無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

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本編

怖い人が可愛いものを持っていたら可愛く見えるはず!!

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……。

…………?

ぱちっと目を開けると俺は布団の中にいた。え!?っと驚いて飛び起きると自分が来ているのがシャツになっていることに気が付いた。

なんでだ!?

がちゃっと扉が開く音がしてそちらを見るとヴィがお盆をもっており、俺が起きているのに気づくとふわっと笑みを浮かべる。



「ベルちゃん、おはよう」

「お゙あ゙……っ?」



声を出そうとしているとがらがらでうまくしゃべれない。んん、と咳き込んでから声を出すが全く効果がない。

え?なんでこんなに声でないの……?

そう思ってヴィを見ると、彼はしゅんっと肩を落として小さくなっている。



「ごめんなさい。無理をさせたみたいで……」



俺は首を振って魔力で文字を空中に出現させる。



―――こっちこそごめん。いつの間にか寝てたみたいで……。

「ううん!僕こそ待たせてごめんね?今日は休む?」

―――いや、声でないだけで休むわけにはいかないから。それに治癒魔法かければすぐだし。



昨晩ヴィにだけ任せて、お茶飲んだ後の記憶が全くない。お茶の後始末とかもやらせてしまったと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



「……でも、いいの?」



こくんと頷いて一先ずヴィのお盆の上のお茶を飲んだ。やっぱり美味しい。今度ヴィに教えてもらおうか……、いや、兄さんに教えてもらおう、今後の話をつけるためにも……。



「じゃあ、ご飯も持ってくるね」



そう言ってヴィが出て行ったので朝の準備の為にベッドから出ようとしたが、がくんと膝から崩れ落ちた。うまく体に力が入らない。それにじわじわと節々が痛くなってきた。慌てて治癒魔法をかけて全身の確認をする。



うん。大丈夫だ。あー、びっくりしたー。昨日なにが起こったんだろう。お茶飲んでただけなのに。

とりあえずそういうのは後でヴィに聞くことにして服を着よう。



「……あ」



既に、俺の服が机の上に用意されておりヴィって凄いなあっと思いながら俺はありがたくそれに着替えて、コップとお盆を持ちヴィのところに向かう。キッチンの部屋でヴィが机に朝ご飯を並べておりシンクにコップを入れてお盆を適当においておいた。それから席につくと同時に並べ終わったようでヴィも俺の隣に座った。



「いただきます」

「うん」



もぐもぐと目玉焼きとベーコンが載ったパンケーキを食べているとヴィがあっと声を出した。俺がそちらを見ると彼は席を立ってお茶の葉が沢山ある棚を漁り、その中から一つ缶を取り出す。



あ!



「ベルちゃん。昨日これ飲んでたでしょ?」

「うん!」



如何にもまずそうな茶葉の色だから選んで淹れたら死ぬほどまずいものに出来上がった奴!俺の淹れ方も悪かっただろうけども!



こくこく頷くとヴィはにっこりと微笑んでそれを持って席に座る。



「美味しかった?」

「いいや?まあ、俺の淹れ方が悪かったんだけど……」

「そ?じゃあ今夜、これ美味しく淹れてあげるよ」

「え。うーん、じゃあお願い」



別にそのお茶のこだわりはないんだけど、ま、淹れてくれるならそれでいだろう。俺もその姿を見てお茶の淹れ方を学べるし。



もぐもぐと再び食べ始めて食器洗いを任されながら、昨晩のことを聞こうかと口を開きかけて、ちりんちりんっと鈴がなった。



まだ業務時間じゃないんだけど。



そう思って半眼になり、漂流者って思いやりがないなぁっと口にする。それともいつでも呼んでくれという社交辞令が伝わっていないのかもしれない。大体、こんな早朝に呼び出すという発想に至るなんてどんな教育を受けているのだろうか……。



「僕先に行ってくるね」

「待って。こんな時間に呼ぶんだ。少し待たせてもばち当たらないよ」

「え、でも……」

「……皿洗い飽きた。ヴィやって」

「え、え!?」



ばっと洗いかけの皿をヴィに押し付けて俺は軽く手を洗ってその場を後にする。



「まっ!ベルちゃん!!僕も……っ」

「昨日はヴィだったでしょ!今度は俺!」

「ダメっ!!」

「もー!ヴィは俺を甘やかしすぎ!社会人だからもう大丈夫だってば!!」



皿洗いもせずにヴィが駆け寄ってくるので負けじと走って扉を開ける。そのままの勢いで飛び出すとばふっと何かにぶつかった。



「―――っ!」



鼻を抑えて顔をあげるとそこには白い髪を三つ編みにしている男がいた。ここら辺では珍しい小麦色の肌でぎろっと琥珀色の瞳が怪しく光る。

昔は左目に傷跡がついており怖い顔が倍増していたが、最近俺が刺繍したお花の眼帯をつけることによって少しは緩和された、と思う。



【大丈夫?ごめんね(;_;)】



さっとそう書かれた紙を出しているが、全く表情がピクリとも動かない。相変らずだ。

彼は、レイン・フェルカート。公爵家の三男でフェルカート家では時々このように小麦色の肌の子供が生まれることで有名な変わった家だった。



ヴィの付き合いで挨拶することがあったけど、小さい頃はもっと可愛かった。特に俺より背が低かったところが。あと、表情筋は全く動かないので感情が分からないからなんか嬉しかったらにこにこまーくでも書けと言ったら今はなんかいろんな顔の絵がつけられた。お陰で分かりやすくていい。



