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ヤサシイ悪魔
二、
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「これから行くところはエーゴが担当しろ。いいか、何があっても支持どおりしっかりやるんだぞ。わかったな。」
そう何度も言い聞かされた後、僕の腕を掴み一気に高く思い切り早く前に飛んだ。
見慣れた景色、どこにでもあるような小さな街、そこは僕の生まれた街だった。
「こんな遠くまでも来るんですね。」
多くは言わなかった。きっといわなくてもロビンにはすべてわかっているだろうから。
「オーダーがはいれば何処まででもいくさ。断ることはできない。あそこの家だ。」
あそこの家は・・・知ってる。
同級生の家だ。同級生の太田大和 二十三歳
小さい時からずっとあいつにはイジメられてきた。
高校生になって、やっと別々になれてホッとした。
高校卒業後、就職を地元でしなかったのはこいつが地元に残ると聞いたからだった。
太田大和はこんな時間にまだ家にいて、ちょうど今、母親に起こされたところだった。
「大和、そろそろ仕事の時間だよ。」
何度も母親に揺り起こされ、不機嫌そうに目をこすりながら起きてきた。
すでに縄がかけていた。昨日ロビンがかけた。
「あとは音楽を聴かせるだけだ。できるか?」
優しく聞いてくれるロビンに返事ができなかった。ふてぶてしく用意をする太田に過去の記憶が重なり体に震えを感じた。
「エーゴ・・・エーゴ・・・大丈夫か?」
「あ・・・はい 大丈夫っす。」
僕は覚えたての”キラキラ星”を弾いた。
こんなかわいい曲だったけど、まったく楽しんで弾くことはできなかった。
音符よりも子供の頃のイジメられている映像が頭に浮かび、憎しみだけが空回りした。
「エーゴ・・・エーゴ・・・ダメだ。やめろ。こいつを見ろ!」
ロビンに激しく揺さぶられ、ハッと気付くと、強く締めすぎたのか、太田は飲んでいたコーヒーを吐いて胸を抑えうずくまった。
「エーゴ・・・ 人間の時、いろいろなことがあっただろうけれど、君は今悪魔なんだ。昔のことは忘れるんだ。
人間に苦しみを与える事もできる強い力を手に入れたんだ。冷静に与えられたオーダーどおりに行動できるように努力しろ。」
「すいません・・・こいつ、死んじゃいますか?」
「・・・大丈夫だ。まだ若いし体力もある。だけどもうするなよ。どんな人間にも平等に、だ。自分の感情を入れるな。」
「縄緩めますか?」
「一度締めたものは緩まない。」
一言だけ言い残すと、ロビンは太田の家から出て行った。
僕はすぐにはその場所を動けなかった。後ろめたくて、何度か振り返ったが、太田はうずくまったまま起き上がることはなかった。
「すいませんでした。」
「俺に謝られてもこまる。恨むということがどれだけ愚かなことかわかったろ。けど・・・俺も1回だけある。
締めているときは死んじゃえばいいと思うけど、後味の悪いもんだよ。苦しんでいる光景がずっと、頭の奥に眠っていてふとしたときに起き上がる。どんなに忘れようとしてもそれだけは鮮明に残っているんだ。
エーゴ、悪魔の俺が言うのもへんだけど、許すほうが、恨み続けるより楽だぞ。」
影のある笑みで、失った何かをかくそうとしているのがわかった。失ったものは絶対戻ってこないもの・・・なのも、なんとなくわかった。
失ってはじめて気づくことがあるけれど、失う前に教えてもらえてよかった。
ロビンは僕に手を差し出した。なにも聴かずにその手を握った。
スーと高く飛んでゆっくりとその場を後にした。
そのあとに行った、やる気にのない喫茶店は今日も窓の外をボーっと見ていた。僕が知る限り、ほぼ毎日こんな調子だった。
取り憑くと、こんな感じで無気力になる人はけっこうたくさんいると言っていた。
