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2章、第二王子は魔王ではありません
50、俺の妄想を察するな
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アークライトが死んだ。
その知らせに、魔法使いマギライトは動揺した。
「なんだって!?」
陸地が水没し、明日をも知れぬ生活をしている人々にとって、「天才剣士」「勇者」と言われていた王子の存在は大きい。皆、どれほど絶望するだろう。
なにより、アークライトには嫉妬もしていたが、友人だとも思っていた。
さすがにショックで言葉が出ない。
そんなマギライトの手を、アルワースはしっかりと握った。
「ちょっとアークライトの魂を2つに増やせないか実験をしたのだ。そしたら魂が砕けてしまった」
「バ、バ、バカ……。お前、お前が殺したのかよ。お、お、お前――」
なんてことをしでかしてくれたんだ。
ありえない。とんでもない。
殺してやりたい、このバカ魔法使い。
倫理観と安全意識の欠如した魔法使いアルワースは、絶対に殺してはいけない男を殺したのだ。許せない。
しかし、このバカ魔法使いもギリギリの状況で生きる人々にとっては「すごい」「天才」と尊ばれている頼られている、貴重すぎる能力者。
影響力を持つ才人が2人同時に死ねば、民の絶望は計り知れない。
どうしたものか?
マギライトが頭痛と眩暈に襲われていると、アルワースは握りしめた手をぶんぶんと振って話を続けた。
「しかし、マギライト。2人で力を合わせれば誤魔化せると思う」
「は?」
「アークライトの魂は体から抜けて死んでいるのだが、肉体は死ぬ直前に救うことができたんだ」
「……は?」
何を言ってるんだ?
「そしてわしは、人の心を別の器に移し替える魔法の研究をしていた。わしが思うに、人形魔法とその新作魔法を合わせればアークライトの死を誤魔化せる」
「…………は?」
恐ろしいことに、アルワースは真剣だった。
冗談ではなく、本気で言っている。
アークライトの死を2人で誤魔化そう、と言っている……!
「マギライト、君主は必要なんだ。大衆には、心の支えが必要なんだ。人々には希望がないといけない。自分たちは滅びず、生きていける、と期待させないといけない」
民のため。
人類の存続のため。
――マリンのため。
アークライトとマリンは、幼い頃からの仲らしい。
マギライトは知っている。アークライトはマリンに気があった。
可愛くて良い娘だから、好かれるのも無理はない。
好きにならない男の方が見る眼がない、と思うのは、身内贔屓な考えか。
……そう、マギライトはマリンを「身内」だと思っているのだ。
友人、アークライトは皆に尊崇の念を向けられている「天才剣士」で「勇者」で「王子」だ。
容姿も性格もいい。自分の友人でもある。
身内の嫁ぎ先としては、これ以上ない優良案件な男だった。
「いいか、マギライト。わしがお前の魂をちょっと削って、アークライトの中に入れる」
「は? いやいやいや、俺の魂を削るってなんだよ。他人の体に俺の魂をつっこむなよ。なあ、それアークライトに試して失敗して魂が砕けた実験だよな? 俺の魂も砕けるとか思わないのかよ」
「大丈夫だ。失敗を活かして次は成功させる。魂をちょっと削るだけだ! そんで、つっこんだ魂は体を常に動かすには弱いので普段は休眠させておき、休眠魂を媒体に人形魔法を併用して操り人形にすればいい」
「はあ? お前、それ全部俺だけに負担が来るやつじゃねえか。絶対バレる。ほんっと……バカ……!」
マギライトは拒絶した。説得しようとした。
しまいにはアルワースを殺そうかと本気で迷った。
しかし、最終的に「民のため」「マリンのため」という殺し文句を突きつけられて、どう考えても無理がある偽装王子に協力することにしたのである。
考えてみろ。俺がアークライトを演じるということは……?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――『マギライトの妄想』
「私の妃になりたいと皆が言いますが、私が選ぶのは……マリンですよ」
白い歯をきらりと輝かせ、マントをばさりと翻らせて、口に薔薇でもくわえてやろうか。
すると他の女たちは悔しがり、羨望の眼差しでマリンを見るだろう。
……マリンは?
「ずっとお慕いしておりました、アークライト様」
頬を染めて目を閉じて、「好きにして!」という顔だ。
そうだ。堂々と異性として触れ合える。男として彼女を幸せにできるんだ。誰からも文句を言われず……いいな……。
ハッ、――――俺は今何を考えていたんだ……?
「ふむ。何を妄想したのか察したぞ。要するに、他の男として自分を意識してくれない義理の妹と結ばれることができるので、マギライトにもメリットがあるということだな!」
「アルワース! 俺の妄想を察するな……!」
その知らせに、魔法使いマギライトは動揺した。
「なんだって!?」
陸地が水没し、明日をも知れぬ生活をしている人々にとって、「天才剣士」「勇者」と言われていた王子の存在は大きい。皆、どれほど絶望するだろう。
なにより、アークライトには嫉妬もしていたが、友人だとも思っていた。
さすがにショックで言葉が出ない。
そんなマギライトの手を、アルワースはしっかりと握った。
「ちょっとアークライトの魂を2つに増やせないか実験をしたのだ。そしたら魂が砕けてしまった」
「バ、バ、バカ……。お前、お前が殺したのかよ。お、お、お前――」
なんてことをしでかしてくれたんだ。
ありえない。とんでもない。
殺してやりたい、このバカ魔法使い。
倫理観と安全意識の欠如した魔法使いアルワースは、絶対に殺してはいけない男を殺したのだ。許せない。
しかし、このバカ魔法使いもギリギリの状況で生きる人々にとっては「すごい」「天才」と尊ばれている頼られている、貴重すぎる能力者。
影響力を持つ才人が2人同時に死ねば、民の絶望は計り知れない。
どうしたものか?
マギライトが頭痛と眩暈に襲われていると、アルワースは握りしめた手をぶんぶんと振って話を続けた。
「しかし、マギライト。2人で力を合わせれば誤魔化せると思う」
「は?」
「アークライトの魂は体から抜けて死んでいるのだが、肉体は死ぬ直前に救うことができたんだ」
「……は?」
何を言ってるんだ?
「そしてわしは、人の心を別の器に移し替える魔法の研究をしていた。わしが思うに、人形魔法とその新作魔法を合わせればアークライトの死を誤魔化せる」
「…………は?」
恐ろしいことに、アルワースは真剣だった。
冗談ではなく、本気で言っている。
アークライトの死を2人で誤魔化そう、と言っている……!
「マギライト、君主は必要なんだ。大衆には、心の支えが必要なんだ。人々には希望がないといけない。自分たちは滅びず、生きていける、と期待させないといけない」
民のため。
人類の存続のため。
――マリンのため。
アークライトとマリンは、幼い頃からの仲らしい。
マギライトは知っている。アークライトはマリンに気があった。
可愛くて良い娘だから、好かれるのも無理はない。
好きにならない男の方が見る眼がない、と思うのは、身内贔屓な考えか。
……そう、マギライトはマリンを「身内」だと思っているのだ。
友人、アークライトは皆に尊崇の念を向けられている「天才剣士」で「勇者」で「王子」だ。
容姿も性格もいい。自分の友人でもある。
身内の嫁ぎ先としては、これ以上ない優良案件な男だった。
「いいか、マギライト。わしがお前の魂をちょっと削って、アークライトの中に入れる」
「は? いやいやいや、俺の魂を削るってなんだよ。他人の体に俺の魂をつっこむなよ。なあ、それアークライトに試して失敗して魂が砕けた実験だよな? 俺の魂も砕けるとか思わないのかよ」
「大丈夫だ。失敗を活かして次は成功させる。魂をちょっと削るだけだ! そんで、つっこんだ魂は体を常に動かすには弱いので普段は休眠させておき、休眠魂を媒体に人形魔法を併用して操り人形にすればいい」
「はあ? お前、それ全部俺だけに負担が来るやつじゃねえか。絶対バレる。ほんっと……バカ……!」
マギライトは拒絶した。説得しようとした。
しまいにはアルワースを殺そうかと本気で迷った。
しかし、最終的に「民のため」「マリンのため」という殺し文句を突きつけられて、どう考えても無理がある偽装王子に協力することにしたのである。
考えてみろ。俺がアークライトを演じるということは……?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――『マギライトの妄想』
「私の妃になりたいと皆が言いますが、私が選ぶのは……マリンですよ」
白い歯をきらりと輝かせ、マントをばさりと翻らせて、口に薔薇でもくわえてやろうか。
すると他の女たちは悔しがり、羨望の眼差しでマリンを見るだろう。
……マリンは?
「ずっとお慕いしておりました、アークライト様」
頬を染めて目を閉じて、「好きにして!」という顔だ。
そうだ。堂々と異性として触れ合える。男として彼女を幸せにできるんだ。誰からも文句を言われず……いいな……。
ハッ、――――俺は今何を考えていたんだ……?
「ふむ。何を妄想したのか察したぞ。要するに、他の男として自分を意識してくれない義理の妹と結ばれることができるので、マギライトにもメリットがあるということだな!」
「アルワース! 俺の妄想を察するな……!」
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