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あずみの悪戯
隼人の兄
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「遅かったな。」
「すいません。あずみ君、どうですか。」
「ああ、少し具合悪そうでさ。」
隼人は兄の友人、那珂肇と病室の通路で会った。
宿直ではないけれど、心配で帰れなかった様子だ。
「君のお兄さんから何もするなと言われているから・・・ごめんな。何もできないんだ。
何度か電話したけど出ないし。熱があるから氷枕はしといたんだけど・・・」
病室へ行くと、あずみはのたうち回って苦しんでいた。
「どうしたの。さっきまで大丈夫だったじゃない。」
「隼人・・・苦しいよ。痛いよ。助けて・・・」
「いつからですか。」
「山内先生が出て行ってちょっとしてからなんだ。
急に苦しみ出して、それまでは元気にケーキ食べたり散歩していたんだよ。」
「隼人・・・痛いよ・・・朝飲んだ山内先生がくれたお薬ちょうだい。」
「ごめん、君の家に置いてきちゃった。その前にお兄さんに電話してみる。
でなければとってくるから。少しだけ待っていてね。」
あずみは胸とお腹を握り、背中を丸めて震えていた。
ガタガタ震えているのに噴き出すような汗をかき、パジャマの背中もべったりと濡れていた。
「兄はどこへ行ったんですか?」
「あずみ君が晩御飯は美味しいお肉が食べたいと言って、美味しいステーキハウスが三重にあるから買いに行ってくると出かけてしまったんだ。」
隼人はあずみの額の汗を拭きながら電話をかけた。
自分の電話なら出るに決まっている。
一度電話をきり、トイレに行ってもう一度電話をかけた。
これが兄への合図だ。
5コールしてもう一度かけた時は、誰も居ない場所に移りましたという合図。
山内和人は電話に出た。
「お兄さん、あずみ君がとても苦しんでいます。」
「だろうね。私が出るときにそういう薬を飲ませたからね。」
「どうしたら治りますか?」
「さあ・・・隼人には無理だ。」
「昨日貰った薬があと一つ残っています。」
「あれではもう効かない。」
「どうしてですか。昨日と同じ感じですよ。」
「薬を変えた。もっと早く私のものになる薬に。」
「お兄さん、お願いします。あずみ君を家に返してあげてください。教授とお話しする機会はなんとか僕が作りますから。」
「聞いてなかったのか。あずみ君には私のものにはなる薬を使ったと言っただろ。今連れて帰っておまえに何ができる。」
「でも・・・」
「じゃあ、連れて帰りなさい。今すぐに苦しんでいるあずみ君を楽にしてあげられるなら連れて行きなさい。」
電話は切れた。隼人に何かができるわけもない。
タオルを濡らして汗をふき、背中をさするくらいしかやる事がなかった。
「あずみ君、お家に帰る?」
「なんでそうなるんだよ。こんなに苦しんでいるのに。山内先生呼んでよ。」
「我慢して。お薬にばかり頼っていたらダメだよ。がんばろ。」
「じゃあ、おまえ変われよ。変わってみろよ。どんなに苦しいか。」
「ごめん・・・」
隼人はやっぱり背中をさするよりできることがなかった。
「あずみ君。ごめんねおそくなって。」
山内和人が現れたのは隼人があずみのところへきて四十分後くらいだった。
ゆっくり鞄の中から薬ケースを出すとその中から1錠をつまみ、あずみの口に入れた。
「ゆっくりと飲んでごらん。」
上半身を起こし水の入ったコップをあずみの手に持たせると、あずみは震えた手で受け取り口に含んだ。
喉をゆっくり落ちていくのを見届けると山内和人はあずみを抱きしめて背中をさすりながら、
「ごめんね。遅くなって。君に美味しいお肉を食べさせたくてちょっと遠出してしまったよ。
