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本編
対面
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連れられてきたのは王宮だ。
既に腹が痛い。
ヴィの叔父さん苦手なんだよ。その初見で見抜かれたって言うのとヴィのことが大事みたいで、「こんなちんちくりんが?」と初対面で言われたことも根に持っている。
初対面でいう事じゃねーだろうが―!!と心の中で思ったが、ヴィが「分かった。叔父さんは結婚式に呼ばないね」っと言って速攻で謝っていた。少しはすっきりした。因みにその時俺はまだ8歳の子供である。大人げないと思わない?
「殿下。お連れしました」
「はっ!?」
え?殿下?殿下ってあの殿下だよね?それしかないよね?え?
やっぱり帰ろうと踵を返そうとしてキャンベルホープに首根っこを掴まれた。
あーっ!!
目の前の扉が開いて、彼の従者がどうぞっと中に入るように指示を出す。そのまま引きずられながら中に入ると足を組んで優雅にお茶を飲んでいる男がいた。
「あれー?別に婚約者君の方は呼んでないんだけど」
「陛下からの命令です。殿下」
「えー?じゃあ仕方ないかぁ~。でもそれはそれ。俺じゃなくてそっちを優先したから半年減給ね?」
「……承知いたしました」
「うわぁ……」
あーあーあーあー。出たよ出ましたこの暴君!兄弟いないからってそんな勝手なことをしでかす野郎なんです!!
にっこりと笑顔の彼に俺は思わずそう呟いた。
彼の名前は、ウィリアム・フェン・アガースト。
この男は、それが許されると自覚してこんなことをしている。でも、王子より陛下の命令を優先するのは当たり前じゃない?それなのに減給だなんてひどすぎる……。
「じゃ、帰っていいよ」
「はっ。失礼致します」
えーっ!?
今度はウィルの管轄に入るのか~。いやだな~。あんなやりとりを見た後なんか余計に嫌なんだけどぉ。
さっさと部屋を去って行ったキャンベルホープを見た後に俺はそっとウィルを見る。ウィルはにっこりと笑顔を見せた。
「さあ座りなよ。彼らにもお茶の準備を」
「畏まりました。少々お待ちください」
彼に言われて、俺はさっさと席に座る。従者はどこかにお茶を淹れに行った。それからウィルが今日の近衛に出ていくように指示をして、ここには俺とヴィ、ウィルしか残っていない。
隣にヴィが座ると、「さてっ」とウィルが話し出した。
「久しぶりだね、ベル。元気にしてた?君のことは知り合いから聞いてるよ~。無駄なことしてるってね」
「無駄じゃねーよ!!」
思わずそう叫ぶと楽しそうに笑う。
昔っから気に食わないんだよこいつ!!初めて出会った時が一番大人しかった!!
「でもその熱意は買ってあげるよ~。だって学院に通ってる時もえん……」
「いいから話しをすすめろ!!」
学院で、俺がヴィの遠征についていったことを知っている。その間に協力をしてくれたということもあって、婚約者に捨てられないようにって必死だね~なんて言われたのが記憶に新しい。
違う!俺はただ心配なだけ!お前だって婚約者にストーカー行為してんじゃん!!ゴミ拾ったり後ろついて行ったり!!と言ったら婚約者だからいいに決まってるでしょ?っと真顔で返した。それにあの子俺がいないと~っと自慢が始まるので、はあー?こっちだってヴィは俺がいないとすぐ泣くしぃ~っと負けじと自慢していた。
今思えばとても恥ずかしいことをした。本人には伝わっていないのが幸いだ。
遠征について行っているのはヴィには話していない。だって、余計な心配かけたくないじゃん!?それに本人は頑張っているんだし!!俺だってそれぐらいの優しさはあるの!
でも、第一班って死亡率トップクラスの職場なわけ。心配に決まってるじゃんか!!
俺より年上なのに!背も俺より高いのに!「ベルちゃん、ベルちゃあん。ふえええ……」って泣きべそかきながらついてくるんだもん!俺はその度に「どうした!虐めてきた奴ぶん殴ってくるから教えろ!!」と言っていた。大概木の根に躓いたとか、稽古いやだから一緒にきてっとか些細なことなんだけど、本当にやばいときは俺に言わないから。何を遠慮しているのか……。
そんな事を思ったが、黒衣の騎士というワードを思い出した。
そうだった、黒衣の騎士という超絶最高なストーカーがいるから大丈夫なんだろう。うぐぅ、胸が苦しい……。
ぐっと変な顔をして胸を抑えると、「何してんの?」っとウィルに冷たく言われた。お前のせいで余計なこと思い出したんだよ。
「じゃあ早速話を進めるけど、今回君達には俺の警護に当たってほしい」
「え?漂流者じゃないの?」
「当たり前じゃん。俺を化け物から守ってほしいってわけ~」
「ちょっと、化け物呼ばわりは……」
「まあ、そうだね。まだそう決まったわけじゃないけど、前の漂流者がそうだったんだもん」
「ウィル……」
漂流者は、身分の高いものに気にかけられると機嫌がいいらしい。そう言う理由で俺と同い年だった彼もご機嫌取りに会話をしていたという話は聞いてる。可愛がられていたとは聞いていたが、王族のウィルに対して説教垂れていたのを本人はうざいっと愚痴をこぼしていた。そういえば、俺にもよく何か言ってたな。どんなのだったっけ?忘れた。
でもそれだけで化け物呼ばわりなんて流石ウィル。天下の王太子様様だ。説教してくる奴は皆化け物ってか。
「まあその話は良いとして。隣室にその漂流者がいる。名前は西園寺、秋。名前が秋って言うらしい。黒髪黒目。髪は婚約者君と一緒だね。表向きは漂流者の護衛ってことになってるけど、優先すべきは次期国王の俺だからね?何かあった時は、最悪殺して」
「ころ……っ!!」
ちょちょちょっと!隣ってことは近いじゃん!!聞かれたらどうするのさ!!漂流者って何かしら能力持ってるって聞いてるけど!?
俺がそう慌てるとウィルは大丈夫っと手を振る。
「ここで許可ないものが魔法使えば、攻撃してくる仕様だからね。仮にそれを掻い潜れるほどの実力だとして、どうする訳?就職するにも家を持つにも身分証明書が必要なんだよ?俺を頼らないでここで生きられないんだよ?まあ、それすら考えられない馬鹿で国から出るなら喜んで見送るし!」
「なんて奴だよお前……。知らない土地に突然やってきて不安だろうに、そんなことできるなんて……」
「ふふ。そうやって優しくしたから前の漂流者はつけあがったのを覚えてないんだっけ?ベルは漂流者に優しくしたのにね?恩を仇で返すってああいう事を言うんだよね~」
「その話は良いでしょう。さっさと続きを言ってください」
「あ、そうだね。ごめんごめん」
ヴィが冷たくそう言った。うっと俺が思わずびくっと体を震わせるが、ウィルは朗らかに笑顔を見せる。
「漂流者を帰すのに、一か月かかる。その間に問題を起こさないように監視するっていうのが任務だよ」
「え?帰りたいって言ってるの?」
「うん」
ウィルはにっこりと笑顔を見せた。
へー。前の漂流者も帰したって言うしできるんだろうなぁ。多分。
そもそも漂流者ってどんな条件で発現するか分かんないんだよね。でも神の采配ってことで過去に神殿で帰りたいと強く願った漂流者が消えたって言うのは有名だ。だから、神殿に向かえば帰れるのでは?というのは有名な話である。事実かどうかは分からない。確認しようがないしね。
その神の貢物とかの準備に一か月かかるという事だろう。
「分かりました。その間、我々は此方に赴けばいいのでしょうか?」
「いや。漂流者の為に離宮を解放したからそこで過ごしてもらうよ。中には使用人みたいなことをさせるかもしれないけど」
「わざわざ?陛下の許可は得たのですか?」
「勿論。城下に置くと何するか分かんないじゃん?民が犠牲になる位なら宮廷付きのいつも無茶をこなしているプロに任せるべきだって話になって。一か月ぐらい我慢できるよね?」
「無理」
ヴィが了承する前に俺がそう言って首を振った。
ヴィは生活能力あるけど俺は無いんだよ?朝ご飯とか作れないし掃除できないし、どうすればいいの?絶対無理なんだけど。
「俺生活能力ないから、無理」
「えー?まじで婚約者君にやらせてんのー?さいてー」
「う、うるさい!!」
ヴィが俺の事捨てたら料理覚えるもん!!……多分!!
