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しおりを挟む半年が経ち、数日後にルーズベルト様が領地へと戻ってくるらしい。
この国の学園は、前期と後期に分かれていて3年制である。
前期が5か月。1か月の長期休暇を挟んで後期が5か月。そしてまた1か月の長期休暇を終えると学年が1つ上がることになる。
長期休暇になっても王都で過ごしたり、他領に遊びに行ったりして自領には戻って来ない場合もあるらしいが、この長期休暇は自領で過ごすらしく、その準備が進められていた。
「今回は奥様も一緒にお戻りだそうよ。」
「そうなのですね。私、まだお会いしたことがないのです。」
ナターシャがここで働き始めて1年。伯爵夫人は一度も戻って来なかった。
ナターシャが保護を求めてここに来たひと月前、ルーズベルト様のお姉様がご結婚されたらしい。
娘が嫁いだ寂しさで一時は寝込んだということだったが、定かではない。
「奥様はどのような方なのですか?」
「そうねぇ。侯爵家から嫁いで来られたのだけど、フワフワした感じで何でも受け入れるような包容力があるように見せかけて、ズバッと切り捨てるような方、かしら?」
ある意味、貴族らしいとも言えるのか。それとも単なる腹黒なのか。
フワフワは相手を油断させようとしているのであれば、頭のいい方なのかもしれない。
でも腹の中では相手のマイナスポイントを数えていて、水準を超えるとズバッ……怖っ!
完全なる裏方メイドとは言えないナターシャは、おそらく奥様にお目通りすることになる。
魔力が多いナターシャを保護するためだけに領地へと戻って来られたという伯爵様の奥様なのだ。
ナターシャのことをズバッと切り捨てることはないと思いたい。
「「「おかえりなさいませ。」」」
手の空いている者全員で、伯爵夫人とルーズベルト様をお迎えした。
伯爵夫人は40歳近いとは思えないほど若々しい方だった。
ルーズベルト様は、少し身長が伸びて精悍な顔つきになったように見えた。
玄関ホールを抜けて階段を上ろうとしたルーズベルト様がナターシャに気づいた。
「……ナターシャ?え、本当に半年で成長してるじゃないか!」
そうなのだ。この半年で身長も胸も成長した。いや、まだ成長途中であるはず!
「おかえりなさいませ。ルーズベルト様も大きくなられたようですので差はあまり変わりませんが。」
それでも、ルーズベルト様の肩の辺りまでナターシャの身長は伸びた。
出会ったときは10歳に見られたが、今は13歳に見えたら嬉しい。
「12歳に見えるよ!」
「……私は13歳です。そして数か月後には14歳になります。」
がっくり。さすがに13歳とはいかなかった。
クスクスと笑い声がした。伯爵夫人に会話を聞かれていたらしい。
ナターシャは慌てて頭を下げた。
「あなたがナターシャね。頭を上げて。魔力の多さで主人の関心を得て、可哀想な境遇で息子の興味を引いているようだけど?」
噓でしょ?なんで、初対面から攻撃されてるの?
「母上、どうしたの?ナターシャが固まっちゃったよ。」
「あらあら。冗談よ?可愛いわね。」
冗談?本気にしか聞こえませんでしたけど?
どこがフワフワからのグサッなの? あ、ズバッか。 いやいや、グサッときたよ?
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