72 / 91
四章 華都の讃歌
第69話 嵐と嵐の合間で
しおりを挟む
「しかしアリスも厄介な奴に目をつけられたな」
先ほどのやり取りを心配してくれたのか、アストリア様がフレッドが消えた方を見つめながら話しかけてこられる。
「昔はあそこまで傲慢な性格ではなかったんですよ」
少なくとも私と婚約していた頃の彼は、引っ込み思案で周りに流されるような、弱い性格の持ち主だったと記憶している。
「そうなのか? 俺から言わせれば典型的なクズパターンだぜ? 俺やジークは学園であれに似たような奴を何人も見てきたからわかるんだが、最初は何の取り得もないのに、ある日を境に突然性格が豹変するんだ。聞けば父親が事業に成功しただとか、ポロっと爵位が転がって来ただとかで、昨日まで誰かの後ろに付いているだけのヤツが、金や権力を手にいれた事で一気に態度がデカくなりやがるんだ。自分の力じゃないにも関わらずだ」
アストリア様がここまでフレッドを非難するのも、ある意味仕方がないことだろう。私だってまさにその通りの感情を抱いてしまったのだし、実際同じような体験を目にしてしまったのだから、否定のしようもないというもの。
「一体どこであんな性格に変わったでしょうね」
考えられるのは男爵家が経営するプリミアンローズの華々しい日々。それまでは婚約者であるマリエラに随分振り回されていたようだし、男爵家の跡取りでありながら商家の娘に逆らえないというジレンマが、どこか彼の中でくすぶり続けていたのかもしれない。
それが一気にお金を手にいれたことで、溜め込んでいた貴族のプライドが爆発してしまった。
一度甘い思いを経験してしまうと、二度と過去のようには戻りたくはないだろうし、お金さえあれば再び華々しい日々に戻れるかもと、思い込んでしまったのだろう。
「とにかくあんなバカな奴の事は放って置こうぜ。何かあったとしても俺たちが付いてるんだ、心配する方が無駄ってもんだぜ」
能天気といえばそれまでだが、アストリア様のこいうサッパリとした性格のところは、どこか救われる気がするから不思議なものだ。
「そうですね」
言葉は悪いがフレッドは私から見ても所詮は小物。警戒するにこした事はないが、あまり考えするぎるのもただ疲れるだけ。それよりも私にはこの後控えているであろうバカ兄との対面が待ち受けているので、ここで体力を使い切ってはいけないだろう。
「そういえば聞きましたよ。アストリア様がルテアちゃんの婚約者だったんですね」
「ん? あぁ、まぁ、そうだな」
おやおや、アストリア様しては何だか歯切れの悪いお返事。これはもしかして照れておられるのではないだろうか。
「ダメだよアリスちゃん。アストリアを揶揄ちゃ」
「そんな事しませんよ、ただちょっと新鮮だなぁって思っただけです」
ほんのちょっぴりそんな考えも過ぎったが、揶揄いすぎて逆にこちらが揶揄われるという事態もあり得るので、ここはグッと女心の誘惑を抑える事にしておく。
「改めまして、ご婚約おめでとうございます」
「おぉ、サンキューな」
「もうアリスちゃん、私たちが婚約したのは随分前なんだから、今更言われると恥ずかしいよ」
お二人がいつご婚約されたかまでは聞いていないが、私と出会った以降ならばそんな話も出てきたはずなので、恐らくはもっと前に決まっていた話なのだろう。
私だってフレッドとの婚約が決まったのは王都に来るずっと前なのだし、早い人は幼少の頃から結婚相手が決まっているとも聞くので、別段若いからといって婚約がめずらしいというわけではない。
「いいんですよ、これは単純に友達の祝福を祝いたいといだけのことなんです。それにこういう事に早い遅いは関係ないんです」
「もう、律儀だなぁアリスちゃんは」
他愛もない友人との会話。この世界で学園に通った事がない私にとって、この瞬間は本当にかけがいのない一時なんだ。
アストリア様が皆んなを明るくし、ルテアちゃんが場を和ませ、私が二人のボケを軽く突っ込む。相変わらずジーク様はそんなやり取りを笑いながら見つめているだけだが、この時だけは貴族だとか平民だとかを感じさせない、私にとって大切な一瞬。願わくばそんな楽しい時間がこれらも続く事を祈るばかりだ。
「さて、そろそろ私は私の本日のメインイベントに戻らないといけませんので」
「メインイベントって、例の菓子の宣伝か?」
「それもあるんですが、実家にいるお兄様との再会です」
「兄? アリスって妹以外に兄がいるのか?」
「はい、正確には母親違いの異母兄ですが」
アストリア様の様子じゃ、やっぱりジーク様もルテアちゃんも私の事情は話されてはいないのだろう。
私は改めて実家のこと、異母兄たちこと、そしてフレッドと婚約が破棄された事で王都へ来る経緯を、掻い摘んでアストリア様に説明する。
「なるほどな、お前も見かけによらず随分苦労してきたんだな」
