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真実、それぞれの愛の終わり方
汐田
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如月には汐田が付き添っていた。激しい吐き気と全身の激痛に5日ほど耐えた頃、緑山と雅が面会に現れた。
衰弱しきった顔を見せたくはなかったが、如月にずっと寄り添い食事も十分に取っていない汐田に休暇をあげたかった。
緑山と雅が部屋に入ると気をつかって隅の方で片付けをした。
「汐田君、私の家に戻ってお風呂に入って来なさい。そして、今日はゆっくり眠って、また明日、ここへ来てくれるかい。」
「僕は、如月さんのお世話をするために着いてきたんです。
だから僕は大丈夫です。ここにいます。」
「服だってもう何日も着替えてないだろう。」
「でも・・・」
「大丈夫だから。則夫は僕のいとこだから、今日は則夫がそばに居てくれる。
君はゆっくり休んで、明日からまた頼むよ。」
「わかりました。」
「谷中君、悪いが汐田君に服を買って、屋敷へ送ってくれるか?
できれば明日、ここへ連れて来て欲しい。一人では心配だからね。」
「わかりました。じゃあ、行こう。」
雅は如月から財布を受け取ると病室を出た。
「でも僕・・・。」
「いいから行きなさい。」
如月に促されて、汐田も雅の背中を追った。
「どこへ行く?何が食べたい?」
「僕、コンビニのパンでいいです。」
「え?財布を預かってきたんだから食べたいものを言っていいよ。遠慮するな。」
「でも、申し訳ないです。」
「大丈夫だから。だいたい、おごりって言ってるのに、コンビニのパンでは・・・」
汐田は、うまく人を避けて歩くことができず、たびたび雅との差が大きく開いて、雅が何度か振り返っては汐田が追いつくのを待って歩くことを繰り返していた。
雅は今日、ここへ来ることにあまり気乗りしなかった。
隼人が突然留学したと山波に聞いて以来、心の整理がつかず、ずっとぼんやりとしていた。
やっぱり引き金になったのは如月との関係を見られたからに違いないと、あの日のことをまだ引きずっていた。
考えれば隼人には可哀そうなことをした・・・
けど、自分は隼人にどんな悪いことをしたのか、今までどう付き合ってきたのか、なぜかうろ覚えで、いろいろ話をしたような気がする、一緒にご飯を食べた気がする・・・
ただなんとなくぼんやりとそんな気がするだけで、決定的なことを何も思い出せないでいた。隼人とのことは雅の中では、真夏の雪のように一瞬にして消えた。
そんな印象だった。
そして今は、振り返ると必ず人にぶつかって、謝り、またぶつかっては謝りする汐田の姿に、どうしてぶつかる方向に歩いていくのか不思議で、面倒なことを引き受けてしまったと、ため息をつきながら待っていた。
汐田も小走りで雅を見失わないように追いかけては横に並んだ。
「こんなに人が多いところ初めてで、都会は病院も大きいですね。」
「ここは特別大きいんだよ。」
4,5度目くらいの時、雅は煩わしくて、そのまま気付かないふりをして、どんどん歩いて行った。
汐田は雅の背中を必死に追いかけて、今度は雅の手を握った。
「僕、迷子になりそうなので、手を握ってもいいですか。」
汐田の握った右手の指先から、強い電流のような痛みにも似た刺激が走り、過去に置いてきた大切なものが雅の心に一気に湧き出した。
「ハヤト・・・」
数秒、汐田の顔を見つめ、雅の時は止まった。
隼人に出逢った時、付き合うと決めたとき、一緒に出掛けた時、一緒にご飯を食べた時、キスした日の事、泣いた顔、笑った顔、寝起きの顔・・・
全ての一瞬がその僅かな時間に一気に流れた。
「谷中さん・・・ごめんなさい。いやでしたね。」
「いやじゃない。いやじゃないよ。一緒に行こう。ゆっくりと。」
雅は、汐田が離そうとした手を繋ぎ直して強く握った。
「なに食べようか。」
「美味しいもの。」
雅は今度こそ、絶対この手を離さないと決めた。
衰弱しきった顔を見せたくはなかったが、如月にずっと寄り添い食事も十分に取っていない汐田に休暇をあげたかった。
緑山と雅が部屋に入ると気をつかって隅の方で片付けをした。
「汐田君、私の家に戻ってお風呂に入って来なさい。そして、今日はゆっくり眠って、また明日、ここへ来てくれるかい。」
「僕は、如月さんのお世話をするために着いてきたんです。
だから僕は大丈夫です。ここにいます。」
「服だってもう何日も着替えてないだろう。」
「でも・・・」
「大丈夫だから。則夫は僕のいとこだから、今日は則夫がそばに居てくれる。
君はゆっくり休んで、明日からまた頼むよ。」
「わかりました。」
「谷中君、悪いが汐田君に服を買って、屋敷へ送ってくれるか?