ゆっくりおやすみ、次期よくなるからね。」
そういうと今まで獣のように暴れまわっていたあずみが、催眠術でもかかったかのように静かになり、ベッドに横になった。
山内和人はベッドのわきに座ってあずみの手を握り、手のひらを額に乗せた。
「美味しそうな匂い・・・ごめんなさい。ステーキは食べられそうにないです。」
「そうだね。よくなったら食べに行こうよ。日帰りだって十分いけるところだよ。
明日はネイリストを呼んであるんだ。君のマニュキアがちょっとハゲかかっている。」
「本当?僕も気になっていたんだ。嬉しい。」
「だから、今晩はしっかり眠りなさい。明日、具合が悪かったらネイルはお預けだよ。
お腹が空いて眠れなければ隼人にいいなさい。おかゆを用意させておくからね。」
「はーい。山内先生はほんとにいい先生だね。なんだかさっきまでの苦しかったのが嘘みたい。」
「君の具合がよくなったようだから、私は行くからね。
隼人、今晩一緒に居てあげなさい。何かあったら電話しなさい。すぐ来るからね。」
「はい。わかりました。」
山内和人はあずみを一度振り返ると病室を出て、隼人も見送りのため兄の後に続いた。
振り返った山内和人にあずみは笑顔で手を振っていた。隼人はこのどうにもならない状況に戸惑いを隠せなかった。
「本当に三重まで行っていたのですか?」
「行くわけないだろ。どうせ食べられないんだ、匂いさえしていれば、そこら辺の肉屋で適当なものを買ってきてもばれはしないさ。
それより隼人、わかっただろ。おまえではどうにもならないということが。」
「でも、よくなったんだしもう返してあげてください。教授との事は本当に必ずなんとかしますから。」
山内和人は隼人の肩を掴むとそのまま駐車場の一番灯りの届かないところに引きずり込み、地面に叩きつけた。
「おまえは今まで何を聞いてきた。苦しむのをわかっていて連れて帰るのか。」
「でも、お兄さんのお薬を飲んだら永遠にそのお薬がないと苦しむのでしょ。」
「よくわかっているじゃないか。でも、あずみをあんな状態にしたのはお前だからな。
お前が連れて来たんだ。」
「お願いです。かわいそうです。やめてください。」
すがりつく隼人の腹を無表情で三回蹴った。
咳き込む隼人には手も貸さずに冷たい視線を向けるだけだった。
「お前、あずみが可哀そうなんじゃないだろう。
お前が今付き合っている雅とかいう男に捨てられるのが怖いんだろう。
如月の仲間たちとうまくやっているそうじゃないか。まったく、お前はどこまで行ってもバカな奴だ。お前は幸せになんかなれないって言っているだろう。
なにも望むな。おまえは黙って如月を運んでこればいい。余計なことを考えるな。」
「でも、あずみ君はどうなるのですか。」
「そんなことはおまえの考える事じゃない。」
山内和人は車を走らせ隼人のすぐ横を高速で通り過ぎて行った。
隼人はゆっくりと起き上がり服を直した。
「今しかない」週末には福井に連れて行くと言っていたからその前になんとかしよう、壊れてしまう前になんとか・・・どう言おう、どう話せばいいのかそればかりが頭の中に渦を巻いていた。
病室では、あずみがベッドに横になってファッション雑誌をベッドの上に広げ、自分の指先を眺めていた。細くて長い綺麗な手だ。
「あ、隼人。ネイルさ何色がいいと思う。」
「あずみ君の手は白くてとても綺麗だから、黄色なんてどう・」
「黄色か・・・キラキラしたのもつけようかな・・・」
「あずみ君、お家に帰らない?今すぐに。教授が待っているよ。」
「待ってないよ。厄介なのがいなくなって清々してるよ。キット。
今頃、雅と逢瀬を繰り返してたりして。」
「それはないよ。安心して。僕が雅の一番になったんだよ。
雅から電話があって、ちゃんと付き合ってって言われたんだ。
だから教授のところにはもう雅は行かない。
だから帰ろう。」
「ヤダって。明日はネイルだし、木曜はデパートに一緒に行ってお洋服を買って貰えるんだ。」
「教授といた時と一緒じゃないか。」
「一緒じゃない。お兄様は一緒にお洋服を買いになんて行ってくれない。
僕の好きな物なんて何も知らない。
いつも蔑んだような目で僕を見るだけだ。
お洋服はネットでしか買ったことないよ。
僕が一人で見つけて一人で買うんだ。
誰かに選んでもらった事なんて一度もないよ。」
「それでも仲良く暮らしていたじゃないか。」
「ガキだから一人じゃ生きて行けない。
あそこにいたらごはんは食べられる、だからいるんだ。まあ、お兄様のカードでお洋服や靴やら買っちゃったりしてたけど、学校行かないからいいでしょ。僕なりの節約。」
「あずみ君、帰ろうよ。そのほうがいい。」
「いやだ。週末には温泉に連れて行って貰えるんだ。それから帰って来てから考えるよ。」
「温泉って・・・」
「金沢。だっけ?美味しいお魚食べて、博物館も美術館もまわるんだ。
もういい、君と話してると長い。もう寝る。明日ネイルしたいしね。」
「それでは遅いんだ。教授が迎えにこればすぐに帰る?」
「来るわけないだろ。あの人には僕は必要ないんだ。いないほうがいいと思っている。
前に髪の毛先をくるくるさせたいって言ったら、お兄様は好きにしろって。
でも山内先生は、くるくるしているのも可愛いけど、サラサラした髪はもっと可愛いよって言った。
その差だよ。たったそれだけの差。けど、僕にはそれが重要なんだ。」
音楽を聴きながらうつ伏せでファッション雑誌をパラパラとめくり、明日のネイルに夢中なあずみには、もう隼人の声は届かなかった。
「じゃあ教授を呼んで来るよ。ここに連れてこれば帰るんだね。」
「山内先生が今日は僕のそばにいるようにって言ったでしょ。おかゆ、持って来て。お腹すいた。」
「ちょっとだけ、教授に知らせて来る間だけだから。」
「ダメ。おかゆ。そうだ、携帯ここに置いてけよ。電話するのもダメだからな。」
「どうしたの?あずみ君いきなり。」
「山内先生に言われたんだよ。隼人はキット裏切るよって。
途中で怖気付くって。
僕の家出を手伝うっていっただろ。最後までちゃんとやれよ。」
「あずみ君・・・」
「おかゆ、早くして。」
あずみは世間知らずで純粋なだけに山内和人にしてみれば洗脳は簡単だった。
どうせ如月を手に入れるまでのおもちゃにすぎない。それが隼人には手に取るようにわかった。
それを理解していながら会わせてしまった自分を責めた。
おかゆを温めながら、説得の言葉を探していた。
「あずみ君、おかゆできたよ。」
病室に帰るとあずみはもう眠っていた。
薬が効いたのか、急に眠ってしまった様子で、たっぷりと付箋を貼った雑誌を枕に、そのままの状態で眠っていた。
あずみの雑誌を取り、布団をかぶせると、置いて行った自分の携帯電話を探した。見つからないように隠したのかと思ったら、ベッドの脇のチェストの中に入れてあるだけだった。
すぐに教授に電話をかけると、夜遅い時間にも関わらず、教授は電話に出た。たぶん、とても心配していたのだろう。
「迎えに来てあげてください。」
そう隼人がお願いすると、「今、どうしても外せない用事で戻るのは木曜の深夜になるから、金曜の朝でいいかい。
どんなに早い時間でも構わないから。」
そう答えを返してきた。やっぱり心配しているんだ・・・
僕と兄の関係とはやっぱり違う・・・そのことをひしひしと感じながら如月の声を聴いていた。
「じゃあ、金曜の8時に迎えに行きます。いいですか?」
「ああ、お願い。待っているよ。」
