39 / 119
第一章 スチュワート編(一年)
第39話 語り出される始まりの物語(中編)
しおりを挟む
うぅ、ここは……
目を覚ますと知らない天井に気持ちの良いフカフカのベット。ここ数日は冷たい石牢や荷馬車に荷物として転がされていたので、この身を包むフカフカの感触のせいで再び気持ちのよい睡魔が襲ってくる。
「目が覚めた?」
「うにゅ、あと50年……」
心身体力共に限界を超えていたんだから、このぐらいのご褒美はあってもいいと思い、再び睡魔に身を委ねる。
「そんなに寝てしまってはお婆ちゃんになってしまうわよ?」
たかが50年ごときで何を大げさな、私は今年で花も恥じらう17歳。早くに両親を失ったとは言え、姉弟三人で幸せな生活を送っていたんだ。
そりゃ、姉様からは嫌われていたけど、私はお祖母様から聖女の座を引き継ぐつもりもないし、王都に出て暮らすつもりも全くない。それなのに何で私が恨まれなくちゃならないのよ。第一あんな筋肉マッチョな王子と誰が結婚なんて……
「!」
頭の中を覆っていた靄が急に晴れ、一気に現実まで引き戻されてしまう。
「やっと起きた」
慌てて声が聞こえた方を振り向けば、そこに居たのは椅子に座った可愛らしい一人の少女。
見た目は私より少し下かな?
「ここ、どこ?」
ベットから辺りを見渡せば知らない部屋と豪華な置き物の数々。縄で縛られていないところを見れば再び捕まったわけじゃないとは思うが、残念な事に助けられたのが普通の民家ではない事は確実だろう。
まずい、奴隷商人から逃げだせたのが確か隣国の公爵領だったと記憶している。するとここは公爵領本邸か、もしくは何処かの資産家のお屋敷だと推測できるが、目の前の清楚なご令嬢の雰囲気から明らかに前者の可能性が高い。
もし私の出自がバレでもすれば奴隷市場で売られるよりも悲惨な目に……。悪くて牢屋、良くて監視付きの飼い殺し。幸い隣国は悪い国ではないと聞いているので食事にはありつけるだろうが、いずれ聖女の血を求めて王家の血を引いた誰かと無理やりの結婚……ただし生活だけは保障される。
一方奴隷市場に売られたら見知らぬ男性の相手をさせられるか、毎日朝から晩までボロ雑巾のように働かされるかのどちらか一つ。恐らく私の容姿からは間違いなく前者だと確信しているが、それを喜んで受け入れるつもりは全くない。
……あれ? もしかしてこっちの方に捕まる方がよくね?
「どうかしましたか? もしかして何処か痛いところとか?」
一人葛藤していると、私の容態を気にしてか目の前の少女が心配そうに近づいてきた。
可愛い、同じ女性の私が言うのもなんだがめっちゃ可愛い。
だからと言ってこのまますんなり捕まるより、適当に誤魔化して逃げ出した方が賢明だろう。幸い今の私の姿はドレスを着ていなければ聖女候補生に与えられた巫女服でもない。それらは全て取り上げられ、薄汚く薄っぺらい一枚のワンピースに身を包んでいる。
まぁ自慢である銀色の髪と、ここ数日お手入れをしていないとは言え可愛らしい容姿はどうしようもないが、ここは弟にも褒められた演技でやり過ごそう。
「ワタシ、レガリア語。ワカリマセーン」why
よし、完璧!
我ながら見事な演技力。これで誤魔化しなんとかやり過ごそう。
「……この大陸は全て共通語の筈ですが?」
「……」
し、しまったぁーーー!
演技力で誤魔化せても肝心の部分で勘違いをしていた! そもそも先ほどからこの少女と会話しているじゃない。私のおバカァーーー!!
