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しおりを挟む妻の助言はこうだった。
『元婚約者の方がいつこの国に戻ったか、調べられてはいかがかしら。もちろん、ご本人に聞いては意味がありませんよ?学園を今年卒業された令息あるいは来年卒業される令息など、若い方はご存知かもしれませんわ』と。
つまり、ロザリーは3日前にこの国に、王都に戻ってきたのではないということか?
ロザリーは嘘をついていたのか?
そんなわけは………ないと思いたいが、意味のない助言を妻がする意味もないのだ。
いや、あの時会ったロザリーは僕が勘違いしたことを訂正しなかっただけなんだ。
そうだろう?多分、ちょっと話を合わせただけだよな?
………言ってて虚しいな。冷静に考えよう。
それにしても、妻は今後、僕とどうなりたいと思って助言をしたのだろうか。
助言に基づいて調べた結果、ロザリーが嘘をついていたとする。
嘘をつかれたことで僕がロザリーと別れることを期待したのであれば、妻は僕と離婚したくないということか?
あるいは、嘘をつかれていても僕がロザリーを選んだ場合、僕は平民となり妻とは離婚することになるのはいいのか?
離婚したいのかしたくないのか、サッパリわからない。
それともあの助言は、21日間で決めなければならない僕への優しさか?
ロザリーが嘘をついているか、いないか。
嘘をついていれば何故なのか。
令息たちはロザリーの何を知っているのか。
そして妻はどこでそのことを知ったのだろうか。……いや、これは後からでいい。
つまり妻は、僕がロザリーのことを確かめてから、貴族でいるのか平民になっても構わないのか判断しろと助言をくれたということだ。
妻はロザリーについて何かを知っている。だが、それを僕が聞いただけでは認めない。だから、自分で確かめるように仕向けたのだ。
妻の言う通りに動こうとしている僕は、既にロザリーを信じ切れていないよな。
『ロザリーのために貴族という地位を捨てられるか』
このことにまだ自信を持って頷けないということもロザリーへの気持ちが揺らいでいると感じる。
駆け落ちしたロザリーが、いつか僕の元へと帰ってくることを夢見ていたのに。
それが現実となりつつあるのに、貴族かロザリーかで揺れるとは。
父は最大の試練を仕組んだようだ。
僕は勤務後や休日を利用して、ロザリーのことを調べ始めなければならない。
僕は基本、騎士の宿舎で暮らしている。実家にはたまにしか帰らない。
妻がいるというのに、これは不思議がられていた。
今では『白い結婚での婚姻無効待ち』と思われているそうだ。……知らなかった。
そもそも、白い結婚ではない。そうだ。僕は妻を傷物にしてしまっていたんだ。忘れていた。
離婚を断られるのは当然なんだ。その上、夫のつとめを何も果たしていない。
そして、こんな時にもう一つ忘れていたことを思い出した。
父と約束した5年の期日まであと数か月ではないか……
その日が来れば、僕は騎士を辞めて伯爵家の跡継ぎとして学んでいかなければならない。
そうなると宿舎住まいではなく両親や妻と一緒に暮らすことになる。
つまり、今、この時点でロザリーを選べば平民にはなるが騎士の仕事は続けられるということだ。
仕事は必要だ。貴族よりも待遇は悪くはなるが、下っ端からやり直すよりもマシなはず。
今ロザリーが暮らしているところに2人で住むこともできるだろう。
平民騎士の給料がどれくらいか。家賃に食費、雑費にどれくらいかかるだろうか。
ロザリーのことと同時にこちらも調べておくべきだろう。
僕が1人では足りない。3人ほどいれば、貴族の僕も、平民の僕も、幸せになれるかもしれない。
あと1人は?……訳の分からないことを考えているのは現実逃避か?
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