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さよなら
二、
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今日が最後の1日。
ロビンと顔を見合わせ、「うん」と一度頷き、窓から飛び出した。
「絶対明日もあるんだと思って吹けよ。」演奏する前、ロビンは僕にそう強く言った。僕も心の中で必ず受かるようにと願って吹いた。
お昼はいつもの喫茶店に行った。とても久しぶりに感じた。
ご飯も喉に通らないくらいだったけれど、ロビンと一緒にいると話が楽しくて、いつの間にか食べ終わっていた。
ふっと見るとロビンの手には指輪が1個もなかった。
「そういえば・・・指輪・・・」
「あ、まあいいじゃないか。」
「でも10個集めるって頑張っていたじゃないか・・・僕のせいだね。」
「あの約束のことだろ。指輪が10個になったら帰って来るっていう・・・
10個集まったってあの人は帰ってこないんだ。
もうわかっていたんだ。でもグリーンに言っちゃったからな。
10個集まったらなんて言い訳しようかって考えていたところなんだ。かえってよかったよ、全部なくなって。嘘つくの下手なんだ。俺。悪魔なのに。」
「僕のこと、攻めたらいいのに・・・」
「攻めたらおまえは楽になるかもしれないけど、俺が傷つく。
だってエーゴに嘘をつくことだからな。嘘を突き通す勇気がないんだ。毎日笑って暮らしたいからな。バレてまた嘘をつくことを考えるくらいなら最初から本当のことを言ってしまったほうが楽だろ。」
「ごめん・・・」
「謝るなって。試験中だぞ。お前が無事悪魔になったら指輪が1個貰える。
記念すべき最初の指輪はお前にはめさせてやるよ。
それに、俺は実力があるからあっという間にあれくらいは貯めることができるさ。」
「うん。そうだな。」
「そうだ、午後も頑張れよ。」
きっと泣きそうな顔をしていたのだろう。僕の腕をパンと強めに叩いて立ち上がった。
残された時間はわずかだ、とにかく今日しかない。泣いている時間は僕にはなかった。
午後からも1件、1件丁寧に演奏した。明日も必ずここへ来れるように祈りながら・・・
1日が終わって事務局へ帰っては来たが、なかなか中へ入ることができなかった。僕もロビンも心の準備をするのにとても時間がかかって脚が1歩も動かなかった。ずーっと向こうからグリーンが身を乗り出して何度も手を振っているのは見えてはいるけれど、怖くて近くへ寄れなかった。
「ロビン、どうしよう。足が動かない。」
「俺もだ。なんでだろう。」
「ドキドキして心臓が出そうだ。」
「心臓なんてないはずだぞ。俺が取り上げた。」
「なんだろうじゃあこのドキドキは。」
「解らない。俺もなんだ。」
セスカが背中をドンと押した。
「いつまでも塞いでいるんじゃないよ。邪魔だ。
・・・あ、今日だったね君の発表。僕が見てあげようか。」
「いや、いい。俺が見る。」
「なんでそんなに緊張しているんだ。マーブルみたいなガキでも受かったんだ。エーゴが落ちるわけないだろ。」
「そうだな・・・・」
そう言いながらもロビンの顔は引きつっていた。僕もニッコリと笑ったはずだけど上手く笑えていなかったと思う。
ガチガチと歩きながらグリーンの窓口まできた。なぜかセスカもバルビンバーもついてきた。
「はい、この封筒。私が開けようか?」
「いや、俺が開ける。」
ロビンはガタガタ震えながら封筒を受け取ろうとしたが、震えすぎてうまく受け取ることができずにいた。
「私が中を開けてみんなに見せるわ。それでいいでしょう。」
「いや、やっぱり俺が1番に見る。」
「そう言って全然受け取らないじゃない。」
「じゃあ、やっぱり僕が見るよ。僕はエーゴと賭けをしているんだ。結果を知る権利はあるだろ。」
「わかった。それでいい。けど、とりあえず1回、深呼吸してそれからにしてくれ。」
僕とロビンは顔を見合わせて深呼吸をした。
