Loves、Loved

富井

文字の大きさ
18 / 35
忠誠、山南の愛し方

大切なもの

しおりを挟む
朝、異様な熱さで目が覚めた。熱さのもとは緑山だった。

額に手をあてると、その熱は自分の倍くらいに感じた。

ありったけの服を重ねて着させ濡らしたタオルを額にあてて、時計を見ながら自分の準備をした。

1限目からの授業で、時間との勝負だった。

「ここに水を置いとく、飯は1限目が終わるまで待っていろ。」

そう言い残し、準備も早々にかけていった。

その時は夢中で忘れていたが、今日にかぎって3限目まで講義がある月曜日だった。

如月は今日も姿を見せない。1限目後休憩の20分で大学の売店でパンとプリンとポカリを買い、それを会計したのは鶴屋だった。

よっぽど鶴屋に頼もうかと思ったが、先日の朝の光景がお互いにフラッシュバックして、山波は買い物袋を奪うようにうけとり寮へ戻った。

「大丈夫か。」

「うん・・・・」

「こんなモノしかないが、食べられるか。
3限目もあるから、今度の休憩はもどれないかもしれないが、寝ているんだよ。」

そういいながらも、2限目後の休憩も走って寮に戻った。

苦しそうに眠る額に手をあてると、まだ熱く、汗もひどく顔も真っ赤だった。

「つぎの授業が終わったら病院へいこうな。」

汗をぬぐい額にキスをすると一筋、涙が流れた。

如月もよく熱を出したが、ここまで心配に思ったことは初めてだった。

気持ちをうまくコントロールできないことにイラつきながらも、かいがいしくタオルを変え、水を新しいものに取り替え、音を立てずにそっと部屋を出た。

出ると同時に時計を見ながらダッシュする。


「何をやっているんだ、俺は・・・・。」

悲しくなるほど授業に集中できなかった。



緑山を病院へ連れて来たのは2時を過ぎていた

如月との約束には間に合う予定ではいたが、気になって何度も電話をしたが、つながらなかった。

病院は昼の休憩で、なかなかみてもらえず、苦しそうな緑山と如月との約束の間で苛立っていた。

「寒いか。」

「大丈夫。」
「大丈夫なわけ無いだろ。いつみてもらえるか、もう一回聞いてくる。」

「いい。ココにいて、あったかい。」

肩に寄りかかってくる緑山の体を抱き寄せてさすった。
行き交う人々はみな妙なモノを見るかのように二人を避けた。
山波もそうされるのをわかっていたが、周囲に見せつけるかのように抱きしめた。
順番がきたのはそれから2時間近くたってからだった。

「今日は家に帰って寝ろよ。ユックリ眠らないとなおらないぞ。」

車を緑山の家に止め、周囲に誰もいない事を確認して、もう一回緑山を抱きしめキスした。


「風邪、うつるよ。」

「いいよ。それで君が楽になれるならそれでいい。」

「車、乗って行って。」

「君が困るだろう。」

「約束あるんじゃないの?急いでいるでしょう。よくなったら迎えに来て。」

「わかった。」

時計は4時を大きく過ぎていた。

教授との約束を守れなかったのはこれが初めてだった。

思いきり車を飛ばし教授の屋敷についたが門が閉まっていた。

チャイムを鳴らすとお手伝いの鈴木が出てきた。

「教授はお出かけされて、これ山波さんが来たら渡すように言われたんですよ。

しばらく帰れないと思うと、おっしゃっていました。

あと携帯電話を警察に忘れて来たとかで電話は無理だと。」

「連絡付かないですか、なんとか。」

「電話番号を思い出したらかけると言っていました。」

それは絶対無理な事だと思った。あの人が思い出すなんて絶対ありえない。

覚えてもいないからだ。

そもそも、携帯電話を持つようになったのも最近で、それも山波が設定したからで、自分からそういったことをする人ではない。

渡されたものはかなり分厚い書類袋だった。

その時は論文か何かだろうと思い、さほど気にせず研究室に戻った。

残りの論文の仕上げに授業の準備と仕事は山のようにあった。

とりあえず、論文から手をつけた。

夕方、鶴屋がおにぎりを持って来た。今日初めての食事だった。

「今日、山波さんが売店に来たとき様子がおかしかったから。何かありましたか。」

「いや特にはない。」

「緑山さんは?」

「今日は帰った。毎日無理をさせていたからな。君も早く帰って休みなさい。」

「今日は勉強しろじゃないんですね。」

鶴屋の嫌味に思わず笑えた。

だが、緑山に見せるような笑い方ではなく、口の片方だけを上げて目は全く笑っていない。

その顔に鶴屋は苦笑いした。仕事は深夜までかかった。

すべてを終えて、片付けをすると3時を過ぎていた。

書類の下に隠れていた教授の書類袋を思い出し論文なら今目を通しておこうと袋を開けた。

中からは土地と建物の登記簿と株券などとともに短い手紙が添えてあった。

山波へ
今まで支えてくれてありがとう。
私はあずみを迎えに、隼人の兄、山内和人のところへ行ってくる。
もしも僕になにかあったらあとの事をヨロシク頼む。
最後まで君にはお願いばかりで申し訳ないね。


そうあった。
山波は頭を抱えて叫んだ。

取り返しの付かない事をしてしまったと、今日の自分を悔やんだ。山内和人。

山波も知っている名前だった。如月が、福井に出向されたときの、最悪で最低な思い出。

如月が肺炎にかかり、入院した先に医者として勤務していた。

たったそれだけの関係だったが、山内和人は如月のことを勝手に好きになり、付きまとい、拉致し、山波が大変な思いをして山内和人から如月を奪い返してきたことを思い出した。

隼人のお兄さんだったのか・・・雅に言うべきか悩んだ。

早く迎えに行かなければ・・・気は焦るが、迎えに行くにも、どこへ行けばいいのかも何の案も思いつかなかった。

とりあえず、如月の携帯電話を警察から取り返そうと、昨日迎えに行った警察に電話をした。

「今から行きます。」

「こんな時間にですか?明日の朝、8時すぎに来てください。」

「今すぐほしいんです。今から行きますから。」

とりあえず、動いていないと頭がおかしくなりそうだった。今から行ってそこに着くのは朝5時頃、そんな時間にもらえるのかどうか、そんな細かい事を理解することもできなくなっていた。

車で走っている間中、西へ向かったのか東へ向かったのか一生懸命に考えた。

どこかに友達がいたか、知り合いはいたのか?あてなどなかった。

如月と共に生きるようになり、影のように寄り添い、倅なく過ごして来たのに思わぬ失態だった。

悔やんでも時は戻らない事はわかっていたが車の中で「あー」と何度も避けんだ。

警察でこれでもかというほど頭を下げ、携帯電話を取り戻した。とにかく、今できることはなんでもしようと思った。


寮に戻った時はもう空が薄く青色に染まりかけていた。

もうくたくただった、布団に沈むようにのしかかったが、頭の中は如月の事がぐるぐると回っていた。

初めてであった若い日の事、如月の助教授時代に各地をまわった事、そして自分を抜擢してくれた事、それ以上に教授のお父さんとの約束。

又、それ以上に緑山の体の心配もと、収拾が付かなくなっていた。

何度も寝がえりをうちグッスリ眠れないまま朝を迎えた。

授業には何事もなかったように出たが、鶴屋には山波のいつもと違う感じがすぐわかった。

「大丈夫ですか?」

「何がだ。」

「今日いつもと違う感じだったから。」

「なんでもない、大丈夫だ。君は次の授業はないのか?」

「あります。それじゃあ。」

「ああ 頑張れよ。」

「もし何かあったら言ってください。僕にもできること・・・・」

「今のところない。」

強がっていないと自分自身が崩れ落ちそうだった。

研究室につくと携帯電話の中の電話番号にかたっぱしからかけた。

どんな些細なことでも手掛かりがあればと神にいのるような思いでかけた。

緑山からメールが届くと、嬉しい半面、罪の意識で返すことができなかった。

電話番号をすべてかけたが、電話にでなかった少数を除き、からぶりに終わった。


万策尽き、途方にくれふと気がつくと食堂にいた。

とくに食欲もなかったがとりあえずうどんをたのんだ。

「山波さん珍しいですね。山波さんもごはん食べるんだ。」

「今まで一緒に何度も食事しただろう。」

「そうでした。マシンのように仕事をするから食べないのかと思っちゃいました。」

山波はうどんを前にはしも割らずに腕を組んで険しい顔をしていた。

目の前の難問をどう解けばいいのか、頭の中の引き出しを片っ端から開けて公式を探した。

その時、電話がなり、慌ててとった。電話の相手は緑山だった。

「やっとつながった。どこにかけてたの?」

「チョット・・・」

「メール見てくれた?」

「ああ」

「返事ほしかったな。」

「忙しくて」

「明日、迎えに来て。行くよ。」

「だめだ。まだ寝ていなさい。」

「いやだ。手伝うよ。」

「だめだ。昨日、病院行ったばかりだろう。」

「もう大丈夫。」

「大丈夫じゃない。」

「なんで、イジワル。」

「バカか、心配なんだ。」

自分でもびっくりするほどの食堂中に響くような大声を出していた。
(しまった・・・)心の中で呟いたが、遅かった。

常に冷静で凄然とし、勉強以外の言葉を発しないと思われていた山波が、公衆の面前で大声を出したことに周囲も驚き、その場は一瞬ざわついた。
「とにかくおとなしく寝ていろ。切るぞ。」

山波はまだ手も付けていないうどんの乗ったトレイをもち鶴屋のところへ戻った。

「鶴屋、今日バイト何時におわる?」

「4時には終わります。」

「じゃ研究室で待っているから、来てくれるか?」

「はい。行きます。」

鶴屋は喜んだ。ひょっとしたら・・・という考えもあった。

「それと、このうどんを食え。」

「のびているじゃないですか。」

「いいから食え。汁も残すなよ。」
山波は何かを思い出したように走って食堂を飛び出した。

「汁もって、汁ないじゃないですか。」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...