「一言多いですよ」
あえて一言付け加えられたのは、私が暗くならないためのアストリア様なりの心遣いなのだろう。
「それで今からその兄のところに挨拶にいくと」
「はい。向こうが気づいてくれるまで待つのもいいのでしょうけど、このままビクビクと待ち続けるは嫌ですし、挨拶もないまま夜会が終わってしまえば、後日私が居たと気づかれた時の反応を考えると、やはり夜会での再会は避けられないかなぁって思いまして」
恐らく兄は私が今この夜会に招かれているとは思ってもいない事だろう。だけど私はこの王都で余りにも有名になりすぎてしまった。
ローズマリーの年若いオーナーとして注目されているのに、ハルジオン公爵家との繋がりと、先の事件でユミナちゃんと一緒に誘拐された、エリスの話も既に噂の的になっているとも聞いている。
そんな私の噂を、いつまでバカ兄だけが耳にしないという事はないだろう。
「わかった、止めはしないが騒ぎだけは起こすなよ。何だったら俺たちも一緒について行ってやってもいいんだが」
「お心遣いありがとうございます。ですがこれは私の家の問題でもございますし、公爵家の後ろ盾がないと何もできない女と、バカにされるのも本意ではございませんので」
少々トラブルメーカーのように言われるのはなんだが、その心遣いだけは感謝したい。
本当ならば夜会に来るまでに一度会っておけばよかったのだが、今年は昨年までと少々事情が異なり、兄様はご婦人であるクリス義姉様と、下町の安宿に宿泊されているのだという。
まぁこの一年で兄様たちの結婚ラッシュがあったわけだし、爵位も昨年まではお父様が名乗られていたのだから、当主となったアインス兄様には、今年から夫人であるクリス義姉様を同伴させる義務が生まれるのだ。
流石に新婚ホヤホヤの兄様達の家に転がり込むわけには行かず、フィオーネ姉様とは未だ大げんかの真っ最中。私は娼婦の館にでも働かされていると思われているようだし、今年は仕方なく安宿に宿泊されるのだと聞いていた。
その関係で、誰もアインス兄様がどこで宿を取られているを知らなかったのだ。
「それじゃちょっと行って来ますね」
「って、ちょっと待て。そのまま行く気か?」
「? そうですけど、何か変ですか?」
「いや、そういう意味じゃなくてだな」
出鼻をアストリア様に止められ、念のために自分が変な姿をしているのかと確かめてみるも、別段おかしいと思われる様子は見当たらない。
「アリスちゃん、もしかして気づいてない?」
「ん? 何がですか?」
「周りをよく見てみろ、多分俺たちから離れた瞬間囲まれるぜ?」
「へ?」
二人に諭されて周りの様子を伺うも、別段おかしなところは見当たらない。
むしろこの3人といる事の方が目立つというものだ。
「気のせいじゃないですか?」
「いや、まぁ、お前がいいのならいいんだけどな」
「うん。その、まぁガンバってね」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきますね」
改めて心配してくれた二人に挨拶をし、私は会場の何処かにいるであろうバカ兄を探すために彷徨い出す。
二人が心配してくれた本当の意味すら理解できずに。
「なぁ、あれ絶対気づいてないだろう?」
「うん、気づいてないよね」
アリスちゃんって鈍感なところがあるから、自分がどれだけ注目されているのか全然わかっていないんだよね。
フローラ様が私やジークさんを付けていたのは、単純に人払い目的の方が遥かに強い。ただでさえアリスちゃんの銀髪は目立ちすぎるのだ。そのうえ今日のドレスはハルジオン家のメイドさん達が練りに練った超一品。スタイル良し、見た目よし、おまけに多額な資産を抱えている最優良物件ときている。
貴族といっても領地を持たない宮廷貴族や、功績から叙勲された名誉貴族なんて人達もいるので、アリスちゃんが経営するお店や資産は、言わば領地に変わる収入源になるのだ。
もちろんアリスちゃんの容姿に惹かれている男性もいるだろうから、群がる年齢層もその分大きくなる。その辺りを気遣って、フローラ様も公爵様もジークさんを側につけていたのだろうけど、肝心のアリスちゃんがそれに気づいていないのだからどうしもうもない。
「まったく、貴族が全員裕福ってわけではないんぞ。ほら、早速男どもに囲まれてやがる」
「……」
言葉は悪いがまさにアストリアの言う通りなのだからフォローのしようがない。
今回はなんとか囲いを突破できたようだが、今も一人になった事をいいことに、何人もの貴族や男性達が声を掛けようと移動し始めている。
「ありゃ、兄貴を見つける前に何処かで捕まるな」
「もう、言ってるだけじゃなくて早く助けに行かないと!」
「それは俺の役目じゃなくてジークだろ? ほら、もう向かってるって」
「えっ?」
い、いつの間に!?
