無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

文字の大きさ
14 / 34
本編

お料理

しおりを挟む
そうだ!手始めに料理をしてみよう!!丁度そこに味見役がいるし!!



「夕飯食べてく?食べていくよね!?」

【ヴィアンが何か作り置きでもしていったの?】

「これから俺が作る!!」



レインの手が止まった。なんだよ。そんなに俺の事じっと見るんじゃないよ!!



【ちなみに何を作るの?】

「ビーフシチュー!!」



この前の料理本で見たし!!野菜切って~煮込んで~でしょ?出来そうじゃない?



【ベルは、何か料理を作ったことがある?】

「え?ないけど?」

【簡単な物から作ろう?】

「え?なんで?」

【ベルは狩りの時にいきなり大物を狙うの?】

「はっ!!」



成程!確かに俺は初心者だ。もう少し簡単なものから作った方が良いってことか!!

でも、簡単な料理って何?

そんな事を思っているとレインが食材の確認をして、食パンや野菜を取り出した。



【サンドウィッチを作ろう】

「え?流石に俺それぐらいはできるよ?」

【本当に?】

「え?」



他に卵、バターなどを出される。ここなんでもあるな。維持費相当かかってるぞ。



【ゆで卵は作れる?】

「ゆで卵……?えーっと、お湯の中に卵を入れるんだよ、ね?」

【じゃあ、ゆで時間によって半熟や固ゆでなど種類があることを知っているか?】

「え!?そうなの!?」



知らなかった!!いつも黄身がトロっとしてる奴しか食べたことない……。あれはなんて言うんだろう……はん、じゅく?



【それなら卵サンドを作ろう】

「うん!!黄身がトロっとしてる奴作りたい!」

【半熟だな。ならゆで時間は5分から6分くらいだ】



そう言ってレインが俺にどこからか取り出した砂時計を渡した。これがその時間を計れる奴だろう。

俺はそれを受け取って鍋に水を入れて火にかける。

ゆで卵も煮るだけだから案外簡単だな。料理初心者の俺でもいけるのではないか?



他にもレインが野菜を切ったり、他の棚から調味料を出している。黙っているが、結構驚いているはずだ。ここ本当に何でもあるのな。



お湯が沸いて、俺はお玉でそーっとそーっと卵を四つほど入れる。それから砂時計をひっくり返して半熟までじーっと時間が過ぎるのを待つ。



半熟卵が出来たら何にしよう。卵サンドイッチ、輪切りにして野菜と挟むのもいい。あ。そういえば、結構前に厚焼き玉子サンドを作って貰ってそれが美味しかった!ゆで卵出来そうだし、それにも挑戦してみようかな!えーっと、卵をボウルで解きほぐしてた、と思う……。



俺は卵を取り出してボウルを用意する。確か卵割るときってこれをこんな感じで―――。



「あれ?」



思いっきり机に打ち付けたらぐちゃっと手の中で割れてしまい、殻が砕けた。一先ずその手の中のものをボウルに入れる。見事に殻ごと潰れた卵がそこにあった。



「力入れすぎた?これもう食べられないから捨てるか……」



シンクに流そうとしたらばっとそれをレインに奪われた。きょとんとして首を傾げる。



「え?それ捨てるよ?殻たくさん入ったし」



レインはふるふると首を振って、一旦ざるにあけると卵と殻に分けられた。それから器用に細かい殻を大きめの殻で取ってじろっと俺を睨む。俺はうっと気まずくなって視線を逸らすと、いつの間にか砂時計が終わっていることに気付いた。



「あ!!」



慌てて火を止めてそれから水で冷やす。殻にヒビはいっていないようだが、少しゆですぎた気がする。他のものも作ろうとしたからだ。思わずしょんぼりと肩を落とすと、すっと目の前に紙が現れた。



【元気出して(..、)ヾ(^^ )】

「だ、大丈夫。原因は他のものも作ろうとした俺が悪かっただけだから。一先ず厚焼きの方は諦める」

【ああ、成程。じゃあ俺はそれ作るよ。だからベルは卵サンド作ってね】

「うん!」



レイン。公爵家の三男なのに料理が出来るなんてすごいな。権力的にも婚約者がいておかしくないのに顔が怖いせいで皆から断られるなんて可哀そうだ……。こんなにいい子なのに。



それから俺はゆで卵の殻をむいてボールの中でぐちゃぐちゃにする。やっぱり少し茹ですぎたようで黄身がトロっとなっていなかったが、マヨネーズ、塩などと混ぜてバターやマスタードを塗ったパンに挟めば美味しい卵サンドだ。



おお!!俺でも出来た!やったー!!



