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2章、第二王子は魔王ではありません
35、いるじゃないですか
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その日の朝、私は前世の夢を見た。前世の私がゲームをしている夢だ。
美麗なスチルが、最初は顔だけの部分アップで。次に全体が一望できる表示になって、スクリーンショットが2枚増える。
「ここでセーブすると他ルート回収するときに楽だよ!」というセーブポイントがあるので、そこでセーブをしてストーリーを進める。
マリンベリーがヤンデレ化した攻略対象に拉致監禁されて死ぬ。
マリンベリーがヒロインちゃんを屋上から落とそうとして避けられて自分が死ぬ。
マリンベリーが毒を飲んで死ぬ。
マリンベリーが魔物になって死ぬ。
マリンベリーが死体で発見される……。
画面が暗転したタイミングで、真っ黒の画面に自分の顔が映る。
「……あ」
その顔は、マリンベリーの顔だった。
ぱちりと目が覚めて鏡を見ると、ミントブルーの色をした長い髪とマジョリカ・オレンジの瞳の自分が眠そうな顔をしていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
魔法学校に登校してみると、魔女家作と思われる結界が張り巡らされていた。
イメージとしては、学校がシャボン玉に包まれてるような感じ。
「おはようございます、マリンベリー様」
「あのう、生徒会メンバーになられたのですよね? おめでとうございます」
生徒たちが話しかけてくる。
いやいや待って。もう知れ渡ってるの?
役職名はぜひ知らないでいてほしい~~。
「アッ、ありがとうございます。大役ですが、精いっぱいがんばりますね」
挙動不審になりそうな自分を叱咤して淑女らしい笑みを顔面に貼りつけていると、パーニス殿下が私の頬にキスをして歓声を沸かせた。
「マリンベリーには、すでに十分いい仕事をしてもらってる。では、昼休みに迎えにくるからな」
爽やかに去っていくパーニス殿下の姿が見えなくなってすぐ、私はクラスメートたちに囲まれた。
「キスですわー」
「癒し係ってどんな仕事……っ?」
「それはもうイチャイチャして殿下のお心を癒すお仕事ですわよね」
「キャー!」
役職名は、ばっちりバレていた……。
私が机に突っ伏しそうになるのをこらえていると、窓際から別の燃料が投下された。
「あっ。イージス殿下だ」
えっ?
「ご体調が優れないと聞いていたけど顔色がよくて安心した」
「生徒会長が変わって心配していたけど、お元気そう」
窓際に行ってみると、偶然こちらを見たイージス殿下と目が合った。
いるじゃないですか。学校、通えるんですか?
隣に来たアルティナが耳打ちしてくる。
「外務大臣が『学校を卒業させてあげませんか』と強く訴えたらしいのですわ」
「イアン先輩のお父様ね」
「イージス殿下をもともと支持なさっていた方ですし、イージス殿下の味方をしてくださるのですわね」
その口ぶりからすると、アルティナもイージス殿下が学校に来れてよかったと思っているみたいだ。
「よかったね」
「ええ、よかったですわね」
2人で話していると、イージス殿下はニコリと微笑み、手を振った。
「きゃーーーーー!」
周囲からは、盛大な黄色い歓声が沸いた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
本日の占星術の授業は、タロットカード占いだ。
「いいかね。余計なことをせず言うとおりにカードを並べてめくるだけだ。そして、自分を占うのであれば自分を良く見つめたまえ。相手を占うときは、相手をよく観察し、相手のためを想うのだ」
アルメリク先生は生徒たちの間をカツカツと靴音を立てて歩き回り、ぶつぶつと呪文みたいに占いの心得を唱えた。
「誰にでも当てはまる内容。自分にとって都合のいい情報。人はそれを『自分のことだ』と信じやすい。
占い師は占いを告げることで、相手に影響を及ぼすことができる。
何かをしないようにする、何かに気を付ける、何かに努める……そういった忠告を聞いた結果、人生が変わるのである。
多くの人生を見てきた占い師は、霊感や霊視ではなくその人生経験と観察眼、分析能力により、相手のためになる助言ができる。それは技術であり、感性である」
ためになる話だが、ちょっと眠くなる。
ちなみに、私が手順通りにカードを並べてめくったカードは塔のカードだった。あまりいい意味じゃないよね。私はカードを見なかったことにした。
「マリンベリー、塔のカードが出ていましたわね。破壊とか悲劇という意味ですわね」
「そんなカード出てない」
「占いをなかったことにするのはいけませんわよ」
もう一回カードを並べて引いてみると、また塔だった。
「……」
「諦めなさいな」
「うん……」
レポートに塔のカードの解釈を書いて先生に持っていくと、先生はひっくり返ったカエルを見るような温度感で「気を付けたまえ」と言ってくれた。
何をどのように気を付けたらいいのだろう……。
お昼休みには、宣言通りパーニス殿下が迎えに来てくれた。
「お迎えですわー!」
「きゃー!」
教室中がはしゃぐ中、「がんばってくださいね!」とアルティナに励まされながら私はパーニス殿下についていった。アルティナもランチ会のメンバーなので一緒にお昼ごはんを食べるのだけど、振り返るとかなり距離を空けてついてくる。
「がんばれと言われても、ただのお昼休み……アルティナ、その距離は何?」
「うふふ。お邪魔しちゃダメかと思いまして。わたくしは気にせず、殿下のお心を癒してくださいませ」
にんまりとした笑みを浮かべるアルティナに、パーニス殿下は「良い心がけだ」とコメントしている。なんですか、その満足そうな顔は?
噴水公園に行くとメンバーが集まっていた。
地図を手に取り巻きと何か話しているイージス殿下。
フェルトのぬいぐるみを背中に置いて腕立て伏せしているクロヴィス。
人間姿でベンチの下で寝ているセバスチャン。
パン屋のチラシをイージス殿下の取り巻きに配るエリナ。
「兄上は油断するとすぐ人を増やす」
「パーニス。生徒会に変な役職を作ったと聞きましたよ。私物化はいけません」
「俺が必要だと思うので新しい役職は必要なのです。そうだ、兄上。その件も含めて食後にひと勝負いかがです?」
「食前の運動でも構いませんよ」
気付けば噴水前で兄弟が魔法と剣の両方を使っての決闘……というよりじゃれ合いみたいなのを始めている。
「がんばってくださーいイージス殿下ー!」
「パーニス殿下ってあんなに強かったんだ?」
「お前狩猟大会休んでたもんな。俺たちは殿下と一緒だったけど格好よかったよ」
周囲には生徒たちが集まってきて、気づけば「みんなしてランチをしながら観戦する」という大ランチ会になっていた。
「なんで決闘してるんですか?」
「そりゃ、マリンベリー嬢を取り合ってるのさ」
違いますよ!?
