正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

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第二章 スチュワート編(二年)

第52話 後日談、そして二人は

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「この度はご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした」
 そう言って、陛下に頭を下げたのは私の義理の父であるクリスタータ男爵と、義理の兄。いや、もう義理の父とも兄とも言えない関係だったわね。

 学園社交界で起こった事件は人知れずに処理されたと聞く。元々被害者と目撃者が限定されていた事と、学園の品位に傷をつけてしまうという事から、大人の事情が優先されたのだろう。
 その事に異議を申し立てる者もおらず、また私自身も義父や義兄に申し訳ない気持ちから声を上げる気にはなれなかった。

 そして事件を起こした兄だが、現在は貴族裁判を控え投獄されており、罪状が確定次第、罪人ばかりが集められたという山深い山村送りになると聞いている。
 何でもそこは更正不可能と判断された者や、他国に逃れられては困るが死罪にするには罪が軽い者が送られるんだとか。
 村には馬車も馬などの移動手段が一切なく、周りは魔獣と呼ばれる獣や迷路のように山深いせいで、村から逃げ出す事はまず出来ず、一部の軍関係者しか場所が伝えられていない関係で助け出す事も不可能。まさに陸の孤島と言うべき場所なんだそうだ。
 よく鉱山労働行きという罪状を耳にするが、あそこは事前に労働期間が決められている上に食事だけは毎食確実に約束されている。それに出所後には少なからず給金ももらえるらしいが、兄が送られる山村には期間が設けられておらず、また日々の食事にも困ると聞いている。恐らく一生投獄されるより過酷な環境なのではないだろうか。

 少々厳し過ぎる罪状のような気もするが、どうやら兄の罪はリコリス様だけには止まらず。調べれば出るわ出るわで、現在の調査が長引き裁判が先送りになっているんだそうだ。
 この国では貴族と称する人たちには、年齢に関係なく処罰される事が決められているので、兄が自分は学生だからと必死に訴えても国は耳を貸さないだろう。
 ちょっと残酷すぎる気がしないでもないが、私としてはリコリス様に手を出そうとしたんだから、ここは素直に自身の行いに反省してもらいたい。



「バルレリアよ、もう気にするな。全ては済んだ事だ」
 威厳、というべき言葉なのだろう。今この場に居るのは私と義理の父と義兄、対するはこの国のトップでもある国王陛下とリコリス様の父君様。
 もしこの場に当事者であるリコリス様と、私の事が心配だからとアリスさんが同席を求めなければ、恐怖のあまり逃げ出していたかもしれない。

「して、娘の方をどうするつもりだ?」
 次に陛下が発した言葉、それは私に対しての裁きを意味する。
 なんどもリコリス様を助ける機会はあった。それなのに危険に晒し、最後はミリアリア様達に頼る始末。
 兄のように山村送りとまでは行かないだろうが、其れなりの罰は覚悟している。だけど……

「イリアを引き取り、私が責任を持って育てて行きます」
「えっ?」
 今なんて? 私を引き取って育てる?
 聞き間違いなんじゃないだろうかと、慌てて義父の顔を見るも穏やかな表情で笑顔をかえしてくれるのみ。
 そんな事、陛下や侯爵様が許してくれるわけがないじゃないと思い、お二人の方を見つめるも、私に向けられた表情は義父と同じく笑顔が返ってくるだけ。

「なんで……」
「言ったでしょ、本当は侯爵家にメイドとして迎え入れたかったんだけど、男爵家のご令嬢にそんな役をやらせる訳にはいかないからね」
 一瞬リコリス様は何を言われているのかと思ったが、すぐに学園社交界の時に兄へ話していた内容だと気づく。
 あの言葉はこう言う意味だったのか。私はてっきりどんなに優秀でも侯爵家が私程度の人間は迎え入れられないと、そう言っているものだと思い込んでしまっていた。
 それじゃなに? リコリス様は初めからこうなる事が分かっていた?

「……って、ちょっと待ってください。それじゃリコリス様は私を助ける為にあんな危険な行為に出られたと言うのですか?」
「……えっと、それはその……」
 いつにもなく言葉を濁らせるリコリス様……
「あ、貴女は一体何を考えているんですか! 私程度の人間の為に、ご自身を危険な目に遭わせるなんて、侯爵家のご令嬢としてあるまじき行為ですよ! 普段からアリスさんやミリアリア様に注意なさっている立場で、ご自身なら何をしてもいいと言うのですか! 私がどれだけ苦しんだか、どれだけ心配したかも知らないで……ぐすん」
 自分で口走っておきながら理不尽な事を言っているという自覚はある。あるけど、どうしても気持ちが先走って感情が止められない。
 だけどそんな私にリコリス様はそっと近づき、涙に濡れた頬をそっと持っていたハンカチで拭ってくれる。

 もう、そんな事をされたらもう何も言えないじゃない。他にももっといっぱい気持ちをぶつけたかったというのに。
 
「そうだよ、リコちゃんはもっと反省すべきだよね」
「「いえ、アリス(さん)には言われたくないですわ…………プッ」」
 余りにも空気の読めないアリスさんの言葉に、私とリコリス様の言葉が見事に重なる。
「「ふ、ふふふ」」
 自然と笑いがこみ上げ、どちらともなく笑い出す。
 全く、こんな時だというのにアリスさんには敵いませんわ。

 私とリコリス様が笑う姿を誰一人として注意する事なく、全員が暖かく見守ってくれている。
 これも全てアリスさんが醸し出す、不思議な力の効果なのだろう。先ほどまでの張り詰めた気分がすっかり消失してしまい、心の底から笑う事が出来る。

「もう、なんで二人とも笑うの? 私何かした?」
「何もしておりませんわ。でもあえて言うならアリスだから、かしら?」
「えぇ、そうですね。私、アリスさんには感謝しているんですよ」
 彼女がいなければ今の私はいなかっただろう。
 学園で一人捻くれ、デイジーのように世間から孤立していたかもしれない。

 そういえば汚してしまったリコリス様のドレスはどうしたんだろ?
 あの後は兄の事があり、ミリアリア様とリコリス様があれこれ手続きをしてくださっていたので、私とアリスさん達はパーティーの方へと戻された。
 結局お二人が戻られたのはパーティー終了間際だったが、その時にはリコリス様のお衣装は違うものに変わっていた。
 もしお衣装が汚れたままなら何とかして弁償しないと。アリスさんに頼めば直ぐにシミ抜きをしてくれるかもしれないが、私の不注意で汚してしまったのだから、ここは私が働いてでも弁償するのが筋であろう。
 でも、一体いくらぐらいするのかしら。リコリス様の事だから気にしなくていいと言われる可能性の方が高いけど、もしとんでもない金額を言われでもすれば、お義父様を呆れさせてしまうかもしれないわね。

「あのリコリス様、私が汚してしまったお衣装なのですが……」
 私は恐る恐る、謝罪の意味も込めてリコリス様に尋ねる。
 だけど返って来た答えは私の想像していたものとはまるで違った。

「これも言ったでしょ、イリアが悪いわけじゃないって。だいたい貴女にグラスを倒した覚えがあって?」
「それはどう言う意味でしょうか? 確かに身に覚えはなかったのですが、あのグラスは私がテーブルに置いたものでしたので」
「あれはね、もともと倒れやすいように細工がされていたのよ」
「えっ? 倒れやすいようにですか?」
 そんなにグラスをじっくり見たわけではないが、そういえばあれは兄から渡されたものだった事に気づく。すると何? 初めから私が裏切る事も見こしての細工をしていたって事?

