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因縁の人と幸せ
一、
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午後からは昨日も行った喫茶店とレストランの予定だったが、導かれて行った先は古くて大きな家、お屋敷という言葉がぴったりの場所だった。
大平幹三郎 89歳 無職
家は大きいのに人気がなく、家が寂しそうに感じた。
ひらひら降り立って庭のおおきく開け放たれた窓から入った。
「誰だ。」
その家に住む老人は僕らが来たのがわかったかのように言った。
ロビンは声に出さず老人の座っているテーブルの向かいに座って、帽子をテーブルの上に置いた。
「悪魔か。」
老人は見えるはずもないロビンと僕に話し続けた。
「また苦しめに来たのか。性懲りもなく。何回目だ。」
老人はそう言いながらもロビンにお茶を入れて差し出した。ロビンは口を付けなかった。
「もう妻も子供もワシをおいて旅立った。もうここに残ったものはワシ一人だ。思い残すことはない。いっそ命をとってはくれないだろうか?」
ロビンはお茶に指を入れると机にNOと書いた。
「まだだめなのか。まだワシを苦しめるのか。」
そう言うと自分のお茶をロビンめがけてぶちまけた。ロビンはそのお茶をまともに浴びた。体が濡れたままロビンは立ち上がりポケットから縄を取り出した。
「僕が巻きましょうか?」
「いやいい。この人とは長い付き合いなんだ。僕が最後まで責任をもってやるように言われているから・・・」
そう言って縄を巻き始めた。老人も覚悟を決めたように目を閉じてただ椅子に座っていた。そして老人のとなりの席に座るとハーモニカを吹き始めた。
老人はそのままで涙を流し始めた。愛を奏でるような優しく美しいメロディが部屋に響き渡った。
「あなたは俺が何度ここへ来ても死にたいと言う。でも本当に大切なのは、なぜ自分は生きているのかを知ることなんだ。」
そう老人に言ったが、その声は届かない。老人はあいかわらず少しうなだれて涙を流していた。
「エーゴ、いこうか。」
寂しげな家を出ると、次の場所へ急いだ。悪魔は想像以上に忙しい。
「先にレストランの方へ行こう。今日で縄が外せるんだ。」
「あのカレーの店っすね。」
「そうだ。長かったよー3年。毎日通った。美味しそうなカレーの匂いばかり嗅いでいて、カレーが食べたくて。でも、あそこの喫茶店。俺が晩御飯を買うところ、カレーがないんだ・・・何度も聞いてみたけど作ってくれない。」
「おいしそうな匂いなんすよねーいつも。今晩、うちでカレーつくりましょうか?」
「え?作れるのか?」
「作れるっす。意外に簡単に作れますよ。材料揃うとこありますか?」
「あるよ。スーパーがある。俺は行ったことないけどね。」
「じゃあ、帰りそこで材料揃えて、アパートで作って待ってますよ。」
「やったー!人生初カレーだ。」
ちょっとびっくりするくらいの喜びようで、僕のほうが驚いた。
ロビンはその喜びのテンションのまま僕の腕を掴んで高く飛び、あの商店街へと飛んだ。あまりの喜びようで、ぐるぐる回ったり、上がったり、下がったりを繰り返して僕は振り落とされないように必死に捕まった。
あの鄙びた商店街の真ん前に降り立った。今日も人通りはほとんどなかった。
小さなレストランにも客はいない。
店のドアについたベルが鳴らないようにそっと入っていくのに、今日はなぜか勢いよく扉を開け、ベルは“カランカラン”と大きな音を立てた。
店の主人は「いらっしゃいませ」と元気よく言ったが、店には僕らしかいなかった。
しかも店主に僕らは見えていない。
ロビンは店主に巻かれた縄を解いた。店主は“ふぁ”と息をつき、一瞬体が膨らんだように見えた。長い間の重荷がとれたからだろう。思い切り伸びをして、体を左右に振った。
ロビンは店のカウンターに座った。
「もうすぐお客さんがくるよ。」
ロビンがそういったそばから、少しずつ席が埋まっていった。
