華都のローズマリー

みるくてぃー

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二章 陰謀の渦巻く中

第35話 緊急!?ビジネス会議(前編)

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「集まってもらって悪いわね、皆んな」
 騎士団の方々が帰られてからの緊急会議。
 ランベルトに午後から開店を提案されたが、ローズマリー以外の人間にキッチンへ入られた事を危惧し、今日は臨時休業とさせていただき、掃除やメンテナンスに当てさせて頂く事にした。

「アリス様、今回この様な事態を招いてしまったのは我ら警備隊の責任。どの様にお詫びしていいのか」
 最初声を上げたのはローズマリーの警備隊を任せているバード。元々彼らの仕事は昼間の警備を目的にしていたのだし、たった3人という少ない人数で夜の見回りまでお願いしていたのだから、寧ろ責任があるのは私の方だろう。

「バード、さっきも言ったけれどこれは油断していた私の責任よ。とにかく今は反省よりも対策が先。今後同じ様な事を起こさないためにも、皆んなと話し合う事が大切だと思うの。だから気になることがあれば遠慮なく発言して頂戴」
「わかりました」
 ローズマリーは貴族の方々を相手に商売をしているので、店に侵入されるということは安全面で不安が囁かれる。それでも一度は同情から暖かな声援は送られるだろうが、同じことが2度3度と続くと、あの店の警備力では危険だと知れ渡り、やがて人々からも見捨てられてしまうだろう。

「そうですね、昼間はともかく深夜の見回りを増やすとなれば、やはり警備人員の補充は必須でしょう」
「私もそう思うわ、ランベルト直ぐに手配してもらえるかしら?」
「畏まりました」
 夜間の見回りを怠っていたのは限られた人員で回していた為。これは単純に日勤と夜勤とに分ければ問題は解決する。
「それと今回ドアノブを直接破壊されたところから考えますと、ピッキングは防げていると思われます。そこで提案なのですが、外へと繋がる扉には二重鍵を施し、ガラス窓には夜間のみ鉄柵で防ぐというのはいかがでしょうか?」
「そうね、良いかもしれないわね」
 鍵を破壊するというのは時間的に騒音的にもリスクが生じる。
 今後は警備の巡回を厚くするので、時間が掛かれば発見の頻度も格段にあがるだろうし、オシャレな鉄柵ならばガラス窓でも違和感は出ないので、侵入防止には打って付け。確かハルジオン公爵家にも似た様なものがあったので、参考にさせて貰えばいいだろう。

「ですが小窓それで対応できても、テラス席へと繋がる窓際はどういたしましょうか? あそこまで鉄柵を付けてしまうと景観が損なわれてしまうと思うのですが」
 南側にあるテラス席には、室内からも外のお庭が見える様全面ガラス張りのエリアが存在する。
 確かにそこまで全部鉄柵で覆うと折角の景観が損なわれてしまうだろう。
「ならば表の庭とガーデンとの間に柵を付けると言うのは如何でしょうか? それならばガーデン側への侵入も防げますし、景観を損なう様な事にもなりません」
 なるほど、ガーデンそのものを侵入できない様に防ぐという事だろう。お隣さんとは高い石壁で仕切られているし、緑の草木などで鉄柵を隠せば景観を損なうような事にはならない。
 一応避難通路としての扉は必要だろうが、営業の終わりと同時に鍵を閉めれば問題はないはず。
 幸いこれからの季節はガーデンに出るという事はないので、今のうちに工事を進めておけばお客様にも迷惑はかからないだろう。

 この後集まったスタッフ達とアレよコレよと対策を練り、ようやく今後の方針が纏まった辺りで、フローラ様達が来られたという報告を受ける。

「わざわざ足を運んで頂き、申し訳ございません」
「構わん、それより状況を説明してもらってもいいか?」
 ジーク様より公爵家に連絡を入れてくださったとは聞いていたが、まさか公爵様エヴァルド様が直々に来て頂けるとは思いもしていなかった。
 他にもフローラ様に私の先生でもあるローレンツさんまでも、公爵家の主要メンバー心配して来てくださるとは、なんともありがたい話である。
 私は公爵様達に事の経緯と、決まったばかりの今後の方針を説明させて頂く。

「なるほど、初めからレシピが目的だったと言っても間違いなかろう。どう思う? ローレンツ」
「そうですね可能性としては、やはりアルター男爵家が関わっていると考えるのが妥当でしょう。ただ問題はその目的」
 一応ランベルトが男爵家に監視を付けてくれているのだが、地方に戻られているため今の所これといった連絡は入っておらず、恐らく犯罪という直接的な手段を用いている事から、二重三重に人を交わして依頼をしたのでは、という話で収まっている。
 これは私とランベルトの共通の考えだが、例の執事であるファウストが何らかの指示を出したのではと考えている。

「目的か……」
 実際犯人の目的が何かはわからないが、売るもよし使うもよし脅すもよしと、三拍子も揃った貴重なもの。この世界にある食材では知識のある私でもケーキの再現が難しかったので、金銭目的だけを取っても十分な価値はあるのではないだろうか。

「ただ嫌がらせをしたいのでしたら金銭目的や破壊工作でしょう。ですが今回そのどちらにも手が付けられておりません。すると可能性として考えられるのは大きく分けてたったの2つ。一つはレシピを第三者に売りつけての金銭目的。ですがこちらは第三者から告発される可能性がございます。また同じ目的からレシピを流通させるという脅しも考えられますが、こちらも犯人だと名乗りを上げている様なものですので、可能性は低いでしょう」
 確かにローレンツさんが言う通り、金銭目的に走るとなれば当然第三者と接触しなければならなず、必ずそこにリスクという言葉付き回る。
 今のところこの国ではローズマリー以外がケーキを出している店はないのだし、その店からレシピの盗難にあったと噂がひろまれば、おのずと犯人の痕跡が見え始めるだろう。
 その時、購入者が我が身可愛さに購入元を喋らないとも限らないので、捕まるリスクとしては非常に高い。

