平民から貴族令嬢に。それはお断りできますか?

しゃーりん

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ナターシャが綺麗な姿勢で作法通りにお茶を飲む姿を見て、周りは驚いているようだった。

中には、自分の娘を見て叱責している親までいた。
あるいは、その親自体が動揺でカチャカチャと音を立て、周りから失笑されてしまったようだ。

ナターシャは、半年も経たないうちにお茶会に行くと言った母に驚いたが、ずっと貴族令嬢として過ごして来てもこの程度しかまだできないのだと言うことをナターシャに見せたかったのだろう。

そして、貴族になって半年にも満たないナターシャより娘が劣るのは恥ずかしくないのかと周りの貴族夫人に見せつけているのだろう。

つまり、侯爵令嬢であるナターシャのことを舐めるなと知らしめたのだ。 


こうしてナターシャのお茶会デビューは、大勝利?に終わった。 


月に1,2度、お茶会に行くようになったが、親を伴わない令嬢だけのときは、少し砕けた感じになることもわかった。
しかし、親の目を離れた分、言動に大きく個性やそれぞれの貴族家の考え方の違いが出る。

この日は、さりげなくナターシャを貶める発言をする令嬢がいた。
 

「平民から貴族になれたとしても、どんなに頑張っても染みついたものは変えられないと思わない?
私は生まれも育ちも貴族でよかったわ。苦労しなくて済んだもの。」


その令嬢の発言に、同意する者と眉をひそめる者とに分かれた。 


「そうよね。平民ってあくせく働いて、たとえこんなドレスを買えても着ていくところもないわ。」

「でも、そのドレスを作ってくれているのも平民なのよ?」

「うわっ!それは言わないでほしいわ。平民の手垢がついているだなんて、想像したくないし。」

「手垢って……食べ物もそうよ?貴族が育てたり収穫したりしているんじゃないわ。」


ちょっと面白い。彼女たちの言い合いを、ナターシャは口を挟まずに聞いていた。


「何なの?あなたも貴族なんだから、平民をこき使ってる方じゃない!責めるように言わないでよ!」

「責めてないわ。立場は違うけど、同じ人間だと言いたいだけよ?」

「同じじゃないわ。お父様は天と地ほど尊さが違うとおっしゃってるわ。」

「そうかしら。あなたが平民になる可能性もあるのに?」


そう言われた令嬢は想像したこともなかったのか、絶句した。


「例えばね、あなたの領地にいる領民たちが、『領民を大事にしてくれない領主の下では働きたくない』と言って領地を出て行ったとするでしょう?そうすると、あなたの領地の特産である小麦は作られなくなるわ。
そうなれば、領民はいないから税を納めてくれることもないの。収入がなくなるの。わかる?」

「父は収入が減れば税をあげればいいって言っていたわ。」
 

この令嬢、ちょっとおバカ?


「だから、その税を納めるためには領民が小麦を作って売ってお金にしなきゃだめでしょ?その領民がいないの。」

「それがどう私に関係するの?」

「領地からの収入がなければ、今のような暮らしはできなくなるわ。だって入ってくるお金がないのに、出て行くお金ばかりだもの。使用人のお給金や毎日の食事代、購入したものの支払。
貯蓄があってもいずれは底をつくわ。
領民を大事にしなかった領主ということで爵位を剥奪されたら、あなたは平民になるのよ。」

「……え?そうなの?」


どうやら基礎知識すらなかったらしい。


「それよりも、税を上げられた領民が怒って、暴動を起こすことの方が現実的ね。」 
 

そうでしょうね。どうやら彼女の父親は、あまりいい領主ではなさそうだから。
 
ナターシャはこの賢い令嬢が好きになった。


 

 
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