アストリアに言われるまで気づかなかったが、知らぬ間にジークさんの姿が人ごみの中へと消えてしまっている。
おそらく見つからない様に後を付け、危ない様なら助けに入るつもりなのだろうが、せめて私たちに一言ぐらい告げていってもいいんじゃないだろうか。
「まったく、二人とも素直じゃないんだから」
不器用という言葉は二人の為にあるのではないだろうか。お互い意識しあっているのは誰が見ても明らか。エヴァルド様もフローラ様もアリスちゃんの事を気に入っている様だし、ハルジオン公爵家のメイドさん達だってアリスちゃんを大切に扱っている節もある。
いっその事このまま婚約しちゃってもいいと思うんだけれど。
「そういえばさ、アリスってジークの母親の素性ってしているのか?」
「知らないと思うよ」
「マジか!? どうせ今日の夜会で気づくんだろうが、知ったときはビビるだろうなぁ」
あのフローラ様の事だ、秘密にしておいて驚かす事に全力を注いでいる事だろう。
アリスちゃん、無事に戻ってきてね。
先ほどのやり取りを心配してくれたのか、アストリア様がフレッドが消えた方を見つめながら話しかけてこられる。
「昔はあそこまで傲慢な性格ではなかったんですよ」
少なくとも私と婚約していた頃の彼は、引っ込み思案で周りに流されるような、弱い性格の持ち主だったと記憶している。
「そうなのか? 俺から言わせれば典型的なクズパターンだぜ? 俺やジークは学園であれに似たような奴を何人も見てきたからわかるんだが、最初は何の取り得もないのに、ある日を境に突然性格が豹変するんだ。聞けば父親が事業に成功しただとか、ポロっと爵位が転がって来ただとかで、昨日まで誰かの後ろに付いているだけのヤツが、金や権力を手にいれた事で一気に態度がデカくなりやがるんだ。自分の力じゃないにも関わらずだ」
アストリア様がここまでフレッドを非難するのも、ある意味仕方がないことだろう。私だってまさにその通りの感情を抱いてしまったのだし、実際同じような体験を目にしてしまったのだから、否定のしようもないというもの。
「一体どこであんな性格に変わったでしょうね」
考えられるのは男爵家が経営するプリミアンローズの華々しい日々。それまでは婚約者であるマリエラに随分振り回されていたようだし、男爵家の跡取りでありながら商家の娘に逆らえないというジレンマが、どこか彼の中でくすぶり続けていたのかもしれない。
それが一気にお金を手にいれたことで、溜め込んでいた貴族のプライドが爆発してしまった。
一度甘い思いを経験してしまうと、二度と過去のようには戻りたくはないだろうし、お金さえあれば再び華々しい日々に戻れるかもと、思い込んでしまったのだろう。
「とにかくあんなバカな奴の事は放って置こうぜ。何かあったとしても俺たちが付いてるんだ、心配する方が無駄ってもんだぜ」
能天気といえばそれまでだが、アストリア様のこいうサッパリとした性格のところは、どこか救われる気がするから不思議なものだ。
「そうですね」
言葉は悪いがフレッドは私から見ても所詮は小物。警戒するにこした事はないが、あまり考えするぎるのもただ疲れるだけ。それよりも私にはこの後控えているであろうバカ兄との対面が待ち受けているので、ここで体力を使い切ってはいけないだろう。
「そういえば聞きましたよ。アストリア様がルテアちゃんの婚約者だったんですね」
「ん? あぁ、まぁ、そうだな」
おやおや、アストリア様しては何だか歯切れの悪いお返事。これはもしかして照れておられるのではないだろうか。
「ダメだよアリスちゃん。アストリアを揶揄ちゃ」
「そんな事しませんよ、ただちょっと新鮮だなぁって思っただけです」
ほんのちょっぴりそんな考えも過ぎったが、揶揄いすぎて逆にこちらが揶揄われるという事態もあり得るので、ここはグッと女心の誘惑を抑える事にしておく。
「改めまして、ご婚約おめでとうございます」
「おぉ、サンキューな」
「もうアリスちゃん、私たちが婚約したのは随分前なんだから、今更言われると恥ずかしいよ」
お二人がいつご婚約されたかまでは聞いていないが、私と出会った以降ならばそんな話も出てきたはずなので、恐らくはもっと前に決まっていた話なのだろう。
私だってフレッドとの婚約が決まったのは王都に来るずっと前なのだし、早い人は幼少の頃から結婚相手が決まっているとも聞くので、別段若いからといって婚約がめずらしいというわけではない。
