甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

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1章、王太子は悪です

番外編2、魔女家当主キルケは、本日も親バカでした

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 仮面をつけた夫婦とその娘が、パン屋のチラシを配っている。正体を隠す気がない商売根性がたくましい一家だ。
 
 『魔女家』ウィッチドール家の当主キルケは、会議室の議長席に座り、会議を始めた。

 会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書く。

『議題:キルケ様がマリンベリーお嬢様のお話を聞きたいだけの会』 

 前回はもうちょっと真面目な議題を書いていたが、メイドは会合の本質を見抜いていた。
 これはそういう会でしょう、と。

「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」

 前回とまったく同じルール説明をしつつ、キルケはメンバーを見渡した。

 本日集めたメンバーも、揃いの魔女帽子をかぶり、目元に仮面をつけている。

 全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会である。

「殿下、本日はありがとうございました」 
「俺は仮面の男だ。殿下ではないが、殿下だったら『お前たちが無事でなにより』と返すかもしれないな」

 パン屋一家とパーニス王子が親しげに会話している。
 親に連れられて参加している小さな兄妹は、パンを頬張りながらチラチラと王子を見ている。
 
「そーちょーさまだよね」
「俺は仮面の男……」
「そーちょーさま、ありがとうございました!」
「……まあ、そーちょーさまでいいか」

 両親が「この集まりはなんだろう」とかしこまる中、兄妹は「そーちょーさま」に愚痴っている。
 
「そーちょーさまが助けてくれたのに、ちがうっていうんだ」
「いーじすでんかじゃないのに~」

「待ってくれ。ボクは王子の話題が聞きたいわけじゃないんだ。うちの子の話を聞きたいんだよ」
 
 キルケは「うちの子」の話をしてくれそうなメンバーに話題を振った。

「いじめられていたところを、助けてくださったんです」

 パン屋の次女が魔法学校での出来事を教えてくれた。

「姉が亡くなって悲しいのは当たり前ですよ。でも、泣きべそかきながら登校するわけないじゃないですか。気持ちを前向きにしてがんばろうって思って登校したのに、『悲しそうじゃない』とか、『あの子が犯人だったりして』とか言われたんです。そこを助けてくださって……天使かなって思いました」

 薔薇色の巻き毛の令嬢も、「オホホホ」と高笑いをして発言する。
 
「わたくしもお金で爵位を買った商人貴族なので生粋の貴族のおうちの生徒に見下されていたのですが、お話を聞いて気分がよかったですわ~~! わたくしへの皆様の態度もマシになると思いますの」
 
 キルケも姉を亡くしているし、男だからと不遇だった過去もある。
 おおいに共感できる話だった。

「そうか。じゃ、そのいじめっ子はボクが圧力をかけて退学させよう。そして、うちの子は天使。そうじゃないかと思っていたところだったよ。うん、うん」

 いじめっ子の運命を決めつつ、キルケは養い子への愛情を深めた。
 
「そう、そういう話が聞きたかったんだ。いいぞ」

 満足度を高めるキルケに、そーちょー王子が追加の燃料をくれた。

「付箋が可愛かった。ちょっとした持ち物が可愛いのっていいよな。可愛いものが好きなんだな……プレゼントしたら喜ぶだろうか。あと、みんなのパンの好みを把握していてプレゼントする気配りができるんだ。しかも、俺に功績を譲ろうとする……」

 この王子の話は燃料度が高いのだが、うちの子の婚約者というポジションにいる男だけに複雑な親心になるキルケである。
 婚約は親公認で、王子自体も気に入っていて支持しているのだが、それはそうとして「うちの子が男のものになってしまう」というのは男親としてはモヤモヤポイントなのである。
 
 それと比べて。
「お姉様としてお慕いしています」
「わたくしはお友だちだと思っていますわ」
 同性である女子生徒からの好意的な声は、男親としてノーストレスで嬉しい。素晴らしいな!
 
「いいね、いいね。次から王子は出禁にしようかな」
「なぜ!?」
  
 キルケは情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。

「賢者家の当主カリストに手紙も書こう。『おいカリスト。そっちから返事がないがボクは追加で貴重すぎるうちの子の話を書いてやろう。ありがたく思え。うちの子、天使だった。何を言ってるかわからないかもしれないが……』」

 お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは笑顔で「今日もやってますねー」と当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。

『魔女家当主キルケは、本日も親バカでした』……と。
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