何かしたらいいのにと思ったりするけど、それは僕が悪魔として見ているからで、僕がとり憑かれていた時もやっぱりこんなかんじで、担当の悪魔がやきもきしていたかもしれない。
今の僕のように・・・
そう何度も言い聞かされた後、僕の腕を掴み一気に高く思い切り早く前に飛んだ。
見慣れた景色、どこにでもあるような小さな街、そこは僕の生まれた街だった。
「こんな遠くまでも来るんですね。」
多くは言わなかった。きっといわなくてもロビンにはすべてわかっているだろうから。
「オーダーがはいれば何処まででもいくさ。断ることはできない。あそこの家だ。」
あそこの家は・・・知ってる。
同級生の家だ。同級生の太田大和 二十三歳
小さい時からずっとあいつにはイジメられてきた。
高校生になって、やっと別々になれてホッとした。
高校卒業後、就職を地元でしなかったのはこいつが地元に残ると聞いたからだった。
太田大和はこんな時間にまだ家にいて、ちょうど今、母親に起こされたところだった。
「大和、そろそろ仕事の時間だよ。」
何度も母親に揺り起こされ、不機嫌そうに目をこすりながら起きてきた。
すでに縄がかけていた。昨日ロビンがかけた。
「あとは音楽を聴かせるだけだ。できるか?」
優しく聞いてくれるロビンに返事ができなかった。ふてぶてしく用意をする太田に過去の記憶が重なり体に震えを感じた。
「エーゴ・・・エーゴ・・・大丈夫か?」
「あ・・・はい 大丈夫っす。」
僕は覚えたての”キラキラ星”を弾いた。
こんなかわいい曲だったけど、まったく楽しんで弾くことはできなかった。
音符よりも子供の頃のイジメられている映像が頭に浮かび、憎しみだけが空回りした。
「エーゴ・・・エーゴ・・・ダメだ。やめろ。こいつを見ろ!」
ロビンに激しく揺さぶられ、ハッと気付くと、強く締めすぎたのか、太田は飲んでいたコーヒーを吐いて胸を抑えうずくまった。
「エーゴ・・・ 人間の時、いろいろなことがあっただろうけれど、君は今悪魔なんだ。昔のことは忘れるんだ。
人間に苦しみを与える事もできる強い力を手に入れたんだ。冷静に与えられたオーダーどおりに行動できるように努力しろ。」
「すいません・・・こいつ、死んじゃいますか?」
「・・・大丈夫だ。まだ若いし体力もある。だけどもうするなよ。どんな人間にも平等に、だ。自分の感情を入れるな。」
「縄緩めますか?」
「一度締めたものは緩まない。」
一言だけ言い残すと、ロビンは太田の家から出て行った。
僕はすぐにはその場所を動けなかった。後ろめたくて、何度か振り返ったが、太田はうずくまったまま起き上がることはなかった。
「すいませんでした。」
「俺に謝られてもこまる。恨むということがどれだけ愚かなことかわかったろ。けど・・・俺も1回だけある。
締めているときは死んじゃえばいいと思うけど、後味の悪いもんだよ。苦しんでいる光景がずっと、頭の奥に眠っていてふとしたときに起き上がる。どんなに忘れようとしてもそれだけは鮮明に残っているんだ。
エーゴ、悪魔の俺が言うのもへんだけど、許すほうが、恨み続けるより楽だぞ。」
影のある笑みで、失った何かをかくそうとしているのがわかった。失ったものは絶対戻ってこないもの・・・なのも、なんとなくわかった。
失ってはじめて気づくことがあるけれど、失う前に教えてもらえてよかった。
ロビンは僕に手を差し出した。なにも聴かずにその手を握った。
スーと高く飛んでゆっくりとその場を後にした。
そのあとに行った、やる気にのない喫茶店は今日も窓の外をボーっと見ていた。僕が知る限り、ほぼ毎日こんな調子だった。
取り憑くと、こんな感じで無気力になる人はけっこうたくさんいると言っていた。
何かしたらいいのにと思ったりするけど、それは僕が悪魔として見ているからで、僕がとり憑かれていた時もやっぱりこんなかんじで、担当の悪魔がやきもきしていたかもしれない。
今の僕のように・・・
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