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第二章 スチュワート編(二年)
第66話 イリアの受難(中編)
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「お母様、それにお姉様も。皆様が迷惑をされておられますわ、これ以上お騒ぎにならないでくださいませ」
なけなしの勇気を振り絞り、騒ぎの中心へと足を運んで声をかける。
この時点で自分の行動に大きく後悔はしているのだけれど、ここで逃げてはのちのちどんな天罰が下るか分からないので、これも己の犯した罪だと思い自分を奮い立たせる。
「イ、イリア……なんであなたがこんな処にいるのよ!」
私の登場で真っ先に反応したのはカメリア姉さん。
なんでこんな場所に居るかなんて私自身が聞きたいぐらいだが、正式に男爵家に迎えられた今、これもご令嬢の努めだと言われれば出ないわけには行かないだろう。
もっとも昔の私なら喜んで参加していたのだろうけど、生憎今の私は自身の身の程をイヤと言うほど思い知らされた身。これで何も考えずに馬鹿なご令嬢を気取っていれば、私も今頃はデイジーや兄のようになっていたかもしれない。
私は一度心を落ち着かせようと小さく深呼吸をし、軽くスカートをつまみながらカーテシーで挨拶をする。
「お久しぶりですお母様、お姉様」
一見三人には毅然とした姿をみせているが、フワッと広がったスカートの中では今も足が震えている。もし隣に私を支えてくれる誰かがいてくれれば心強いのだけれど、生憎リコもいなければ迷惑がかかると思いお義兄様も置いてきた。
第一、これは娘である私が解決しなければならない問題だ。こんなところで大切な友人や優しいお義兄様達を巻き込むわけにはいかないだろう。
だけどそんな私の決意は次の瞬間に四散する。
「お久しぶりです。叔母さま、そしてカメリアさん」
本来なら聞こえるはずのない声に一度大きく心臓の音が脈打ち、驚きの表情のまま隣を見上げる。
「お、お義兄様!?」
なんで、なんでここに居るんですか?
これは私が負わなければならない責任であり、迷惑がかかると思いお義兄様とは先ほど別れたばかりだ。それなのになんで?
「イリアの事が心配になってね。それに妹が困っているのに僕だけ見ているだけなんて出来ないよ」
いまだ驚きの表情を崩せない私に、当然のように微笑みかけてくださるお義兄様。
気持ち的には心強く、また嬉しい思いもいっぱいだが、これ以上お義兄様達に迷惑を掛けたくないのと、母達の醜い姿を見せたくない思いでひしめき合う。
恐らくこれから飛び交う言葉は私に対しての罵倒だろう。
母達は今でも自分は悪くないと思っているので、私だけが男爵家に戻った事に関して納得していない筈。そのうえ兄のフェリクスはリコに手を出した結果、国外追放を言い渡されているのだ。
実際、兄がいるのはこの国で陸の孤島と呼ばれる山村にいるそうだが、それをわざわざ母達に教えてあげるつもりは私にはない。
「まぁ、よくも私たちの前に顔を出せたものね。私たちが生活に困っていると言うのに救いの手を出さないばかりか、元旦那にあらぬ濡れ衣を言いふらしているって言うじゃない。
おまけに何? 自分だけ新しいドレスに身を包んで、そんなに男爵家にもどった姿を見せびらかしたいのかしら」
「そうよ、私たちなんて新しいドレスも作れないのよ。自分だけいい思いをしている癖に、その上実の姉を見下すためだけに私たちの前に現れるなんて、まったく自分のおこないを恥ずかしいとは思わないのかしら」
「……」
覚悟はしていたことだが、やはり母も姉も以前から何一つ変わっていない。
すでに男爵家の人間でないと言うのに、以前と同じような生活を送れる筈はない。それなのに未だ昔のような贅沢な生活から抜け出せずにいるのだろう。いや、そもそもお義父様と別れた一番の原因は母達の浪費なのだから、これはある種の病気なのかもしれない。
それにしても母達はドレスも作れないと言っているが、よく見れば施されている装飾は安物でなく、デザイン自体もそれほど古い物でもないだろう。
母達からすれば、私のドレスが二人のドレスより明らかに上回っていることに対しての僻みと言ったところか。
このドレスは伯爵家に嫁がれたシャロンお義姉様からの贈り物なので、費用はすべてお義姉様持ち。
値段の事はなにも気にしなくていいとは言われているが、恐らく母達が今着ているドレスより、かかっている費用は一桁多いのではないだろうか。
