも…「うん」なんて言えない。言えないもん。

黙ってアークを見る私に、アークは笑って

「ごめん。」


そう言って体を起こし、私から離れてゆこうとした。



まだ離れたくない気持ちが…

もっと愛されたいと思う体が…

私の唇を動かした。



「いや…」

「えっ?」

「いや…離れたくない。」

「エリザベス?」

「…もっと愛して」


アークは私の唇にひとつキスを落とし、掠れた声で

「…あんまり…誘い上手になるなよ。」


そんなアークに微笑んで、広い背中に手を回すと、アークは「バカ…」と苦しそうな声をあげ私を抱きしめる。満たされてゆく心と体に、うっとりしながら…しっかりと広い背中にしがみついた。









明け方の余韻がまだ体に残る。



その甘さと気だるさがたまらなく俺にとっては、心地良いのだが…エリザベスには少し辛かったかもしれない、きっと午前中は起き上がれないだろうな。

俺はクスリと笑い、剣の稽古で汗をかいた服を無造作に脱ぐと、背中越しにライドの呆れた声が聞こえてきた。

「アークフリード。また背中の蚯蚓腫れが増えてるぞ。」

「惚れた女がくれた勲章だ。」

「はぁ?なんだ。その惚気は…」

「俺にしがみ付いた痕、だから…勲章だろう?!」

「なんでだろう?なんか…めちゃむかつく!それだけ自分は惚れた女を満足させてるって言ってのか?!マジか?お前…頭がお花畑だぞ。」

「うるさい…。いいだろう?俺の体を傷つけることができるのはエリザベスだけってことだ。」

そう言って俺はニヤリと笑うと、ライドは先程の剣の稽古で、俺につけられた左手の青痣をさすりながら、ムスッとした顔で小さな声でブツブツと

「はいはい、俺の腕では、お兄様のおまえに切り傷ひとつ付けられませんよ。くそっ!惚れた女の兄貴じゃなかったら、蹴飛ばしていたのに…!」



そんなライドを俺はクスクスを笑っていたら、突然ライドは俺を見た。
そして…なにか良いことを考え付いたのだろう、ニンマリと笑い

「俺だってお前の次ぐらいの腕前で、早々にやられはしない。まぁ…俺を傷つけられるのはお前と…フランシスだけだ…」

「えっ?」

俺の声にライドは、またまたニンマリと笑うと、おもむろにシャツを脱ぎ、俺に背中を向け

「男の勲章。」

背中についた蚯蚓腫れの爪あとを俺に見せた。





男の勲章は…見せるものではないな。





得意げに見せるライドに俺は…溜め息をつくと、ライドは大きな声で笑い

「男の勲章は…惚れた女だけに見せるものさ。お・に・い・さ・ま。」



「もっともだな。特に…お前のその勲章は見たくなかった。」

俺のぶっきらぼうな声にライドの笑い声はより大きくなっていった。
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