「そうですね。一緒に過ごすにはちょっと……」
「まあでも拒否権ないんだけどね。これ部屋の鍵。隣から回収して離宮に向かうよ」
「あああああっ!!知ってたこういう展開いいいっ!!」
鍵をヴィに渡して、立ち上がったウィルはさっさと来いっと顎を動かす。ヴィも俺に合わせてくれたのに、この男、自分が決めたことを曲げないんだよなぁっ!!
俺は頭を抱え、そして彼に渋々ついていく。ヴィもため息をついて彼についていった。
部屋を出るとすぐにお茶の準備をしてきた従者と出会う。ウィルはその人に休憩を取って用意したものを消費することとだけ指示を残し隣の部屋に。後ろには先ほど下がらせた屈強な近衛騎士が二人ついてきた。威嚇用だろうか。目が合ってしまい俺はすぐに逸らした。怖すぎ。
ウィルが扉の前に立つと後ろにいた近衛が扉の前に行きノックをする。
「失礼します。住居の準備が整いました」
「え!?あ、分かりました!!」
中から少し幼い声が聞こえた。それから扉が開くと黒髪黒目の可愛らしい男の子が出てくる。
俺とヴィを見ると一瞬驚きの表情を見せた。え、なに。ヴィは分かるけど俺って何か特徴あるっけ?俺の事情を知っていればそうだけど……?
「初めまして。ヴィアンと申します。これから漂流者様の護衛の任につくことになりました。これからどうぞよろしくお願いします」
そんな事を思っていたらヴィが自己紹介をした。俺ははっとして同じように自己紹介を始める。
「初めまして、漂流者様。ベルクラリーサと申します。同じく護衛につきました。どうぞよろしくお願いします」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします!!僕は西園寺秋です!秋って呼んでください。ええっとヴィアンさんとベル、ベル……」
「ああ。ベルで大丈夫ですよ秋様」
「様だなんて!!呼び捨てでいいですよ!!これからどうぞよろしくお願いします!!ベルさん!」
ぎゅっと手を握られてにっこりと笑顔を見せられた。俺も同じように笑顔を見せてウィルに案内されながら離宮に向かった。
既に腹が痛い。
ヴィの叔父さん苦手なんだよ。その初見で見抜かれたって言うのとヴィのことが大事みたいで、「こんなちんちくりんが?」と初対面で言われたことも根に持っている。
初対面でいう事じゃねーだろうが―!!と心の中で思ったが、ヴィが「分かった。叔父さんは結婚式に呼ばないね」っと言って速攻で謝っていた。少しはすっきりした。因みにその時俺はまだ8歳の子供である。大人げないと思わない?
「殿下。お連れしました」
「はっ!?」
え?殿下?殿下ってあの殿下だよね?それしかないよね?え?
やっぱり帰ろうと踵を返そうとしてキャンベルホープに首根っこを掴まれた。
あーっ!!
目の前の扉が開いて、彼の従者がどうぞっと中に入るように指示を出す。そのまま引きずられながら中に入ると足を組んで優雅にお茶を飲んでいる男がいた。
「あれー?別に婚約者君の方は呼んでないんだけど」
「陛下からの命令です。殿下」
「えー?じゃあ仕方ないかぁ~。でもそれはそれ。俺じゃなくてそっちを優先したから半年減給ね?」
「……承知いたしました」
「うわぁ……」
あーあーあーあー。出たよ出ましたこの暴君!兄弟いないからってそんな勝手なことをしでかす野郎なんです!!
にっこりと笑顔の彼に俺は思わずそう呟いた。
彼の名前は、ウィリアム・フェン・アガースト。
この男は、それが許されると自覚してこんなことをしている。でも、王子より陛下の命令を優先するのは当たり前じゃない?それなのに減給だなんてひどすぎる……。
「じゃ、帰っていいよ」
「はっ。失礼致します」
えーっ!?
