お気に入りの悪魔

富井

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いじめっこ

二、

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ロビンはパンを食べながら送られてきたFAXを読みながら、足で僕を揺り起こす。

ちょっと痛いな・・・と思った頃、僕はやっと目を覚ます。

「大変だ、起きろ。今日から1件新しいところが増えるんだ。」

僕は飛び起きた。半分寝ぼけていて、その声にびっくりしたのと、今日もまた自分で起きることができなかったことの自分へのがっかり感でだった。

くまさんの歯ブラシで歯を磨きながら靴下を履き、大騒動で用意して、メロンパンはポケットにいれ、転がるようにして窓から飛び出した。

「まずサクラのところへとにかく急ごう。」

今日もこの人はベッドではなくリビングで毛布をかぶって座っていた。毎日変わらず髪はクシャクシャだったが、昨日と違うスエットを着ていた。

「取りあえず着替えはしたんだな。まあ、1歩ずつでも人間らしい生活を取り戻せたら合格か・・・」
そう言ってハーモニカを吹き始めた。僕も鍵盤ハーモニカで合わせた。昨日と同じようにエレベーターに乗ってトコトコと1時間半、ロビン・山野サクラ・僕の順に並んで歩いた。昨日と同じ交差点で昨日と全く同じようにハッと気づいて全速力で走って帰る。そしてそれを見て思い切り笑うロビン。夢を見ているように全く昨日と同じでぼんやりとその光景を眺めていた。

「エーゴも笑っていいんだぞ。」

「え?」

「面白かったら笑え。我慢しなくていいんだぞ。怒るより、泣くより、笑うのは楽でいいぞ。」

ロビンはマンションへ向かって走っていく山野サクラを見て指をさして笑っていた。僕は何より、そのロビンが可笑しくて笑った。

山田は今日、会社の荷物をまとめていた。ダンボール箱に荷物をまとめている山田は悪いことをしたわけでもないのに、周囲に気を使って申し訳なさそうにしていた。

「会社のために家族と離れて転勤するのに、なんだか会社って冷たいですね。」

「それはあいつが悪い。周囲に気を使うことがいい人間なんだと勘違いしている。あいつの周りの人間は、意外にどうでもいいと思っている。もっと言えばあいつのことなんて気にもとめてないぞ。」

「そんなことはないと思いますよ。
それにやっぱり周囲には気を使いますよ。空気読むっていうか・・・」

「見えないものをどうやって読むんだ?
なんで周囲のことを考える?仕事に来ているんだろ?仕事をすればいいじゃないか。
気を使うことがあいつの仕事なのか?
だいたい、本当に仕事ができるやつはわがままだぜ。」

「そんなもんですかね・・・」
「そこらへんの社長ってやつを片っ端から見てこいよ。何処にいいやつがいるんだ。
まあいい。議論していても仕方ない。時間もないしな。
ここで弾くぞ。こいつがどう変貌するか見てみたいしな。」
僕たちは音楽を弾いてみたが、どんなに楽しく引いても、ほんの少し動きが俊敏になったぐらいで、さほどの変化もなくがっかりだった。もっともっと劇的に変わって、ハチャメチャになることを期待していた僕らはその有様にすぐ飽きた。
「どこまでも真面目な奴でつまらん・・・・次行こう。」
山野サクラの時のロビンと今の変わりようは夏と冬くらい違って、そのほうが僕には面白かったが、今のタイミングで笑うとややこしいことになりそうだったから、口を抑え俯いて後をついて行った。
大急ぎで金田のところへ飛んだ。金田は会社の業績悪化の責任を取らされて、社長を辞任して息子に譲り、今はただ、日向ぼっこをしているじいさんになった。
「仕事が好きな人だったから少し可愛そうな気もするけど、これがタイミングだったんだな。」
そう言ってハーモニカを弾いた。とても楽しい曲を弾いているのに、金田は縁側に座布団を引いて庭をぼんやり見ていた。
「生きていますよね。」
「大丈夫だろ。そのうち趣味でも見つけるさ。
もうあと少しで縄も解ける。猫も自由になるし・・・」

金田は猫になってしまったあのへんな動物をまだ背負ったままだった。

「この猫はもうあの変な動物には変わらないんですか?」
「さー?縄を解いてのお楽しみだな。」

ロビンはさっさと金田の家を後にした。松の枝に乗ってそこから思い切りジャンプしたので、枝がばさっと音を立ててしなり、金田は枝が揺れたことに驚いて立ち上がり、その枝をいつまでもいつまでも不思議そうに眺めていた。

あの頑固なじいさん大平幹三郎は、今日は不思議なことにロビンの気配に気づいていなかった。お茶を出されることも、お茶をかけられることもなくなっていた。

「これでいいんだよ。」
とロビンは言っていた。今日はヘルパーさんとお菓子を買いに行ってきた様子で買い物袋から嬉しそうにお菓子を広げていた。
「あいつまたふとるな・・・」

じいさんの家の庭から飛び立ち二階を窓から見た。疫病神は相変わらずソファーに寝転がってお菓子を食べながらテレビを見ていた。
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