「貴女がイリアね、デイジーから話は聞いているわよ。貴女のせいで大勢の前で恥をかかされたってね。
お陰で今じゃ何処のパーティーからものけ者扱い、アストリア様も体裁を気にしてお屋敷にも来てくださらなくなってしまったのよ。だから娘の代わりに私がこうしてお声がけをしたと言うのに、どこかの落ちぶれ親娘が邪魔をして!」
母達からの罵倒が落ち着いた処で、今度はデイジーの母親から声をかけられる。
前半は私への批判、そして後半は邪魔をされた母達への抗議のつもりだろう。
どさくさに紛れてアストリア様との関係をアピールしているようだが、話の内容から己の欲望が溢れ出してしまっている。
大体デイジーの思い人はジーク様であって、その友人であるアストリア様は只一緒にパーティーへ行かれただけ。そもそもレガリアの四大公爵家の人間が、そう簡単に特定のお屋敷に足を運ばれる筈もないのに。
「なんですって! 先にアストリア様に話しかけられたのは私たちの方ですわ。それなのに途中で邪魔をしてきたのは貴女のほうでしょうが」
「そうよ、自分がアストリア様と一度お会いしたからといって調子に乗らないでください。オバさん」
デイジーのお母さんの言葉に今度は母達が応戦する。
「オ、オバさんですって! 私はこれでも30代よ!! それにアストリア様にお会いしたのはこれで二度目ですわ!」
「30代って言ってもどうせ40手前なんでしょ、ちょっとお母様より若いからって、オバさんに変わらないでしょ」
「カ、カメリア。わ、私はまだ30……いえ20代よ。間違えないでちょうだい」
「「……」」
まさに呆れ顔とはこの事を指すのだろう。
アストリア様と親しいのかと思えば会ったのはたったの二回。
本来ならそこを突っ込むべきなのだろうが、母達が反応したのは年齢の方。
確かにデイジーは私と同じ年なので、母親が20代前半で産んでいれば30代と言っても不思議ではない。
まぁ、30代で娘と同じ年のアストリア様に色目を使うのはどうかとも思うが、この際ここは敢えて目を瞑ろう。問題は私の母が口走った一言。
見た目はぽっちゃりで、お化粧は一度何処かで教わってきてと言いたいほどの厚化粧。それでも男爵家にいた頃はメイドさん達が頑張ってくれていたのだが、自分でお化粧をしなければならなくなってからは更に厚みが増えていった。
しかも確か今年で40うん歳だったよね! 誰がどう見ても20代には無理がある。大体カメリア姉さんって20歳こえてるんですけれど!
……はぁ
さて、いつまでもこの状況を放置しておくわけにいかないだろう。
すでに忘れられているかもしれないが、ここは王家が主催するとても格式の高いパーティーだ。
どうやって母達がこのパーティーに入れたかは知らないが、これでも実家は貴族の血を引いている上に、それなりに商売が成功した商会を運営しているので、叔父の名前を出して無理矢理にでも押しかけたのだろう。
少々この騒ぎで警護の騎士が止めに来ないのは気がかりではあるが、また何か不思議な力が働いていると思えば納得もできる。
当初の予定では、私の乱入で三人の標的がこちらに向かった状況で謝罪の言葉でもすれば、この場を収める事も出来るかとは思っていた。
色々誤解と皮肉が混じってはいるが、三人にとって私は恰好の標的なのだから。だけど結局は私の事など忘れ、今も三人で言い争いが継続されている。
本音を言えばこのままダッシュでこの場から逃げ出したいが、さすがにそれはもう手遅れ。
今の母達を正攻法で止められるとは思えないので、第三者となる私が何かキッカケになる事をすればあるいはなのだが……
そういえば以前デイジーが私のドレスを汚して満足そうにしていた事があったわね。
少なくとも母達は、私が二人より裕福な状況が許せないはずなので、私が惨めに泣く姿を晒せば優越感を抱くはず。
お義姉様から頂いたドレスだけれど、すぐにクリーニングに出せば問題ないと思うので、ここは一緒に犠牲になってもらおう。
あとは姉さん達をさりげなくけしかけるだけなのだが、どうせデイジーと思考が似ているから、以前のような状況を作り上げれば何とかなる筈。
私が惨めな姿を晒す→母達満足→私も満足
流石に実の娘へそんな事をすれば周りから非難の目で見られるであろうから、母達も負い目を感じてこの場から立ち去ってくれるだろう。
よし、プランが決まったところで行動に移ろうとした時、視界の端に頭をポリポリとかきながら誰かが近付いてくる姿が目に映る。
「すまんなイリア、何だかお前まで巻き込んじまったようで。この埋め合わせはまた今度何かするわ」
「「「「……」」」」
バ、バカァーーーー!!