「そしてもう一つは……」
「自らローズマリーの類似店を出す、という事ですね」
「えぇ」
 ローレンツさんの言葉の続きをランベルトが引き継ぐように繋げる。
 実はその可能性は私も考えた。今ローズマリーが人気なのは間違いなくケーキの存在があっての事なので、そこに乗っかろうと思えば普通に評判にはなるだろう。
 私的にはお互い競い合い、良いライバル的な関係が理想なのだが、それはあくまでも独立なり開発なりの努力があってのこと。人のものを盗んで置いて堂々とライバル店を見ているほど、私は出来た人間ではない。

「自ら? でもそれだと自分が犯人だと言ってるようなものじゃないの?」
「それは違いますフローラ様。問われるべきは犯人であって、店側ではございまいません」
 ローレンツさん曰く、例えローズマリーの類似店が出ても、レシピを盗んだという証拠が見つからない限り、罪には問えないのだという。
 まぁ普通に考えればそうよね。料理にしろお菓子にしろ、所詮はレシピさえあれば誰にでも簡単に真似する事はできてしまう。ただ生クリームだけは氷水がなければうまく作れないが、王都には氷を売っている商会もあると聞くので、作ろうと思えば作れない事もないだろう。

「もしそんな店が出来れば騎士団からの調査は入るが、相手側もその程度の対策は打っているだろうからな」
「望みは薄そうですね」
 流石の公爵家でも犯人の特定が出来なければ対処のしようもないし、理由もなくアルター男爵家に圧力をかけるわけにもいかない。公爵家という強力な力はそのまま何にでも切り裂く聖剣となってしまうのだから。

「取り敢えず状況は分かったのだけれど、ねぇアリス。貴女やけに落ち着いているわね」
「そうでしょうか?」
 うーん。自分では良くわかっていないが、落ち着いていると言われると確かに落ち着いているのかもしれない。
 その理由は多分私にとって被害らしい被害がなかったという点と、この半年で娼婦になりかけたり、命を落としそうになったり、実家を追い出されたという数々の経験が、私という人間を一回りも二回りも大きくしてくれた結果の産物。
 そう考えると今回の一件など可愛らしいものなのかもしれない。

「でもよかったわ。落ち込んでいるんじゃないかと思って急いで来たのだけれど、心配いらなかったみたいね」
「えっとその……ご迷惑をおかけしました」
 私がフローラ様の立場なら、やはり同じように心配して駆けつけただろう。わざわざお忙しい公爵様を連れて来られたのだから、どれだけ心配させてしまったのかと考えると、やはり反省しなければいけないだろう。

「まぁいいわ。ちゃんと対策も考えているようだし、何かが起こればその時に対策すればいいわね」
「そうですね。相手の出方が分からない以上、下手に動き回るのは得策ではありません。勿論どんな出方をされてもいいように準備は必要ですが」
 ローレンツさんの言うとり相手の目的が分からない以上、こちらとしては対策のしようがない。今は騎士団の皆さんが頑張っていただく事を期待するだけだ。

「そう言えばこの間言っていたチョコレート……だったかしら? あれはどうなったの?」
 事件の話が一旦落ち着いたタイミングで、フローラ様が例のチョコレートの進捗具合を尋ねてこられる。恐らくローレンツさんが言った今後の準備という話で思い出されたのだろう。

「一応形にはなっていますがまだ満足のいく物にはなっていなくて……」
 お約束では一ヶ月後という話になっていたので、それまでに何とかなればいいかな、っとは思っていたのだが、実はカカオの種からチョコレートに生成するまで、ものすごく時間が掛かってしまい、予想以上に大苦戦をしいられている。
 それでも一応チョコレートとして形にはなったのだが、合間の時間を使っての作業なので正直遅れ気味になっている事は事実だ。

「それじゃ一応形にはなっているのね?」
「はい」
 チョコレートの試作を作っていたのは居住エリア側のキッチンなので、今回の泥棒騒ぎでは一切被害は受けていない。

「お前たち一体なんの話をしているのだ?」
「アリスがまたおかしな事を始めたのよ。何でもケーキに引けを取らないほど甘くて美味しいお菓子らしいのだけど(チラッ)」
「ほぉ、それは興味があるな(チラッ)」
 いやいや、ちょっとお待ち下さい公爵夫妻。お二人でそんな目をキラキラされても、まだお出し出来るような品物じゃありませんっていいましたよね。
 ケーキと違って保存ができるので、今すぐ出せと言われれば出すことも可能なのだが、形は平凡、甘さは私好み、試しにクッキーに混ぜたものもあるが、とてもじゃないが公爵様にお出し出来るようなレベルには行き着いてはいない。

「ふふふ、レティシアには悪いけれど先に食べてみたいわね」
「そうだな、試作と言っても食べれぬわけでもあるまい? それに他人の意見を聞くのも必要なのではないか?」
「そうですね。先の例もございますので私にも頂ければと」
 うぐっ。
 公爵家のご夫妻と先生に言われては私が抗える訳もなく、仕方なくカナリアに言って試作のチョコレートと、最近ハマっているお茶を用意させる。
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