優しい声がとてもうらやましかった。
「とても愛されているじゃないか・・・」
あずみの寝顔を見て隼人は思わずそうつぶやいた。
やっぱりきれいな人は愛されるんだ・・・そうも考えていた。
「すいません。あずみ君、どうですか。」
「ああ、少し具合悪そうでさ。」
隼人は兄の友人、那珂肇と病室の通路で会った。
宿直ではないけれど、心配で帰れなかった様子だ。
「君のお兄さんから何もするなと言われているから・・・ごめんな。何もできないんだ。
何度か電話したけど出ないし。熱があるから氷枕はしといたんだけど・・・」
病室へ行くと、あずみはのたうち回って苦しんでいた。
「どうしたの。さっきまで大丈夫だったじゃない。」
「隼人・・・苦しいよ。痛いよ。助けて・・・」
「いつからですか。」
「山内先生が出て行ってちょっとしてからなんだ。
急に苦しみ出して、それまでは元気にケーキ食べたり散歩していたんだよ。」
「隼人・・・痛いよ・・・朝飲んだ山内先生がくれたお薬ちょうだい。」
「ごめん、君の家に置いてきちゃった。その前にお兄さんに電話してみる。
でなければとってくるから。少しだけ待っていてね。」
あずみは胸とお腹を握り、背中を丸めて震えていた。
ガタガタ震えているのに噴き出すような汗をかき、パジャマの背中もべったりと濡れていた。
「兄はどこへ行ったんですか?」
「あずみ君が晩御飯は美味しいお肉が食べたいと言って、美味しいステーキハウスが三重にあるから買いに行ってくると出かけてしまったんだ。」
隼人はあずみの額の汗を拭きながら電話をかけた。
自分の電話なら出るに決まっている。
一度電話をきり、トイレに行ってもう一度電話をかけた。
これが兄への合図だ。
5コールしてもう一度かけた時は、誰も居ない場所に移りましたという合図。
山内和人は電話に出た。
「お兄さん、あずみ君がとても苦しんでいます。」
「だろうね。私が出るときにそういう薬を飲ませたからね。」
「どうしたら治りますか?」
「さあ・・・隼人には無理だ。」
「昨日貰った薬があと一つ残っています。」
「あれではもう効かない。」
「どうしてですか。昨日と同じ感じですよ。」
「薬を変えた。もっと早く私のものになる薬に。」
「お兄さん、お願いします。あずみ君を家に返してあげてください。教授とお話しする機会はなんとか僕が作りますから。」
「聞いてなかったのか。あずみ君には私のものにはなる薬を使ったと言っただろ。今連れて帰っておまえに何ができる。」
「でも・・・」
「じゃあ、連れて帰りなさい。今すぐに苦しんでいるあずみ君を楽にしてあげられるなら連れて行きなさい。」
電話は切れた。隼人に何かができるわけもない。
タオルを濡らして汗をふき、背中をさするくらいしかやる事がなかった。
「あずみ君、お家に帰る?」
「なんでそうなるんだよ。こんなに苦しんでいるのに。山内先生呼んでよ。」
「我慢して。お薬にばかり頼っていたらダメだよ。がんばろ。」
「じゃあ、おまえ変われよ。変わってみろよ。どんなに苦しいか。」
「ごめん・・・」
隼人はやっぱり背中をさするよりできることがなかった。
「あずみ君。ごめんねおそくなって。」
山内和人が現れたのは隼人があずみのところへきて四十分後くらいだった。
ゆっくり鞄の中から薬ケースを出すとその中から1錠をつまみ、あずみの口に入れた。
「ゆっくりと飲んでごらん。」
上半身を起こし水の入ったコップをあずみの手に持たせると、あずみは震えた手で受け取り口に含んだ。
喉をゆっくり落ちていくのを見届けると山内和人はあずみを抱きしめて背中をさすりながら、
「ごめんね。遅くなって。君に美味しいお肉を食べさせたくてちょっと遠出してしまったよ。
ゆっくりおやすみ、次期よくなるからね。」
そういうと今まで獣のように暴れまわっていたあずみが、催眠術でもかかったかのように静かになり、ベッドに横になった。
山内和人はベッドのわきに座ってあずみの手を握り、手のひらを額に乗せた。
「美味しそうな匂い・・・ごめんなさい。ステーキは食べられそうにないです。」
「そうだね。よくなったら食べに行こうよ。日帰りだって十分いけるところだよ。
明日はネイリストを呼んであるんだ。君のマニュキアがちょっとハゲかかっている。」
「本当?僕も気になっていたんだ。嬉しい。」
「だから、今晩はしっかり眠りなさい。明日、具合が悪かったらネイルはお預けだよ。
お腹が空いて眠れなければ隼人にいいなさい。おかゆを用意させておくからね。」
「はーい。山内先生はほんとにいい先生だね。なんだかさっきまでの苦しかったのが嘘みたい。」
「君の具合がよくなったようだから、私は行くからね。
隼人、今晩一緒に居てあげなさい。何かあったら電話しなさい。すぐ来るからね。」
「はい。わかりました。」
山内和人はあずみを一度振り返ると病室を出て、隼人も見送りのため兄の後に続いた。
振り返った山内和人にあずみは笑顔で手を振っていた。隼人はこのどうにもならない状況に戸惑いを隠せなかった。
「本当に三重まで行っていたのですか?」
「行くわけないだろ。どうせ食べられないんだ、匂いさえしていれば、そこら辺の肉屋で適当なものを買ってきてもばれはしないさ。
それより隼人、わかっただろ。おまえではどうにもならないということが。」
「でも、よくなったんだしもう返してあげてください。教授との事は本当に必ずなんとかしますから。」
山内和人は隼人の肩を掴むとそのまま駐車場の一番灯りの届かないところに引きずり込み、地面に叩きつけた。
「おまえは今まで何を聞いてきた。苦しむのをわかっていて連れて帰るのか。」
「でも、お兄さんのお薬を飲んだら永遠にそのお薬がないと苦しむのでしょ。」
「よくわかっているじゃないか。でも、あずみをあんな状態にしたのはお前だからな。
お前が連れて来たんだ。」
「お願いです。かわいそうです。やめてください。」
すがりつく隼人の腹を無表情で三回蹴った。
咳き込む隼人には手も貸さずに冷たい視線を向けるだけだった。
「お前、あずみが可哀そうなんじゃないだろう。
お前が今付き合っている雅とかいう男に捨てられるのが怖いんだろう。
如月の仲間たちとうまくやっているそうじゃないか。まったく、お前はどこまで行ってもバカな奴だ。お前は幸せになんかなれないって言っているだろう。
なにも望むな。おまえは黙って如月を運んでこればいい。余計なことを考えるな。」
「でも、あずみ君はどうなるのですか。」
「そんなことはおまえの考える事じゃない。」
山内和人は車を走らせ隼人のすぐ横を高速で通り過ぎて行った。
隼人はゆっくりと起き上がり服を直した。
「今しかない」週末には福井に連れて行くと言っていたからその前になんとかしよう、壊れてしまう前になんとか・・・どう言おう、どう話せばいいのかそればかりが頭の中に渦を巻いていた。
病室では、あずみがベッドに横になってファッション雑誌をベッドの上に広げ、自分の指先を眺めていた。細くて長い綺麗な手だ。
「あ、隼人。ネイルさ何色がいいと思う。」
「あずみ君の手は白くてとても綺麗だから、黄色なんてどう・」
「黄色か・・・キラキラしたのもつけようかな・・・」
「あずみ君、お家に帰らない?今すぐに。教授が待っているよ。」
「待ってないよ。厄介なのがいなくなって清々してるよ。キット。
今頃、雅と逢瀬を繰り返してたりして。」
「それはないよ。安心して。僕が雅の一番になったんだよ。
雅から電話があって、ちゃんと付き合ってって言われたんだ。
だから教授のところにはもう雅は行かない。
だから帰ろう。」
「ヤダって。明日はネイルだし、木曜はデパートに一緒に行ってお洋服を買って貰えるんだ。」
「教授といた時と一緒じゃないか。」
「一緒じゃない。お兄様は一緒にお洋服を買いになんて行ってくれない。
僕の好きな物なんて何も知らない。
いつも蔑んだような目で僕を見るだけだ。
お洋服はネットでしか買ったことないよ。
僕が一人で見つけて一人で買うんだ。
誰かに選んでもらった事なんて一度もないよ。」
「それでも仲良く暮らしていたじゃないか。」
「ガキだから一人じゃ生きて行けない。
あそこにいたらごはんは食べられる、だからいるんだ。まあ、お兄様のカードでお洋服や靴やら買っちゃったりしてたけど、学校行かないからいいでしょ。僕なりの節約。」
「あずみ君、帰ろうよ。そのほうがいい。」
「いやだ。週末には温泉に連れて行って貰えるんだ。それから帰って来てから考えるよ。」
「温泉って・・・」
「金沢。だっけ?美味しいお魚食べて、博物館も美術館もまわるんだ。
もういい、君と話してると長い。もう寝る。明日ネイルしたいしね。」
「それでは遅いんだ。教授が迎えにこればすぐに帰る?」
「来るわけないだろ。あの人には僕は必要ないんだ。いないほうがいいと思っている。
前に髪の毛先をくるくるさせたいって言ったら、お兄様は好きにしろって。
でも山内先生は、くるくるしているのも可愛いけど、サラサラした髪はもっと可愛いよって言った。
その差だよ。たったそれだけの差。けど、僕にはそれが重要なんだ。」
音楽を聴きながらうつ伏せでファッション雑誌をパラパラとめくり、明日のネイルに夢中なあずみには、もう隼人の声は届かなかった。
「じゃあ教授を呼んで来るよ。ここに連れてこれば帰るんだね。」
「山内先生が今日は僕のそばにいるようにって言ったでしょ。おかゆ、持って来て。お腹すいた。」
「ちょっとだけ、教授に知らせて来る間だけだから。」
「ダメ。おかゆ。そうだ、携帯ここに置いてけよ。電話するのもダメだからな。」
「どうしたの?あずみ君いきなり。」
「山内先生に言われたんだよ。隼人はキット裏切るよって。
途中で怖気付くって。
僕の家出を手伝うっていっただろ。最後までちゃんとやれよ。」
「あずみ君・・・」
「おかゆ、早くして。」
あずみは世間知らずで純粋なだけに山内和人にしてみれば洗脳は簡単だった。
どうせ如月を手に入れるまでのおもちゃにすぎない。それが隼人には手に取るようにわかった。
それを理解していながら会わせてしまった自分を責めた。
おかゆを温めながら、説得の言葉を探していた。
「あずみ君、おかゆできたよ。」
病室に帰るとあずみはもう眠っていた。
薬が効いたのか、急に眠ってしまった様子で、たっぷりと付箋を貼った雑誌を枕に、そのままの状態で眠っていた。
あずみの雑誌を取り、布団をかぶせると、置いて行った自分の携帯電話を探した。見つからないように隠したのかと思ったら、ベッドの脇のチェストの中に入れてあるだけだった。
すぐに教授に電話をかけると、夜遅い時間にも関わらず、教授は電話に出た。たぶん、とても心配していたのだろう。
「迎えに来てあげてください。」
そう隼人がお願いすると、「今、どうしても外せない用事で戻るのは木曜の深夜になるから、金曜の朝でいいかい。
どんなに早い時間でも構わないから。」
そう答えを返してきた。やっぱり心配しているんだ・・・
僕と兄の関係とはやっぱり違う・・・そのことをひしひしと感じながら如月の声を聴いていた。
「じゃあ、金曜の8時に迎えに行きます。いいですか?」
「ああ、お願い。待っているよ。」
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