「ななな、なんでイリアがアストリア様から気安く話しかけられているのよ!」
「イ、イリア。貴女アストリア様とどう言う関係!?」
「あ、貴女、アストリア様とお知り合いなんですの!?」
アストリア様のあまりと言えばあまりの声がけに、姉から順番に悲鳴に近い叫び声が会場中に響き渡る。
アストリア様の性格上、誰にでも軽い口調で話しかけるのは彼なりの長所でもあるのだろうが、今この場で軽い口調で話しかけられるのは頂けない。
彼からすれば、単に巻き込んでしまった私へのお詫びなのだろうが、たった今取り合いをしていた三人からすれば、私とアストリア様が親しそうな関係を見せつけているんだと取られかねない。
いや、先ほどの悲鳴に近い声からするに、もうすでに手遅れなのだろう。今はまだ驚きの表情を浮かべてはいるものの、次第に嫉妬心に火がついては私の惨めな姿だけでは納得できまい。
一瞬この状況を作り上げてしまったアストリア様に文句の一言も言いたくなるが、一番の原因は私の母達なのだからそれは余りにも理不尽。
しかしこの状況、修羅場になると感じ取ったのか、先ほどまで興味深々で眺めていた人たちが危険を感じて離れていく。
やばいやばい、これじゃ騒ぎを収めるどころか益々状況をややこしくしている。
一瞬脳裏に「イリアちゃんってトラブルメーカーだよねー」と呑気に語るアリスの顔が浮かび、慌てて妄想を振り払う。
違うから、私はトラブルメーカーじゃないから!
慌てるな私、まだ何か方法が残されているにちがいない。私は出来る子、決してトラブルメーカーじゃ無いと否定したい。
再び私の脳が素早く計算し、この後の未来を予測する。
私が惨めな姿を晒す→母達満足→私も満足
↓
私とアストリア様が親しい→母達嫉妬→修羅場確定
「……」
ちょ、ちょっとぉーーー! これじゃ私がトラブルメーカーじゃない!
この状況、どうすればいいのよぉぉぉーーー!!
なけなしの勇気を振り絞り、騒ぎの中心へと足を運んで声をかける。
この時点で自分の行動に大きく後悔はしているのだけれど、ここで逃げてはのちのちどんな天罰が下るか分からないので、これも己の犯した罪だと思い自分を奮い立たせる。
「イ、イリア……なんであなたがこんな処にいるのよ!」
私の登場で真っ先に反応したのはカメリア姉さん。
なんでこんな場所に居るかなんて私自身が聞きたいぐらいだが、正式に男爵家に迎えられた今、これもご令嬢の努めだと言われれば出ないわけには行かないだろう。
もっとも昔の私なら喜んで参加していたのだろうけど、生憎今の私は自身の身の程をイヤと言うほど思い知らされた身。これで何も考えずに馬鹿なご令嬢を気取っていれば、私も今頃はデイジーや兄のようになっていたかもしれない。
私は一度心を落ち着かせようと小さく深呼吸をし、軽くスカートをつまみながらカーテシーで挨拶をする。
「お久しぶりですお母様、お姉様」
一見三人には毅然とした姿をみせているが、フワッと広がったスカートの中では今も足が震えている。もし隣に私を支えてくれる誰かがいてくれれば心強いのだけれど、生憎リコもいなければ迷惑がかかると思いお義兄様も置いてきた。
第一、これは娘である私が解決しなければならない問題だ。こんなところで大切な友人や優しいお義兄様達を巻き込むわけにはいかないだろう。
だけどそんな私の決意は次の瞬間に四散する。
「お久しぶりです。叔母さま、そしてカメリアさん」
本来なら聞こえるはずのない声に一度大きく心臓の音が脈打ち、驚きの表情のまま隣を見上げる。
「お、お義兄様!?」
なんで、なんでここに居るんですか?
これは私が負わなければならない責任であり、迷惑がかかると思いお義兄様とは先ほど別れたばかりだ。それなのになんで?