味見として一つ手に取って食べてみる。食べれる!!普通に食べれる!!自分でもまともな料理が出来たことに感動しながら、他にも野菜(既にレインが切っていたもの)を拝借して、他に輪切りにした卵と一緒に挟む。



「出来た!!ねーね―見て見て!!ヴィのご飯!!」

【すごい。美味しそうだね】



さっと既に書いてあったのかその紙だけをレインは出して俺に見せる。なんだよ~。俺出来るって思われてたのか~。その事に嬉しくなってにこにこしながらもう一つの皿を出す。



「こっちはレインの!」

「!」



あ!厚焼き玉子出来たみたい!

フライパンから綺麗にオムレツみたいな厚焼き玉子を皿に移したレインがぴたりっと動きを止める。ん?っと彼の様子を伺うが生憎何言いたいか分からない。すまん。



「あ!要らなかった?」



ぶんぶんっと全力で首を振った後にかああっと顔を赤くしたレインは、わたわたと紙を準備しようとするが俺は何を言わんとしているのか流石にわかり、ふっと笑みを浮かべる。



「どういたしまして~。そっちの厚焼き玉子は俺のね」



こくこくっと縦に首を振ったレインがフライパンを片付けて厚焼き玉子サンドを完成させる。



そうして、俺の初めてのお料理は終わった。

レインは俺が作ったサンドウィッチを布に包んで部屋から出て行った。ここで食べていってもいいとは言ったが頑なに断ったので俺は仕方なく見送り、ヴィが帰ってくるのを待つ。初めてにしては上出来なのでは?と茹で時間の失態は無かったことにして自分を褒め称えつつ、一通り風呂なども終わらせてソファがある部屋で待っていた。







――――次の日の朝まで。

窓から日の光が差し込んできて俺はぎりいっと歯を食いしばる。



「あんの漂流者がああああああああっ!!」



まだ!ヴィの婚約者はまだ俺なのに!!朝帰りさせるなんてひどい!!文句の一つでも言ってやろうとさっさと準備を済ませて部屋に向かう。昨日の呼び出しのお返しでばんばんばんっと派手にノックをする。

この野郎!!俺の努力を踏みにじりよって!!許さん!!



「ちょっと!!起きろよ!!一晩も仕事させるなんてどれだけ……っ!!」

「あれ?おはようございます、もう一人の護衛の方」

「ああ゙!?」



思わず柄悪くそう言ってしまった。やべっと一瞬焦って其方を見るが相手は何も気にしていないようだ。というか、にやにやと何やら見下されているような視線を感じる。



「秋様とヴィアン様は城下で一晩過ごされましたよ?何でも昨日、星降り祭という祭事があったとか」

「え?ああ……」



そういえばそんなのもあったな。俺は興味なかったからそういうイベントごとに疎いんだけど……。

そこまで考えてあっと声を出す。それから顔を青くした。



ま、まさか今まで行きたかったのかな!?で、でもあんな人混みの中ヴィなんか目立つから色んな人に声かけられて疲れるんじゃないかとか思ってたし、めんどくさかったし……。いや、いいや!!俺は!今までそう自己完結して何もヴィに聞いてなかった!!自分のことばっかり優先してた!!



「その顔だと、誘われもしなかったんですね。ヴィアン様の婚約者なのに」

「……っ!」



今!そのワードを出さないでくれ!!婚約者なのに俺ばっかり甘えてたって今更実感したくない!!



「ま、またあとできます!!」

「そうですね~。ヴィアン様もきっとお疲れでしょうからね~」



分かってるよそんな事!!

俺は舌打ちしそうになってダッシュで部屋に戻る。

帰ってきたらとりあえず寝かせて、今日は部屋から出さないようにしないと。仕事しすぎ。させすぎ俺。



あと、祭り行きたかったかどうかを聞かないと……。



うわーん!今までごめんヴィ!かなりその祭り逃してるよねぇ?!今度の祭りは行くからぁ!!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」 製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。 しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。 ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。 「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」 真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。 師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。 「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」 これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...