今度はウィルの管轄に入るのか~。いやだな~。あんなやりとりを見た後なんか余計に嫌なんだけどぉ。
さっさと部屋を去って行ったキャンベルホープを見た後に俺はそっとウィルを見る。ウィルはにっこりと笑顔を見せた。
「さあ座りなよ。彼らにもお茶の準備を」
「畏まりました。少々お待ちください」
彼に言われて、俺はさっさと席に座る。従者はどこかにお茶を淹れに行った。それからウィルが今日の近衛に出ていくように指示をして、ここには俺とヴィ、ウィルしか残っていない。
隣にヴィが座ると、「さてっ」とウィルが話し出した。
「久しぶりだね、ベル。元気にしてた?君のことは知り合いから聞いてるよ~。無駄なことしてるってね」
「無駄じゃねーよ!!」
思わずそう叫ぶと楽しそうに笑う。
昔っから気に食わないんだよこいつ!!初めて出会った時が一番大人しかった!!
「でもその熱意は買ってあげるよ~。だって学院に通ってる時もえん……」
「いいから話しをすすめろ!!」
学院で、俺がヴィの遠征についていったことを知っている。その間に協力をしてくれたということもあって、婚約者に捨てられないようにって必死だね~なんて言われたのが記憶に新しい。
違う!俺はただ心配なだけ!お前だって婚約者にストーカー行為してんじゃん!!ゴミ拾ったり後ろついて行ったり!!と言ったら婚約者だからいいに決まってるでしょ?っと真顔で返した。それにあの子俺がいないと~っと自慢が始まるので、はあー?こっちだってヴィは俺がいないとすぐ泣くしぃ~っと負けじと自慢していた。
今思えばとても恥ずかしいことをした。本人には伝わっていないのが幸いだ。
遠征について行っているのはヴィには話していない。だって、余計な心配かけたくないじゃん!?それに本人は頑張っているんだし!!俺だってそれぐらいの優しさはあるの!
でも、第一班って死亡率トップクラスの職場なわけ。心配に決まってるじゃんか!!
俺より年上なのに!背も俺より高いのに!「ベルちゃん、ベルちゃあん。ふえええ……」って泣きべそかきながらついてくるんだもん!俺はその度に「どうした!虐めてきた奴ぶん殴ってくるから教えろ!!」と言っていた。大概木の根に躓いたとか、稽古いやだから一緒にきてっとか些細なことなんだけど、本当にやばいときは俺に言わないから。何を遠慮しているのか……。
そんな事を思ったが、黒衣の騎士というワードを思い出した。
そうだった、黒衣の騎士という超絶最高なストーカーがいるから大丈夫なんだろう。うぐぅ、胸が苦しい……。
ぐっと変な顔をして胸を抑えると、「何してんの?」っとウィルに冷たく言われた。お前のせいで余計なこと思い出したんだよ。
「じゃあ早速話を進めるけど、今回君達には俺の警護に当たってほしい」
「え?漂流者じゃないの?」
「当たり前じゃん。俺を化け物から守ってほしいってわけ~」
「ちょっと、化け物呼ばわりは……」
「まあ、そうだね。まだそう決まったわけじゃないけど、前の漂流者がそうだったんだもん」
「ウィル……」
漂流者は、身分の高いものに気にかけられると機嫌がいいらしい。そう言う理由で俺と同い年だった彼もご機嫌取りに会話をしていたという話は聞いてる。可愛がられていたとは聞いていたが、王族のウィルに対して説教垂れていたのを本人はうざいっと愚痴をこぼしていた。そういえば、俺にもよく何か言ってたな。どんなのだったっけ?忘れた。
でもそれだけで化け物呼ばわりなんて流石ウィル。天下の王太子様様だ。説教してくる奴は皆化け物ってか。
「まあその話は良いとして。隣室にその漂流者がいる。名前は西園寺、秋。名前が秋って言うらしい。黒髪黒目。髪は婚約者君と一緒だね。表向きは漂流者の護衛ってことになってるけど、優先すべきは次期国王の俺だからね?何かあった時は、最悪殺して」
「ころ……っ!!」
ちょちょちょっと!隣ってことは近いじゃん!!聞かれたらどうするのさ!!漂流者って何かしら能力持ってるって聞いてるけど!?
