お気に入りの悪魔

富井

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やりきれないココロ

一、

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そこは古びたアパートの1室だった。

鍵は開いていた。中は真っ暗で部屋中ゴミが散らかっていた。

「臭い!」

足もとには食べ終わったパックやお菓子の空袋、空き缶、ペットボトル、雑誌・・・ゴミの上にさらにゴミが重なり虫の湧く嫌な感じのする部屋だった。

「今日、ココは縄を外せるんだ。今までは事務局の帰りに一人で寄っていたんだけど・・・」

「その人はどこに居るんですか?」

「あの押入れの中のカゴの中。」

「え?・・・カゴ・・・っすか?」

ロビンが押入れを開けると、中に鍵のかかった犬のオリがあった。

中をのぞくと子どもが丸く体を折りたたむように入っていた。

痩せこけて、垢にまみれた不潔な身体は首輪で繋がれ、オムツをしていた。

ロビンがカゴを指先でカツカツと叩くと、ガリガリに痩せた手をロビンのほうへ差し出した。

爪がガリガリに裂けて、ささくれだった指先は骨が透けて見ええるほど細くなっていた。

ロビンはその手をさすってからハーモニカを少しだけ吹き

「今日で終わりだよ。」

と優しく言った。鍵をひらき、扉をあけた。

「出ておいで、僕の手を握るんだ。ココから逃げて、3回、俺を街で見つけるんだ。そしたら、お前は生まれかわれる。やり直せるぞ。」


ロビンは首輪も外した。子どもにはロビンが見えているようだった。

「でもね、おじさん、ママがココで待ってなさいって。ママが帰ってくるのをココでお利口に待っていたら、おにぎりを作ってくれるって言ってたよ。だから待ってなきゃいけない。」

「お前の母親は帰ってこない。ココに居てはいけない。でなさい。」

「ママはおにぎりのノリを買いに行っただけだよ。もう帰ってくるよ・・・」

持てる力を出しきって話すが、もう起き上がる気力もない感じだった。
僕は子どもを起こそうと手を伸ばした。

「触るな。自分の力で起き上がれないと連れていけないんだ。立ち上がれ!ついてきたらおにぎりでもパンでもなんでも食べさせてやる。」

ロビンが叫ぶと、子どもは少しだけ笑って手を差し出したが、ロビンの手に触れる前にその手はパタリと落ちた。

「マーブルマービーケルン。場所を代わってくれないか?」

死神十八番だった。優しく肩に手を置き、
「マーブルマービーケルン。君にこの子は渡せないよ。なぜ渡せないかは、君が一番知っているだろ。」

「出ろ!ココから出るんだ。」

「マーブル・マービー・ケルン。もうやめろ。君はあの人のようになるつもりか?」

「お願い。僕を一人にしないで。」

僕はロビンを押入れからムリやり引きはなした。グリーンの話が頭をよぎった。子どもは悪魔の世界に連れていけない。連れて行けば消えることになるかもしれない。今度消えるとしたらそれはロビンだ。

「マーブル・マービー・ケルン、あと1分だ。どうする?見届けるか?」

「いや よすよ。」

もう一度だけ子どもを見た。残り数十秒の呼吸に合わせて、痛々しく肩が上下した。

その姿から引き離すように、僕はロビンの背中を押して出口に向かうと、アパートのそばの電線の上に立った。

じきに死神十八番が子どもの手を引いてアパートから出てきた。近くの公園でブランコにのり、滑り台をすべって十五分ほど遊んだあと、その姿はゆっくりと消えて行った。

「アレがあいつの最後にしたかったことだったのか・・・」

ロビンは搾り出すようにつぶやいた。

「エーゴ。一人で飛で飛んでくれ・・・・」

ロビンは一人で飛びたった。僕もそれに続いた。僕はまた泣いていた。ロビンも泣いているように感じた。
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