「いいんですよ、これは単純に友達の祝福を祝いたいといだけのことなんです。それにこういう事に早い遅いは関係ないんです」
「もう、律儀だなぁアリスちゃんは」
他愛もない友人との会話。この世界で学園に通った事がない私にとって、この瞬間は本当にかけがいのない一時なんだ。
アストリア様が皆んなを明るくし、ルテアちゃんが場を和ませ、私が二人のボケを軽く突っ込む。相変わらずジーク様はそんなやり取りを笑いながら見つめているだけだが、この時だけは貴族だとか平民だとかを感じさせない、私にとって大切な一瞬。願わくばそんな楽しい時間がこれらも続く事を祈るばかりだ。
「さて、そろそろ私は私の本日のメインイベントに戻らないといけませんので」
「メインイベントって、例の菓子の宣伝か?」
「それもあるんですが、実家にいるお兄様との再会です」
「兄? アリスって妹以外に兄がいるのか?」
「はい、正確には母親違いの異母兄ですが」
アストリア様の様子じゃ、やっぱりジーク様もルテアちゃんも私の事情は話されてはいないのだろう。
私は改めて実家のこと、異母兄たちこと、そしてフレッドと婚約が破棄された事で王都へ来る経緯を、掻い摘んでアストリア様に説明する。
「なるほどな、お前も見かけによらず随分苦労してきたんだな」
「一言多いですよ」
あえて一言付け加えられたのは、私が暗くならないためのアストリア様なりの心遣いなのだろう。
「それで今からその兄のところに挨拶にいくと」
「はい。向こうが気づいてくれるまで待つのもいいのでしょうけど、このままビクビクと待ち続けるは嫌ですし、挨拶もないまま夜会が終わってしまえば、後日私が居たと気づかれた時の反応を考えると、やはり夜会での再会は避けられないかなぁって思いまして」
恐らく兄は私が今この夜会に招かれているとは思ってもいない事だろう。だけど私はこの王都で余りにも有名になりすぎてしまった。
ローズマリーの年若いオーナーとして注目されているのに、ハルジオン公爵家との繋がりと、先の事件でユミナちゃんと一緒に誘拐された、エリスの話も既に噂の的になっているとも聞いている。
そんな私の噂を、いつまでバカ兄だけが耳にしないという事はないだろう。
「わかった、止めはしないが騒ぎだけは起こすなよ。何だったら俺たちも一緒について行ってやってもいいんだが」
「お心遣いありがとうございます。ですがこれは私の家の問題でもございますし、公爵家の後ろ盾がないと何もできない女と、バカにされるのも本意ではございませんので」
少々トラブルメーカーのように言われるのはなんだが、その心遣いだけは感謝したい。
本当ならば夜会に来るまでに一度会っておけばよかったのだが、今年は昨年までと少々事情が異なり、兄様はご婦人であるクリス義姉様と、下町の安宿に宿泊されているのだという。
まぁこの一年で兄様たちの結婚ラッシュがあったわけだし、爵位も昨年まではお父様が名乗られていたのだから、当主となったアインス兄様には、今年から夫人であるクリス義姉様を同伴させる義務が生まれるのだ。
流石に新婚ホヤホヤの兄様達の家に転がり込むわけには行かず、フィオーネ姉様とは未だ大げんかの真っ最中。私は娼婦の館にでも働かされていると思われているようだし、今年は仕方なく安宿に宿泊されるのだと聞いていた。
その関係で、誰もアインス兄様がどこで宿を取られているを知らなかったのだ。
「それじゃちょっと行って来ますね」
「って、ちょっと待て。そのまま行く気か?」
「? そうですけど、何か変ですか?」
「いや、そういう意味じゃなくてだな」
出鼻をアストリア様に止められ、念のために自分が変な姿をしているのかと確かめてみるも、別段おかしいと思われる様子は見当たらない。
「アリスちゃん、もしかして気づいてない?」
「ん? 何がですか?」
「周りをよく見てみろ、多分俺たちから離れた瞬間囲まれるぜ?」
「へ?」
二人に諭されて周りの様子を伺うも、別段おかしなところは見当たらない。
むしろこの3人といる事の方が目立つというものだ。
「気のせいじゃないですか?」
「いや、まぁ、お前がいいのならいいんだけどな」
「うん。その、まぁガンバってね」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきますね」