「イリアの事が心配になってね。それに妹が困っているのに僕だけ見ているだけなんて出来ないよ」
いまだ驚きの表情を崩せない私に、当然のように微笑みかけてくださるお義兄様。
気持ち的には心強く、また嬉しい思いもいっぱいだが、これ以上お義兄様達に迷惑を掛けたくないのと、母達の醜い姿を見せたくない思いでひしめき合う。
恐らくこれから飛び交う言葉は私に対しての罵倒だろう。
母達は今でも自分は悪くないと思っているので、私だけが男爵家に戻った事に関して納得していない筈。そのうえ兄のフェリクスはリコに手を出した結果、国外追放を言い渡されているのだ。
実際、兄がいるのはこの国で陸の孤島と呼ばれる山村にいるそうだが、それをわざわざ母達に教えてあげるつもりは私にはない。
「まぁ、よくも私たちの前に顔を出せたものね。私たちが生活に困っていると言うのに救いの手を出さないばかりか、元旦那にあらぬ濡れ衣を言いふらしているって言うじゃない。
おまけに何? 自分だけ新しいドレスに身を包んで、そんなに男爵家にもどった姿を見せびらかしたいのかしら」
「そうよ、私たちなんて新しいドレスも作れないのよ。自分だけいい思いをしている癖に、その上実の姉を見下すためだけに私たちの前に現れるなんて、まったく自分のおこないを恥ずかしいとは思わないのかしら」
「……」
覚悟はしていたことだが、やはり母も姉も以前から何一つ変わっていない。
すでに男爵家の人間でないと言うのに、以前と同じような生活を送れる筈はない。それなのに未だ昔のような贅沢な生活から抜け出せずにいるのだろう。いや、そもそもお義父様と別れた一番の原因は母達の浪費なのだから、これはある種の病気なのかもしれない。
それにしても母達はドレスも作れないと言っているが、よく見れば施されている装飾は安物でなく、デザイン自体もそれほど古い物でもないだろう。
母達からすれば、私のドレスが二人のドレスより明らかに上回っていることに対しての僻みと言ったところか。
このドレスは伯爵家に嫁がれたシャロンお義姉様からの贈り物なので、費用はすべてお義姉様持ち。
値段の事はなにも気にしなくていいとは言われているが、恐らく母達が今着ているドレスより、かかっている費用は一桁多いのではないだろうか。
「貴女がイリアね、デイジーから話は聞いているわよ。貴女のせいで大勢の前で恥をかかされたってね。
お陰で今じゃ何処のパーティーからものけ者扱い、アストリア様も体裁を気にしてお屋敷にも来てくださらなくなってしまったのよ。だから娘の代わりに私がこうしてお声がけをしたと言うのに、どこかの落ちぶれ親娘が邪魔をして!」
母達からの罵倒が落ち着いた処で、今度はデイジーの母親から声をかけられる。
前半は私への批判、そして後半は邪魔をされた母達への抗議のつもりだろう。
どさくさに紛れてアストリア様との関係をアピールしているようだが、話の内容から己の欲望が溢れ出してしまっている。
大体デイジーの思い人はジーク様であって、その友人であるアストリア様は只一緒にパーティーへ行かれただけ。そもそもレガリアの四大公爵家の人間が、そう簡単に特定のお屋敷に足を運ばれる筈もないのに。
「なんですって! 先にアストリア様に話しかけられたのは私たちの方ですわ。それなのに途中で邪魔をしてきたのは貴女のほうでしょうが」
「そうよ、自分がアストリア様と一度お会いしたからといって調子に乗らないでください。オバさん」
デイジーのお母さんの言葉に今度は母達が応戦する。
「オ、オバさんですって! 私はこれでも30代よ!! それにアストリア様にお会いしたのはこれで二度目ですわ!」
「30代って言ってもどうせ40手前なんでしょ、ちょっとお母様より若いからって、オバさんに変わらないでしょ」
「カ、カメリア。わ、私はまだ30……いえ20代よ。間違えないでちょうだい」
「「……」」
まさに呆れ顔とはこの事を指すのだろう。
アストリア様と親しいのかと思えば会ったのはたったの二回。
本来ならそこを突っ込むべきなのだろうが、母達が反応したのは年齢の方。
確かにデイジーは私と同じ年なので、母親が20代前半で産んでいれば30代と言っても不思議ではない。
まぁ、30代で娘と同じ年のアストリア様に色目を使うのはどうかとも思うが、この際ここは敢えて目を瞑ろう。問題は私の母が口走った一言。
見た目はぽっちゃりで、お化粧は一度何処かで教わってきてと言いたいほどの厚化粧。それでも男爵家にいた頃はメイドさん達が頑張ってくれていたのだが、自分でお化粧をしなければならなくなってからは更に厚みが増えていった。
しかも確か今年で40うん歳だったよね! 誰がどう見ても20代には無理がある。大体カメリア姉さんって20歳こえてるんですけれど!