「受かっているよ、絶対。」
バルビンバーも励ましてくれた。僕もそうあって欲しいと心から願った。セスカが封筒の口をビリビリと破いて中の紙を取り出し、広げて見た。すると、1度眉をひそめ、その後大笑いを始めた。
「なんだよ、なんて書いてあったんだ・・・・」
バルビンバーがその紙を取り上げて見て。びっくりした顔をしたあと、セスカと一緒に笑いだした。
「なんだよ、何が書いてあったんだ。」
「エーゴ。おまえ本当に笑わせてくれるな・・・不合格だって。
マーブルが1週間も早く脱皮して助けたのに・・・不合格。」
グリーンまでもが笑いだした。僕は何を言われたのか言葉が少し理解できなかった。ただ呆然とみんなの笑い声の真ん中にいた。一頻り笑い声が遠ざかり、気づくとロビンは知らないうちに事務局から姿を消していた。行きそうな場所をすべて当たって、探しながらアパートに帰ると、屋上の一番端っこにロビンは俯いて座っていた。
「ごめん。本当にごめん・・・・僕のなんて誤っていいのか・・・・」
「ああ・・・そうだな・・・お別れだ。」
「ロビン・・・・」
「もうロビンって呼ぶな。俺はマーブルだ。マーブル・マービー・ケルン。あの人が付けてくれた名前だ。あの人に・・・ロビンになれるかと思ったけど、やっぱり無理だった。あの人にはなれないよ。お前も悪魔になれなかったしな。」
「ごめん・・・」
「謝るなって。一生懸命やったんだろ。」
「うん」
「ならいい。それでなれなかったんだ。おまえはまだ人間に未練があるってことだ。
こういう時に使うんだろ。人間のおまじないの言葉。“仕方ない!”」
僕はなんといっていいのか言葉を失ってただ泣いた。僕が全部壊したのは分かっていた。そして彼との友情までも壊そうとしていた。
「おまえが落ちたのはなんでか、全然わかっていないだろ・・・
さっき、死神十八番に聞いたんだ。
おまえ、俺が焦げていたとき神様にお祈りしたんだって。駄目に決まっているだろ。
おまえは悪魔なんだ。お祈りしてどうする。」
「ごめん・・・本当にごめん・・・知らなかったんだ・・・
僕は弱くて、何もできなくて、僕にできる最後がお祈りだったんだよ。」
「もういい。明日の朝お別れだ。
明日からお前と俺は違う世界で生きる。俺にはお前は見えるが、お前は俺が見えない。だけどお前は俺に借金があるから、それを返すまで俺に呪われることになる。いいな。」
「うん・・・わかった。」
「それから、おまえがここに来る前にお前の今の友達や彼女、これから出会う人、全ての縁を切ったからお前はこの先、結婚できないかもしれない。それもいいな。」
「それはロビンもそうじゃないか。」
「そうだったな・・・・それと、最後にお前は俺と過ごした間の記憶がなくなる。」
「それは嫌だ。僕はこの先の人生がどんなに苦しくてもロビンとの思い出は消したくない。」
「だったら死ぬまで呪うことになるぞ。
しかも、誰かにここのことを一言でも言ったら、死んでしまうかもしれないんだぞ。」
「構わない。ロビンと出会ったこと、ここで暮らしたことの全てを忘れるくらいなら死んだほうがましだ。かけがえのない友達を忘れるくらいなら。」
「そうだったな。俺も片思いは辛いしな。」
「それに死ぬまで毎日会えるってことじゃないか。」
「そうだな、遠くへ行くなよ。めんどくさいからな。」
「わかった。最後にお願いがあるんだ。」
「なんだ?」
「ハーモニカを僕のためだけに弾いてくれないか。」
「何がいい?」
「なんでもいいよ。ロビンの好きな曲で。」
ロビンは相変わらずとても上手にハーモニカを弾く。とても、とても綺麗な曲だ。ハーモニカの音色に合わせて、出会った時から今日までことをずっと思い出していた。
僕がココへ来て、たくさんの月日を共に過ごした訳でもないのに、ずっと昔から、ひょっとして生まれたときから一緒にいたんじゃないかと思うくらいにココが懐かしい。ロビンとはひょっとしたら兄弟だったんじゃないかと思うくらい愛おしい。
「泣くなって。」
「もう悪魔じゃないんだからいいだろ・・・」
「そうだな。じゃあ好きなだけ泣け。」
「ごめんな。僕が馬鹿で。」
「ホントだ。バカだよ。お祈りなんて。だけど、ちょっと嬉しかった。
俺はやっぱり悪魔に向いている。一人が似合うんだ。あの人もいなくなって、お前もいなくなって。
でも、もっと一緒にいたかったな。一緒にいたらもっと面白いこといっぱい出来ただろうしな。バカみたいな柄のスーツ着て。」
「そうだな。あのスーツがこれから着ることができないと思うとさみしいな・・・」
「なあ、エイゴ。またどうしても人間でいることがたまらなく嫌になったら俺を3回探せ。拾ってやるぞ。」
「うん。そのときは、頼むよ。今度こそ悪魔になれる気がする。」
僕らはずっと夜が朝に変わるまで話をした。
今までの事。これからの事。
始まった時は終わりがあるなんてまったく考えもしなかった。あまりの楽しさに次の日は変わらずやってくるもので、それが当たり前なんだと思っていたけれど、当たり前の明日を迎えるために努力が必要だったことをすっかり忘れていた。
どんなに涙を流しても、後悔をしても、もう時間は取り戻せない。
そういうことは大切なものをなくしてからやっと気がつくものだ。
ここへ来て、僕はロビンに何一つできなかったような気がする・・・
朝、全てのものを置いてアパートを出た。
スーツは脱いで、ロビンとあった時のあの汚い服とスニーカーに着替えて、あの公園のあのベンチに向かった。送らないでほしいと僕がロビンに言ったんだ。
僕には帰る家も何もない。でも死ぬことも許されない。そんな生活だったがなぜか生きていく希望があった。
何も持っていくなよと言っていたのに、公園のベンチに鍵盤ハーモニカが置いてあった。
「送らなくていいって言ったのに・・・」
僕はまた人間の世界で生きていく決心をした。少し時間はかかったが、バイトを探し、屋根があって布団で眠れる暮らしをはじめた。
そして、この公園に必ず同じ時間に来て鍵盤ハーモニカを吹く。
どこからか聞こえてくるハーモニカとデュエットをするために。
ロビンと顔を見合わせ、「うん」と一度頷き、窓から飛び出した。
「絶対明日もあるんだと思って吹けよ。」演奏する前、ロビンは僕にそう強く言った。僕も心の中で必ず受かるようにと願って吹いた。
お昼はいつもの喫茶店に行った。とても久しぶりに感じた。
ご飯も喉に通らないくらいだったけれど、ロビンと一緒にいると話が楽しくて、いつの間にか食べ終わっていた。
ふっと見るとロビンの手には指輪が1個もなかった。
「そういえば・・・指輪・・・」
「あ、まあいいじゃないか。」
「でも10個集めるって頑張っていたじゃないか・・・僕のせいだね。」
「あの約束のことだろ。指輪が10個になったら帰って来るっていう・・・
10個集まったってあの人は帰ってこないんだ。
もうわかっていたんだ。でもグリーンに言っちゃったからな。
10個集まったらなんて言い訳しようかって考えていたところなんだ。かえってよかったよ、全部なくなって。嘘つくの下手なんだ。俺。悪魔なのに。」
「僕のこと、攻めたらいいのに・・・」
「攻めたらおまえは楽になるかもしれないけど、俺が傷つく。
だってエーゴに嘘をつくことだからな。嘘を突き通す勇気がないんだ。毎日笑って暮らしたいからな。バレてまた嘘をつくことを考えるくらいなら最初から本当のことを言ってしまったほうが楽だろ。」
「ごめん・・・」
「謝るなって。試験中だぞ。お前が無事悪魔になったら指輪が1個貰える。
記念すべき最初の指輪はお前にはめさせてやるよ。
それに、俺は実力があるからあっという間にあれくらいは貯めることができるさ。」
「うん。そうだな。」
「そうだ、午後も頑張れよ。」
きっと泣きそうな顔をしていたのだろう。僕の腕をパンと強めに叩いて立ち上がった。
残された時間はわずかだ、とにかく今日しかない。泣いている時間は僕にはなかった。
午後からも1件、1件丁寧に演奏した。明日も必ずここへ来れるように祈りながら・・・
1日が終わって事務局へ帰っては来たが、なかなか中へ入ることができなかった。僕もロビンも心の準備をするのにとても時間がかかって脚が1歩も動かなかった。ずーっと向こうからグリーンが身を乗り出して何度も手を振っているのは見えてはいるけれど、怖くて近くへ寄れなかった。
「ロビン、どうしよう。足が動かない。」
「俺もだ。なんでだろう。」
「ドキドキして心臓が出そうだ。」
「心臓なんてないはずだぞ。俺が取り上げた。」
「なんだろうじゃあこのドキドキは。」
「解らない。俺もなんだ。」
セスカが背中をドンと押した。
「いつまでも塞いでいるんじゃないよ。邪魔だ。
・・・あ、今日だったね君の発表。僕が見てあげようか。」
「いや、いい。俺が見る。」
「なんでそんなに緊張しているんだ。マーブルみたいなガキでも受かったんだ。エーゴが落ちるわけないだろ。」
「そうだな・・・・」
そう言いながらもロビンの顔は引きつっていた。僕もニッコリと笑ったはずだけど上手く笑えていなかったと思う。
ガチガチと歩きながらグリーンの窓口まできた。なぜかセスカもバルビンバーもついてきた。
「はい、この封筒。私が開けようか?」
「いや、俺が開ける。」
ロビンはガタガタ震えながら封筒を受け取ろうとしたが、震えすぎてうまく受け取ることができずにいた。
「私が中を開けてみんなに見せるわ。それでいいでしょう。」
「いや、やっぱり俺が1番に見る。」
「そう言って全然受け取らないじゃない。」
「じゃあ、やっぱり僕が見るよ。僕はエーゴと賭けをしているんだ。結果を知る権利はあるだろ。」
「わかった。それでいい。けど、とりあえず1回、深呼吸してそれからにしてくれ。」
僕とロビンは顔を見合わせて深呼吸をした。
「受かっているよ、絶対。」
バルビンバーも励ましてくれた。僕もそうあって欲しいと心から願った。セスカが封筒の口をビリビリと破いて中の紙を取り出し、広げて見た。すると、1度眉をひそめ、その後大笑いを始めた。
「なんだよ、なんて書いてあったんだ・・・・」
バルビンバーがその紙を取り上げて見て。びっくりした顔をしたあと、セスカと一緒に笑いだした。
「なんだよ、何が書いてあったんだ。」
「エーゴ。おまえ本当に笑わせてくれるな・・・不合格だって。
マーブルが1週間も早く脱皮して助けたのに・・・不合格。」
グリーンまでもが笑いだした。僕は何を言われたのか言葉が少し理解できなかった。ただ呆然とみんなの笑い声の真ん中にいた。一頻り笑い声が遠ざかり、気づくとロビンは知らないうちに事務局から姿を消していた。行きそうな場所をすべて当たって、探しながらアパートに帰ると、屋上の一番端っこにロビンは俯いて座っていた。
「ごめん。本当にごめん・・・・僕のなんて誤っていいのか・・・・」
「ああ・・・そうだな・・・お別れだ。」
「ロビン・・・・」
「もうロビンって呼ぶな。俺はマーブルだ。マーブル・マービー・ケルン。あの人が付けてくれた名前だ。あの人に・・・ロビンになれるかと思ったけど、やっぱり無理だった。あの人にはなれないよ。お前も悪魔になれなかったしな。」
「ごめん・・・」
「謝るなって。一生懸命やったんだろ。」
「うん」
「ならいい。それでなれなかったんだ。おまえはまだ人間に未練があるってことだ。
こういう時に使うんだろ。人間のおまじないの言葉。“仕方ない!”」
僕はなんといっていいのか言葉を失ってただ泣いた。僕が全部壊したのは分かっていた。そして彼との友情までも壊そうとしていた。
「おまえが落ちたのはなんでか、全然わかっていないだろ・・・
さっき、死神十八番に聞いたんだ。
おまえ、俺が焦げていたとき神様にお祈りしたんだって。駄目に決まっているだろ。
おまえは悪魔なんだ。お祈りしてどうする。」
「ごめん・・・本当にごめん・・・知らなかったんだ・・・
僕は弱くて、何もできなくて、僕にできる最後がお祈りだったんだよ。」
「もういい。明日の朝お別れだ。
明日からお前と俺は違う世界で生きる。俺にはお前は見えるが、お前は俺が見えない。だけどお前は俺に借金があるから、それを返すまで俺に呪われることになる。いいな。」
「うん・・・わかった。」
「それから、おまえがここに来る前にお前の今の友達や彼女、これから出会う人、全ての縁を切ったからお前はこの先、結婚できないかもしれない。それもいいな。」
「それはロビンもそうじゃないか。」
「そうだったな・・・・それと、最後にお前は俺と過ごした間の記憶がなくなる。」
「それは嫌だ。僕はこの先の人生がどんなに苦しくてもロビンとの思い出は消したくない。」
「だったら死ぬまで呪うことになるぞ。
しかも、誰かにここのことを一言でも言ったら、死んでしまうかもしれないんだぞ。」
「構わない。ロビンと出会ったこと、ここで暮らしたことの全てを忘れるくらいなら死んだほうがましだ。かけがえのない友達を忘れるくらいなら。」
「そうだったな。俺も片思いは辛いしな。」
「それに死ぬまで毎日会えるってことじゃないか。」
「そうだな、遠くへ行くなよ。めんどくさいからな。」
「わかった。最後にお願いがあるんだ。」
「なんだ?」
「ハーモニカを僕のためだけに弾いてくれないか。」
「何がいい?」
「なんでもいいよ。ロビンの好きな曲で。」
ロビンは相変わらずとても上手にハーモニカを弾く。とても、とても綺麗な曲だ。ハーモニカの音色に合わせて、出会った時から今日までことをずっと思い出していた。
僕がココへ来て、たくさんの月日を共に過ごした訳でもないのに、ずっと昔から、ひょっとして生まれたときから一緒にいたんじゃないかと思うくらいにココが懐かしい。ロビンとはひょっとしたら兄弟だったんじゃないかと思うくらい愛おしい。
「泣くなって。」
「もう悪魔じゃないんだからいいだろ・・・」
「そうだな。じゃあ好きなだけ泣け。」
「ごめんな。僕が馬鹿で。」
「ホントだ。バカだよ。お祈りなんて。だけど、ちょっと嬉しかった。
俺はやっぱり悪魔に向いている。一人が似合うんだ。あの人もいなくなって、お前もいなくなって。
でも、もっと一緒にいたかったな。一緒にいたらもっと面白いこといっぱい出来ただろうしな。バカみたいな柄のスーツ着て。」
「そうだな。あのスーツがこれから着ることができないと思うとさみしいな・・・」
「なあ、エイゴ。またどうしても人間でいることがたまらなく嫌になったら俺を3回探せ。拾ってやるぞ。」
「うん。そのときは、頼むよ。今度こそ悪魔になれる気がする。」
僕らはずっと夜が朝に変わるまで話をした。
今までの事。これからの事。
始まった時は終わりがあるなんてまったく考えもしなかった。あまりの楽しさに次の日は変わらずやってくるもので、それが当たり前なんだと思っていたけれど、当たり前の明日を迎えるために努力が必要だったことをすっかり忘れていた。
どんなに涙を流しても、後悔をしても、もう時間は取り戻せない。
そういうことは大切なものをなくしてからやっと気がつくものだ。
ここへ来て、僕はロビンに何一つできなかったような気がする・・・
朝、全てのものを置いてアパートを出た。
スーツは脱いで、ロビンとあった時のあの汚い服とスニーカーに着替えて、あの公園のあのベンチに向かった。送らないでほしいと僕がロビンに言ったんだ。
僕には帰る家も何もない。でも死ぬことも許されない。そんな生活だったがなぜか生きていく希望があった。
何も持っていくなよと言っていたのに、公園のベンチに鍵盤ハーモニカが置いてあった。
「送らなくていいって言ったのに・・・」
僕はまた人間の世界で生きていく決心をした。少し時間はかかったが、バイトを探し、屋根があって布団で眠れる暮らしをはじめた。
そして、この公園に必ず同じ時間に来て鍵盤ハーモニカを吹く。
どこからか聞こえてくるハーモニカとデュエットをするために。
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