改めて心配してくれた二人に挨拶をし、私は会場の何処かにいるであろうバカ兄を探すために彷徨い出す。
二人が心配してくれた本当の意味すら理解できずに。
「なぁ、あれ絶対気づいてないだろう?」
「うん、気づいてないよね」
アリスちゃんって鈍感なところがあるから、自分がどれだけ注目されているのか全然わかっていないんだよね。
フローラ様が私やジークさんを付けていたのは、単純に人払い目的の方が遥かに強い。ただでさえアリスちゃんの銀髪は目立ちすぎるのだ。そのうえ今日のドレスはハルジオン家のメイドさん達が練りに練った超一品。スタイル良し、見た目よし、おまけに多額な資産を抱えている最優良物件ときている。
貴族といっても領地を持たない宮廷貴族や、功績から叙勲された名誉貴族なんて人達もいるので、アリスちゃんが経営するお店や資産は、言わば領地に変わる収入源になるのだ。
もちろんアリスちゃんの容姿に惹かれている男性もいるだろうから、群がる年齢層もその分大きくなる。その辺りを気遣って、フローラ様も公爵様もジークさんを側につけていたのだろうけど、肝心のアリスちゃんがそれに気づいていないのだからどうしもうもない。
「まったく、貴族が全員裕福ってわけではないんぞ。ほら、早速男どもに囲まれてやがる」
「……」
言葉は悪いがまさにアストリアの言う通りなのだからフォローのしようがない。
今回はなんとか囲いを突破できたようだが、今も一人になった事をいいことに、何人もの貴族や男性達が声を掛けようと移動し始めている。
「ありゃ、兄貴を見つける前に何処かで捕まるな」
「もう、言ってるだけじゃなくて早く助けに行かないと!」
「それは俺の役目じゃなくてジークだろ? ほら、もう向かってるって」
「えっ?」
い、いつの間に!?
アストリアに言われるまで気づかなかったが、知らぬ間にジークさんの姿が人ごみの中へと消えてしまっている。
おそらく見つからない様に後を付け、危ない様なら助けに入るつもりなのだろうが、せめて私たちに一言ぐらい告げていってもいいんじゃないだろうか。
「まったく、二人とも素直じゃないんだから」
不器用という言葉は二人の為にあるのではないだろうか。お互い意識しあっているのは誰が見ても明らか。エヴァルド様もフローラ様もアリスちゃんの事を気に入っている様だし、ハルジオン公爵家のメイドさん達だってアリスちゃんを大切に扱っている節もある。
いっその事このまま婚約しちゃってもいいと思うんだけれど。
「そういえばさ、アリスってジークの母親の素性ってしているのか?」
「知らないと思うよ」
「マジか!? どうせ今日の夜会で気づくんだろうが、知ったときはビビるだろうなぁ」
あのフローラ様の事だ、秘密にしておいて驚かす事に全力を注いでいる事だろう。
アリスちゃん、無事に戻ってきてね。
44
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。
ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。
そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。
「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。
冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。
皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。
小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。
かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。
ついでに魔法を極めて自立しちゃいます!
師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。
痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。
波乱万丈な転生ライフです。
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる