お気に入りの悪魔

富井

文字の大きさ
37 / 46
やっぱりこれが・・・

二、

しおりを挟む
いつもと変わらない穏やかな陽の射すきもちのいい朝。

今日も、相変わらずロビンに散々起こされ、やっと目が覚めた。

「今日は金田の縄を外す日だ。新しいスーツがもらえるな。」

朝から楽しそうだがパン屑だらけで、パジャマのまま箒で履きながらロビンの跡を追う。

歯を磨き、着替えを済ませて、いまだにネクタイを結んでもらう。ここへ来た時から何一つ変わらない朝、その変らない毎日が楽しい。

そして窓から飛ぶ。その瞬間がたまらなく気持ちいい。人間だった時では絶対味わえない快感だ。

一番初めは山野サクラ。同じように1時間半の長いウオーキング。

今日は長い髪を結んで化粧をして、まるで僕らを待っているかの様だった。
生き生きと最初に会った頃よりかなり血色もよくなってきた。しかも楽しそうだ。
ロビンはこうなる事を予想していたのか・・・


山田は、今日、転勤先に出発するところだった。荷物を積み終わって、引っ越しのトラックの助手席に乗り込むところだった。

「やだな明日から遠いなー。」
ロビンは手帳を見ながら愚痴った。

「ヤッパついていくんすか?」
「行くよ。行かなきゃ終わらないだろう。どこまででも行くぞ。毎日!」
「了解っス。」
「明日は絶対!早く起きろよ。」
「ウイっス」

僕らは山田を見送るように楽器を弾いた。
家族の見送りはなく、一人での出発だった。

「最後くらい見送ってあげてもいいのに冷たいですよね。」

「いいんだ。たぶんあれで。人間はこういう時に使うおまじないの言葉があるだろ。」

「え?おまじない?」
「”しかたない”って。それを唱えると元気が出るんだろ?」
「元気が出るというより・・・あきらめられるというか・・・」

「なんだ。おまじないじゃないのか?
人間はよく行き詰まった時そういうんだろ。そういえば元気が出てアイデアが浮かぶのかと思っていたよ。あきらめか。ガッカリだな・・・まあいい、細かいことを考えるのはやめよう。」

僕らが飛び上がるのと同時くらいにトラックも出発した。
山田は窓を開けて、自分の家を振り返って見ていた。


金田は初めて会ったときの、でっぷり太って脂ぎった感じとはうって変わって、よぼっとしたおじいちゃんになっていた。
縁側に座ってお茶を飲み、背中には猫。

「さあ、縄を取ってやろう。まだまだ、人生あきらめる年じゃない!」

ロビンは縄をするりと取った。金田はふうぅっと大きく息を吸った。背中の猫は一瞬のうちに床下へと消えて行った。

「さあ、引退後を楽しめ!」

ロビンがドンと背中を叩くとお茶をこぼして驚いて立ち上がった。
僕らは庭の立派な松の枝にのって、二、三度その枝を揺すってから飛びたった。金田は僕らを見送るように松を見上げていた。


その次に行った頑固爺さんも穏やかな日を送っていた。

疫病神も一階に降りて来てテーブルの上に椅子を置き、そこに座って爺さんとお茶を飲んでいた。

爺さんには見えているのかいないのか、それはわからなかったが、疫病神が住み着いて具合が悪くなるどころか、顔色も良くて、なんだかどんどん元気になっていくような気がする。ロビンが立ち寄る先はなんだか毎日、少しづつみんなが幸せになっていく。

そして僕も・・・彼から一番の幸せをもらっている。

毎日がうれしくて仕方がない。


午後からもいつもと同じく秋山のところだったが、その前に太田のところを済ませてきた。

太田は退院して家にいたが誰からも無視されて一人ぼっちだった。携帯は握ったままだったが誰からの着信もなかった。

もう憎いという気持ちもなく淡々と、仕事を済ませ次に向かった。


秋山のいる広場へと到着してあの小学生を待つのかと思ったら、違う子供を探していた。

「あの子だ。」
「また小学生か・・・」
「エーゴまた・・・」
「思ってないっす。」

思い切り首を振って否定した。何度も同じことで怒られていては、成長がないように思われてしまう。

「昨日みたいにうまくやれよ。30秒でいいからな。」
「了解っス!」

今日の子は昨日より1つ年上だった。
集団で下校していく中で遅れて一人とぼとぼと帰っていく最後尾の小学生だった。昨日とまったく同じ要領で、秋山を使って子どもを足止めした。秋山は小学生にぶつかり、進路をふさぎ右へよければ右へ、左にさければ左へと数回通せんぼして、そして立ち止まった。

その二人に音楽を奏でる。子供は昨日と同じように秋山からチラシを手渡され、二人は知り合いになった。


「もう一人は来ないんですか?」
「一緒だったら簡単に終わるけれど、あの子はもう家に帰った。けど、もうひとりの子供はこの近くに住んでいるはずだ。」

そいう言いながらベンチに座り、手帳に何かを書き込みながら動かなかった。
秋山はチラシを袋につめて帰り支度をしていた。

「まだいかないんですか?」
「まだちょっと早い。あと10分くらいここでぼんやりしていよう。なんなら昼寝でもしたらどうだ。」

「風邪引きますよ。」
「そうか、エーゴはまだ人間の部分が多いから病気になるのか。」

「ロビンは病気にならないんですか?」
「悪魔が病気になるときは死ぬ時だな。それでも病気では死にたくない・・・できれば笑いながら死にたいな。なにかすごく面白いものを見て笑いが止まらなくなって死ぬとか・・・カッコいいな。」

「そうかな・・・でもロビンらしくていいよ。それ。」

「そうだろ。そうだ、スーツの柄考えたか?金田の縄が取れたからな。」

「そうだ・・・そういえばあの猫・・・どうなるんですかね。」

「さあ?猫は俺の管轄じゃないから、わからないな。好きにいきるさ。あいつも金田から解放されて自由だ。」

「悪魔も自由じゃないですか。」

「自由に見えるか?まあ、人間よりは自由だな。やってはいけないこともいっぱいあるけど、それをしたからといって、罰せられることはない。」

「いいじゃないですか。」

「罰せられることはないが、消される。気をつけろよ。お前は泣き虫だ。いつまでもメソメソとしていると知らないうちに消されるからな。なんの警告もなくいきなりだぞ。いいな。忘れるなよ。」

意外だった。意外に悪魔の世界の規則は厳しい。

それからロビンとスーツの話をして、今回もお揃いにしようと言うことは決まったが、柄の話でぶつかって喧嘩になった。ロビンは猫の柄にしようというが、僕は絶対に嫌だった。そしてあと10分のはずが、20分くらい喧嘩をしていて、慌てて小学生の家に向かった。
広場のそばにいくつか立ち並ぶマンションの1つで、エレベーターが到着するのを待った。

「ここも窓があかないんですか?」

「いやここは空くけれど、面白いものが見られるからな。こっちから行こうと思っただけ。」

なんなのか・・・と思ったら、ピザ屋のバイクが1台。配達人は秋山だった。

「まだ働いているんだ・・・」

「よっぽど仕事が好きなんだなきっと。」

「・・・いや・・・違うと思うな・・・」

秋山がピザをもってエレベーターに乗ったのを見計らい、一緒に乗り込んだ。配達先はで出て来たのは、あの小学生だった。

「あれ、あの時の君だね。」
「あ・・・はい。お金。」
「お母さんは?」
「仕事です。」
「晩ご飯?ピザ?」
「そうです・・・」

お金を受け取って秋山が帰ろうとしたところで、ロビンが小学生に本を投げつけた。
本は、その子に当たって足元に落ち、それを秋山が拾った。

「はい・・・宿題?」
「うん・・・分数。わかる?」
「わかるよ。わからないところ、あるの?」
「うん。これ。」

秋山は小学生に解き方を教え始めた。真面目だから教え方もとても丁寧で覗き込んでいた僕も、その解き方はよくわかった。
「ごめんよ。もっと詳しく教えてあげたいけれど、バイトの途中なんだ。またな。」

秋山は走って部屋を出て行った。

小学生はピザをテーブルにおいて、今聞いたように分数の問題を解いた。解けた後、その子はにっこりと笑った。

「な、面白いだろ。」

「ロビンが面白くしているんでしょ・・・」

僕らは楽器を弾いた。小学生の勉強を応援するように弾いた。小学生の縄はギリギリと音を立ててしまっていったが・・・・僕はあまり心配はしていなかった。それをしているのは、ロビンだったからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...