「平気。それよりなんでここにいんの?」

【殿下に頼まれて……(o´・ω・`)】

「ああ。お互い大変だね……」



漂流者かぁ。お互い大変だね本当に。



しみじみそう思ったが、ちりんちりん!!っとまたしても鈴の音がなって俺は慌てて「ちょっと漂流者のところ言ってくる!!」っと言って彼の横を通り過ぎる。

後ろからヴィの声がするが聞こえないふりだ。



漂流者の部屋の前につくとこんこんっと扉を叩いた。するとすぐに扉が開き「ヴィアンさん!!」っと何故かヴィの名前を呼んだ。しかし、いるのが俺だと気づくとあっと声をあげて真っ青になる。

俺ははああっとこれ見よがしにため息をついて腕を組んだ。



「何?俺も護衛なんだけど」

「あ、いや、す、すみません……」



そう言って謝るので俺ははあともう一度ため息をつく。



「まあいいけど。で?何か用……?」

「えーっと、その、ヴィアンさんは……」

「まだ寝てるけど?こんな朝っぱらから呼び出すなんてよっぽどの事情があると思ったんだけど、まさかヴィアン様を呼び出すために鳴らしたの?非常識にもほどがあるよ」

「だ、だって、ヴィアンさんがいつでも呼んでいいと……」

「バカじゃないの?社交辞令って言葉知らないの?」

「う……」



あ。やば。

ぼろぼろと彼が泣き出した。強く言い過ぎた。動揺してどうしようかと冷や汗を流すと、「秋様!!」と誰かの声がした。それから秋を背中に隠すように俺の間に入る。



きっと俺を睨みつけるようにして割って入った男は俺を見た。服からして侍従のようだ。



「秋様に何の御用でしょうか」

「その秋様がベルを鳴らしたから来てやっただけだけど?」

「だからと言って泣かせていい理由にはならないでしょう!!」

「あのね、こっちは便利な侍従じゃないわけ。単なる護衛で勤務時間外に呼ばれてこっちは迷惑してるのになんで非難されないといけないの?」

「……これだから、無能は嫌いなんだ。なんでこんな奴がヴィアン様の婚約者なんだ全く」

「何か言った?」



もう一度嫌味でも言ってやろうかと口を開きかけるとばっと間に紙が現れた。



【喧嘩はだめ(乂´∀`)】



そう書かれている紙だった。慌てて後ろを見るとそこにはいつの間にかレインがいてふるふると首を振っている。それからなでなでっと頭を撫でられた。俺がイライラしていると思って落ち着かせてくれているのだろう。そんなことは無いのだが。



「あ、レ、レイン様……っ!」

「レインさま?」



侍従が怯えたような声を出すが、秋の方がきょとんとして首を傾げている。レインには初めて会うようだ。俺は少し体をずらして彼が見えるようにする。それから一応紹介をしておいた。



「此方はレイン。今日から同じように護衛につくそうです」

「レインさんですか!初めまして!!」



おお。初見でレインに全く動じないなんて!やっぱり眼帯にお花の刺繍したのは良い効果だったな。流石俺。

声かけるたびにびくびくされて、すごく落ち込んでたから可愛いものを身につけさせたり、目の傷は隠してみたりと努力した甲斐があった。怖い人が可愛いものを持ってれば可愛く見えるんだ!うん!!

それはレインも感じているようで持っている紙をくしゃっと軽く強く握った後に慌てて新しい紙に書き始める。



【うん。初めまして、よろしくね(*^-^*)】

「はい!あの、その刺繍ご自分でやったんですか?カッコイイですね」



か、かっこいい!?お花がカッコイイだなんて変わってるなこの子。

俺はそう思っていると、レインがさらさらと紙に文字を書く。



【お花なんだ(*^^*)】

「そ……うだったんですね。えーっと、前衛的な……デザインですね!!」



レインの手が止まった。照れているようだ。お前が刺繍したわけじゃないのに、なんで照れてんだよ。

そう思ったがここで俺が刺繍したというと余計な争いが生まれそうなので黙っておく。



「レインさんもこれから僕の護衛ってことでしょうか……?」



こくんっとレインは頷く。するとぱっと顔を明るくさせて秋はレインの手を握ってきた。レインは驚いてびくっと体を震わせて俺を見た。完全に困っている。



「これからよろしくお願いします!!」



こくこくっと手を握られているので紙に書けないレインはそのように意思を伝えるしかないが、俺を見て頷くな。相手を見ろ。

すると秋はくすくすと笑った。



「照れ屋なんですね。レインさんは」



……そうだったのかお前。

俺はそう思いながら、何時まで経っても離さない秋の手を払う。「きゃっ」なんて可愛らしい悲鳴が聞こえたが、そんなに痛くしていない。第一相手が困っているのに握り続けるのってどうよ。自分に手を握られて嫌にならな奴はいないとでも思っているのか。



「痛い……」

「秋様に何をするんですか!!」

「別に?いつまでたっても手を握っていて邪魔だったから」

「ヴィアン様だけでは飽き足らず、他の男にまで手を出すなんて……」

「はー?何か言ったー?」



この侍従かなり突っかかってくるな。半日でそんなに秋に好意を抱いているってことか?たった半日で?凄いな。



「遅くなりました」

「ヴィアンさん!!」



そうこうしていたらヴィが到着してしまった。結局何の用事だったのか聞けずに、俺達を通り過ぎて秋がヴィの元に駆け寄っていく。

その後ろを侍従が追いかけ、行きがけに鼻で笑われた。本当になんだろうあの子。



【大丈夫?(>_<。)】

「平気」



それよりヴィだよ。俺のお世話もしてくれているのにあの子の世話もしなくちゃいけないなんて疲れちゃう。今日あたり、俺のことは良いというべきだな。うん。

そんな事を思っていたら、三人でどこかに行こうとしている。



「え!行こうレイン!!」



俺は慌てて三人の跡をついていく。俺に並列するようにレインもついていき、彼らが行きついた場所は図書館であった。
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