「グラスのね、テーブルに面する底の部分が通常よりも小さく作られていたのよ」
 リコリス様の話では、よく男性が女性を口説き落とす際に使われる道具の一つらしく、些細な衝撃でも簡単に倒れるよう、予めグラス自体のバランスも悪く作られていたんだそうだ。
 あの時私はリコリス様に訴えようと必死で、リコリス様もまた私の方を見ておられた。その隙をついて兄が小さな何かを飛ばしてグラスを倒したのではないかという事だった。

「そこまで兄が私を落としいれようとしていたなんて。初めから私は血の繋がった兄にすら信頼されていなかったんですね」
 話を聞き終え、そこまで私は嫌われていたのかと思うと、怒りを通り越して悲しみすらも感じられる。
「多分そこまでの事は考えていないと思うわよ」
「それはどういう……」
「恐らく私のドレスを汚すところまでは考えていたんでしょうが、自分が零しては非難される事はあっても得する事はないわ。だからその役目をイリアに被ってもらおうとでも思っていたんでしょ。
 でも結局イリアは兄の支配から逃れようと必死に抗い、私に全てを話そうとした。それで焦って行動に出たって、ところじゃないかしら。
 まぁ、どちらにせよ褒められた行為ではない事は確かね」
 そうか、そうですね。リコリス様が言った事が本当かどうかなんて分からない。
 だからこそリコリス様は私にこう言っているんだ。
 バカな兄の事など考えず、私は私を優しく包んでくれる人たちを信じればいいんだと。私はもう一人じゃないんだからと。


「イリアさんと言ったね。娘は無愛想で感情表現が苦手なのだが、最近はよく笑うようになってね。これからも良き友として付き合って頂きたい」
「お、お父様。そんな恥ずかしい事イリアの前で言わないでください」
「おぉ、すまんかったな」
 リコリス様の恥ずかしがる姿と言うのも滅多に見れるものではないだろう。こんなに可愛らしい姿を見られるのだったら、多少はあの兄に感謝をしてもいいのかもしれない。

「何言ってるんですか叔父様、リコちゃんとイリアさんはもう友達なんだよ。そんな事言われなくてもずっと一緒だもんね」
「えぇ、そうですね」
「ですが」
「「アリス(さん)には言われたくありませんわ」」
 そして再び重なり合う私たちの言葉。
 周りから笑い声が飛び交い、アリスさんは「もう、なんで笑うの?」と、一人頬を膨らませているが、これはこれで私たちなりの愛情表現なのかもしれない。

「イリア、今まですまなかった。血が繋がっていないとはいえ、何年も共に過ごしていた家族だと言うのに。
 こんな目にあっていると知っていればすぐにでも引き取る事が出来たと言うのに、私のどこかに血の繋がった家族と一緒にいる方が良い勝手に決め付けていた」
「お義父様、私の方こそずっと誤解をしておりました。私はてっきり見捨てられた存在なのだと勝手に決め込んでしまい、アリスさんにも感情が抑えきれず当たってしまいました。本当に申し訳ございませんでした」
「ん、私に? そんな事あったっけ?」
 私が勇気を出して謝っているというのに、当の本人はまるで覚えていないかのように疑問の表情を返してくる。
 はぁ、全くあなたと言う人は……。

「アリスにそんな事を言っても覚えていませんわよ」
「そのようですね。でもこれは私のケジメ、リコリス様なら私の気持ちを分かってくださるのでは?」
 私とリコリス様は似た者同士、きっと今の私の心情を分かってくださるだろう。

「リコよ、リコリスなんて他人行儀な呼び方はやめてちょうだい。もし今後リコリスとか様付けで呼んでも返事をしないわよ」
「……プッ」
 前言撤回、私よりリコリス様の方が強者だわ。

「何よ、言いたい事があるならハッキリと言いなさい」
「はい、それではリコ。私の為にありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
 こうして私たちは成長していく。
 将来共に支えていけるような存在になるために。

「もう、私の事も忘れないでよねー」
 一人、アリスさんが不服そうにそう叫ぶのであった。
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