正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

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第二章 スチュワート編(二年)

第70話 お仕事体験、にぃ(その2)

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 「さぁ、始めるわよ」
 ミリアリア様から渡された40cmほどの一本の棒を受け取りながら、私達に向けられた言葉の真意を考える。
 うん、意味不明だ。

 スチュワート学園の恒例とも言えるお仕事体験。
 今年は公爵家、及び侯爵家からのお招きが出来ないとの事で、私達仲良し5人組の内4人は、ここレガリア城へとやってきた。
 因みに残り一人であるアリスちゃんはトラブルを引き起こしかねないとの理由から、現在イリアさんの男爵家に訪問中。一体どちらがお世話されているかはわからないけれど、人の多いお城でトラブルを起こされるより、比較的安全で安心出来る相手という意味ではこの判断は正しいのだろう。
 現在ここにいるのは私とパフィオさんの二人のみ。リリアナさんとカトレアさんは残念な事に別の場所に派遣され、私とパフィオさんのみがこの建物へとやってきた。

 ここって騎士様達が訓練する場所だよね?
 室内を見渡すと綺麗に清掃されている中にズラリと並んだ数々の器具、そして奥には十数名の騎士様達が今も見慣れぬ器具でトレーニング中。中には女性の姿も見てとれるが、そのほとんどの方が自身の限界を超えようと必死に体を鍛えておられる。

 あぁ、つまりここを綺麗に掃除すればいいのね。

「あのー、ミリアリア様。この棒でお掃除するのはちょっと無理があるような……」
 渡された一本の棒、隣を見てみると棒の長さの違いはあるがパフィオさんが感覚を確かめるよう軽く振り回している。
 うん、やっぱり模擬刀だよねこれ。もうミリアリア様ってホウキと模擬刀を間違えるなんてうっかりさんだなぁ。

「何言っているのよ、模擬刀で掃除なんて出来るわけないでしょ」
 いやいやいや、それはこちらのセリフですって。私はメイドになる為にお仕事体験に来たわけであって、間違っても騎士になる為にここへとやってきた訳ではないと大いに反論したい。

 じゃつまり、この模擬刀で肩でも叩けという事かな?
 うん、そうに決まっている。剣の訓練って多分肩がこるんだろうね。もうミリアリア様ったら素直にマッサージをしてって言ってくれれば、こんな模擬刀を使わないでちゃんとするのに。

「私、マッサージにはちょっと自信があるんですよ」
 肩をクキクキ動かしながらミリアリア様が横になれそうな場所を探してみる。

「何バカな事を言ってるのよ。だれも掃除やマッサージをしてくれなんて言ってないでしょ? 大体室内は毎日綺麗に清掃しているし、訓練中の騎士がいる隣で掃除って、危なっかしくてさせられないわよ」
 まってまって、危なくて掃除がさせられないならなぜ私達をここに呼んだ? 大体危ないんだったらこんな場所に呼ばないよね?

「あのー、ミリアリア様。私はともかくココリナさんにいきなりこれは難しいのではないでしょうか?」
 未だ混乱が続いている中、救いの手を差し伸べてくれたのは模擬刀を片手に持ったパフィオさん。私は未だに全てが意味不明だと言うのに、彼女はまるで今の状況が分かっているかのようなこの口ぶり。

「大丈夫でしょ? 相手はパフィオなんだし、ちょっと軽く打ち合いをするだけなんだから」
「………………はぁ? 打ち合い?」
 ミリアリア様の言葉がますます私を混乱の中に陥れる。
 打ち合いって言えば早い話がこの渡された模擬刀で戦うって事だよね? いくら経験のない私でもそれぐらいの知識は持ち合わせている。
 だけど私とパフィオさんが? ……いやいや、それはないわぁー。

「心配しなくて大丈夫よ。別にパフィオに勝てるなんて期待していないし、まともにやり合えるなんても思っていないから。ただ、運動神経と反応速度を見たいだけだから」
 いやいやいや、待って待って。
 今の口ぶりからすると、ミリアリア様の中ではすでにこの対戦カードは決定事項なのだろう。
 パフィオさんが持つ模擬刀は普通の剣の長さといっていいものだけれど、私に渡されたのはちょっと長めの短剣。
 渡された模擬刀自体が不公平な上、騎士を目指している人間に素人の私が相手になれるわけがない。

「何か勘違いしているようだけど、素人がいきなり剣を持っても振り回されるだけだから短いのを渡しただけよ。第一長い剣なんて持っていたらスカートの下に隠せないでしょ?」
 私が渡された模擬刀とパフィオさんの模擬刀を見比べていると、ご親切にミリアリア様が説明してくださるが、それは私が求めていた答えではまるでない。
 それにスカートの下に剣を隠す? いやいや、普通スカートの下にそんな物騒な物は隠さないって。私は暗殺者でもなければお姫様を守るメイドでも……あっ。

「……あのー、つかぬ事をお伺いしますが。私のロイヤルメイド行きは既に決定ですか?」
「何を今更、そんなの今年初めに決まっているわよ。ココリナの両親にも了解を得ているし、こちらの受け入れ態勢も整っているわ。なんだったら学園を中退してくれても問題ないわよ」
「ちょっ、初耳ですよ! 両親からもそんな話何もきいてませんよ!?」
 待って待って、一体本日何度目の『待って』かもわからないが、ここは混乱している私の心情を察して見逃して欲しい。
 今年の初めって事は数か月も前の話よね? スチュワートでは生徒が2年生に上がった時点で、各お屋敷から生徒やその両親への接触が許されている。その為に各お屋敷からは優秀な生徒を見つけ出そうと学園に見学に来られる方々が多いのだ。
 つまりスカウトをするならこの行為にはなんら問題があるわけではない。ないのだけれど、なんで当事者である私にその情報が伝わっていないの?

「そんなの当然でしょ。その方が面白いから……コホン、王族直属のメイドともなると色々秘密にしなきゃいけないのよ」
 コラコラ、今ポロっと面白いからとか言わなかった?
 平々凡々の両親なら、お城の関係者から口止めされれば例え娘であろうとも口を閉ざすであろう。別に捕まったり乱暴をされたりするのではなく、娘がお城に仕える事が出来るのであれば喜んで賛同するに決まっている。それにお母さんはアリスちゃんのお義母さんとも面識があり、時折こっそり母親会という名のお茶会に呼ばれている事も知っている。本人はずっと否定しているけど、フラっと黒塗りの馬車がお迎えに来たかと思うと、その日はやたらとアリスちゃんの事をベタ誉めしてくる。恐らく王妃様の惚気を真に受けてしまっているのだろう。実際アリスちゃんは可愛いし、愛くるしいのは私自身が認めている。

「で、ですがいきなり模擬刀を渡されて戦うなんて……私、剣どころか運動自体それほどした事はないんですよ?」
 これで何か有名どころのスポーツをしていれば多少なりとは違ってくるのだろうけど、生憎私はスポーツどころか運動自体した事がほとんどない。
 それでいきなり模擬戦はいくらなんでも無茶なんじゃ……。

「だから言ってるでしょ、別にパフィオとまともにやり合えるなんて思ってないわよ」
「でしたらなんで……?」
 この場合、私が疑問に思うのは当然であろう。
 もし仮に、ロイヤルメイドに成るために多少の訓練はいるのかもしれないが、私の仕事はあくまでメイド。だけど返って来た言葉は私をさらなる混乱へと突き落とす。

「なんでって、先にココリナの運動神経と反応速度見ておかないと訓練メニューが組めないでしょ?」
「………………はぁ?」
 訓練、今ミリアリア様訓練って言った? それってつまり私の訓練メニューって事だよね!

