無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

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本編

兄さんは変人 ※お兄ちゃんの名前間違ってましたので訂正しました

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今日は休業なのか店らしき表の扉は閉まっている。

が、何故か扉窓は割れており中のショーケースや棚がぐちゃぐちゃに壊れていた。何かあったのだろうか。



俺がそんな事を思っていると「こっちに来てくれ」っとおじいちゃんは店の裏に回る。

おじいちゃんが裏の扉から入ると中から慌てたような足音が聞こえて緑色の髪の男が現れた。

年若いが俺と同い年か少し下くらいだと思う。



彼は俺と目が合うとはっとしたような表情をした。それから慌てておじいちゃんに駆け寄る。



「帰ったぞ、クラリオ」

「おじいちゃん!なんで兵隊さんを連れてきたの!!お忙しいのにすみませんおじいちゃんが!!」

「いや。俺たちが勝手にやったことだから」



というか、兵隊さんって。やっぱり俺のこと知ってるのか?いやでも……?

そんな事を思いながらもやっぱり思い出せないので、ひとまず玄関先で荷物をおろす。侍従君も同じように荷物をおろしたので「それじゃあ」っと声をかけて俺は引き返そうとした。



「兵隊さん。これのお礼にお茶でもいかがかな?」

「おじいちゃん!!」

「いえ。別に要らな……」



俺がそう断ろうつぃたとき、がしゃーんっと何やら激しくガラスが壊れるような音がした。びくっと男が怯えたような表情をしてぎゅっと自分の体を抱きしめるようにする。その音の正体を確認するよりも先に、どんどんっと中の方から扉を叩く音がした。



「もしもーし。帰って来てんでしょー?」



そして、間延びしたような声が聞こえてきた。おじいちゃんは険しい顔をしながら俺に頭を下げる。



「申し訳ない。どうか、今だけでいいんです。孫を守ってもらえませんか?」

「お、おじいちゃん!!ダメだよ!僕も一緒に……」



おじいちゃんが一人で店の方に向かうので彼もいっしょについていこうとする。しかし、おじいちゃんはだめだと首を振った。



何やら訳あり?なのかな?



「分かった。俺がおじいちゃんと一緒に行くから君達はここで待ってて」

「え!でもそんなこと……っ!」

「大丈夫だからここにいて。おじいちゃん行こう」



男が何かそう言ってくるが、俺はおじいちゃんを引っ張って中に入る。侍従君はどうだろうか、と様子を伺うが何も言ってこないので恐らく概ね賛同なのだろう。宮廷付きの世話係になれるほどの実力者なんだからそれなりに腕は立つはずだ。



「すまんなぁ、兵隊さん」

「気にしないで。ついでだから」



おじいちゃんはそう言いながら未だにどんどんと荒々しく扉を叩く音がする方向に行き、その扉の鍵を開けた。



そして扉を開けるといかにもならず者といった風貌の男たちが6人ほどそこにいる。

手には剣や棍棒を持っており、俺を見ると鼻で笑う。



「誰だ?爺さんに雇われた傭兵か~?可愛いじゃねーか、なあ」



そう言ったリーダーらしき男の声と共に笑い声が響く。俺はそれを誉め言葉と受け取ってにっこりと笑顔で返した。



「そりゃどうも」

「おいおい。状況分かってんのか?こっちはぁ、貸した金を回収しに来ただけなわけ。な~んにも悪い事なんてしてませーん」

「へえ?」



よくある悪徳の金貸しって感じ。

俺はそこら辺の事情は知らないが、この人たちからお金を借りたということは分かった。すると、隣にいたおじいちゃんが床に膝をついて額をそこにこすり合わせた。



「後一週間、いや5日待ってください!!」

「はー?それ前も言ってたじゃん?俺達かな~り待ったと思うけどぉ?なー?」



リーダーがそう言った瞬間、隣にいた棍棒を持った男がもう既に壊れているショーウィンドーのガラスをもっと粉々にして壊した。



うわ、乱暴……。



おじいちゃんに破片が飛ばないようにさっと前に立つとリーダーがじいっと俺を下から上まで舐めるように見た。

不快感に眉を寄せると「そうだ」っと声をあげてにっこりと笑顔を作る。



「一晩その傭兵が相手してくれたらいいけどぉ?」

「無理」



ヴィが心配するし。

速攻で断るがリーダーが俺に近づいてきて手を伸ばし俺の頬に触れようとするので払った。ひゅうっと小さく口笛を吹いた後にがっと俺の胸元を掴んでくる。



「だったら金用意しろよ。金だよ金!!1000万ラグール!!」

「1000万……?」



思わずその金額を復唱しておじいちゃんを見る。

そんな大金をどうして借りないといけない状況に陥ったのだろうか。経営がうまくいかなかったとか?



「そうそう。この爺さんの息子が遊ぶお金がないって言って借りに来たわけ。そんで本人は借金だけ置いて逃げたってわけ!」

「ふーん?」



それは大変だ。何より家族に迷惑がかかるような消え方が一番困るよね。

こういう時ってどうしたら正解なのかな?俺頭悪いから拳で勝負するしかないんだけど、それじゃあお金の問題が解決しないよね?



うーん、うーん、だからと言って一晩はちょっと……。まあ、ヴィに事情を話せばいいのかな?悩む。悩むよー!!