「あの、何か事情があるみたいなので深くは聞きませんが、お名前だけでも教えていただけないでしょうか?」
この少女は本当にいい子なのだろう。
だけど名前だけでもと言われても馬鹿正直に本名を名乗れば、私がお隣ドゥーベ王国の公爵家、ティターニア家の人間だとバレてしまう。かと言って、迂闊に偽名を使えば名前を呼ばれた時にとっさに反応出来なければ怪しまれる事間違いなし。
ならば以前何かの物語で読んだようにファミリーネームを隠し、ミドルネームをファミリーネームとして名乗ればそう簡単には気付かれないだろう。ミドルネームのアンテーゼは幸い頭文字のAと省略されることが殆どなので、自国でもないこの国なら知っている人間も少ないだろう。
私は小さく深呼吸してこう名乗った。
「セリカ、セリカ・アンテーゼよ。貴女は?」
「いけない、私とした事がまだ名乗っておりませんでしたね。私はフローラ、フローラ・エンジウムです」
これがやがて光の聖女と影の聖女と呼ばれる二人の少女の出会いだった。
目を覚ますと知らない天井に気持ちの良いフカフカのベット。ここ数日は冷たい石牢や荷馬車に荷物として転がされていたので、この身を包むフカフカの感触のせいで再び気持ちのよい睡魔が襲ってくる。
「目が覚めた?」
「うにゅ、あと50年……」
心身体力共に限界を超えていたんだから、このぐらいのご褒美はあってもいいと思い、再び睡魔に身を委ねる。
「そんなに寝てしまってはお婆ちゃんになってしまうわよ?」
たかが50年ごときで何を大げさな、私は今年で花も恥じらう17歳。早くに両親を失ったとは言え、姉弟三人で幸せな生活を送っていたんだ。
そりゃ、姉様からは嫌われていたけど、私はお祖母様から聖女の座を引き継ぐつもりもないし、王都に出て暮らすつもりも全くない。それなのに何で私が恨まれなくちゃならないのよ。第一あんな筋肉マッチョな王子と誰が結婚なんて……
「!」
頭の中を覆っていた靄が急に晴れ、一気に現実まで引き戻されてしまう。
「やっと起きた」
慌てて声が聞こえた方を振り向けば、そこに居たのは椅子に座った可愛らしい一人の少女。
見た目は私より少し下かな?
「ここ、どこ?」
ベットから辺りを見渡せば知らない部屋と豪華な置き物の数々。縄で縛られていないところを見れば再び捕まったわけじゃないとは思うが、残念な事に助けられたのが普通の民家ではない事は確実だろう。
まずい、奴隷商人から逃げだせたのが確か隣国の公爵領だったと記憶している。するとここは公爵領本邸か、もしくは何処かの資産家のお屋敷だと推測できるが、目の前の清楚なご令嬢の雰囲気から明らかに前者の可能性が高い。
もし私の出自がバレでもすれば奴隷市場で売られるよりも悲惨な目に……。悪くて牢屋、良くて監視付きの飼い殺し。幸い隣国は悪い国ではないと聞いているので食事にはありつけるだろうが、いずれ聖女の血を求めて王家の血を引いた誰かと無理やりの結婚……ただし生活だけは保障される。
一方奴隷市場に売られたら見知らぬ男性の相手をさせられるか、毎日朝から晩までボロ雑巾のように働かされるかのどちらか一つ。恐らく私の容姿からは間違いなく前者だと確信しているが、それを喜んで受け入れるつもりは全くない。
……あれ? もしかしてこっちの方に捕まる方がよくね?
「どうかしましたか? もしかして何処か痛いところとか?」
一人葛藤していると、私の容態を気にしてか目の前の少女が心配そうに近づいてきた。
可愛い、同じ女性の私が言うのもなんだがめっちゃ可愛い。
だからと言ってこのまますんなり捕まるより、適当に誤魔化して逃げ出した方が賢明だろう。幸い今の私の姿はドレスを着ていなければ聖女候補生に与えられた巫女服でもない。それらは全て取り上げられ、薄汚く薄っぺらい一枚のワンピースに身を包んでいる。
まぁ自慢である銀色の髪と、ここ数日お手入れをしていないとは言え可愛らしい容姿はどうしようもないが、ここは弟にも褒められた演技でやり過ごそう。
「ワタシ、レガリア語。ワカリマセーン」why
よし、完璧!
我ながら見事な演技力。これで誤魔化しなんとかやり過ごそう。
「……この大陸は全て共通語の筈ですが?」
「……」
し、しまったぁーーー!
演技力で誤魔化せても肝心の部分で勘違いをしていた! そもそも先ほどからこの少女と会話しているじゃない。私のおバカァーーー!!
「あの、何か事情があるみたいなので深くは聞きませんが、お名前だけでも教えていただけないでしょうか?」
この少女は本当にいい子なのだろう。
だけど名前だけでもと言われても馬鹿正直に本名を名乗れば、私がお隣ドゥーベ王国の公爵家、ティターニア家の人間だとバレてしまう。かと言って、迂闊に偽名を使えば名前を呼ばれた時にとっさに反応出来なければ怪しまれる事間違いなし。
ならば以前何かの物語で読んだようにファミリーネームを隠し、ミドルネームをファミリーネームとして名乗ればそう簡単には気付かれないだろう。ミドルネームのアンテーゼは幸い頭文字のAと省略されることが殆どなので、自国でもないこの国なら知っている人間も少ないだろう。
私は小さく深呼吸してこう名乗った。
「セリカ、セリカ・アンテーゼよ。貴女は?」
「いけない、私とした事がまだ名乗っておりませんでしたね。私はフローラ、フローラ・エンジウムです」
これがやがて光の聖女と影の聖女と呼ばれる二人の少女の出会いだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる