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真実、それぞれの愛の終わり方
真実、それぞれの愛の終わり方
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朝とても早くに山波は目を開けた。那珂の病院にはあずみも入院していた。
那珂からは、あずみの容態はだいぶ安定してきたと聞いていたが、帰る前にもう一度その寝顔を確かめた。
隼人は、山波がここを訪れてから間もなく姿を消したとも聞いた。
まだ怪我も、心に受けた傷も治らないままで、相談にも満足に乗ってあげられず、可哀そうなことをしてしまったと痛惜した。
そして、隼人に頼まれたように留学したと雅宛てに手紙を書き、必ずいつか会える日が来るように、山内和人の元に戻ることなく、強く自分の意思で生きることができるようにと心から祈った。
「おい、起きろ。帰るぞ。」
山波は同じく病院に泊まっていた鶴屋を起こした。鶴屋も緊張と疲れでぐっすり眠っていた。
「もうですか?イヤですよ。教授が起きてからにしましょうよ。」
「これからはいつでも会えるだろ。帰るぞ。」
「一人で帰って下さい。僕は疲れているんです。」
「ダメだ。授業があるだろ。」
「1日くらいいいじゃないですか。」
「絶対ダメだ。」
山波は昼前には大学へ戻って行った。
鶴屋を無理矢理連れて帰ったのは、副作用で苦しむ如月の姿を見せたくなかったからで、きっと、如月自身も誰にも見られたくないと思っていると考えたからだった。
「山波さん明るいところで見るとすごいですね。
そのシャツ。血だらけじゃないですか、また無茶したんでしょう。
僕が一緒に行ったほうがよかったんじゃないですか?」
「どうかな。」
「夕べは、びっくりしましたよ。死んじゃったのかと思って・・・」
「また泣いたのか。」
「あんな姿見たら誰でも泣きますよ。」
「緑山に連絡してないだろうな。」
「さすがにあの時間ではできないですよ。でも、写メ撮ったんで、あとでメールします。」
「余計な事をするな。」
普段以上に明るく振舞ってはみたが、内心は複雑だった。
今日からは授業の他に、自分の問題を解決するための仕事がある。それがまた厄介だった。
授業には鶴屋のほかには誰でも来ないかと思っていたが、予想以上の生徒で、一度は安堵した。鶴屋と顔を見合わせホッとしたのもつかの間、写メを撮ったり、わざわざ電話をかけたりと子どもじみた嫌がらせをする者がほとんどで、山波の思うような授業にはならず、苛立ったが、自分に対しての嫌がらせならばどれほどでも我慢しようと考えていた。
如月も帰ってきた事でだいぶ肩の荷も降りて、気持ちにも幾分かの余裕もあった。
「山波さん、大丈夫ですか?」
授業が終わると鶴屋が心配して近づいてきた。
「みんなの前で話しかけてくると、お前まで変な目でみられるぞ。」
「構いませんよ。」
「俺がこまる。面倒は御断りだ。」
「緑山さんは?」
「しばらく休む。」
「寂しいですね。」
「仕方ない。生徒に人気がない俺のせいだ。如月だったらこんな事にはなってない。」
「山波さん厳しすぎますからねー。恨み買っているぶん反動が大きいんでしょうねー。」
「うるさい。バイトだろ。行けよ。」
「まだ少し時間があるから、研究室に寄っていいですか?」
「来るな。余計な騒ぎになると煩わしい。」
鶴屋を追い払うには意味があった。
あの日以来、研究室の入り口は嫌がらせのビラや緑山と写っている写真がばらまかれていた。
何度はずしても戻ると必ずばらまかれていた。
やっぱりだった。
入口に貼られた中傷文が書かれた紙を1枚ずつ剥がし、写真を拾って中へ入った。
研究室の中には朝剥がした紙も山のようにあった。
それを1枚1枚シュレッダーにかけた。
「山波君。」
山波は驚いて時計を見た。
「学長・・・」
「君が約束の時間になっても現れないから、心配になってね。大変なことになったね。」
「すいません。」
「君達も大人だからとやかく言うつもりはないがね、こんな騒ぎになってしまうとね、ほおってはおけないだろ。」
学長も、中傷が書かれた紙を1枚とりシュレッダーに入れた。
「なにか納める手立てはあるのか?」
山波は言葉をのみこんだ。もちろん手立てなど何もなかったからだ。
「僕から緑山に言って留学でもしてもらうか?」
「それはやめてください。」
「それじゃあ僕の古くからの友人がやっている研究所にしばらく君が行くか?