「待ってください。訓練って戦い方を習うって意味の訓練ですよね? 何となくその理由はわかりますけど、2日や3日訓練しただけではたいして役に立ちませんよ。それにパフィオさんだって」
 このお仕事体験はわずか3日間だけ。
 一応泊まり込みでのスケジュールが組まれてはいるが、生徒への過重労働は当然禁止。例えそれがミリアリア様と言えども、そう無理なメニューは組めないだろう。
 それに幾らメイド服に身を包んでいるとはいえ、隣にいるのは女性騎士を目指している伯爵家のご令嬢だ。それなのに私と一緒って……、よもやパフィオさんまでロイヤルメイドにとは流石に思っていないだろう。

「当たり前じゃない。2・3日で強くなれるなんて誰も思っていないわよ」
「だったらなんで……」
 自分で尋ねておきながら、その答えを想像してしまいスルリと冷たい汗が流れ落ちる。
「これから毎日するのよ。ずっとね」
「……」
 あうち、やっぱりそうきたか!
 薄々はこうなるんではないかと予想していたが、まさかここまでガチだとは思っていなかった。
 私が愛読している物語にも、お姫様を守るメイドや身代わりをかって出る影武者、ってパターンはよくある事。まさか体格も顔も似ていない私では影武者までは求めていないだろうが、いざと言うときはスカートの下に隠し持った短剣で戦えるよう、ロイヤルメイドとしては最低限身につけろと言っているのだ。

「もちろん無理強いをするつもりはないわよ。護身術を身に付けたからと言って実戦で動けるかどうかなんて、今いるメイド達でも分からないからね。
 でもね、いざって言うとき、自分に力が無いのは思っている以上に辛いものなの」
 そう言葉を発するミリアリア様はどこか表情に暗い影を落とされる。

「この訓練所……っと言うか、この騎士団、ロイヤルガードはアリス一人を守るために作られたのよ」
「えっ? アリスちゃん一人の為に騎士団が?」
 一瞬ミリアリア様が何を言っているかの意味がまるでわからなかった。
 たった一人を守る為騎士団を作る? そんな事が実際にあるの?
 だけど隣のパフィオさんは私とは正反対の反応を示し、慌てた様子で……

「お、お待ちください姫! それ以上の事は私たちの様な者には話してはなりません!」
 自分で大声を出しておいて慌てて周りを警戒する。
 私も釣られて同じ様に周りを見渡すが、訓練中の騎士様達は一瞬こちらを振り向いただけで、そのまま各々の訓練へと戻っていく。

「いいのよ、ロイヤルメイドとなるココリナと、ロイヤルガードになるパフィオには知ってもらいたいの」
「ロイヤルガード……この私が?」
 躊躇いながらも、ロイヤルガードと言う言葉に表情を紅潮させるパフィオさん。
 私的にロイヤルガードの地位がどの様なものかは知らないが、恐らくロイヤルと付いているだけに、王族から選ばれた騎士にしかなれないのだろう。

「あなた達、セリカさん……いえ、アリスの両親の事を何処まで聞いている?」
「アリスちゃんの両親の事ですか? えっと、何年か前に亡くなったとしか……」
「私もご本人から聞いているのはその程度ですが、大体の事情は事前に聞かされているので」
「えっ? パフィオさん何か知っているんですか?」
 思わず私が知らない事をパフィオさんが知っていると聞き、言葉が飛び出す。

「まぁ、その辺りの事は今はいいわ。
 アリスの両親は殺されたの、私たち王族を守ってね……だから私は……」

 その後聞かされた話は、私とパフィオさんに想像以上の感情を与えた事は言わなくても分かって貰えるだろうか。あの笑顔の絶えないアリスちゃんの嘆きと悲しみ、それをただ見ているしか出来なかったミリアリア様の苦しみ。
 そしてリコリス様やルテア様の苦しい日々を聞かされ、私とパフィオさんは大きく成長する。
 
 この日の事を私は生涯忘れる事はないだろう。
 私が心の底からロイヤルメイドになろうと誓った日なのだから。
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