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ヤサシイ悪魔
一、
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翌日は雨だった。傷だらけの僕だったが、なんとか杖なしで歩けるようになった。
すごく不思議だったのは、歩いても走っても飛んでも、雨が僕達をうまく避けてくれてまったく濡れていなかった事。
それでも、足跡を残すといけないから、靴底を濡らさないよう少し浮いて歩くようにと言われたのに、うまく浮くことができなくて、左足だけ何度か水たまりに落ちて、山田の家でも足あとをつけてしまい、山田の妻は雨漏りなのかと、何度も天井を見渡していた。
ロビンは縄をかけた人のところへは毎日通う。
毎日ハーモニカを聞かせ 毎日少しずつ縄を締め もちろん、それで人間は苦しみを増すのだが、またそれも確認するかのように毎日通った。山田も少しずつ悪い事は起きているが、まだまだ劇的に悪いという事はなさそうだった。
次はあそこ・・・秋山は、家にいた。実家は父親と母親の二人だけで営む小さな工場だった。
秋山は工場の2階の一室で勉強していた。工場の機械がけっこうな音を立てていたが、なにも気にならない様子で一身に学んでいた。
ロビンは置いてある本をペラペラとめくっていた。読んでいるのではなさそうだ。
何度かそれを繰り返して、「文字ばかりでクラクラする」と言って、目をグリグリげんこつで抑えていた。
そのあとゆっくりとハーモニカを吹き始めた。すると秋山ウトウトしはじめ、遂に机に伏せて寝てしまった。
「寝ちゃいましたね。」
「たまにはいいさ。」
ロビンはそう言ってそっと部屋を出ようとしたが、本の山に足を引っ掛け、思い切り本を倒した。
それでも、秋山は起きなかった。
金田利夫の家にも寄った。一緒に縛られていた変な生き物はごくふつうの猫になっていた。
にゃーにゃー鳴く声は金田には聞こえるのか、声の出処をくるくる探し回る金田に笑えた。
自分の背中に猫が縛られているということは知るわけがない。
老人のところへも毎日通った。
老人は毎日死にたいとロビンに言った。
そのたびロビンは机にNOと書き、怒った老人にお茶をかけられる。
ロビンはずぶ濡れになりながらハーモニカを吹く。毎日同じで、毎日地味な仕事だ。
「たしかにあの人かわいそうだけど、やっぱり毎日お茶かけられて、見ている僕もムカつきますよ。あの老人も死にたがっているし、いい年なんだし、死神に連絡してみるとか思いきりしめるとか・・・」
「あの人はまだ死ねないよ。あの人は人間に生まれてきて、人を愛することも感謝することも、懺悔することも忘れてしまった。そんなやつが行ける場所は人間の世界以外ないんだよ。」
また少しスネて、ポケットに手を入れてうつむいて背中を丸めて歩く・・・そして僕はそんなロビンに見とれて、また水たまりに落ちた。
「冷たい!!」
小さく甲高い声の主は、道端の草むらにうずくまっていた疫病神。水たまりからはねた水で全身びしょ濡れになった。
「おまえ、まだココにいたのか。」
「小さいから進むのに時間がかかるんだよ。おまえらがわるいんだろ。寺まで送ってけよ。」
「寺か・・・遠いしなぁ。そうだ。おまえが住み着くのにちょうどいい屋敷があるぞ。紹介しようか?」
「ホント!」
「しかおもそこにはお人形の洋服と家があるよ。」
「いく!!」
疫病神を内ポケットに入れてもう一度老人の屋敷に戻った。老人はいつもの部屋でいつものようにただぼんやりと時を過ごしていた。
たしか娘の部屋は二階だ。
二階はもう長く使っていないのか、空いている窓がひとつもなかった。仕方なく玄関にまわったが、そこも鍵が掛かっていたから、トイレの窓から入ることにした。
トイレの窓は高いところにあったからとても大変だった。ロビンに乗ってマズ僕が入ってから疫病神を受けとって、ロビンがあとから入ってきた。トイレは狭くて二人入ったらいっぱいになった。
やっとの思いでトイレを出て、そっと足音を立てないように二階へ向かっうと、一部屋、一部屋そっと扉を開けて中を見た。
「おお、ここだ」
ロビンが大きく扉を開けたその部屋はドールハウスが中央のテーブルにあり、小さなタンスは人形の洋服でいっぱいだった。
「どうだ」
疫病神はとても喜んで洋服をタンスからいろいろ取り出して鏡の前で自分に当ててくるくる回った。
「気に入ったか?」
「うん ありがとう」
「ずっとはダメだからな。雨が止んだらでて行けよ。」
疫病神はあかんべをしていた。
外へ出るときもトイレから出た。よく考えたら僕たちは人間には見えないのだから別にどこから出てもよかったんじゃないのかなと思った。
ロビンは窓から出る時スーツの裾を引っ掛けて破れ、とっても怒っていた。
「疫病神は出て行きますかね?」
「行かないだろうな・・・・あのくらいのサイズに快適すぎるほど揃っているからね。」
「あそこの爺さん病気になっちゃうんじゃないですか?」
「どうかな・・・」
ロビンには、人の未来がちらりと見えたかのような笑い方をする。
それがどうなって行くのか、とても気になるのだけど当然教えてもらえない。