福井の方なんだがね、如月もいろいろとあって、行ってもらったことが・・・
そうだ、君もたしか・・・」
「ええ、如月の助手で1年ほど。」
「ならば話が早い。緑山が卒業するまでは間だ。僕も君のような優秀な男を失いたくはない。」
山波は何も言えず、ただシュレッダーに紙を入れた。
「飢えた獣が獲物を見つけたように学ぶ姿と、人を駒としか考えていない冷酷さが大好きだったんだがね。
如月にしてもそうだ、溢れる知識とアイデア。
イキイキと学ぶ姿が美しくて・・・学問以外何も要求しない無垢なところが素敵だった。
そんな二人が同じ原因で堕落していくとは、繰り返される運命を僕はうらむよ。」
「原因って・・・」
「恋だよ。・・・気づいていないのか?」
学長は山波と緑山が映った写真を一度手に取り、裏を向けて机の上に置いた。
その裏返された写真を手に取り、指で緑山をなぞった。
学長の言った“恋”という言葉が耳の奥の方にこだましながらゆっくりと体に染み込んでいった。
「如月はいつ帰る?」
「夏休みが終わるまでには必ず。」
「ならば、夏休みがはじまるまでには返事をしなさい。
緑山が留学するにしても、君が移動するにしてもいいタイミングだ。」
山波の肩に手を掛け学長は部屋を出た。
何の反論も、弁解もできない自分が歯がゆかった。そのままシュレッダーを掛け続けた。
最後の1枚が終わっても、まだ答えは見つからなかった。
那珂からは、あずみの容態はだいぶ安定してきたと聞いていたが、帰る前にもう一度その寝顔を確かめた。
隼人は、山波がここを訪れてから間もなく姿を消したとも聞いた。
まだ怪我も、心に受けた傷も治らないままで、相談にも満足に乗ってあげられず、可哀そうなことをしてしまったと痛惜した。
そして、隼人に頼まれたように留学したと雅宛てに手紙を書き、必ずいつか会える日が来るように、山内和人の元に戻ることなく、強く自分の意思で生きることができるようにと心から祈った。
「おい、起きろ。帰るぞ。」
山波は同じく病院に泊まっていた鶴屋を起こした。鶴屋も緊張と疲れでぐっすり眠っていた。
「もうですか?イヤですよ。教授が起きてからにしましょうよ。」
「これからはいつでも会えるだろ。帰るぞ。」
「一人で帰って下さい。僕は疲れているんです。」
「ダメだ。授業があるだろ。」
「1日くらいいいじゃないですか。」
「絶対ダメだ。」
山波は昼前には大学へ戻って行った。
鶴屋を無理矢理連れて帰ったのは、副作用で苦しむ如月の姿を見せたくなかったからで、きっと、如月自身も誰にも見られたくないと思っていると考えたからだった。
「山波さん明るいところで見るとすごいですね。
そのシャツ。血だらけじゃないですか、また無茶したんでしょう。
僕が一緒に行ったほうがよかったんじゃないですか?」
「どうかな。」
「夕べは、びっくりしましたよ。死んじゃったのかと思って・・・」
「また泣いたのか。」
「あんな姿見たら誰でも泣きますよ。」
「緑山に連絡してないだろうな。」
「さすがにあの時間ではできないですよ。でも、写メ撮ったんで、あとでメールします。」
「余計な事をするな。」
普段以上に明るく振舞ってはみたが、内心は複雑だった。
今日からは授業の他に、自分の問題を解決するための仕事がある。それがまた厄介だった。
授業には鶴屋のほかには誰でも来ないかと思っていたが、予想以上の生徒で、一度は安堵した。鶴屋と顔を見合わせホッとしたのもつかの間、写メを撮ったり、わざわざ電話をかけたりと子どもじみた嫌がらせをする者がほとんどで、山波の思うような授業にはならず、苛立ったが、自分に対しての嫌がらせならばどれほどでも我慢しようと考えていた。