「あ、あのぅ……」



そんな雰囲気の中で不意に小さくて控えめな声がかかった。外からだ。そして、俺はその声に聞き覚えがあった。



恐る恐るというような足の運び方で顔に合っていない大きな瓶底眼鏡を指で上げながらもゆっくりと店内に入ってくる。彼の登場により一斉に視線が向き、びくっと体を震わせながらも俺と目が合った。それからごくんとつばを飲み込んで深呼吸をする。



「う、うちの、弟が、な、なに、きゃっ!」



どもり震えながら彼は思いっきり噛んだ。



そう、あの如何にも頼りなさそうなのが俺の兄、ギルベルト・スウェル。こんななりだが研究になると早口になる変人だ。こんななりだが、本当に強く、武器なしで拳のみだとまず勝てない。全く筋肉質ではないのだが、常人ならざる力を持ち、鋼のような体で、攻撃すると逆にこっちが怪我をする。こんななりだが。



ただ、御覧の通りの性格なので完全に宝の持ち腐れであるが。



「はあ?誰だ?」

「ひぃ! あ、あの、お、弟を……」

「あー?」

「お、おと、おとう……」



涙目になってぶるぶる震えている。彼はもう限界だ。



「やめてよ!兄さんを虐めないで!!」



思いっきり兄さんを見ているリーダーの後頭部にかかとを落とした。するとがくんっと蹴った方向に体が面白い位に倒れこんで泡拭いて倒れた。



やれやれ。この程度で伸びるとは……。



「べ、ベル!!だ、だだ、だめ……っ!」

「なっ!卑怯だぞ!!」

「やっちまえ!!」



兄さんの叫び声が聞こえたが無視。誰かの掛け声とともに獲物を手にした彼らは俺に襲い掛かる。

それらを軽くかわしながら、ショウウィンドウに顔を突っ込ませたり、顎を思いっきり蹴り上げたりしていたりしていたら数人に逃げられた。意気地なしめ。



残って伸びている男たちを縛り上げ、死にそうにない怪我なのでそこら辺に投げると兄さんが「バカ――――っ!!」っと叫んで俺に平手打ちをした。その衝撃でおれはゴロゴロと真横に吹っ飛ぶ。



痛い。



「もう!もうベルはなんでそんなに血気盛んなの!!もう少しおしとやかにしないとダメでしょう!!??」

「兄さんに似たんですぅ」

「俺はそんなことしてない!!」



今しがた弟を平手打ちにしてどの口が言ってるんだい?



腫れあがって、口の中が切れたので血の味がする。吐き出したい。もごもごと口を動かすとそれを感じ取った兄さんが白いハンカチを取り出し俺に渡す。俺はそれを受け取ってぺっぺっと吐き出した。



こんな怪力なのに魔装具を作るときは繊細で優しいのだ。多分、ここぞというときにバカ力が出るタイプ。なので、結構自分の力には無自覚。



「だいたい、なんでこんなところに……っ!」

「おじいちゃん!!」



すると先ほどの騒ぎを聞きつけてか緑の髪の子が出てきた。それから腫れあがった俺の頬を見ると息をのんで悲鳴を上げる。



「兵隊さん!大丈夫ですか!?」

「平気」



そう答えるとぼろぼろと泣き始めて、座り込んだ。



「ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「クラリオが謝ることは無い。全て儂が悪いんだ。責めるなら儂を責めてくれ。この子は関係ない」



そう言っておじいちゃんが泣いている彼を抱きしめながらそう言った。俺は一先ずそれを聞いて一言。



「冷やすもの借りていいですか?話はそれからで。兄さんもそれでいいよね?」

「う、うん。うちの弟がご迷惑をかけたみたいでなんとお詫びしたらいいのか!!本当に申し訳ありません!!」



ばっと無理やり頭を下げられた。

兄さん酷い。俺は人助けをしただけなのに。



いやいやわしが、いやいや弟が論争に発展しそうだったので一先ず泣いてしまっている彼を支えながら中に向かう。



するとそこに侍従君がいた。少しそわそわしているようだったが俺を見た瞬間ぎょっとした顔をする。



「だ、大丈夫なの……?」

「ああ、これぐらいだったら大丈夫。ちょっと水借りるから彼を部屋に運んでおいてくれるかな?」

「……分かった」



よろしくっと声をかけて彼に任せる。俺は水を借りてハンカチを濡らした後に腫れた頬にあてた。冷たい。

ひょっこりとまた店先を覗くとまだ頭を下げている二人がいたのでため息をついた。



「これからのことを話し合わないといけないんじゃない?」

「あ!そ、そうだね!あんなに派手にやったんだから恨まれてるだろうし……」

「そ、そんな!これ以上迷惑をかけるわけには……っ!」



おじいちゃんがそう言うが、兄ががしっと彼の手を取る。



「いいえ!大体こんなに店内を弟が壊したのに家族として責任を取るのは当たり前です!!」

「いや、そもそももうこわれて……」

「だまらっしゃい!!」



すぱんっと頭をはたかれてぐわんっと頭が揺れる。俺じゃなかったら脳震盪を起こす勢いだ。全く。



「任せてください!弟の後始末をするのは兄の義務ですから!!」



まあ、兄さんは昔からそう言っていた。人と会話するのが苦手なのに俺の後始末で色んな人に頭を下げて、下げさせて、お陰である程度人に慣れてきたとでも言えばいいのだろうが彼は、どうしてか俺を見捨てることは無かった。



他の人の話を聞けば、俺は面倒なタイプの家族なのに。



確かに、錬金術の為の材料という面もあるだろうがそれでも、だ。



本当に、兄さんは変人だ。
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