……はぁ
さて、いつまでもこの状況を放置しておくわけにいかないだろう。
すでに忘れられているかもしれないが、ここは王家が主催するとても格式の高いパーティーだ。
どうやって母達がこのパーティーに入れたかは知らないが、これでも実家は貴族の血を引いている上に、それなりに商売が成功した商会を運営しているので、叔父の名前を出して無理矢理にでも押しかけたのだろう。
少々この騒ぎで警護の騎士が止めに来ないのは気がかりではあるが、また何か不思議な力が働いていると思えば納得もできる。
当初の予定では、私の乱入で三人の標的がこちらに向かった状況で謝罪の言葉でもすれば、この場を収める事も出来るかとは思っていた。
色々誤解と皮肉が混じってはいるが、三人にとって私は恰好の標的なのだから。だけど結局は私の事など忘れ、今も三人で言い争いが継続されている。
本音を言えばこのままダッシュでこの場から逃げ出したいが、さすがにそれはもう手遅れ。
今の母達を正攻法で止められるとは思えないので、第三者となる私が何かキッカケになる事をすればあるいはなのだが……
そういえば以前デイジーが私のドレスを汚して満足そうにしていた事があったわね。
少なくとも母達は、私が二人より裕福な状況が許せないはずなので、私が惨めに泣く姿を晒せば優越感を抱くはず。
お義姉様から頂いたドレスだけれど、すぐにクリーニングに出せば問題ないと思うので、ここは一緒に犠牲になってもらおう。
あとは姉さん達をさりげなくけしかけるだけなのだが、どうせデイジーと思考が似ているから、以前のような状況を作り上げれば何とかなる筈。
私が惨めな姿を晒す→母達満足→私も満足
流石に実の娘へそんな事をすれば周りから非難の目で見られるであろうから、母達も負い目を感じてこの場から立ち去ってくれるだろう。
よし、プランが決まったところで行動に移ろうとした時、視界の端に頭をポリポリとかきながら誰かが近付いてくる姿が目に映る。
「すまんなイリア、何だかお前まで巻き込んじまったようで。この埋め合わせはまた今度何かするわ」
「「「「……」」」」
バ、バカァーーーー!!
「ななな、なんでイリアがアストリア様から気安く話しかけられているのよ!」
「イ、イリア。貴女アストリア様とどう言う関係!?」
「あ、貴女、アストリア様とお知り合いなんですの!?」
アストリア様のあまりと言えばあまりの声がけに、姉から順番に悲鳴に近い叫び声が会場中に響き渡る。
アストリア様の性格上、誰にでも軽い口調で話しかけるのは彼なりの長所でもあるのだろうが、今この場で軽い口調で話しかけられるのは頂けない。
彼からすれば、単に巻き込んでしまった私へのお詫びなのだろうが、たった今取り合いをしていた三人からすれば、私とアストリア様が親しそうな関係を見せつけているんだと取られかねない。
いや、先ほどの悲鳴に近い声からするに、もうすでに手遅れなのだろう。今はまだ驚きの表情を浮かべてはいるものの、次第に嫉妬心に火がついては私の惨めな姿だけでは納得できまい。
一瞬この状況を作り上げてしまったアストリア様に文句の一言も言いたくなるが、一番の原因は私の母達なのだからそれは余りにも理不尽。
しかしこの状況、修羅場になると感じ取ったのか、先ほどまで興味深々で眺めていた人たちが危険を感じて離れていく。
やばいやばい、これじゃ騒ぎを収めるどころか益々状況をややこしくしている。
一瞬脳裏に「イリアちゃんってトラブルメーカーだよねー」と呑気に語るアリスの顔が浮かび、慌てて妄想を振り払う。
違うから、私はトラブルメーカーじゃないから!
慌てるな私、まだ何か方法が残されているにちがいない。私は出来る子、決してトラブルメーカーじゃ無いと否定したい。
再び私の脳が素早く計算し、この後の未来を予測する。
私が惨めな姿を晒す→母達満足→私も満足
↓
私とアストリア様が親しい→母達嫉妬→修羅場確定
「……」
ちょ、ちょっとぉーーー! これじゃ私がトラブルメーカーじゃない!
この状況、どうすればいいのよぉぉぉーーー!!
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