無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

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本編

俺を殺したい集団と嫌がらせしたい集団

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俺はすっと魔装具を解いてぶんぶん液体のかかった剣を振る。すると残っている狼がまた駆け出して来た。

俺はすうううっと息を吸って叫んだ。



「きゃあああああああっ!!誰か助けてええええっ!!」



うえっげほげほっ!!と派手に咳き込みながら俺は走り出す。あんなに大きな叫び声をあげたの久しぶりなんだけど。喉やられた。

俺は狼と一定の距離を保ちながらキャンプ地に走っていく。離れそうになったので剣を振っておびき出しつつ、キャーキャー言いながらキャンプ地まで走っていき、演出の為に木の根に躓いて派手に転んだ。



「いたーいっ!ふええん、ヴィアン様ぁ……っ」



泣きまねもしてみる。声だけ。

だってこっちにものすごいスピードで走ってくる二つの気配は絶対ヴィとアルフレッド以外に考えられないし。ここで、アピールできるのって声ぐらいじゃん?



あっちまで一応駆け寄るけど。



剣を振りながら背後の狼を気にしつつ釣っていると、狼の気配が消えた。それと同時に大きな気配がする。



「やべ」



俺は思わず振り返って剣を構えた。

魔獣にも体の大きさの違いがある。さっきまでの狼は普通の狼である。それに対し今俺の目の前にはその普通の狼を頭から飲み込んでいるおおきな蛇だ。



これは流石にあそこまで引っ張ったら不味いことになる。

俺にもそれぐらいの良心はあるんだ。

ごくんっと丸呑みをして体の一部がぼこっと膨れている大蛇はちろちろと舌を出しながら次の獲物である俺を見る。



うーん。それで満足してどっか行ってきてくれれば良いんだけどな~。もう一度魔装具を発動させて全身真っ黒になる。銃は捨てる。接近戦は向いてない。



一先ず突っ込んで腹に剣戟を食らわせるが、きんっと弾かれた上に折れた。ちっと舌打ちをして一旦距離を取ろうとしたが尻尾が俺に巻き付いてきた。締め上げられないようにぐっと両腕と足で押し返す。一応マント装備だからかどうにか耐えられているが、あ、ヒビ入ったな。これ以上魔力注ぐと壊れる。どうしようかなーなんて悩んでいたら、俺を拘束していた尻尾が切れた。



蛇がのたうち回って血をまき散らしているのを見つつそのまま落下していく俺を誰かが受け止めようとしているので怪我しないように魔装具を解いてその腕の中に納まった。そして引き換えに投げ捨てられた剣を見て半眼になる。



「お前、俺を受け止めるのに剣を手放すなよ」

「ベルちゃんの可愛い悲鳴が聞こえたからつい……」

「ふりに決まってんだろうが」



俺をお姫様抱っこしているヴィの額に軽くデコピンをするとちゅうっと唇を奪われる。



「んんん~~~~っ?」



なんでキスされてんだろう、と思いつつもそれを甘んじて受け入れて教わった通りに舌を絡めて口の中を唾液で一杯にする。満足したのかヴィの顔が離れていき、俺は唾液を飲み込んで垂れたものを指で拭う。それから蛇の方を見ると、アルフレッドの手によって切り刻まれていた。軽く溶けている死んでいるさっきの狼もおまけでついて。



「大丈夫ですか?」

「平気」



俺はアルフレッドの問いかけに平然と答えて、一先ずヴィの腕から降りようとしたが、ぎゅっとヴィに力強く掴まれておりできない。じっと見つめてみる。ヴィはにこっと笑うだけだ。



「下ろせ」

「ケガしてるよ?」

「あー……」



転んだ時すったのか。気づかなかった。



「これぐらいへい……」

「あ、そっか!唾つけとけば治るって言うよね。舐めて消毒してようか?」

「やっぱり運んで」



目が本気のヴィに抵抗しようなんて考えることもなかった。するだけ無駄だ。

俺はそう思いながら自分の膝を見る。擦れただけなので大したことは無い。ヴィがちょっと大げさなのだ。



そんな事を呑気に考えていたら、「ヴィアン様!」「アルフレッド様!!」っと二人を呼ぶ声が聞こえた。俺は彼らの声にはっとして気合で涙を流しヴィに抱き着いた。



「うわああんっ!ヴィアン様ぁ、怖かったですぅ!」

「もう大丈夫だよ、ベルクラリーサ様。申し訳ないんだけど、ここは任せてもいいかな?」

「も、勿論です!」



ぎゅうっと抱き着いたまま彼の胸に顔を押し付けて泣いているふりをしているとヴィがさっさとこの場を後にする。



初日から散々だなっと思いながら運ばれていく。そう言えば鍋に水汲むの忘れてたな。といか、鍋自体置いてきてしまった。

そう思い、俺は置いてきた鍋を瞬時に手元に転移させる。



普通、魔石をはめた魔装具を介して出ないと魔法は使えないが、俺ははるか昔に誤って魔石を飲み込んでしまったことにより魔装具がなくてもこんなことが出来る。普通の人であれば魔石を飲み込んだら死んでしまうようだが、俺はどうにか生き残り定期的に魔石にたまる魔力を抜くことによって生きながらえている。だからこんな楽をしても許される立場でもあるけど、錬金術師の二人に実験材料にされるんだよね~。



ついでに鍋の中に水を満たすと、「ベルちゃん」っと上から声がかかった。



「え?なに?」

「あんまりそれ人前でしちゃだめだよ」

「分かってる、分かってる」



そう言いながら俺は鍋の水を零さないようにしながら運んでもらう。キャンプ地につくと視線を集める。この演技をどこまで大げさにすればいいんだろうと半眼になっていると、そこら辺の切り株に下ろされる。それから水の入った鍋を持って、俺にそう指示をした男たちに押しつける。



「はい」

「あ、えっと……」

「それじゃ」



にっこりと笑顔のヴィに男たちは顔を青くする。



ふむ、こうなるのは想定していたんじゃないのか?だって、仮にも俺の婚約者だぞ?心配するに決まってるじゃんか。狼に追われてたんだし?



そう思っているとまた別の方から強い視線を向けられた。其方を見るとぱっと視線を逸らされる。



……なるほど、殺したい集団と嫌がらせだけしたい集団で別れてるわけね。ヴィのことがそんなに好きなら俺と婚約する前に結べばよかったのに。



―――僕、ふぎの子だって、言われて……。

―――髪色で?あー、いるいるそういう年寄り。俺も言われたから気にすんな。



……昔は暗かったからな~。よく涙目になってたし。社交界も出てなかったし仕方ないか~。それで言えば俺が独占しているのは不公平だと思うけど、運がなかったとしか言えなくない?



「いっ!」

「少し我慢して」



思いっきり傷口に水をかけられて土などの汚れを拭われる。

痛いんですけど?っとじっと見つめるがにっこりと笑われるだけで荒く処置された。見るだけで不機嫌であることが分かる表情でそれが終わると抱えられ、そのままテントの中に入れられる。防音装置の魔装具を置いた。



「え?え?どうしたのヴィ……」

「わざと怪我しないで」

「ご、ごめん……」

「うん……」



ぎゅうっと抱きしめられた。軽く鼻をすする音がするので確実に泣いている。



ちょっと怪我しただけで大げさすぎるんだけど。

どうしてこんな過保護になったんだっけな~。

そう思いながら一先ずぽんぽんっと背中を撫でてあやす。いくつになっても俺の婚約者は心配性だな。俺が歳下って言うのもあるのかな。



まあ、別に構わないんだけど。世話されるのは好きだし。

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