Loves、Loved

富井

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真実、それぞれの愛の終わり方

恋を知った日

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雅は翌日、汐田を病院に送るとそのまま大学へ向った。

どうしても誰かと話をしたくて、研究室へ向かった。山波は研究室で、一人黙々と研究を進めていた。

「山波さん・・・」

「ああ、谷中か。どうした。」

「いえ・・・ちょッと・・・」

散らかった机の上に、剥がした中傷文の書かれた紙の束を見つけてしまった。

「これ・・・こんなことになっていたんですか。」

「ああ、嫌われたものだ。まいったよ。」

「大丈夫ですか。」

「ああ、まあ嫌がらせについてはなんとも思っていない。まだ少し減ったほうだ。」

「じゃあ、どうしてそんな苦しそうな顔をしているのですか?」

「谷中もそういう顔しているぞ。どうした?」

「いえ・・・今晩、時間ありますか、飲みに行きませんか?」

「すまん。俺、酒は飲めない。」

「最悪じゃないですか。」

「いや、でも行こう。」

山波にも雅にも、どうしても人に聞いてほしい話があった。

人に話をしてなんとか自分の心を軽くしたくて。
だが、酒が強くない山波は、居酒屋は初めてで、ざわざわと落ち着かないところが、実に不愉だった。

「どうして、鶴屋がいるんだ。」

「すいません。出るときに見つかって。」

「山波さんと谷中さん二人だったら、行くお店も決められなかったでしょ。

僕が来たからお店もわかったんだし、いいじゃないですか。」

「それでお話しってなんですか?」

鶴屋を間に顔を見合わせ、話のタイミングを測っていた。

腕を組んだまま何も話さない山波と、ただもくもくと食事をする雅の間で一人、鶴屋だけがごきげんだった。

「久しぶりですよね。みなさんで食事するの。すごくうれしいです。

緑山さんも呼びましょう。」

「やめてくれ。話ずらくなるだろう。」

「やっぱり、福井の件ですか?」

雅が心配そうに聞いた。

「なんですか福井って」

「ああ、学長の友人の施設とか言っていたかな。如月も以前務めた事のある・・・」

「務めたんじゃなくて、俺が原因で飛ばされた・・・でしょ。」

「もう言うな。昔の話だ。」

「俺がわがままを言ったから、あの人を苦しみの淵に追いやったんだ。」

「それで、今回は山波さんが緑山さんとの件で飛ばされるんですか?」

「おまえ、いいにくい事をはっきり言う奴だな。」
鶴屋は山波に叩かれると思い、首をすくめた。
だが、山波はため息をつくばかりで様子がおかしい事がはっきりとわかった。

「福井の事、誰に聞いた?」

「教授のところに学長が来たみたいです。」

「緑山は・・・」

「教授に聞いた時は俺だけでした。行くのですか?」

「行けば又、山内和人の手中に入るようで、教授を苦しめることになるだろう。」

「だったらどうなるんですか・・・」

「今考えている。」

「じゃあ、話というのは他に?」

山波はテーブルの上のものを避けて正座をし、少し前のめりになって言った。

「俺は、恋をしているらしい。」

2~3秒静かになった後、鶴屋はお腹を抱えて笑った。


狭い座敷を、のたうちまわって笑った。が、雅は笑わなかった。

「実は・・・俺もです。」

又、鶴屋は笑った。足をバタつかせ、涙を出して笑った。

「誰だ。相手は。」

「汐田君です。」

「教授が山内のところから連れて来た子か。」

「隼人にそっくりで・・・俺の手を握って、迷子になりそうっていうんです。
出逢った時の隼人と同じで・・・俺、隼人がいなくなって、思い出が何もなくて、ぼんやりとただ可哀そうなことをしてしまったとしか覚えがなくて。
この手で隼人を何度も抱いたはずなのに、なぜか何も思い出せなくて。
そしたら、あの子が隼人と初めて会ったあの日のことを思い出させてくれたんです。
図書館で隼人が俺の手をぐっと握って、こぼれそうな大きな目で俺を見上げていたあの日の事。
あれから最後のあの日までをはっきりと思い出して・・・」

雅が涙ぐみながらそういうと、それを見て鶴屋は又、思い切り笑い出した。そんな鶴屋をよそに、二人は真剣だった。

「あいつはいい奴だと思うよ。
山内和人に相当暴力を受けていたようだったけど、自分を犠牲にしても教授を助けてくれて。でも、山内が絡んでいると思うと・・・

お前、又、悲しい思いをするんじゃないのか?」

「今度こそ、あの子の手を離さないと誓ったんです。彼との出会いに、なぜか運命を・・・とても強い運命を感じたんです。」

「そうか・・・」

「でも、隼人に申し訳ないなとも思って・・・何も、いい思い出を作ってあげられなかった。」

「もう終わってしまった事じゃないか。」

「でも、もっといろいろしてあげられたのに・・・
如月さんを忘れられなくて、隼人に薫さんを重ね合わせて・・・隼人に悲しい思いをさせたままで、僕だけ幸せになるのも申し訳ない。」
「じゃあやめておけ。」
「でも、好きになってしまって、今度こそは、って。」

「じゃあいいんじゃないか。」

「でも、隼人の事を思うと・・・」

「どっちなんだ。はっきりしろ。付き合うと決めたなら責任持って・・・」

「まだ彼には何も言ってないんです。」
「なんだ・・・そんなことか。言ったらいいじゃないか。」

「言えないですよ・・・山波さん・・・それとなく言ってもらえませんか?」

「いやだ、自分でなんとかしろ。高校生か。」

鶴屋はまたさらに激しく笑った。

真剣な顔で恋の相談をするふたりの男が面白くて仕方が無かった。

「それで・・・山波さんは誰に恋しているのですか?」

鶴屋はお腹を抑えて、涙を流しながら聞いた。

「俺か? 俺は・・・緑山だ。」

「知ってますよ。みんな。」

「俺は、学長に言われるまで気づかなかった。」

鶴屋はまたさらにさらに激しく笑った。

「おまえバカにしているのか?」

「バカにはしてないです。でも、気づかないってどういうことですか?一緒に寝てたじゃないですか。しかも裸で。」

「ああ、そんなことだけなら今まででも、いろいろな女と関係はあったよ。でも緑山が初めてなんだ、一緒にいて楽しいって思ったのは、一緒いることがうれしいとか、あいつのここがかわいいとか、毎日が楽しくて、明日が来ることが楽しみで、そういう気持ちに気づいたら、別れることが辛くて、苦してどうしていいかわからないんだ。
ずっとそうだった、一緒にいるとき、なんだか心が高揚して引き寄せられるように抱きしめたくなる。楽くてうれしくて、でも、あいつが帰る時間が近づくと涙が出るほど苦しくて、どうしてこんな気持ちになるのかさっぱりわからなかった。学長にそう言われたとき、なにか閊えていたものが取れてすっきりしたように感じたんだが、
今度は不安で、不安で・・・あいつは俺といていいのかどうか、毎日考えて・・・
俺はあいつといてとても幸せだけど、あいつを幸せにしてやれるのだろうか・・・・」

三人ともそこから先は何も話さなくなった。

しんみりと静かになり、時折すすり泣く音が聞こえた。

鶴屋はただ山波の言葉に胸を打たれて泣くだけだったが山波と雅には、二人の終わりが近いことを感じていたからだった。

その後、山波は二人を抱えて帰ることになった。

苦労して寮に戻った後、初めて自分から緑山にメールを送った。
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