俺がそう慌てるとウィルは大丈夫っと手を振る。
「ここで許可ないものが魔法使えば、攻撃してくる仕様だからね。仮にそれを掻い潜れるほどの実力だとして、どうする訳?就職するにも家を持つにも身分証明書が必要なんだよ?俺を頼らないでここで生きられないんだよ?まあ、それすら考えられない馬鹿で国から出るなら喜んで見送るし!」
「なんて奴だよお前……。知らない土地に突然やってきて不安だろうに、そんなことできるなんて……」
「ふふ。そうやって優しくしたから前の漂流者はつけあがったのを覚えてないんだっけ?ベルは漂流者に優しくしたのにね?恩を仇で返すってああいう事を言うんだよね~」
「その話は良いでしょう。さっさと続きを言ってください」
「あ、そうだね。ごめんごめん」
ヴィが冷たくそう言った。うっと俺が思わずびくっと体を震わせるが、ウィルは朗らかに笑顔を見せる。
「漂流者を帰すのに、一か月かかる。その間に問題を起こさないように監視するっていうのが任務だよ」
「え?帰りたいって言ってるの?」
「うん」
ウィルはにっこりと笑顔を見せた。
へー。前の漂流者も帰したって言うしできるんだろうなぁ。多分。
そもそも漂流者ってどんな条件で発現するか分かんないんだよね。でも神の采配ってことで過去に神殿で帰りたいと強く願った漂流者が消えたって言うのは有名だ。だから、神殿に向かえば帰れるのでは?というのは有名な話である。事実かどうかは分からない。確認しようがないしね。
その神の貢物とかの準備に一か月かかるという事だろう。
「分かりました。その間、我々は此方に赴けばいいのでしょうか?」
「いや。漂流者の為に離宮を解放したからそこで過ごしてもらうよ。中には使用人みたいなことをさせるかもしれないけど」
「わざわざ?陛下の許可は得たのですか?」
「勿論。城下に置くと何するか分かんないじゃん?民が犠牲になる位なら宮廷付きのいつも無茶をこなしているプロに任せるべきだって話になって。一か月ぐらい我慢できるよね?」
「無理」
ヴィが了承する前に俺がそう言って首を振った。
ヴィは生活能力あるけど俺は無いんだよ?朝ご飯とか作れないし掃除できないし、どうすればいいの?絶対無理なんだけど。
「俺生活能力ないから、無理」
「えー?まじで婚約者君にやらせてんのー?さいてー」
「う、うるさい!!」
ヴィが俺の事捨てたら料理覚えるもん!!……多分!!
「そうですね。一緒に過ごすにはちょっと……」
「まあでも拒否権ないんだけどね。これ部屋の鍵。隣から回収して離宮に向かうよ」
「あああああっ!!知ってたこういう展開いいいっ!!」
鍵をヴィに渡して、立ち上がったウィルはさっさと来いっと顎を動かす。ヴィも俺に合わせてくれたのに、この男、自分が決めたことを曲げないんだよなぁっ!!
俺は頭を抱え、そして彼に渋々ついていく。ヴィもため息をついて彼についていった。
部屋を出るとすぐにお茶の準備をしてきた従者と出会う。ウィルはその人に休憩を取って用意したものを消費することとだけ指示を残し隣の部屋に。後ろには先ほど下がらせた屈強な近衛騎士が二人ついてきた。威嚇用だろうか。目が合ってしまい俺はすぐに逸らした。怖すぎ。
ウィルが扉の前に立つと後ろにいた近衛が扉の前に行きノックをする。
「失礼します。住居の準備が整いました」
「え!?あ、分かりました!!」
中から少し幼い声が聞こえた。それから扉が開くと黒髪黒目の可愛らしい男の子が出てくる。
俺とヴィを見ると一瞬驚きの表情を見せた。え、なに。ヴィは分かるけど俺って何か特徴あるっけ?俺の事情を知っていればそうだけど……?
「初めまして。ヴィアンと申します。これから漂流者様の護衛の任につくことになりました。これからどうぞよろしくお願いします」
そんな事を思っていたらヴィが自己紹介をした。俺ははっとして同じように自己紹介を始める。
「初めまして、漂流者様。ベルクラリーサと申します。同じく護衛につきました。どうぞよろしくお願いします」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします!!僕は西園寺秋です!秋って呼んでください。ええっとヴィアンさんとベル、ベル……」
「ああ。ベルで大丈夫ですよ秋様」
「様だなんて!!呼び捨てでいいですよ!!これからどうぞよろしくお願いします!!ベルさん!」
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僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
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