僕も一人前の悪魔になれたとき、その力が手に入るのだろうか・・・ちょっと楽しみだ。
すごく不思議だったのは、歩いても走っても飛んでも、雨が僕達をうまく避けてくれてまったく濡れていなかった事。
それでも、足跡を残すといけないから、靴底を濡らさないよう少し浮いて歩くようにと言われたのに、うまく浮くことができなくて、左足だけ何度か水たまりに落ちて、山田の家でも足あとをつけてしまい、山田の妻は雨漏りなのかと、何度も天井を見渡していた。
ロビンは縄をかけた人のところへは毎日通う。
毎日ハーモニカを聞かせ 毎日少しずつ縄を締め もちろん、それで人間は苦しみを増すのだが、またそれも確認するかのように毎日通った。山田も少しずつ悪い事は起きているが、まだまだ劇的に悪いという事はなさそうだった。
次はあそこ・・・秋山は、家にいた。実家は父親と母親の二人だけで営む小さな工場だった。
秋山は工場の2階の一室で勉強していた。工場の機械がけっこうな音を立てていたが、なにも気にならない様子で一身に学んでいた。
ロビンは置いてある本をペラペラとめくっていた。読んでいるのではなさそうだ。
何度かそれを繰り返して、「文字ばかりでクラクラする」と言って、目をグリグリげんこつで抑えていた。
そのあとゆっくりとハーモニカを吹き始めた。すると秋山ウトウトしはじめ、遂に机に伏せて寝てしまった。
「寝ちゃいましたね。」
「たまにはいいさ。」
ロビンはそう言ってそっと部屋を出ようとしたが、本の山に足を引っ掛け、思い切り本を倒した。
それでも、秋山は起きなかった。
金田利夫の家にも寄った。一緒に縛られていた変な生き物はごくふつうの猫になっていた。
にゃーにゃー鳴く声は金田には聞こえるのか、声の出処をくるくる探し回る金田に笑えた。
自分の背中に猫が縛られているということは知るわけがない。
老人のところへも毎日通った。
老人は毎日死にたいとロビンに言った。
そのたびロビンは机にNOと書き、怒った老人にお茶をかけられる。
ロビンはずぶ濡れになりながらハーモニカを吹く。毎日同じで、毎日地味な仕事だ。
「たしかにあの人かわいそうだけど、やっぱり毎日お茶かけられて、見ている僕もムカつきますよ。あの老人も死にたがっているし、いい年なんだし、死神に連絡してみるとか思いきりしめるとか・・・」
「あの人はまだ死ねないよ。あの人は人間に生まれてきて、人を愛することも感謝することも、懺悔することも忘れてしまった。そんなやつが行ける場所は人間の世界以外ないんだよ。」
また少しスネて、ポケットに手を入れてうつむいて背中を丸めて歩く・・・そして僕はそんなロビンに見とれて、また水たまりに落ちた。
「冷たい!!」
小さく甲高い声の主は、道端の草むらにうずくまっていた疫病神。水たまりからはねた水で全身びしょ濡れになった。
「おまえ、まだココにいたのか。」
「小さいから進むのに時間がかかるんだよ。おまえらがわるいんだろ。寺まで送ってけよ。」
「寺か・・・遠いしなぁ。そうだ。おまえが住み着くのにちょうどいい屋敷があるぞ。紹介しようか?」
「ホント!」
「しかおもそこにはお人形の洋服と家があるよ。」
「いく!!」
疫病神を内ポケットに入れてもう一度老人の屋敷に戻った。老人はいつもの部屋でいつものようにただぼんやりと時を過ごしていた。
たしか娘の部屋は二階だ。
二階はもう長く使っていないのか、空いている窓がひとつもなかった。仕方なく玄関にまわったが、そこも鍵が掛かっていたから、トイレの窓から入ることにした。
トイレの窓は高いところにあったからとても大変だった。ロビンに乗ってマズ僕が入ってから疫病神を受けとって、ロビンがあとから入ってきた。トイレは狭くて二人入ったらいっぱいになった。
やっとの思いでトイレを出て、そっと足音を立てないように二階へ向かっうと、一部屋、一部屋そっと扉を開けて中を見た。
「おお、ここだ」
ロビンが大きく扉を開けたその部屋はドールハウスが中央のテーブルにあり、小さなタンスは人形の洋服でいっぱいだった。
「どうだ」
疫病神はとても喜んで洋服をタンスからいろいろ取り出して鏡の前で自分に当ててくるくる回った。
「気に入ったか?」
「うん ありがとう」
「ずっとはダメだからな。雨が止んだらでて行けよ。」
疫病神はあかんべをしていた。
外へ出るときもトイレから出た。よく考えたら僕たちは人間には見えないのだから別にどこから出てもよかったんじゃないのかなと思った。
ロビンは窓から出る時スーツの裾を引っ掛けて破れ、とっても怒っていた。
「疫病神は出て行きますかね?」
「行かないだろうな・・・・あのくらいのサイズに快適すぎるほど揃っているからね。」
「あそこの爺さん病気になっちゃうんじゃないですか?」
「どうかな・・・」
ロビンには、人の未来がちらりと見えたかのような笑い方をする。
それがどうなって行くのか、とても気になるのだけど当然教えてもらえない。
僕も一人前の悪魔になれたとき、その力が手に入るのだろうか・・・ちょっと楽しみだ。
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