如月も帰ってきた事でだいぶ肩の荷も降りて、気持ちにも幾分かの余裕もあった。
「山波さん、大丈夫ですか?」
授業が終わると鶴屋が心配して近づいてきた。
「みんなの前で話しかけてくると、お前まで変な目でみられるぞ。」
「構いませんよ。」
「俺がこまる。面倒は御断りだ。」
「緑山さんは?」
「しばらく休む。」
「寂しいですね。」
「仕方ない。生徒に人気がない俺のせいだ。如月だったらこんな事にはなってない。」
「山波さん厳しすぎますからねー。恨み買っているぶん反動が大きいんでしょうねー。」
「うるさい。バイトだろ。行けよ。」
「まだ少し時間があるから、研究室に寄っていいですか?」
「来るな。余計な騒ぎになると煩わしい。」
鶴屋を追い払うには意味があった。
あの日以来、研究室の入り口は嫌がらせのビラや緑山と写っている写真がばらまかれていた。
何度はずしても戻ると必ずばらまかれていた。
やっぱりだった。
入口に貼られた中傷文が書かれた紙を1枚ずつ剥がし、写真を拾って中へ入った。
研究室の中には朝剥がした紙も山のようにあった。
それを1枚1枚シュレッダーにかけた。
「山波君。」
山波は驚いて時計を見た。
「学長・・・」
「君が約束の時間になっても現れないから、心配になってね。大変なことになったね。」
「すいません。」
「君達も大人だからとやかく言うつもりはないがね、こんな騒ぎになってしまうとね、ほおってはおけないだろ。」
学長も、中傷が書かれた紙を1枚とりシュレッダーに入れた。
「なにか納める手立てはあるのか?」
山波は言葉をのみこんだ。もちろん手立てなど何もなかったからだ。
「僕から緑山に言って留学でもしてもらうか?」
「それはやめてください。」
「それじゃあ僕の古くからの友人がやっている研究所にしばらく君が行くか?
福井の方なんだがね、如月もいろいろとあって、行ってもらったことが・・・
そうだ、君もたしか・・・」
「ええ、如月の助手で1年ほど。」
「ならば話が早い。緑山が卒業するまでは間だ。僕も君のような優秀な男を失いたくはない。」
山波は何も言えず、ただシュレッダーに紙を入れた。
「飢えた獣が獲物を見つけたように学ぶ姿と、人を駒としか考えていない冷酷さが大好きだったんだがね。
如月にしてもそうだ、溢れる知識とアイデア。
イキイキと学ぶ姿が美しくて・・・学問以外何も要求しない無垢なところが素敵だった。
そんな二人が同じ原因で堕落していくとは、繰り返される運命を僕はうらむよ。」
「原因って・・・」
「恋だよ。・・・気づいていないのか?」
学長は山波と緑山が映った写真を一度手に取り、裏を向けて机の上に置いた。
その裏返された写真を手に取り、指で緑山をなぞった。
学長の言った“恋”という言葉が耳の奥の方にこだましながらゆっくりと体に染み込んでいった。
「如月はいつ帰る?」
「夏休みが終わるまでには必ず。」
「ならば、夏休みがはじまるまでには返事をしなさい。
緑山が留学するにしても、君が移動するにしてもいいタイミングだ。」
山波の肩に手を掛け学長は部屋を出た。
何の反論も、弁解もできない自分が歯がゆかった。そのままシュレッダーを掛け続けた。
最後の1枚が終わっても、まだ答えは見つからなかった。
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