「帰ろう。俺達は邪魔だ。」
外へ出てもう一度店を振り返るころ、僕らが座っていたカウンターにもお客さんが座っていた。
大平幹三郎 89歳 無職
家は大きいのに人気がなく、家が寂しそうに感じた。
ひらひら降り立って庭のおおきく開け放たれた窓から入った。
「誰だ。」
その家に住む老人は僕らが来たのがわかったかのように言った。
ロビンは声に出さず老人の座っているテーブルの向かいに座って、帽子をテーブルの上に置いた。
「悪魔か。」
老人は見えるはずもないロビンと僕に話し続けた。
「また苦しめに来たのか。性懲りもなく。何回目だ。」
老人はそう言いながらもロビンにお茶を入れて差し出した。ロビンは口を付けなかった。
「もう妻も子供もワシをおいて旅立った。もうここに残ったものはワシ一人だ。思い残すことはない。いっそ命をとってはくれないだろうか?」
ロビンはお茶に指を入れると机にNOと書いた。
「まだだめなのか。まだワシを苦しめるのか。」
そう言うと自分のお茶をロビンめがけてぶちまけた。ロビンはそのお茶をまともに浴びた。体が濡れたままロビンは立ち上がりポケットから縄を取り出した。
「僕が巻きましょうか?」
「いやいい。この人とは長い付き合いなんだ。僕が最後まで責任をもってやるように言われているから・・・」
そう言って縄を巻き始めた。老人も覚悟を決めたように目を閉じてただ椅子に座っていた。そして老人のとなりの席に座るとハーモニカを吹き始めた。
老人はそのままで涙を流し始めた。愛を奏でるような優しく美しいメロディが部屋に響き渡った。
「あなたは俺が何度ここへ来ても死にたいと言う。でも本当に大切なのは、なぜ自分は生きているのかを知ることなんだ。」
そう老人に言ったが、その声は届かない。老人はあいかわらず少しうなだれて涙を流していた。
「エーゴ、いこうか。」
寂しげな家を出ると、次の場所へ急いだ。悪魔は想像以上に忙しい。
「先にレストランの方へ行こう。今日で縄が外せるんだ。」
「あのカレーの店っすね。」
「そうだ。長かったよー3年。毎日通った。美味しそうなカレーの匂いばかり嗅いでいて、カレーが食べたくて。でも、あそこの喫茶店。俺が晩御飯を買うところ、カレーがないんだ・・・何度も聞いてみたけど作ってくれない。」
「おいしそうな匂いなんすよねーいつも。今晩、うちでカレーつくりましょうか?」
「え?作れるのか?」
「作れるっす。意外に簡単に作れますよ。材料揃うとこありますか?」
「あるよ。スーパーがある。俺は行ったことないけどね。」
「じゃあ、帰りそこで材料揃えて、アパートで作って待ってますよ。」
「やったー!人生初カレーだ。」
ちょっとびっくりするくらいの喜びようで、僕のほうが驚いた。
ロビンはその喜びのテンションのまま僕の腕を掴んで高く飛び、あの商店街へと飛んだ。あまりの喜びようで、ぐるぐる回ったり、上がったり、下がったりを繰り返して僕は振り落とされないように必死に捕まった。
あの鄙びた商店街の真ん前に降り立った。今日も人通りはほとんどなかった。
小さなレストランにも客はいない。
店のドアについたベルが鳴らないようにそっと入っていくのに、今日はなぜか勢いよく扉を開け、ベルは“カランカラン”と大きな音を立てた。
店の主人は「いらっしゃいませ」と元気よく言ったが、店には僕らしかいなかった。
しかも店主に僕らは見えていない。
ロビンは店主に巻かれた縄を解いた。店主は“ふぁ”と息をつき、一瞬体が膨らんだように見えた。長い間の重荷がとれたからだろう。思い切り伸びをして、体を左右に振った。
ロビンは店のカウンターに座った。
「もうすぐお客さんがくるよ。」
ロビンがそういったそばから、少しずつ席が埋まっていった。
「帰ろう。俺達は邪魔だ。」
外へ出てもう一度店を振り返るころ、僕らが座っていたカウンターにもお客さんが座っていた。
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