お気に入りの悪魔

富井

文字の大きさ
26 / 46
ヤサシイ悪魔

三、

しおりを挟む
最近は一人でだいぶうまく飛べるようになったと思う。

まだバランスを崩してフラフラするところもあるが、ちょっとしたコツを掴めたような気がした。

今回のところはとても素敵な高級マンションだった。

飛べるのに、なぜか出入りする人間を待って一緒にエレベーターに乗った。

「どうして飛ばないんですか?」

「これから行くところは窓があかないようになっているんだ。」

「どうしてですか?」

「行けばわかる・・・」

ちょっと浮かないような感じだった。

「できればここは断りたかったんだけど、だれも行きたがらなくて・・・結局俺に回ってきたんだ。」

エレベーターの中で何度も、何度もため息をついた。

エレベーターは25階についた。見晴らしのとてもいい素敵なマンションだった。

「羨ましいなこんな所に住めて。」

「住人はそうは思っていないみたいだぜ。」

そう言って玄関から普通に入っていった。真っ暗でカーテンも閉まったまま。部屋にある鏡や額のガラスはみんな割られていた。

住人は広いリビングで毛布をかぶって震えていた。

「な、悪魔がとり憑く前からこれじゃ嫌になるだろ。取り憑きがいがない。」

「どうしたんですか、この人・・・前にロビンが後ろをつけていたあの綺麗な人ですよね。」

「ああ、前に一度頼まれて行動を見ていたんだが、外に出たときはいいんだ。頑張っているんだ。でも家に帰るとダメなんだ・・・。この人どこかで見たことないか?エーゴは知らない世代か?」

「ん・・・?見たことあるような、ないような・・・」

「山野サクラ 45才 この人は昔は有名なモデルさんだったんだ。結構売れていたらしい。でも年齢を重ねて仕事がどんどん減って・・いまはほとんど仕事がないみたいだ。こういう人は悪魔からも見放されるんだ。」

「どうしてですか?」

「自殺しそうだろ。見るからに。これからこの人、更なる苦しみに耐えられると思う?」

「でもやるんでしょ。」

「やるよ!やるに決まってんじゃん!」

なんやかんやで、ロビンは縄をその人に巻いた。年をとっても普通のおばさんという感じではないけど、自分自身に納得がいってないのかもしれない。



縄をかけ終わったくらいで、いきなり女の人は暴れ出した。
サイドボードのガラスに映った自分の姿に半狂乱になり壊した。

「な、悪魔もイヤになるだろ。
人間なんだから、年を取るのは当たり前だ。しわができるのも、肌がたるむのも仕方ない。なぜそれに歯向いたくなるんだろう。」

「でも、若くて可愛いほうが、僕は好きですね。」

「それは俺も・・・」


ニヤッと笑って、ハーモニカを吹き出した。とても美しいメロディだった。


山野サクラはふらふらと立ち上がり、カーテンの隙間から外を見て泣いていた。


この人は今、過去に浴びた多くの光を思いだすかのように夕日を浴びた。薄いピンクから赤に、まぶしいほどに輝く夕日は雲の隙間を縫うようにビルとビルの間に落ちて行った。それを捕まえようと窓ガラスに手を押し当てたが、ハーモニカが終わるころ、完全に落ち、この人の思い出のステージも終わった。
がくんと力なくその場に崩れ落ち、大声を挙げて泣いていた。

「かわいそうでしたね。」
「なにが?」
「あの人・・・」

「あの人だけじゃないさ、生きることは戦いだよ。勝ち負けがないからこそ苦しむ。答えは案外近くにあるんだけどね。」


エレベーターを待ちながらふと窓の外に目をやると夕日がスポンと落ちるのがビルの谷間からチラリと見えた。
ロビンは少し焦って、小走りになぜか非常口に向かった。

「時間がない一緒に跳ぶぞ。ココからもう一件行く。なんだかイヤな感じがするんだ。」

「え?」

肩を掴まれ一気に飛び上がった。いつになく真剣な目だった。
何か深い思いがあるのか、向かうべき場所にまっすぐ飛んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...