「違いますよー‼」
全力で否定する声が歓声にかき消されていく。
そんな私にサンドイッチを差し出してくるのは、騎士団長令息のクロヴィスだった。
クロヴィスは目隠しの布をしたままだけど、全身から心配そうというか、寂しそうなオーラを出していた。
「イアン先輩は今日もお休みです。お見舞いの手紙とクッキーを贈ったのですが、食べてくれているでしょうか。お返事もなくて……」
そういえばイアンディールと仲が良いのだった。
私もお見舞いの手紙を書いたのだと伝えると、「いっぱいお手紙が届いていてお返事を書く余裕がないのかもしれませんね」と笑う。
健気な感じ。
「一緒にお見舞いに行きましょうか?」
「実は、お願いしたかったんです」
クロヴィスはホッとした様子で言って、頭を下げた。
「それと、いつも走り込みを見守っていてくれてありがとうございます」
私はドキッとした。
パーニス殿下とクロヴィスが毎朝一緒に走っているのを上空から箒で見ていることを言われているのだ。
「……私が好きでやっているんです」
「励みになっています」
はにかむように言われたので、私は「早起きしていてよかった」と思った。
美麗なスチルが、最初は顔だけの部分アップで。次に全体が一望できる表示になって、スクリーンショットが2枚増える。
「ここでセーブすると他ルート回収するときに楽だよ!」というセーブポイントがあるので、そこでセーブをしてストーリーを進める。
マリンベリーがヤンデレ化した攻略対象に拉致監禁されて死ぬ。
マリンベリーがヒロインちゃんを屋上から落とそうとして避けられて自分が死ぬ。
マリンベリーが毒を飲んで死ぬ。
マリンベリーが魔物になって死ぬ。
マリンベリーが死体で発見される……。
画面が暗転したタイミングで、真っ黒の画面に自分の顔が映る。
「……あ」
その顔は、マリンベリーの顔だった。
ぱちりと目が覚めて鏡を見ると、ミントブルーの色をした長い髪とマジョリカ・オレンジの瞳の自分が眠そうな顔をしていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
魔法学校に登校してみると、魔女家作と思われる結界が張り巡らされていた。
イメージとしては、学校がシャボン玉に包まれてるような感じ。
「おはようございます、マリンベリー様」
「あのう、生徒会メンバーになられたのですよね? おめでとうございます」
生徒たちが話しかけてくる。
いやいや待って。もう知れ渡ってるの?
役職名はぜひ知らないでいてほしい~~。
「アッ、ありがとうございます。大役ですが、精いっぱいがんばりますね」
挙動不審になりそうな自分を叱咤して淑女らしい笑みを顔面に貼りつけていると、パーニス殿下が私の頬にキスをして歓声を沸かせた。
「マリンベリーには、すでに十分いい仕事をしてもらってる。では、昼休みに迎えにくるからな」
爽やかに去っていくパーニス殿下の姿が見えなくなってすぐ、私はクラスメートたちに囲まれた。
「キスですわー」
「癒し係ってどんな仕事……っ?」
「それはもうイチャイチャして殿下のお心を癒すお仕事ですわよね」
「キャー!」
役職名は、ばっちりバレていた……。
私が机に突っ伏しそうになるのをこらえていると、窓際から別の燃料が投下された。
「あっ。イージス殿下だ」
えっ?
「ご体調が優れないと聞いていたけど顔色がよくて安心した」
「生徒会長が変わって心配していたけど、お元気そう」
窓際に行ってみると、偶然こちらを見たイージス殿下と目が合った。
いるじゃないですか。学校、通えるんですか?
隣に来たアルティナが耳打ちしてくる。
「外務大臣が『学校を卒業させてあげませんか』と強く訴えたらしいのですわ」
「イアン先輩のお父様ね」
「イージス殿下をもともと支持なさっていた方ですし、イージス殿下の味方をしてくださるのですわね」
その口ぶりからすると、アルティナもイージス殿下が学校に来れてよかったと思っているみたいだ。
「よかったね」
「ええ、よかったですわね」
2人で話していると、イージス殿下はニコリと微笑み、手を振った。
「きゃーーーーー!」
周囲からは、盛大な黄色い歓声が沸いた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
本日の占星術の授業は、タロットカード占いだ。
「いいかね。余計なことをせず言うとおりにカードを並べてめくるだけだ。そして、自分を占うのであれば自分を良く見つめたまえ。相手を占うときは、相手をよく観察し、相手のためを想うのだ」
アルメリク先生は生徒たちの間をカツカツと靴音を立てて歩き回り、ぶつぶつと呪文みたいに占いの心得を唱えた。
「誰にでも当てはまる内容。自分にとって都合のいい情報。人はそれを『自分のことだ』と信じやすい。
占い師は占いを告げることで、相手に影響を及ぼすことができる。
何かをしないようにする、何かに気を付ける、何かに努める……そういった忠告を聞いた結果、人生が変わるのである。
多くの人生を見てきた占い師は、霊感や霊視ではなくその人生経験と観察眼、分析能力により、相手のためになる助言ができる。それは技術であり、感性である」
ためになる話だが、ちょっと眠くなる。
ちなみに、私が手順通りにカードを並べてめくったカードは塔のカードだった。あまりいい意味じゃないよね。私はカードを見なかったことにした。
「マリンベリー、塔のカードが出ていましたわね。破壊とか悲劇という意味ですわね」
「そんなカード出てない」
「占いをなかったことにするのはいけませんわよ」
もう一回カードを並べて引いてみると、また塔だった。
「……」
「諦めなさいな」
「うん……」
レポートに塔のカードの解釈を書いて先生に持っていくと、先生はひっくり返ったカエルを見るような温度感で「気を付けたまえ」と言ってくれた。
何をどのように気を付けたらいいのだろう……。
お昼休みには、宣言通りパーニス殿下が迎えに来てくれた。
「お迎えですわー!」
「きゃー!」
教室中がはしゃぐ中、「がんばってくださいね!」とアルティナに励まされながら私はパーニス殿下についていった。アルティナもランチ会のメンバーなので一緒にお昼ごはんを食べるのだけど、振り返るとかなり距離を空けてついてくる。
「がんばれと言われても、ただのお昼休み……アルティナ、その距離は何?」
「うふふ。お邪魔しちゃダメかと思いまして。わたくしは気にせず、殿下のお心を癒してくださいませ」
にんまりとした笑みを浮かべるアルティナに、パーニス殿下は「良い心がけだ」とコメントしている。なんですか、その満足そうな顔は?
噴水公園に行くとメンバーが集まっていた。
地図を手に取り巻きと何か話しているイージス殿下。
フェルトのぬいぐるみを背中に置いて腕立て伏せしているクロヴィス。
人間姿でベンチの下で寝ているセバスチャン。
パン屋のチラシをイージス殿下の取り巻きに配るエリナ。
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「パーニス。生徒会に変な役職を作ったと聞きましたよ。私物化はいけません」
「俺が必要だと思うので新しい役職は必要なのです。そうだ、兄上。その件も含めて食後にひと勝負いかがです?」
「食前の運動でも構いませんよ」
気付けば噴水前で兄弟が魔法と剣の両方を使っての決闘……というよりじゃれ合いみたいなのを始めている。
「がんばってくださーいイージス殿下ー!」
「パーニス殿下ってあんなに強かったんだ?」
「お前狩猟大会休んでたもんな。俺たちは殿下と一緒だったけど格好よかったよ」
周囲には生徒たちが集まってきて、気づけば「みんなしてランチをしながら観戦する」という大ランチ会になっていた。
「なんで決闘してるんですか?」
「そりゃ、マリンベリー嬢を取り合ってるのさ」
違いますよ!?
「違いますよー‼」
全力で否定する声が歓声にかき消されていく。
そんな私にサンドイッチを差し出してくるのは、騎士団長令息のクロヴィスだった。
クロヴィスは目隠しの布をしたままだけど、全身から心配そうというか、寂しそうなオーラを出していた。
「イアン先輩は今日もお休みです。お見舞いの手紙とクッキーを贈ったのですが、食べてくれているでしょうか。お返事もなくて……」
そういえばイアンディールと仲が良いのだった。
私もお見舞いの手紙を書いたのだと伝えると、「いっぱいお手紙が届いていてお返事を書く余裕がないのかもしれませんね」と笑う。
健気な感じ。
「一緒にお見舞いに行きましょうか?」
「実は、お願いしたかったんです」
クロヴィスはホッとした様子で言って、頭を下げた。
「それと、いつも走り込みを見守っていてくれてありがとうございます」
私はドキッとした。
パーニス殿下とクロヴィスが毎朝一緒に走っているのを上空から箒で見ていることを言われているのだ。
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