できれば明日、ここへ連れて来て欲しい。一人では心配だからね。」
「わかりました。じゃあ、行こう。」
雅は如月から財布を受け取ると病室を出た。
「でも僕・・・。」
「いいから行きなさい。」
如月に促されて、汐田も雅の背中を追った。
「どこへ行く?何が食べたい?」
「僕、コンビニのパンでいいです。」
「え?財布を預かってきたんだから食べたいものを言っていいよ。遠慮するな。」
「でも、申し訳ないです。」
「大丈夫だから。だいたい、おごりって言ってるのに、コンビニのパンでは・・・」
汐田は、うまく人を避けて歩くことができず、たびたび雅との差が大きく開いて、雅が何度か振り返っては汐田が追いつくのを待って歩くことを繰り返していた。
雅は今日、ここへ来ることにあまり気乗りしなかった。
隼人が突然留学したと山波に聞いて以来、心の整理がつかず、ずっとぼんやりとしていた。
やっぱり引き金になったのは如月との関係を見られたからに違いないと、あの日のことをまだ引きずっていた。
考えれば隼人には可哀そうなことをした・・・
けど、自分は隼人にどんな悪いことをしたのか、今までどう付き合ってきたのか、なぜかうろ覚えで、いろいろ話をしたような気がする、一緒にご飯を食べた気がする・・・
ただなんとなくぼんやりとそんな気がするだけで、決定的なことを何も思い出せないでいた。隼人とのことは雅の中では、真夏の雪のように一瞬にして消えた。
そんな印象だった。
そして今は、振り返ると必ず人にぶつかって、謝り、またぶつかっては謝りする汐田の姿に、どうしてぶつかる方向に歩いていくのか不思議で、面倒なことを引き受けてしまったと、ため息をつきながら待っていた。
汐田も小走りで雅を見失わないように追いかけては横に並んだ。
「こんなに人が多いところ初めてで、都会は病院も大きいですね。」
「ここは特別大きいんだよ。」
4,5度目くらいの時、雅は煩わしくて、そのまま気付かないふりをして、どんどん歩いて行った。
汐田は雅の背中を必死に追いかけて、今度は雅の手を握った。
「僕、迷子になりそうなので、手を握ってもいいですか。」
汐田の握った右手の指先から、強い電流のような痛みにも似た刺激が走り、過去に置いてきた大切なものが雅の心に一気に湧き出した。
「ハヤト・・・」
数秒、汐田の顔を見つめ、雅の時は止まった。
隼人に出逢った時、付き合うと決めたとき、一緒に出掛けた時、一緒にご飯を食べた時、キスした日の事、泣いた顔、笑った顔、寝起きの顔・・・
全ての一瞬がその僅かな時間に一気に流れた。
「谷中さん・・・ごめんなさい。いやでしたね。」
「いやじゃない。いやじゃないよ。一緒に行こう。ゆっくりと。」
雅は、汐田が離そうとした手を繋ぎ直して強く握った。
「なに食べようか。」
「美味しいもの。」
雅は今度こそ、絶対この手を離さないと決めた。
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